表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/20

プロローグ

「――湊本(みなもと)君にお願いがあるんだけど、聞いてくれる?」



蒸し暑い、暑くて暑くてあらゆる何もかもが嫌になりそうなほどに暑い夏の昼下がり。バイトを終えた俺――湊本芳雅(みなもとよしまさ)は、高校の先輩兼バイト先の指導係である平泉静夏(ひらいずみしずか)先輩に連れられてファミレスに来店していた。



「うっス、なんスか?」


「まず湊本君ってさ、『モノサバ』って聞いたことある?」



話を聞く対価として平泉先輩から差し出されたドリンクバーのコップに注いだ炭酸水とリンゴジュースのミックスを飲みながら、真剣な面持ちで切り出された話に耳を傾ける。



「あー、えーっと、たしかバトロワ系のVRゲームっスよね?」



クラスメイトの何人かが教室内で会話しているのを聞きかじった程度なので詳しくは知らないが、昔の日本を舞台に多数のプレイヤーが最後の1人になるまで生き残りをかけて競い合うジャンルのゲームという事なら知っている。


『最近の大型アプデで追加されたのロクヤクサイ討伐無理ゲーすぎる!』だとかなんとか。

『全高20mもあるヤマタノオロチとかどうやって倒すんだよ!?』みたいな事を大声で盛り上がっていたのを覚えている。



「そう!世界中で大人気!……ってほどではないけど、日本や海外でそれなりにヒットしているVRゲームなんだ。正式タイトルは『大乱世モノノフサバイバー』っていうんだけど、バトロワ系では珍しく銃がないゲームでね?」


「フムフム」


「実はその『モノサバ』の攻略を湊本君に手伝ってもらいたくって!」


「…………俺に?『モノサバ』をっスか?」



はて?今やVRゲーム最盛期と呼ばれるような時代。例に漏れず俺もそれなりにVR含めたゲームを嗜むが、ゲームの大会で優勝や入賞した記録もないし記憶もない。


実はプロゲーマーを倒した事がある、知る人ぞ知る凄腕アマチュア!――というわけでもなんでもなく。なので平泉先輩から助っ人を頼まれるに至る事象に見に覚えがない。


……いや、()()()()()()特定分野で全国レベルの実力が備わっていた過去はあったが、今の俺には――



「うん!湊本君って()()()()()()()んでしょ!?しかも全国レベルだったんだって!?」



外を照りつける陽光に負けないくらいの明るい笑顔が、グシャリと俺の心を無慈悲に貫いた。



「おー、よく知ってるっスね!バイト先じゃ話したコトなかったはずなんスけど?」



バイト先どころか高校のクラスメイトにすら話した事がない内容であった。

心の乱れを悟られないように平静を装いつつ、俺は急速に乾いた喉を潤すようにコップの中身を勢いよく飲み干した。鼻から抜けていく炭酸が鼻腔の奥をツンと刺激する。



「いやぁこの前親戚の家に行ったら、バイト先の話になってね?そこで盛り上がって……というか一方的に私が話してたら君の話題になって!そしたらなんとビックリ!その子、湊本君と同じ剣道場に通ってた子だったの!武蔵景(たけくらけい)って名前なんだけど覚えてないかな!?」



平泉先輩はスマホを操作して2ショット写真が表示された画面をこちらに差し出した。そこには太陽みたいに燦然と笑う平泉先輩とは対照的に、精巧な人形のような冷淡な表情の女子が写っていた。


武蔵景。ああ、よく覚えている。学校こそ違ったが、俺と同い年で同じ剣道場に通っていた同門の女の子。入門したのは景が少し先だったので、歳も近い事もあってか俺と地稽古をする事もあった。


当時の実力は折り紙付きで、同世代の女子相手では負け知らず。俺も試合形式の練習では何度か負かされた事もあったっけ。それでも俺自身生まれながらの恵まれた素質と努力もあって通算戦績はだいたい7:3くらいだったか。


けれど、こんなにも熱が冷めきった表情ではなかった。双子の姉か妹だと言われても信じてしまう程に、面影こそあれど何かが欠けてしまっていた景を見て、どこか鏡を見ているような気持ちになった。


「…………湊本君?」


「へ?あ、あーっ!よく覚えてるっスよ!一緒に練習とかしてたっス!」



いかん虚勢が剥がれかけた。下から覗き込む平泉先輩の視線をしどろもどろになりながら受け止めつつ、なんとか言葉を紡ぐ。



「うんうん、それでね?ケイちゃんに質問されたの。いまキミが何をやってるかって。同じ道場に通ってたみたいだけど、連絡先とか交換してなかったんだって?」


「あー、そうっスね。俺、道場にはスマホ持ち込んでなかったんで。景は持ち込んでスマホで練習風景とか同門達と写真とかよく撮ってたっス」



そう、昔の景はいま眼の前にいる平泉先輩みたいに天真爛漫で向日葵みたいに明るい女の子であった。親戚、つまり従兄弟関係なら多少性格が似通う事もあるだろう。いや実際はよくわからないけど。



「ふんふん、そっかなるほどねぇ。()()()()()()()()()()()()()、ケイちゃん」


「……っ」


「それで、いまケイちゃん『モノサバ』で遊んでるんだって。聞いたら私よりも結構やり込んでるみたいでもうビックリ!上位ランカー武器も持ってるみたいなんだよね!」


「……やり込んでる?剣道は?」


「ああ、辞めちゃったんだって。剣道」


「…………………は!?」



衝撃的な事実に思わず席から立ち上がってしまった俺は周囲の客から奇異の視線を向けられる。だがそんな事など些細な事だった。テーブルを両手で抑え込みながら、俺は平泉先輩を問い詰める。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ