明かされる真実
黒の借りるアパートの一室へと入った、黒・青・銘の三人。
「「「…………」」」
畳の敷かれた部屋で三人はちゃぶ台を挟んだまま、何もしゃべらない時間がしばらく流れた………………………………
やがて、
「あの――」
銘が口を開いた。
「海さんも先生と同じ、なんですよね」
銘の言葉に、青は頷いた。
「ああ、そうだ…………」
青もまた、黒と同じ人間の姿形を真似た怪物であることが銘にバレた。
「もしかして、海さんはお父さんを」
「っ、それは違うっ」
続く言葉を聞く前に、青はソレを強く否定した。
「っ…………」
突然大きな声を上げた青に驚き、体を硬直させる銘。
「す、すまん」
そんな銘を見て、青も言葉を失った。
「「……………………」」
再び、無言の時間が流れ始める。
「…………はあ、やれやれ」
ここまで傍観を決め込んで、無言を貫いていた黒。だが二人の話を聞き、埒が明かないと思った黒は口を開いた。
「まずは僕たちの話をしましょう」
「僕たち…………」
「僕たちが昔、どこにいて、何があって今ここに至っているのか…………」
黒の口から、黒たち――怪物たちの昔話が語られた。
十数年前――
ムシャムシャ
「それ、おいしいの」
「結構いけるぞ」
この国で一番高い山、その麓に広がる森の海――通称樹海。人の手が入らず、自然に作られた大迷宮こそ、怪物たちの住処だった。
「何してるんだお前ら」
「あ、赤」
二匹の怪物の元に現れたのは、他の怪物たちから赤と呼ばれている牛のような角が特徴的な怪物。
「見てわかんない」
「わからねえから聞いてんだろ」
そこへさらに、二匹――
「騒々しいな」
「一体何事ですか」
「シオン、緑…………」
紫色の肌に頭から触手を生やしたシオンと呼ばれた怪物とカメレオンのような顔の緑と呼ばれた怪物が現れた。
「食べられそうな物は見つかりましたか青、黄」
怪物たちは、木々が生い茂る樹海の中でそれぞれ食料を探していた。
「見つかったと言えば、見つかったし、見つかっていないといえば見つかってないかな」
「なんだよそれ」
そう言って、翼をもつ怪物――黄と呼ばれた怪物は目線を、近くで黒い塊に食らいつく獰猛な歯を持つ同族に移した。
「何を食べてるんですか、青」
青と呼ばれた、鮫のような獰猛な歯を持つ怪物は一言、
「…………熊」
とだけ言って、再び黒い塊――エサを求め不運にも怪物たちの領域に迷い込んでしまった熊の成れの果ての肉塊に再び食らいついた。
「「……………………」」
その姿を、若干引いた様子で見守る黄と赤。
「熊、ですか」
「熊は最近、食料を求めて人里近くの森の方に移り住んでいるからな」
「狩ること自体は難しくなさそうですけど、安定的に狩り続けることは難しそうですね」
怪物たちは熊を、これから自分たちが生きていくための糧にしていくのを諦めた。
「いくら一匹、一匹の図体が大きくても数が少ないとすぐに狩り尽くして絶滅だ」
「一匹から得られるカロリーも大事ですけど、安定して得るためには数も大事ということですね…………赤の方は何か見つかりましたか」
話を振られ、赤は肩を竦めた。
「全く」
「そう、ですか」
予想通りの回答に全員、肩を落とした。
「もうこの樹海にいる生き物は僕たちで全部狩り尽くしちゃったんじゃない」
「捕りすぎないよう、気を付けていたつもりですが」
「ここ最近野生動物の数がグンッと減ってきてるよね」
「人間のせいだな」
怪物たちもまた熊たちと同じように、深刻な食料難に陥っていた。
「これが温暖化ってやつですかね」
「人間のせいだな」
怪物たちは、全生物の中でも屈指の身体能力を持つ。代わりに多くのタンパク質とカロリーを日々摂取する必要があり、毎日動物の肉を食べなければ、数日で栄養不足で餓死してしまう。
野生動物が減っている樹海で、怪物たちの栄養源(食料)となる生物の確保は可及的速やかに解決しなければならない問題であった。
「一匹一匹の図体がある程度デカくて、多少狩りすぎても絶滅しない程には数が多い生き物」
「人間を襲うのはだめなのか」
赤の提案に、緑はため息を吐いた。
「それは前に話し合って決めたでしょう」
食料となる野生動物が捕れなくなってき始めた頃、人間を襲うかどうかの話し合いが怪物同士の間で行われた。
人間は、個体差はあるものの図体は野生のシカ並みに大きく、数は地球上に存在する陸上動物の中で一番多い。
身体能力は怪物に優に劣るため、狩るのも容易。
一見、怪物たちのエサ候補筆頭に見えたが、その数の多さが逆に怪物たちにとってはネックだった。
数は怪物たちに比べ人間の方が遥かに多い。いくら人間たちが束になっても勝てない怪物といえど限度がある。
「人間を敵に回すのは得策ではない。人目を避け生きていくのが怪物(我々)にとって最善である」
それが、話し合って導き出した怪物たちの結論であった。
「でもよ、だったらこれからの俺たちのメシどうすんだよ。まさか、クマやイノシシが迷い込んでくるのをただじっと祈りながら待つって言うんじゃねえよな」
「それは…………」
「結構いけるぞ」
ここでようやく、青が捕らえたクマを食べ終わった。
ガサガサ
「「「「「っ――」」」」」
突如、近くの茂みが激しく揺れた。
「誰だ――」
「俺だ」
「私たちですよ」
揺れる茂みの中から現れたのは、狼の顔をした黒い怪物とウサギのように長い耳の白い
怪物。
「白、黒」
白、黒と呼ばれた二体の怪物は樹海の奥であるものを見つけ、ここまで戻って来た。
「あっちに面白いものが落ちてるぞ」
「面白いもの」
黒の発言を聞き、白を除く怪物たちは全員、怪訝な顔をした。
黒が言う「面白いもの」とはつまり、黒が面白いと思うもの。
絶っ対ろくなものではない。というのが、怪物たちの共通認識だった。
「「「「「…………」」」」」
五体全員、黒の言う「面白いもの」を見に行くかどうか…………
正直気乗りはしない。が、この場にいても何も進展はない。だがしかし…………五体全員、その場で動かないでいると白が――
「大丈夫ですよ。見て吐き気を催すようなものではないですから」
「「「「「…………ホッ」」」」」
白の言葉を聞き、五体は全員、ホッと胸を撫で下ろした。
「…………お前ら」
不服そうな顔をする一体を無視して、怪物たちは全員、黒の言う「面白いもの」を見に樹海のさらに奥深くへと入って行った。
白に連れられ、樹海の奥深くに進んでいった怪物たちは、暗闇の中で横たわる七つの大きな塊を見つけた。
「これは――」
ソレを見て、怪物たちは全員眼を見開いた。
「人間じゃん」
「しかも、七体」
白に連れられた先、暗い樹海の奥深くで七体の人間が地面に転がっていた。
「どうしてこんなところに」
警戒して近づかない緑とシオンに対し、興味津々といった様子で近づく白と黄。
「息は、してねえな」
赤も、恐る恐る横たわる人間の死骸に近づいた。
「死んでるってこと」
「たぶんな」
「全員、即死だったみたいですね」
そう言って、白は顔を上げた。視線の先には、十メートルほどの断崖絶壁。
「どうやら、あそこから落ちたみたいですね」
「言ったろ、面白いものが落ちてるって」
「そのまんまの意味じゃねえか」
ここでようやく、シオンと緑も人間の死骸に近づいた。
「道に迷い、足を滑らせたというところでょうか」
「縄で全員の体を繋いでいたのが、逆に仇になったみたいだな」
死骸たちが背負うリュックサックには、共通して○○大学山岳サークルという文字が書かれていたのだが、この時はまだ、怪物たちがその文字の意味を理解することはできなかった。
「食えるかな」
「お前はさっきクマ食ったろ」
「どうします、シオン」
「…………そうだな」
こういう時の判断はシオンが決めることになっている。
人間とは違い、怪物たちの間に上下関係はない。これはそういう決まりではなく、怪物たちの間で自然になんとなく決まった暗黙の了解。適材適所である。
シオンはしばらく考え込むようにして、他の怪物たちの様子を伺った。
食べる気満々の青と黄。青と黄とは違う方向で人間の死骸に興味津々の白。同じく、興味津々だが一歩離れてクールを気取っている黒。警戒する赤と緑。
シオンはしばらく考え、決断した。
「食ってみるか」
怪物たちはそれぞれ、一体ずつ人間の死骸を食べ始めた。
ムシャ、ムシャ
「味は悪くないですね」
「結構、イケる」
初めは恐る恐るだった、緑、赤、シオン、黒の四体も徐々に人間の死骸を食べても問題がないこと、そして意外と人間の肉の味が悪くないことがわかり、ここ最近の食糧不足も相まって、途中からは全員一心不乱に人間の死骸を貪った………………………………
ムシャムシャムシャムシャムシャムシャムシャムシャムシャムシャムシャムシャムシャムシャムシャムシャムシャムシャ
異変は突然だった。
「青、お前」
「う、うん」
最初に異変が起こったのは、誰よりも人間の死骸に貪りついていた青だった。
「な、なんじゃ、こりゃああああああああああああああああああ」
いつも見ている自身の、怪物の青色の腕が気づけば、小麦色の細い――その種族にしてはかなり太い腕だが怪物の腕と比べると一回り細い腕に一変していた。
体も一回り以上縮み、なぜか人間が来ている服と呼ばれる衣類を身に纏っており、顔も自分では分からないがサメからゴリラに近い顔に変わっている。
「え、そういう赤も」
「な、なに」
異変は、青だけでなく、他の怪物たちにも起こっていた。
「これは一体…………」
怪物たちはそれぞれ、容姿が完全に人間になっていた。




