55 オパーイ
真っ暗な下水道の中を、謎のパーカードリル少女に先導してもらいながら進んでいっているわけだが、俺はここで不思議な点に一つ気がついた。俺は照明器具を何一つつけてなどいないのに、周囲が明るいのだ。もしやいつの間にか暗視能力に目覚めてしまったのか!? と思ったがどうやらそうではないらしく。周囲を照らす光は謎のパーカードリル少女から出ているようだ。
ライトかなにかでも持っているのかと、こっそり横から覗き込んで見て驚いた。なんと、謎のパーカードリル少女の身体がホタルのように光を放って辺りを照らし出してくれているではないか!
――なるほど、よくテレビとかで最近の若い女の子は『キラキラしてる☆』、なんて言われているのは比喩表現だとばかり思っていたが、本当に輝くとは……全く世の中ってやつは油断ができない。
もしここに藤宮花火が居たならば、『そんなわけあるかーっ!』と突っ込みの光速パンチが炸裂し、哀れ俺の命が花と散ることになった事だろう。花火がここに居ないことに感謝である。と、思いながらももしかしたら近くに居たりするんじゃなかろうかと、俺は大慌てでキョロキョロと辺りを伺ってしまっていた。
「ん? どうかしたん?」
挙動不審な俺の行動に気がついた謎のパーカードリル少女……(いや今はドリルが消えているので、謎のパーカー少女といったほうが良いか)は、軸足をコンパスのようにしてクルリとターンを決めてこちらを振り返った。
「いやあの、何でも無い何でも無い。それより、あの、その……身体が光るんだねー! なんてねー!」
動揺のあまりど直球な質問をしてしまっていた。
「光る? あぁ、うん光るよ。それがどしたの?」
当たり前のことを何言っているんだろう。パーカー少女はそんな感じで答えた。どうやらパーカー少女の中では光るのが普通らしい。すると俺のほうが異端なのか!? 確かに生まれ落ちて二十数年、全く疑問に思ったこともなかったが、俺以外のやつは身体を光らせることが出来ていたのかもしれない。もしかすると、光らない俺のことを哀れんで、俺の前では光らないようにしてくれていたのかもしれない。
俺の中にあった一つの常識というものがガラガラと音を立てて崩れていくと同時に、実際の身体も膝から崩れ落ちそうになってしまった。
「あれ、あれれー? 大丈夫? どしたのー?」
俺の肩に手が添えられる。崩れ落ちそうになった身体を、パーカー少女が支えてくれたのだ。
「すまん。俺は……俺は光ることが出来ないんだ……」
無意識のうちに俺はパーカー少女の手を握りしめていた。きっとボロボロになった精神を少女の柔らかい手で包んでもらいたかったに違いない。そしていまここにポリスメンが居たならば通報だったに違いない。
「よくわかんないけど、頑張ればきっと光れるようになるよっ! ファイトだよっ!」
そう言って手を握り返してくれたパーカー少女の身体はより一層強い光を放っていた。
「そうだな! まだ三十にもなってないんだもんな! まだまだやれるよな! 可能性をいっぱい残しているよな! 未来は無限大だよな! 将来はアメリカ大統領だよな!! そして宇宙飛行士に……」
まばゆい光に包まれながら、俺は小学生の語る夢のようなことを恥ずかしげもなくベラベラと喋り続けていた。
「うんうん、夢は大きくだよっ! 大きいことは良いことだよっ。うちのお父ちゃんもものすごくおっきいしっ!」
その言葉を耳にして、俺の妄言はストップした。
――凄く大きい!? お父さんの何が凄く大きいというのだ!? いやいや、まてまて普通に考えればお父さんの身体つきがプロレスラーみたいに大きいってことだよな。そうだよ! ナニがじゃねえよ!
それと同時に俺はあることに気がついた。気がついてしまった。なんていうか、俺は今このパーカー少女と身体を密着させているわけなのだが、とてもムニュムニュとした心地の良い感触を感じているわけである。そう! このダブついたサイズの合っていないパーカーを着ているせいでわからなかったが、巨乳なのである!! しかも下手するとこのパーカー少女はブラをしていない可能性すらあるのである。そしてそのオパーイが俺の身体に密着しているのであーる!
――いかん、このままでは俺の身体の一部だけが大きくなってしまいかねない!?
「どっせぇぇぇいっ!」
俺は意味不明な奇声を上げると、身体を大きくのけぞらせ空中二回転を決めて脱出を成功させた。いや、別に無理やり拘束されていたわけでないのだから、密着していた身体を離すことは容易だったのだが、これは俺のオパーイへの未練を断ち切るために必要な儀式のようなものなのである。
「あはははっ、変なのーっ」
パーカー少女は屈託なく笑った。俺はそれに合わせて卑屈に笑った。
※※※※
そうこうして下水道を歩きだしてから、いろいろなことがあった。
突如謎のはぐれヒグマとの遭遇。
突如謎の暴れ馬との遭遇。
突如謎の暴れウマ娘との遭遇。
突如謎の暴れん坊将軍との遭遇。
しかし、これらのアクシデントは全て……。
「どりるるるるうるるっーっ!」
またもやパーカー少女がドリルを瞬時に召喚して吹き飛ばしてしまったのだ。
俺はと言えば、後ろの方で黙ってみているだけ。いや、たまに『おー!』だの『凄い凄い!』だの言いつつ拍手をしたりはしていた。完全に観客ポジションである。もしこの状況を見たものが居たならば、確実に主人公はこの謎のパーカードリル少女だと思うに違いない。
「しかし、一体どこまで歩けばいいんだ……。確か謎の階段をいくつか降りたりしたよな? さらに謎のワープポイントも……。完全にこの下水道は地下迷宮じゃねえかよ!」
「うち前にここで謎のムラマサブレードっていうの拾ったことあるよーっ」
ドリル状態を解除したパーカー少女が、ピースサインをしつつ自慢げに言う。
「ウィザードリィかよっ!」
兎にも角にも謎ばかり。むしろ謎じゃないものが存在しない。
もし偶然にもこの少女と出会っていなかったら、確実に俺と孔明先生は命を落としていたことだろう。って、あいつはいつもいつもなんでこんな辺鄙すぎる場所に店を作るのか……。
「もうすぐだからガンバだよっ!」
ファイトー! と、パーカー少女が元気よくジャンプしつつ右手を突き上げた。その時、パーカー越しにオパーイがプルンプルンとまるで別の生き物のように揺れるのを俺は見逃さなかった。それだけで、疲れ果てていた身体から体力が回復するのだから、男とは悲しい生き物である。
そしてさらに歩くこと十分ほど。
ようやく俺は目的の場所へとたどり着くことが出来た。
「まさに、相変わらず……いや、パワーアップしてるとすら言えるな……」
俺の前にあるのは、高さ三メートル、横幅三メートルもある大きな扉だった。その扉には俺が見たこともないような謎の文字がびっしりと書き込まれており、さらには謎の御札、謎のしめ縄、謎の十字架、謎のオーブといった謎のオブジェで装飾されていた。常人が目にしたならば、回れ右で即退散間違いなしなのだが、これで客相手の店を経営しているっていうんだから驚きである。
「入らないのーっ?」
パーカー少女は片足立ちでバランスを取りながら、孔明先生の入ったキャリアケースを右手の小指一本で持ちながら遊んでいた。中の孔明先生はあれからずっと気を失ったままだ。
「ここまで来たんだもんな、行くしか無いわな……」
俺の足取りは重かった。その重い足を一歩踏み出した途端、まるで自動ドアのようにこの大きな扉は音を立てて開いたのだった。




