たかが1秒、されど1秒
『韋駄天』の効果時間は残り1分半。効果が切れたら詰みなので早々に決める必要がある。
「……、」
蔵景は何か考え込むように、刀を握り締めたままその場から微動だにしない。出方を伺いたい気持ちはあるが、制限時間があるので悠長に構えていられない。とにかくこちらからアクションを起こさなければ、制限時間に殺される。
ひとまず勝利条件の確認だ。刀を落とすか有効部位への攻撃。この場合の有効部位は面、胴、小手、喉の四箇所、このゲームで置き換えるなら頭、腹、手首、首だ。
腹に蹴りを叩き込めたがあれは剣道では反則。まあ先程蔵景が言ったように反則も何もあったもんじゃないが、あくまで剣道がベースの勝利条件なら、刀による攻撃でなければ攻撃に含まれないし、俺としても勝った気にならない。
剣道として勝ちにいくが、動きは剣道だけに囚われてはいけない。もっと柔軟に。もっと自由に。
「なにか考えてるところ悪いけど、効果時間もないから攻めるぞ?」
「……、わざわざ宣言しなくてもいいのに」
いまいち読み取れない表情のままこちらを見上げる蔵景目掛けて、空中を蹴った俺は稲妻のようなジグザグとした足運びで迫る。
馬鹿正直にまっすぐ行こうものなら一閃で叩き切られて終わりなので、叩きつけられないように頭上のポジションを取り続ける必要がある。
特に『雲耀』とやらのスキルによる頭上からの目にも止まらぬ振り下ろし。距離を詰める効果もあるのだろうが、特筆すべきなのは威力だ。蔵景から貰ったこの武器であっても、受けた時点でへし折れるのが目に見えている。なのでスキルの起こりを必ず潰さなければならない。
上から下に叩きつけるスキルであるなら、攻撃範囲となる下に潜り込まない。効果が切れるまで上を取る。蔵景もそう考えるだろう。
だからこそあえて下に潜る。
「――――ハァッ!!」
蔵景の頭上付近まで接近した刹那、裂帛の気合と共にありったけの踏み込みで大地に向かって宙を蹴り上げる。片手で担ぐように振り上げた刀を力の限り握り、落下に伴う重力を纏って叩き込む。
蔵景はその斬撃を片手で握る刀で軽々と受け止めて鍔迫り合いが起こるが、俺はそれを長引かせることなく再び宙を蹴り上げて、鍔迫り合いを支点に蔵景の背後へと前方宙返りを決める。
「ッ!」
蔵景は背後に立った俺に刀を薙ぐが、左手で掴んだ鞘で下からかち上げて斬撃をいなす。目を僅かに見開いた蔵景は口を開く。
「――――『雲耀』」
音を置き去りにする雷の如き閃撃が振り下ろされるよりも速く、俺は地面を蹴り上げていた。
「かち上げられたら咄嗟に振り下ろしたくなるもんな?」
空だけを裂いた一撃が地面を斬った。衝撃と風圧で再び砂埃が舞い上がる。しかし眼下にはハッキリと映る蔵景のシルエット。宙へと跳んだ俺は、項垂れるように突き出た頭の影目掛けて渾身の力で振り下ろす。
「――――『縮地』」
が、その一撃は虚しくも砂塵だけを斬る。蔵景のスキルが発動する声と共に、砂塵は一瞬で周囲に吹き飛ばされ、その中心から飛び出した蔵景は10mほど離れた位置に姿を現した。
「…………、やられた」
少し残念がるような声音で蔵景がボソっとつぶやいた。蔵景の手には刀は握られておらず、握っていた刀は地面に深々と突き刺さっていた。
「これを最初から狙っていたの?」
「んー、まあ半々かな。背後取ってお前の下に潜り込めた時点でほぼ勝ったと思ったから、あとは流れに任せたらこうなった」
『雲耀』がトンデモ威力の攻撃なのはわかってたから、それをどうにかして地面にめり込む程に叩き込ませるにはどうすればいいかって考えたら、やはり下に潜り込むしかなかった。
そしてどんなに優れた攻撃であっても、スキルを発動するには言い切るまでのラグがある。『雲耀』の4文字。1秒あるかないかの僅かな時間であっても、1秒あれば再び上空に跳ぶ程度なら造作もない。
とはいえ、この綱渡りな作戦そのものは装備ありきかつ特殊な勝敗条件であった今回限りのラッキーパンチ。正直また同じ事をやれと言われて出来る気はあんまり自信ない。刀から手を離しても、別に戦いは続くわけだしな。




