嵐去りて、波来たる
「あなたは……ッ」
足利照々が警戒を厳とするが、赤髪の少年は欠片も興味のなさそうな眼で一瞬だけ一瞥すると、静かに口を開いた。
「何やら外が想像しいから足を運んでみれば、定刻にはまだ早いぞ」
「あァ!?んだよ朱天!別にいいじゃねェか少しくらい!」
荊棘黃童子よりも一回り小さなシュテンと呼ばれた少年が諌める。遠くでカルムの短い悲鳴が聴こえた。角が二本の赤髪、先輩に見せてもらった画像のキャラだ。ということは、この赤髪の少年が朱天童子か。
「星鳴との取り決めだ。遵守しないと後々面倒になる。一度引け」
「あァ!?待てよ、いま」
「引け。三度は言わせるな」
「――ッ、…………チッ、わかったよ」
有無を言わせない圧力で、荊棘黃童子は大人しく引き下がる。その会話で上下関係が伺えた。
「オイ、つーわけで一時休戦だ。定刻になったら真っ先に潰してやるから、逃げるんじゃねェぞオマエら」
「いくぞ」
朱天童子はこちらを見向きもせず、一瞬で姿を消した。数瞬遅れて、荊棘黃童子の姿も消える。そうしてこの場に残されたのは、無惨に散らばるプレイヤー達のロストアイテムと、戦力差を示すように開いた大穴だった。
「いやぁ、まるで嵐のように去っていったねぇ」
最初に口を開いたのは、琥二郎だった。散乱しているアイテムを物色しながら、琥二郎は続ける。
「で、なんでアレ定刻じゃないのに出没したんだい?誰か知ってる?」
「あの、たぶんなんですけど、『六厄災』の朱天童子と荊棘黃童子、あと雪華姫に関してはレイドの定刻以外に目撃情報があって、それが理由だと思います」
俺達から距離を置いていたカルムが戻ってくる。かなり凄惨な現場に反比例して、その表情はどこか満足気であった。スクショが撮れてご満悦、といった感じだろうか。
「ふぅん?なるほどね。ところでキミは?」
物色を止めた琥二郎がこちらに戻って来てカルムに尋ねる。
「ああ、ごめんなさい申し遅れました。カルムです!」
「ふむ、カルムちゃんね。よろしく。オジサンは琥二郎ね」
「ハイ、存じてます。トミナ君がお世話になったそうで」
「うん?ああ、じゃあカルムちゃんがトミナ少年の待ち人か」
「ちょっと琥二郎、わたしの知り合いに馴れ馴れしくしないでもらえるかしら?」
二人の会話に足利照々が加わる。足利照々は両脇に複数の刀を抱えていた。周囲を見ると、足利照々は先程の戦闘中に自身が使用した刀を既に回収していた。
「えぇ、オジサン別にそんなつもりじゃ……って足利照々ちゃん刀!いつの間に!?」
「ロストアイテムと装備は早いもの勝ち、いつもの事でしょう?そこのあなたも、新人なのよね?拾うのなら今の内よ。荊棘黃童子にやられたプレイヤー達、そろそろ戻ってくるわよ」
そう告げた足利照々は不意に視線を遠くへと向ける。その方角に顔を向けると、集団がこちらに駆け寄ってきているのが見て取れた。
「ハイ、アドバイスありがとうございます」
俺の返答に眼を閉じて小さな会釈で返した足利照々は、刀を虚空に収納する。
「さて、わたしは一旦ログアウトするわ。ネットであの2体の情報、改めて確認しておかないと」
「え?あ、ちょっと待った照ちゃん!【菊一文字則宗】!」
「カルム、それは預けておくって言ったじゃない。蔵景も、それでいいわよね?再戦はまた後日でいいかしら?」
「構いません」
「よろしくね。それじゃあ、またあとで」
「ちょっ!?照ちゃん!?」
呼び止める声も虚しく、足利照々はこの場を離れていった。それと入れ替わるように、大量の足音と怒号にも似たプレイヤーの声が飛び込んでくる。
「うおおおおおおお!!武器!!俺の槍!!」
「があああ!!オレの刀がねェ!!ちくしょう持っていかれた!!」
「おい待てテメェ!それ俺の短刀だぞ!!」
「はー!?名前でも書いてあるんですかー!?」
「んだとゴラ!!抜けオラ!!三枚におろしてやんよ!!」
「まだクールタイム中なのに乗るかよヴァカめ!」
静寂から一変、一瞬にして罵声が四方八方から飛び交う戦場へと変化する。散らばった装備やアイテムを巡って争いが勃発。
「……やれやれ、騒々しくなってきた。こりゃアイテムを拾うどころじゃないね。どうだいみんな、オジサンが奢るから『団子屋』で少し話さないかい?荊棘黃童子に関して、情報の共有がしたい」
その問いかけに対して、俺達は顔を見合わせて頷く。
「よし、じゃあ決まりだ。オジサンと蔵景ちゃんがいるからヘタにちょっかいかけてくるのはいないだろうけど、出来るだけ目立たないように移動しようか」
提案に従った俺達は、歩き出した琥二郎の後ろ姿を追う。苛烈さを増したこの場を離れ、『団子屋』へと向かった。
【作者小話】
(2026/9/2)
読者のみなさんの応援のおかげで日間ランキング4位に入りました!ブックマークと評価、本当にありがとうございます!励みになってます!
引き続き楽しんでもらえたら幸いです!




