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⑦ 今の日常

 ボランテァイアグループ『桜』に加入してから、麻友は中学生の時から続けていたバレー部の活動にあまり熱心でなくなった。もちろん部活の時間には参加するが、自主トレその他のメニューがおざなりになっていくのが周囲の目にも明らかだった。


 その恵まれた体格と、高い身体能力は、中学生のころから県下でも注目を集め、弱小だった北西高校がインターハイ出場を視野に入れられるきっかけにもなったほど、大きな存在だったのに、『桜』に加入した後はそれまで目標にしていたインターハイも麻友にとって、どうでもいいことになってしまったようだった。その麻友の様子に、バレー部の顧問は落胆したが、もともと進学校の体育会系の部活動であり、練習に不熱心なことにも、やがて誰も何も言わなくなった。



 麻友は相変わらず、熱心にボランティア活動をしているようだったが、時に愚痴のようなものをこぼすようになった。


「北上さんはいい人なんだけど…………、副会長とね、うまくいかなくて」お昼休みの短い休息に麻友はこぼした。


「副会長って?」


「うん、篠原加奈さんっていうんだけど………そもそもあたしが、緑ヶ丘の生徒でもないことが気に入らないみたいで」


 麻友が言うには、麻友の持ち物が使い込まれたノーブランド品であることにもため息をつくのだという。


「北上さんはいつも間に入って、なだめたりしてくれて大変だし、それに………『加奈は昔っから、ああいう風なんだけど、悪気はないのよ』って、かばうのも、なんだか悲しくて」


 つい先日、その篠原さんが、麻友がゴミ屋敷のゴミの分別をしていると『違うでしょ!』と言った後泣き叫び、途方に暮れたという。


「『あんたなんか出てけ』って言われてねえ」麻友はため息をついた。


「でも………北上さんは、引き留めてくれるし………。バレー部の先輩に『ボランティアなんてやめろ!』って言われたときに、『絶対にやめません!』って、タンカ切っちゃった手前もあるし………。何より、あたし自身がやめたくはないのよ。やっと『プライド』見つけたんだし」と笑った。

 最初に出会った時に『和菓子 戸倉』で言っていた言葉だった。プライド。


「もう少し頑張ってみるね」麻友はそういうと午後の予習に取り掛かった。




 梅雨が近づいてきた。憂鬱な季節だ。


 彩羽いろはは昼休みのランチタイムしか麻友と話をすることができなかったが、麻友は、その昼休みも食べ終えるとすぐに、単語を覚え始めたりしていた。

 成績順位などの発表はないが麻友が優秀なのは誰の目にもわかった。麻友はあまり自分のことは語らないが、麻友の父は公立病院に勤務する医師で、母も元医師だということだった。姉は、国立大の医学部に通っているらしかった。麻友も姉の高校時代と同程度の成績は収めているのだろう。


 ひと月ほど前、彩羽は初めての自分の学年の順位表をもらったが、恐れていたこととは違い、『真ん中より上』という順位だったのでほっとしていた。


 正人は表情から、意にかなうものではなかったようだが、それがどのくらいなのかはわからなかった。


 三人は相変わらず、昼休みに机は付け合って昼食を共にはしたが、それぞれの世界を持ち、ある程度の距離を保ったまま、はた目には、仲良しグループのように見える関係を続けていた。


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