47 説明回
このとき、俺はなぜか応接室の壁掛け時計に視線を向かわせていた。この行動は俺自身予期したものではない。むしろ、何か大きな意思がそうさせたかのようにすら思える。
そして俺は目にするのだった。壁掛け時計の秒針が全く動いていないことを……。勿論、それは故障などではない。
「この時間軸で固定し続けるのに、そろそろ無理がきてしまった……のじゃ」
着物幼女は、まるで俺の心の中を全て見抜いているかのように喋っていた。いや、着物幼女になら見抜いてもらっても全然構わないし、むしろドンドン見抜いていってもらいたい!
「とすると、今から解説タイムが始まる。そんな感じかな?」
俺に緊張感も、緊迫感もまるでなかった。とうとうこの時が来てしまったんだぁという、まるで修学旅行の最終日を迎えた学生のような気持ちがあっただけだ。だから、俺はあぐらをかくと、両膝の上に体重をかけるように両腕を乗せ、矢でも鉄砲でも持って来いといった面持ちで、次に繰り出されるであろう言葉に挑んだ。
「ふむふむ、このような異質な状況下にあってもたじろぐことがないとは、流石は私の端末が興味をいだいた人間……なのじゃ」
着物幼女はすっくと立ち上がると、俺の全身を品定めするように視線を這わせた。それはまるでCTスキャンでも取られているような気分だった。が、少し興奮した。
「さて、何処から話せばよいのか……。そう、大宇宙守、君は自分が死んだときのことを覚えているか?……のじゃ」
かなり強引に付けた『のじゃ』だった。しかし、今俺が気にするべき点は着物幼女の語尾ではなく、衝撃的な内容についてだ。
「え? 俺が死んだ!?」
俺は腕組みをし眉を尖らせ眉間にシワを寄せ、一心不乱に考え込んだ。うーむ、半殺しにされていることなら、数限りなくある。主に花火の拳のせいで。だが、完全な死亡となると、そうそうあるものではない。まぁ、普通の人間ならば完全に死亡すればそこで人生が終わっているわけなのだから、こうやって考えることすらないわけで……。
「そう言えば、テレビ局で死にかけて戻ってきたことがあったなぁ……」
テレビ局での魔王少女VSキラーマシーン花火のせいで、俺は強烈な拳をうけて死にかけた。しかし、今こうして生きているわけなのだから、これは死んだとは言えないだろう。
「それですな」
「へ?」
予期せぬ方向からの言葉。それは、未だこの空気に混じれずにギャルゲーをプレイし続けていた孔明先生からだった。
「あなたはその時死んだのです。ただ、死の世界はこことは異なる時空間。故にその時の記憶はすべて抹消されます。もし覚えていたとしても、それは夢の中の出来事くらいにしか思えないでしょう」
淡々と語る孔明先生の目が怖い。まるで何か異質なものが取り憑いたかのように思えた。
「いやいや、死んだ人間が普通に考えて生き返ったり……。いや、そうか魔王少女、あいつの魔法は普通じゃなかったな」
むしろ最近の俺の周りでは普通という言葉が死語になりつつあるくらい、異質なものが定着しつつある。
「てか、この空気をあえて読まずに突っ込まさせてもらうが。孔明先生、あんたそんな事言うキャラじゃないだろ! もっと、こう『萌ええええええ』とか『幼女キタコレー』とか言ってるキャラだろうが! キャラ崩壊はいけないと思います!」
しかし、孔明先生は俺の怒涛のツッコミをまるで意に介することなく、手に持った扇を口元に当てて妖艶な笑みを浮かべた。
「私は人形。私は孔明という魂の宿った人形。人形とは魂という情報体を宿す器に過ぎない。そしていま、この器に宿っているのは……。私である」
孔明先生が扇で指し示した先は……着物幼女だった。
「いかんせん語尾に『のじゃ』をつけて会話をするのが辛くてな。この孔明先生という器を間借りさせてもらっている」
「そうなのじゃ」
孔明先生と着物幼女が同時に頷いた。
どうやら魂というやつは分割することすらも出来るようだ。
しかし、着物幼女の魂に中に入ってもらえるとは、あとで本人? が知ったら大喜びすること請け合いだろう。
それよりも何よりも、こんなシリアスな場面でありながら、俺のつけた設定であるところの語尾に『のじゃ』を付けることを律儀に守ろうとする着物幼女が可愛すぎて抱きしめたくなった。
「君の消失した記憶を今ここに……」
孔明先生の扇が俺の頭に触れる。
「うおっ!?」
俺の頭の中に映像が次々に浮かんできては、まるでムービーファイルのように再生されていく。
「そうだ、俺は地獄で鬼にあって、歌って叫んで暴れて……そんでもって約束をして……。まさか、まさか、すると着物幼女あなたは、あの時の鬼!?」
「違うのじゃ」
これは孔明先生ではなく、着物幼女が間髪入れずに答えた。
「え? 違うの? じゃなんで?」
「いや、正確に言えば私の一部とも言えなくはないのじゃ」
「一部?」
「ここからは説明が複雑になっていくのじゃ」
「ふっ、任せてくれ! こちとら意味不明な現象には悲しいくらいに慣れっこなんだぜ! どんとこいや!」
俺はゴリラのように力強く胸を叩いた。
「そちらの世界でわかりやすく私の存在を言うならば、《神》なのじゃ」
「へ……」
俺の目が点になった。時が止まったかのように固まった(いや今は本当に時が止まっている訳なんだけれど)。
「神……様……?」
「神の一部といったほうが正確であろうか。神とは無数の情報の集合体である。その情報端末のい一部分を統括する存在、それがこの《私》、そう君が名付けた名前で言えば『乃路夜魔真となるわけだ」
「そういう訳なのじゃ。そして、君が接した地獄の鬼と呼ぶ存在こそが、私の統括する情報端末の一つなのじゃ」
孔明先生と着物幼女との一人二役での解説は、当然ではあるが息があっておりわかりやすかった。
「私は無数の情報端末から情報得ている。しかし、あの時私が受けた情報は今までにないほどに衝撃的だった。地獄と呼ばれる絶望的な世界で、狂気に狂うことなくあんなに楽しく宴を催すものなど見たことがない。さらには、鬼と約束を交わすものなど……」
「だから、私はその鬼のかわりに、この世界で行動できる身体を得て会いに来たのじゃ」




