初めての人間社会
「うんめぇえええええええ」
人間社会へ出た怪物は早速、一番近くにあった焼き肉店へと入店した。
「なに、このお肉。すっごくおいしい」
「とろけますね」
「世の中にはこんな上手い肉があるのか」
始めて食べる、野生ではない食べるために育てられた肉のうまさに怪物たちは感動した。
「なんじゃこりゃああああああああ」
焼き肉を堪能した怪物たちは次に、二十四時間営業のコンビニに入店した。
「すごい品ぞろえですね」
「これ、全部食っていいのか」
「パンに麺にサラダ、おにぎりまである」
「食べ物だけじゃなく、衣服や本まで」
「すごい品揃えだな」
「この店だけでほしい物が全部そろっちゃうじゃん」
「こんな店が街のあちこちにあるなんて、まじかよ」
コンビニの、あまりの品ぞろえの豊富さに驚いた怪物たちは、各々気になる物をコンビニで爆買いした。
「ふぁあ、なんか疲れちゃった」
時刻は午前四時。
「どうします、ねぐらに戻りますか」
「そうだな」
散々騒いだ怪物たちだが、怪物たちは今、樹海で死んだ人間たちと全く同じ姿形をしている。
あまり人間たちにこの姿を見られるのは、後々面倒ごとになる可能性があると考えたシオンは夜が明ける前に自分たちの住処である樹海に――
「おい、あれ」
戻ろうと提案しようとしたところで、赤がある建物を見つけた。
「なんだあれ」
赤が指した指の先には、閑静な周囲とは一線を画するネオンが派手な建物――
「うわぁ、キレイ。お城みたい」
男と女が野生の本能をぶつけ合う城――通称ラブ〇があった。
「確かにキレイですが、なんか下品な雰囲気を感じますね」
ラブ〇から醸し出される欲望の香りに、嫌悪感を抱く白。
「簡易休憩所…………」
ギラギラ光を放つ看板には一泊、五千円の文字。
「いってみるか」
怪物たちは、近くにあったラブ〇に突撃した。
「わぁ、ベッドフカフカ」
「落ち葉のベッドとは比べ物になんね」
「おーい、冷蔵庫に飲み物は入ってるぞ。みんな飲まねえか」
「ふーむ、どれどれ…………これ、コンビニにあったものより割高ですね」
二人用の部屋を借りた怪物たちは、各々初めて見る人間の住処に目を輝かせた。
「…………」
そんな中、黒は近くのリモコンに手を伸ばした。
「「「「「「「っ」」」」」」」
突然、光を放つ黒い板。
『明日の天気は――』
突然、発せられる人間の声。
「これが、あの」
「ええ、そうですね」
人間社会にあるという、噂だけは聞いたことがある魔法の板を初めて目の当りにして、怪物たちは全員、言葉を失った。
(((((((テレビ)))))))
ちなみに、もっと最先端の道具であるスマホも怪物たちは見たことあるのだが、画面ロックを突破できず、操作したことはない。これが初めて怪物たちが自分の手で電子機器を操作した歴史的瞬間であった。
「「「「「「「……………………」」」」」」」
その後、怪物たちはテレビの画面を十時間以上見続けた。
「ぐがぁあああああ」
「うーん」
それからしばらく、ラブ〇に泊まりながら、近くのコンビニで食料を調達して、テレビを見て、眠くなったらフカフカのベッドやソファで寝る生活を続けた怪物たち。
お金は死んでいた人間たちの死骸から、拝借していた。
そんな自堕落な生活をしていた怪物たちだが、ある日――
「な、なんじゃこりゃああああああああ」
突然、青の姿が元のサメの顔をした怪物に戻った。
「っ――」
その後、他の怪物たちも次々と元の怪物の姿に戻っていった。
「これは一体どうなっているんだ」
コンッコンッ
「「「「「「「っ――」」」」」」」
「部屋の掃除に来ました」
部屋を清掃員にノックされ、怪物たち焦った。
「ど、どうする」
「やっちまうか」
「待てっ」
唯一、まだ人間の姿である緑が対応した。
「あ、お休み中のところすみません。部屋の掃除に」
「部屋の掃除は大丈夫ですので。お気遣いありがとうございます。」
そうして、清掃員に部屋の中を見られないよう追い返した後、緑もまた怪物の姿に戻ってしまった。
「どうなってんだこりゃ」
「…………」
動揺する怪物たち。
「これからどうしょう」
「どうしょうたって」
そんな中、白はある可能性に思い至っていた。
「僕に考えがある」
白に連れられ、怪物たちは部屋の窓から、誰にも見られないよう深夜に部屋の外へ飛び出し、自分たちの住処である樹海へ戻った。
「ここって…………」
怪物たちが向かったのは、普段自分たちが根城にしている地点ではなく、別の地点。
とある理由で、人間たちも知っている有名なスポット。
「ありました」
「ありましたって、お前、それ…………」
白が見つけたのは、木から縄で吊るされている人間の死骸。
ここは巷でも有名な自〇スポットの一つだった。
人間との衝突、ひいては人間との接触を極力避けていた怪物たちは、定期的に人間たちが自〇しに来るこのスポットを避けて、生活していた。
今日、この時までは…………
「まだ、腐ってはいないようですね」
「どうするんだ、それ」
吊るされた、まだ日の経っていない死骸を降ろした白はその死骸にかぶりついた。
「うぇっ」
しばらく、一心不乱に人間の死骸を食べ進んでいると、やがて、白の肉体に異変が生じた。
「っ――」
「人間の姿に戻っている」
「やはり、そうでしたか」
白は自身の仮説は証明され、不敵に笑った。
「どうやら、僕らは定期的に人間の肉を食べなければ人間の姿を維持できないようですね」
「…………」
人間の肉を一定量摂取すると、白は再び人間の姿に擬態できるようになった。
「でも擬態できるのは、その人間だけなんだね」
「そうですね、最初に食べたのがこの人間だからなのか、それとも何かしらの理由でこの人間と私との相性が良かったからなのかわかりませんが」
「「「「「…………」」」」」
人間の姿を維持するためには人間の肉を食らう必要がある。だがそれは、裏を返せば定期的に人間の肉を食らいさえすえば、自分たちも人間の社会でスクスク生きていくことができるということを意味する
もう食料を探して樹海の中を彷徨うことも、自分たちよりはるかに弱い人間たちからこそこそ隠れることもしなくていい。
フカフカのベッドで寝ることも、おいしいご飯を食べることも、いろんな情報を得ることも人間の姿に化けていれば、容易に、何度でもできる
「で、どうします」
「どうしますって、そりゃ」
シオンが決めるまでもない。
答えは、すでに決まっていた。
白以外の怪物たちも、人間の死骸を探し出し、食した。
怪物たちは、人間の社会で生きることを選んだ。
その後、怪物たちは最初に食した人間たちの学生証などを手に入れ、その人間として人間社会に溶け込んでいった。




