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転生したら、魔王と呼ばれた私が、ただ花を咲かせていた話 第一部  作者: マスター


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第六話「魔族って、一種類じゃなかった」

六話目です。


今回は森の外から新しい人物が来ます。岩人いわびとです。二話でガルが少し触れていた、山に住む種族。


異なる種族が出会うとき、最初はうまくいかないことが多い。それはこの世界でも同じです。でも凪は焦らない。焦っても、速くならないことを知っているので。


では、どうぞ。

その朝、集落に見知らぬ客が来た。


私はちょうど集落の外れで、枯れかけた木の根元に水を送り込んでいた。シロが隣にいた。


ガルが小走りで来た。ガルが小走りをするのは初めて見た。


「凪様、来客です」


「誰ですか」


「岩人です。三人来ています」



集落の広場に行くと、三人が立っていた。


大きかった。


森人より頭一つ分、いや二つ分くらい大きかった。肩幅が広くて、腕が太かった。肌の色が灰色がかっていて、髪が短く硬そうだった。顔の彫りが深くて、目が細かった。服は革でできていて、腰に大きな斧を下げていた。


三人のうち、真ん中の一人が一番大きかった。年齢は分からなかった。老けているような、若いような、どちらとも言えない顔だった。


その人が、私を見た。


値踏みするような目だった。


「お前が凪か」


低い声だった。地面から響いてくるような声。


「そうです」


「魔王と呼ばれているやつか」


「そう呼ぶ人もいますが、私はただの転生者です」


岩人の三人が、顔を見合わせた。


「転生者が魔王になるというのは、聞いたことがある」と真ん中の人が言った。「しかし、こんなに小さいとは思わなかった」


「すみません、小さくて」


「謝ることじゃない。ただ、思っていたのと違った」


「どんなのを想像していましたか」


「もっと、こう、威圧感があるやつを」


「威圧感はないです」


岩人がまた顔を見合わせた。今度は少し、困った顔だった。



名前はゴルといった。


岩人の集落の長らしかった。残り二人は護衛で、あまり話さなかった。


ガルがお茶を出した。岩人には小さすぎる器だったが、ゴルは文句を言わなかった。


「なぜここに来たんですか」とガルが聞いた。


「山の様子がおかしい」とゴルは言った。「三か月前から、山の水が減っている。川が細くなった。岩肌が乾いてきた。原因を探っていたら、この森に辿り着いた」


「森と山の水がつながっているんですか」と私は聞いた。


「つながっている。山の雨は森に流れ、森の水は山に戻る。昔からそういう循環だった。それが崩れている」


「森の東側が、かなり伐採されています。それが原因かもしれない」


「見た。ひどいものだ」ゴルは短く言った。「人間のやることは、いつもこうだ」


怒っている声ではなかった。ただ、事実として言っている声だった。それがかえって重かった。


「今は、保護区の話が進んでいます。三割は残る見込みです」


「三割」


「全部は止められなかった。でも三割は残ります」


ゴルが私を見た。


「お前がやったのか」


「話し合っただけです。決めるのは人間の国です」


「話し合いで動く人間がいるのか」


「一人いました」


ゴルがまた私を見た。今度は少し違う目だった。


「北の池が回復したという話も聞いた。それもお前か」


「川の詰まりを直しただけです」


「そこの精霊が元気になったと、山の精霊が言っていた」


「山の精霊と話せるんですか」


「話せるというより、気配が分かる。岩人は精霊と近い」


なるほど、と思った。森人は精霊の気配が分かる。岩人は精霊と近い。それぞれ、自然との繋がり方が違う。


「山の精霊は、今どんな状態ですか」


「弱っている。水が減っているから」


「森の水が戻れば、山の水も戻る可能性がありますか」


「可能性はある。しかし時間がかかる」


「時間はかかります。でも、始めないと始まらない」


ゴルが少し黙った。


岩の上に何かが落ちるような、重い沈黙だった。


「お前は何がしたいんだ」と、ゴルは言った。


「花を咲かせたいです」


「花」


「枯れているところに、花が咲けばいいと思っています。それだけです」


ゴルがまた私を見た。


長かった。


それから、短く息を吐いた。


「山に来い」


「山に、ですか」


「山にも、直せるものがある。お前の目で見て欲しい」



ガルが少し心配した。


「山は遠いです。それに、岩人は、その、気難しいことで知られていて」


「気難しくはない」とゴルが言った。「無口なだけだ」


「……それはそうかもしれませんが」


「この女は怖がらないから、大丈夫だ」


「怖がらないというより、怖がるべき場面が分からないことが多いです」と私は言った。


ゴルが少し目を細めた。笑ったわけじゃないが、笑いに近い何かだった。


「正直なやつだ」


「よく言われます」


結局、二日後に山に向かうことになった。シロも連れていくことにした。クロとキョロは集落の留守番。ルナに頼んだら、「クロとキョロの面倒みる」と張り切っていた。



出発の前日、夕方に池まで行った。


北の池は、来た最初のころよりずっと透き通っていた。底まで見えるくらい。水草が生えていて、小さな魚が泳いでいた。


水面をしばらく見ていたら、青い光が水の中で動いた。


精霊だった。


今度は弱っていなかった。水の中をすいすいと動いて、水面近くまで上がってきた。


私を見た。


また、青い小さな目。


「元気そうで良かった」


精霊が、水面をぱしゃりと叩いた。遊んでいるような動きだった。


「山に行ってくる。しばらく来られない」


精霊がまた水面を叩いた。


分かったのかどうか、分からなかった。でも何かが通じた気がした。


シロが水面を覗き込んで、精霊が驚いてすっと沈んだ。


「驚かすなよ」


シロが耳を伏せた。悪かった、という顔だった。たぶん。



集落に戻ったら、ガルが待っていた。


「凪様、少し話せますか」


「どうぞ」


「山に行くことについて、止めるつもりはありません」とガルは言った。「ただ、一つだけ聞かせてください」


「なんですか」


「凪様は、いつまでここにいるつもりですか」


私は少し考えた。


「この森が、自分で回れるようになるまで、かな、と思っています」


「自分で回れるようになる」


「水が流れて、土が戻って、植物が育って、動物が増えて、精霊が元気になって。その循環が一度動き始めれば、あとは自然が勝手に回ります。その状態になれば、私がいなくても大丈夫になる」


ガルが静かに聞いていた。


「その後は」


「その後は、また別の場所に行くか、理に還るか、どちらかだと思います」


「理に還る」


「生き物はいつか死にます。私も例外じゃない。ただ、私の場合は、死ぬというより還る感じがする。どこに還るかは、まだ分からないですけど」


ガルが長い間、私を見た。


「怖くないんですか」


「あんまり」


「なぜ」


「死ぬのは一回経験しましたし。それに、やることをやってから還るなら、悪くない気がします」


ガルがまた沈黙した。


夜の風が吹いた。木の葉が揺れた。


「百年間、私たちは誰かに頼ることを忘れていました」とガルはゆっくり言った。「頼っても、裏切られるだけだったから。だから、誰も信じなくなった」


「そうですね」


「凪様のことも、最初は信じていいのか分からなかった」


「当然だと思います」


「今は、信じています」ガルは静かに言った。「それが怖いとも思っています。また失うのが、怖い」


私は何も言えなかった。


気の利いたことは、言えなかった。


「山から帰ってきます」とだけ言った。


「はい」とガルは言った。


それだけだった。


でも、それで十分だった気がした。



夜、眠れないでいたら、キョロが布団に入ってきた。


「重い」


キョロは動かなかった。


「お前、毎回これだな」


キョロが尻尾を振った。


「山から帰ってきたら、またここに来い」


尻尾がまた振れた。


分かっているのか分かっていないのか、分からなかった。でも温かかった。


明日、山に向かう。


何があるかは分からない。でも、何かあることは分かっていた。


この世界は、どこに行っても、何かがずれていた。そしてずれているところには、たいてい直せるものがあった。


それだけ分かれば、十分だった。

六話目、書きました。


岩人のゴルが登場しました。無口で大きくて、でも話してみると筋が通っている人物です。森人のガルとは対照的なキャラクターで、この先しばらく重要な役割を持ちます。


ガルとの夜の会話は、この話の中で大事な場面でした。百年間、誰も信じられなかった人が、また誰かを信じようとしている。その怖さ。凪は気の利いたことは言えないけれど、「帰ってきます」とだけ言う。それで十分なこともある。


山編に入ります。森とは違う環境で、凪が何を見て何をするか。岩人の世界と、山の自然の話になっていきます。


また明日。


原案・構想:マスター

物語構成・本文作成・文体調整:クルス(Claude)

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