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よろず屋 大宇宙堂  作者: ヨネ@精霊王
四章 幼女でママで神様で!?
31/125

30 孔明先生!


「今日も良い天気だなぁ……」


 俺は天を見上げた。

 勿論、ここは家の中であり、外の天気の様子などわかるはずもなかったのだが、俺は天を見上げたのだ。何故ならば……出来る限り視線を『コイツ』から逸らせたかったからだ!!

 『コイツ』こと、自らを『孔明』と名乗る、大きさ三十センチあまりの三国志の軍師風コスプレをしたぬいぐるみ。手には扇なんて持ったりしている。

 いや、確かに一見可愛らしいと思えなくもない……。が、このぬいぐるみ、顔だけは何故だかリアルな造形がされており、光栄の三国志シリーズばりのおっさん顔で、声も速水奨ばりの渋いイケメンボイスなのである。

 

「そこの御仁、私から目を背けてはいけるのは良いでしょう。しかし、今この現実から目を背けてはいけませんぞ!」


 なるほど、こいつ紛いなりにも孔明なだけあって良いことを言う。

 何せ、これはアイツの店で購入した怪しさ百二十パーセントのアイテムなのだ。こんな奇想天外なことになるのは、端から織り込み済みにしておかなければならなかったのだ。

 

「そうだ! 戦わなければ現実と! そして、目の前の靴箱と!」


「そうです! 眼前に立ちはだかる難攻不落の靴箱。その奥に潜む女子高生の靴攻略を開始するのです!」


 ジャーンジャーンジャーン


 どこからともなく、戦いの火蓋を切る銅鑼の音が鳴り響いた。

 俺はその銅鑼の音に煽られるように、烈火の如く靴箱に手をかけようとした。が、それを孔明の扇の一閃が静止させた。


「主殿、まだ早い!」


 孔明はマスコットキャラ宜しく、俺の肩の上にジャンプ一番で飛び乗ると、耳元でヒソヒソと語りだした。


「よろしいですか。物事を起こすときには『天の時、地の利、人の輪』を、持って行わなければなりませぬ。然るに、今はまだその時ではない。そう、天の時を得ていないのです!」


「そ、それはどういうことなんだ……」


綾小路桜あやのこうじさくら殿と別れの挨拶を経て、まだ数十分しかたっておりませぬ。もし、いま忘れ物をしちゃったー。てへぺろ☆ などと言って、戻ってこられたとしたらどうなるでしょうか?」


「はっ! そ、それは……俺の今まで築き上げた立ち位置が、ガラガラと音を立てて崩れ落ちる……」


 俺の脳裏には、軽蔑した眼差しを向ける綾小路桜の姿がまざまざと描き出された。それどころか、ツバを吐きかけ、さらには靴で足蹴にする姿も……。あれ、それはなんかご褒美かもしれん!?


「そうでしょう、そうでしょう。ならば、もう暫く待つのです。そうすれば主殿のもとに天下(女子高生の靴)は自ずとやってくるでしょう」


 何故だろう。この怪しさで構成されている、胡散臭いぬいぐるみがとても頼もしく見えてきた。俺ってば、どうかしちゃってるんだろうか。まぁ、いつもどうかしちゃっているわけだけれども……。

 こうして孔明の助言に従うこと約二時間。

 俺はその間、孔明ととりとめのない会話に花を咲かせた。

 最近の三國志シリーズは、システムばかりが複雑になりすぎていけないとか。孔明がビームを出すのはやりすぎだろうとか。なんでもかんでも三国武将を女体化させるのは如何なものか。こうなったら、三国武将を動物にして擬人化させて、三国フレンズとして売り出していったら、大ヒットするんではないか? えとせとらえとせとら、枚挙にいとまがなく広がる話題は、それはもう楽しい時間だった。

 俺は本来の目的を完全に忘れて、三国志トークに花を咲かせていたわけだが、この天才軍師はそうではなかった。

 

「そろそろ良い頃合いでしょう」


 孔明の言葉に、俺は本来の目的を思い出した。

 『地の利』は、留守番という大偽名分のもとに既にあり、『人の輪』は綾小路桜の信頼を既に得ている。

 そして今……『天の時』を得た俺に敗北の要素は微塵もない。あるはずがない。


「いざ出陣!」


 俺は今数万の軍勢を率いる総大将の気分で、靴箱の扉を開いた。

 そこには十足以上の靴が収められていたわけだが、俺には一瞬でどれが綾小路桜の靴であるかわかった。そう、それは視覚ではなく、直感的に理解できたのだ。

 まるでミツバチが甘い蜜に引き寄せられるように、俺の視線、俺の嗅覚、俺の五感全てがその靴に吸い寄せられた。

 一見なんてことのない、通学用のローファー。だがそこには無限の広がりすら感じさせる宇宙が存在していた。


「ああ、そうか、美少女女子高生の靴とは……まさに宇宙そのものだったんですね……」


 俺はこの世界の真理を悟ったような気がした。

 もうこのまま最終回で良いんじゃないか? 女子高生の靴に頬ずりをしつつ、エンディングで全く問題ないのではないか。そう思えてならなかったのだ。

 普通の作品であるならば、綾小路桜の靴だと思っていたら、実はお母さんのだったなどと落ちがつくものだが、そうではない! これは間違いなく綾小路桜のものである。だって匂いが綾小路桜なんだもん!

 そう、既に俺は嗅いでいた! 匂いを、それはもうクンカクンカと嗅いでいた。

 その姿を孔明は、愛弟子を見つめる師匠の目で見つめながら、満足そうにうんうんと相槌を打っていた。

 こうして、俺の戦は勝利で終わったのだ。

 だが、天下統一野道はまだ終わりではなかった。

 孔明は、何と恐ろしい進言をしたのだ。


「敵はまだまだおりますぞ。そう、この娘の私室に赴けば、そこにはお宝(ブラジャー&パンティー)があるに違いないのです!」


 そこに気がつくとはまさに天才……。天下に名高い軍師とは、一戦を終えた直後にさらなる高みの戦いを考えているものなのである。気がつくと俺は、無意識のうちに平伏してしまっていた。

 もはやこの時の俺は、留守番という、よろず屋としての仕事を承っていることを完全に失念してしまっていた。

 俺は既にただの一匹のヘンタイへと変化しようとしていたのだ。


「いざ行かん! 新たなる戦いの場へ!」


「その意気ですぞ、主殿」


 俺と孔明は新しい戦場を求めて旅立った。そして遂に俺は理想郷エルドラドと呼ぶべき、綾小路桜の私室を発見したのである。

 綾小路桜の私室は二階にあった。

 ご丁寧にも、部屋のドアには『桜』と書かれたルームプレートがかけられていたので、見つけるのは安易だった。

 だが、問題はここからである。

 靴箱というものは、個人のものではないので、誰が開けたとしても、そこまでモラルをとわれるものではない。しかし、これが女子高生、それもとびっきりの美少女の私室の扉となれば、そのハードルは一気に天文学的に高くなってしまう。

 流石の俺も、躊躇せねばならなくなるほどに……。


「ふぅ……。まさか女子高生の私室に無断で入るということが、これほどまでに強烈なプレッシャーを浴びせてくるとは……。まさにアムロに対峙したシャアの気分だぜ……」


 扉を開ければ、その先には桃源郷が待っているというのに、俺の足はすくみ、身震いを始めてしまっている。

 こんな時、孔明先生の偉大なるお言葉があれば……。

 俺は孔明に向けて、熱視線を送る。

 それを受けて、孔明はにやりと不敵な笑みを見せると、こう言ったのだ。


「主殿、『虎穴に入らずんば虎児を得ず』危険を冒さずして、どうして大きな勝利をえることが出来ますでしょうか。犯した危険を大きく上回る報酬、それがそこに待ち構えているのですぞ!!」


 言葉に撃たれるとは、まさにこのような状態を言うのだろう。俺の心は銃弾を食らったかのように、大きく揺らいだ。そして、それは決意へと変わっていったのである。

 既に俺の身体の震えは止まっている。

 さぁ行こう。理想郷アヴァロンへ!

 俺が意気揚々と綾小路桜の部屋のドアノブに手をかけた刹那。


 ピンポーン


 玄関のチャイムが鳴り響いたのである。


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