再会の赤・青・黒
メインイベントを終え、地下闘技場の選手控室。
パチパチパチパチ
「…………」
試合で審判をしていた男――この地下闘技場の全権を一任されている支配人が控室にいる赤に話しかけた。
「さすが、我が闘技場最強のチャンプ。今日もナイスファイトだったぞ」
「…………どうも」
軽く会釈をしてさっさと控室を出ようとする赤。
「まあ、まてまて」
そんな、赤を支配人は呼び止めた。
「お前には感謝しているんだ。ただごろつきどもが殴り合って観客が切った張ったするだけだったうちが今やお前というスターのおかげで一つのエンターテインメント施設に昇華した」
(えらく欲望剥き出しのエンターテインメント施設だな)
支配人の言う通り、赤が試合に出始める後と前で明らかに、観客動員数に差が出ている。
「なら何も問題ないだろ」
とっと話を終わらせ、控室を出ようとする赤。
「ところがどっこい。最近、お前の強さに観客が冷め始めててな。強すぎる力ってのは最初はセンセーショナルに映るもんだが、結局お前が勝つから、試合を見る醍醐味が薄くなってるってな」
支配人の言葉を聞き、赤は支配人を睨みつけた。
「知るかよ。俺に八百長でもしろっつうのかよ」
「まさか。観客が求めてるのは血湧き肉躍る本当の真剣勝負だ。出来レースなんて冷めるマネしちゃ、一瞬で客の心がうちから離れちまう」
「じゃあ、どうしろと」
「…………」
しばらく考え込み、支配人は口を開いた。
「今度はもう少し、魅せる戦いって奴をしてくれねぇか。そうしたら、お前の強すぎる力もまた別の華になって客の熱気も戻ってくるはずだ」
それを聞き、赤は眉間にしわを寄せた。
(それと八百長の何がちげぇってんだよ)
赤は「考えておく」とだけ言って、控室を出ていった。
★★★
地下闘技場での赤の試合を観戦した後、黒たちは選手たちが使用する関係者専用の出入り口があると推測、その場所を探し出した。
関係者専用出入口近くで、赤が出てくるのを見張ること数分。
「赤だ」
「「っ――」」
関係者用の出口から出てきた赤を、黒と青&銘の二手に分かれて追跡した。
「…………」
自身のねぐらに帰る赤を一定の距離を置いて黒が追跡。赤の後を追う黒の後を、青&銘コンビが追跡。赤が尾行されていることに気づいた、もしくはそう見られる素振りを見せた場合、黒は追跡を断念。その場からすぐに離脱。青&銘コンビが赤追跡を引き継ぐ作戦である。
(急に曲がった)
横断歩道で信号待ちをしていた赤が突然、方向転換して黒たちの視界から消えた。
(尾行がばれたか)
赤の後を追い、黒も同じ道を曲がった――
「っ」
だがその先に、赤の姿はなかった。
「やられたか…………」
その時、怪物としてではなく、教師としての本能が黒に嫌な予感を知らせた。
「まさかっ――」
本能に突き動かされるまま、黒は強く地を蹴り飛ばした。
★★★
時は遡り、視界から消えた赤を追って黒が、青たちの視界から消えたすぐ後――
(どうしたんだ黒の奴、急に血相変えて)
黒から少し離れた位置にいた青もまた、黒と同じように視界から消えた標的――赤を尾行していた黒を追って、走り出そうとした。
「っ――」
それを、銘が青の裾をグッと掴んで止めた。
「何だ、てめぇら」
直後、青の目の前に赤が上空から降り立った。
「…………赤」
黒の尾行に気づいた赤は、黒の視界から消えた直後に跳躍。
自分を尾行していた黒から少し離れたところにさらに二人、怪しい動きをする不審人物がいることにも気づいていた赤は先にそちらの対処をするべく、近くの建物の屋根に上り、そのまま屋根伝いに移動。
青と銘の前に降り立った。
「てめぇは」
青を見て、赤は目を見開いた。
途中までではあるが自身に気づかれず尾行していた時点でただ者ではないと思っていたが、まさか久しぶりに会う、自身の同族であるとはさしもの赤も思ってはいなかった。
「…………」
目の前の光景にしばし、呆然とする赤。そこへ――
「大丈夫ですか銘さん」
教師(担任)として銘を心配した黒が駆けつけた。
「てめは、黒か」
「赤…………」
十数年ぶりに、黒、青、赤の三人は人間社会で再会した。
「そうか、白が…………」
赤と共に近くの公園に移動した黒たちは赤に、先日起こった野良怪物襲撃事件と今朝の白失踪事件について説明した。
「で、お前たちはその事件の首謀者を追っていると。そこの、チビと一緒に」
「むっ」
警戒心溢れる目で銘を見る、赤。
「そうだ」
青は赤の質問に答えながら、さりげなく銘を庇うように移動した。
「…………」
怪物たちの中で一番短気で短絡的、熱しやすく冷めやすい赤だが、だからといって無暗に暴力を振るうような奴ではない。
それは長年の付き合いである黒と青はよく理解している。
青が銘を庇うように移動したのは、赤をよく知らない銘を不要に怖がらせないためである。
「俺たちの中に犯人がいるんだな」
「その可能性は高い」
警察官である青はともかく、ただの教師である黒まで事件の捜査をしているのは、この事件が人間の、警察に手に負えるものではなく、かつ事件がおおっぴらになれば怪物(自分)たちに不利益があるということ。
(青はともかく、コイツがわざわざ自分に利益のないことをやるとは思えないからな)
赤もまた、長年の付き合いで黒たちのことはよく分かっている。
「犯人はシオンか」
「恐らく、な」
確証が持てなかったため、今まで口にはしていなかったが、十中八九今回の事件、シオンが深く関係していると黒も青も考えていた。
「緑も協力している可能性があるな」
「馬合ったからなあいつら」
まだ樹海にいたころ、シオンがみんなを引っ張り、緑が影ながらシオンのサポートをしていた。
「あるいは黄も含めて三人協力している可能性もある」
(黄、シオンに緑…………)
初めて聞く、黒たちの同族の名前を銘は頭の中で反芻して、暗記した。
「あいつらに対抗するために俺もお前らに強力しろと」
「話が早くて助かるよ」
黄までシオン側であると考えると、向こうはシオン・緑・黄の三体。
対してこちら側は、白が行方不明である現状、黒と青の二体のみ。
銘もいれれば、こちらも向こうと同じ三体になるが、戦闘能力という面において、とても銘を怪物一体分として数えることはできない。
銘に限らず、完全武装した日々訓練をしてきた熟練の兵士であっても、怪物一体分として数えるにはあまりにも非力すぎる。
穏便に解決するつもりの黒たちだが、話し合いをするにも、シオンたちとの交渉のテーブルに着くには最低あと一人、シオンたちを交渉のテーブルに座らせる武力が必要になる。
その武力こそ黒たちの目の前にいる、赤沢武琉なのである。
「どうだ、協力してくれるか」
「断る」
赤は黒たちの誘いを食い気味に断った。
「…………だろうな」
赤は短気でぶっきらぼうだが、黒たちの中で一番仲間意識が強い奴でもある。怪物(仲間)同士、争い合うのは気乗りしないのだ。
「話は終わりだな、俺は行くぜ」
事件にシオンが一枚噛んでいるなら、行方不明の白も無事である可能性が高い。赤は黒たちの協力を断り、その場を離れようとした。
「あ、赤兄ちゃん」
そこへ、かわいらしい五歳くらいの少女が赤の元へ笑いながら走って来た。
((赤……兄ちゃんっ))
「赤兄ちゃんだ」
「本当だ」
続いて、少女と同じくらいの年の子供たち次々に赤の元へ走って来た。
「お、お前ら、どうしてここに」
「赤兄ちゃんが遅いから迎えに来たんだよ」
「お腹空いた」
「早く帰って、ご飯にしよ」
「「……………………」」
子供たちに大人気の赤を、この世と思えないものを見る目で見る怪物二人。
「ごめんなさい、この子たちが迎えに行くって聞かなくて」
そこへ、絵にかいたような修道服を身に纏う、二十代くらいの若い金髪の女性がやって来た。
「どちら様ですか」
「私この近くの孤児院でシスターをさせてもらっています」
(本物のシスターさん。初めて見た)
(孤児院、地下闘技場、ファイトマネー)
この時、黒に脳裏に電流が走った。
「赤、お前」
「何も言うな」
黒の言葉を、赤は食い気味に制した。
少し遅れて、青も黒と同じ結論に辿り着いた。
「お前、人間の孤児の面倒を見てるのか」
「っ――」
事実を口にされ、赤は顔を赤く染めた。
(まじか)
元々面倒見がよく、人間が樹海に捨てた犬や猫の面倒を、自力でエサが捕れるようになるまで教育兼世話をしてやっていた赤。
だが、まさか人間の社会で、人間たちが捨てた人間の子供たちの世話をしているとは思ってもいなかった。
「誰この人」
「赤兄ちゃんの友達」
信じられない話だが、子供たちに慕われている赤の姿が、全てを物語っていた。
「あらあらすみません。この子たちがお話の邪魔をしてしまったようで」
「あ、いえ」
黒はこっそり、赤に近づいて耳打ちした。
「赤」
「あんだよ」
少々気が引けるが背に腹は代えられない。
「シオンの性格上、シオンが進めている計画が穏便に済むとは思えない。必ず、人間側に甚大な被害がでるはずだ」
「…………」
「そのとき、一番の被害を受けるのは力のない者たちだ。つまり――」
そう言って黒は赤に抱き着く子供たちに視線を移した。
「…………」
わかるな、と無言で訴える黒の瞳を見て、赤は忌々しそうに舌打ちした。
「わあったよ。お前たちに協力する」
結局、赤が折れ、黒たちに協力することになった。
「ただし、一つ条件がある」
「条件」
赤が提示した条件を聞き、黒は眉を潜めた。




