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よろず屋 大宇宙堂  作者: ヨネ@精霊王
五章 謎のドリル少女と元彼女!?
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58 ディスタンシィア・レックス


 俺はキャリアケースに視線を落とす。そこには、もうあの無邪気? に笑う孔明先生の姿はなく、ただ無機質な熱を持たない木屑が散乱しているだけだ。生きてるとは何なんだろうと、こんな俺にすら考えさせてくれる。

 とは言え、俺の目的は孔明先生を処理することだったわけで、これで一応の目的は達成できた事になる。

 

「なんら役に立たなかったどころか、邪魔者ですらなかったわけだが……。居なくなって寂しい……ってこともないけれど、なんか……何かなんかだなぁ」


 俺は自分で自分の言っている言葉の意味が理解出来ないでいた。あれだろうか、不仲だった隣人が、急に引っ越してしまってもう二度と会うことはない、とするならば同じような感傷に浸ることになるのだろうか?


「一言だけ、フォローするならば、どこかしら憎めないところはあったかもしれねぇなぁ……」


 視線をぼかし遠いところを見る。その視線の先に孔明先生との思い出が浮かび上がる……ほどではないが、少しはしんみりとしてやろうかという気にはなった。


「あれあれ〜。こんな使い捨ての《モノ》にチョッピし感傷的になっちゃうなんてぇ〜。まもっちは、あれだね〜、センシティブな男子だねぇ〜。そういうところ嫌いじゃないけど、好きでもないや」


 珍しくシリアスな顔をしている俺の頬を、久遠くおんは空気も読まずにプニプニと人差し指で突っつく回してくれた。

 昔からこいつは《モノ》に執着心を持たない。形あるものは壊れるものだからとか言って、自分の身の回り物が壊れたとしても気にするどころか、暫くすれば『え? なにそれ? そんなのあったっけ?』と完全に記憶から消去してしまうほどだ。

 こいつの中で、唯一壊れることなく居続けられたのは『俺』だけということになる。むしろ、久遠のほうが先に壊れてしまったわけなのだが……。

 

「んで、要件はこれでなくなっちゃったの?」


 まるでゲームを楽しんでいるかのように、久遠は俺の頬を執拗に突き続けた。それどころか、突くスピードはどんどん増していき、遂には一秒間に十六連打を超える速度にまで達していた。

 女子が男子の頬を突っつく。それは普通のカップルなどがやっているのを見れば、微笑ましい光景に違いないだろう。だがこいつのは違う! 間違いなく、俺の頬に穴を開ける勢いでやっている! だって、久遠の目は全く笑っていないのだから!!


――このままでは、俺は口以外の穴から呼吸できてしまう……。こんなとき、孔明先生が居てくれたらどうする……!?


『女子の指! そんなものご馳走ではありませんか!』


 俺の心の中の孔明先生がどエロ顔で答えてくれた。


――そうか! ならば……。


 俺は顔の方向を少しずらす。それをすることで、何ということでしょう……久遠の指は俺の口の中に入るではありませんか! そして、口の中に入った指を舌先で絡め取ると、そのまま有無を言わさずペロペロペロペロペロと舐め回したのだった。

 

「流石まもっち、常人には出来ないことをやってのける! そこにシビれる、濡れちゃう!」


 久遠は指を舐められ続けながら、満足げな笑みと、恍惚な笑みの両方を浮かべるのだった。

 

 ……

 ……………

 ………………………


「ふぅ、まもっちをいじるのは本当に楽しいなぁ。こんな楽しい玩具そうそうないよーっ」


「はいはい、さいですか」


 俺は疲れ果てた顔で、いつの間にか用意されていた椅子に腰掛ける。更には、いつの間にか用意されたテーブルの上に、これまたいつの間にか用意された紅茶が湯気を立てていた。俺と久遠がもみ合っている間に、誰かが用意してくれたのだろうか? ん? ここに他に誰かがいるのか!?

 ともあれ、なんとか突き攻撃を抜け出し、向かい合うように距離を取ることに成功したわけなのだが、現在の状況も全くもって油断はできない。そう言えば、俺が現実は油断ができないって思うようになったのは、ほぼこいつのせいだと言い切れる。こいつのそばにいると何時如何なる時に、何がおこるかさっぱりわからない。だから油断なんてものをしようものならば、命なんてものは幾つあっても足りないのである。

 

「そうそう、玩具で思い出した。あのね、わたし〜新しい彼氏ができたんだよ」


「ぶっ!」


 あまりの唐突すぎる発言に、俺は飲もうとした紅茶を盛大に吹き出した。


「あはははっ、今日一番面白い顔したよ! いやぁ、まもっちのリアクションは最高だねぇい」


 久遠が子供のように両足をばたつかせ、さらに拍手喝采で俺を褒めたてる。

 

「何だよ! 俺を驚かせようと思って、そんな嘘をついたのかよ!」


「嘘じゃないよ? 今だって一緒に暮らしてるよ? 呼んであげようか?」


「え……」


「こちらに来なさい。ディスタンシィア・レックス」


 久遠が首を動かすことなく真正面に向かって声を掛ける。その名前から相手が日本人ではないと安易に想像がつく。

 

「お呼びですか?」


 呼びかけに反応して現れるまでに所要した時間は、一秒もなかった。そしてその現れ方が常軌を逸していた。『ディスタンシィア・レックス』と呼ばれた男は、何処からでもない場所から突如として、久遠の真正面に横に現れたのだ。テレポート!? テレポートしてきたとでも言うのか!?

 それだけに驚いてはいられない。この男……。恐ろしく美形なのである。ロシア系? 真っ白な肌に黄金のような金髪。その髪が長く肩まで届いてる。そしてまるで絵画でも見ているかのような、整った顔立ち。目は切れ長で、その青い瞳で見つめられたならば、世の女はものの数秒で恋に落ちること請け合いだろう。そして魅惑の唇。口紅をさしているわけでもないだろうに、紅色のその唇は男女問わずに、触れてみたくなるに違いない。更には身長は百九十センチはあろうかという長身である。勿論スマートだ。服装はと言うと、これまた貴族のような、スタイリッシュな燕尾服を身にまとっている。

 

――ああ、こりゃ百点だわ。百点満点の男だわ……。


 いつの間にか俺は、登場の異常さよりも、この男の美しさに気を取られてしまっていた。


「ふふ〜ん。凄いでしょ? 美形でしょ? じゃじゃーん! これが私の新しい彼氏なのでーす」


 久遠は椅子からぴょこんと飛び上がって立ち上がりレックスの横に行くと、そのまま猫のように腕にしがみついてぶら下がってみせた。

 一方彼氏のレックスは、顔色一つ変えることなく、直立不動で俺に向けて威圧的な視線を送ってきている。あれか、元彼氏に対する嫉妬てきなあれなんだろうか? ふふ、安心しろ、俺はお前に勝てるところが一つたりとも見つからないぜ!! 等と自虐的なことを思ってみる。

 

「良かったなぁ、そんな素敵な彼氏ができて。ほんと、めでたい、めでたい」


 パチパチパチとおざなりな拍手をしては、先程飲みそこねた紅茶を飲む。なんじゃこりゃ、今まで飲んだどの紅茶よりも圧倒的に美味いじゃねぇか!

 

「何よー! 嫉妬とかしないの? 今ここでチューとかしちゃうんだからね!」


 久遠はこちらに目配せをしながら、レックスの魅惑の唇に自分の唇を近づける。

 余裕綽々でその姿を見ていたはずが、紅茶のカップを持つ手が、俺すら気が付かないうちに小刻みに震えていた。いやいや、俺にそんな嫉妬の心なんて、未練なんて……。総心に言い聞かしてみても、手先の震えは止まりはしなかった。

 

「もういい! 俺は用事が済んだから帰るわ!」

 

 俺は視線を二人から離すと、そのまま立ち上がりもと来た道を戻ろうと……した所で、久遠のけたたましい笑い声が俺の背中に響いた。

 

「やったーっ! 嫉妬させてやったぞーっ! わーいわーい、私の勝ち〜っ!」


 久遠がこのクソ狭い店の中を走り回って歓喜の声を上げている。俺はそんな声を耳に入れないようにして足早に立ち去ろうとした。が、即座に腕を掴まれた。



「待って待ってー。これ見て? ねぇこれ見てよ?」


「何だよ!」


 久遠に掴まれた腕を振り払おうとして、振り返った先で俺が見たものは……。


『ドッキリ大成功!』


 と書かれたプラカードを持ったレックスの姿だった。


「は?」


 俺の頭の上には巨大なクエスチョンマークが浮かび上がり、それは数十個に増殖すると頭の上でくるくると回りだしていた。


「もぉ〜。まだわかんないの? だ・か・ら・! わたしとこれが恋人同士っていうのは嘘なの」


「はぁ……」


 俺の頭上のクエスチョンマークの数はいくらか減ったがまだ消えてはいない。


「くぅぅぅぅ、まもっちは昔からアンポンタンだとは思っていたけれど、これほどとはー。あのね、こいつは彼氏じゃないの! それ以前に人間ですら無いの!」


「はぁぁぁ?」


 新しいクエスチョンマークが浮かび上がっては、それ自体が思案しているかのように、縦横無尽に動き出していた。

 

「もぉぉぉっ! レックス! あんたが何なのか、このアンポンタンに説明してあげなさい!」


「はい、ご主人様マスター。私はマスターに造られた人造人間ホムンクルスです。彼氏などという恐れ多い立場ではございません。私はマスターの所有物にございます」


 レックスは片膝を付いて傅くと、久遠に深く頭を下げた。


「よろしい。そういう事なんだよ?」


 俺の頭は状況を理解できないでいた。が、こんな時は思考など停止して、空っぽの頭でこう答えておけば良い。


「なるほど」


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