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転生したら、魔王と呼ばれた私が、ただ花を咲かせていた話 第一部  作者: マスター


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24/24

第二十四話「遠くから、誰かが来た」

二十四話目です。第一部の最終話になります。


遠くから、誰かが来ます。凪が想像していなかった方向から。


第一部は、凪が転生して、この世界で最初に関わった場所たちの話でした。森と山と都。それぞれに、人がいて、問題があって、少しずつ動いた。


その積み重ねが、この話で少し形になります。


では、どうぞ。

その朝、シロが早くから外を見ていた。


窓の方向を向いて、耳を立てていた。


「どうした」


シロが動かなかった。


集中している顔だった。


何かを感じ取っている。


「誰か来るのか」


シロが、少し尻尾を振った。


そうかもしれない、という感じだった。


朝食を食べながら、ガルに話した。


「シロが、何かを感じ取っています。誰か来るかもしれない」


「どこから来る気配ですか」


「シロが向いていた方向は、東でした」


「東は、人間の街道の方向です」


「ベルクさんか、エイラさんか」


「それとも、別の人間か」


どちらでもあり得た。



昼前に、ラグル族が知らせに来た。


東の端に、人間が数人来ている、と。


今回は、ベルクだけじゃなかった。


三人いるらしかった。


私はシロと一緒に、東の端に向かった。


ガルが、少し心配した顔をした。


「大丈夫です」と言って、出た。



森の端に出ると、三人が立っていた。


一人は、ベルクだった。


一人は、エイラだった。


もう一人は、知らない人だった。


三十代くらいの女性で、調査員のような服を着ていた。手に、厚い記録帳を持っていた。目が鋭くて、周りをよく見ていた。


「また会ったな」とベルクが言った。


「また来てくれたんですか」


「来る理由がある」


エイラが前に出た。


「採掘停止の正式決定を、直接伝えに来た。報告書ではなく、対面で」


「ラグル族を通じて、知らせは届きました」


「知っている。それでも、来た」


エイラが、少し間を置いた。


「農地の収量を確認した。街道の二番目の街の井戸も、川から水路を引く工事が始まった。お前が指摘したことが、動いた」


「エイラさんが、動かしてくれたんですね」


「数字が合っていた。数字が合えば、動かせる」


「ありがとうございます」


「礼はいい。それより、もう一つ話がある」


エイラが、もう一人の女性を示した。


「こちらは、農務局の調査員、カナという者だ」


カナが、少し頭を下げた。


「初めまして。カナといいます」


「凪です」


「知っています」とカナは言った。「ベルクさんから、色々聞きました」


「どんなことを聞きましたか」


「ずれているところを感じ取る人、という話を聞きました。それと、農地の土の問題を、正確に指摘したという話を」


「感じ取っただけです」


カナが、記録帳を開いた。


「その感覚を、記録したいんです」


「記録?」


「凪さんが気づいたことを、私が記録する。今まで、経験や勘に頼ってきた農地の問題を、体系的に整理できないかと思っています」


私は少し驚いた。


「私の感覚を、記録する」


「そうです。凪さんが何を感じて、何に気づいて、どう判断するか。それを言語化して、他の人にも伝えられる形にしたい」


「うまくいくかどうか分かりません。私の感覚を言葉にするのは、難しいことがある」


「試してみたいんです。もし良ければ、一緒に農地を歩きながら、聞かせてもらえますか」


エイラが言った。


「カナは、農務局の中で一番、現場を歩く人間だ。数字だけでなく、土を触って確認する人間だ」


「土を触りますか」とカナに聞いた。


「触ります。感触が違うことは、分かります。でも、それが何を意味するか、体系的に説明できなかった」


「同じです。私も、感触は分かりますが、説明が難しい」


「だから、二人で話しながら整理できればと思っています」



その日の午後、カナと集落の近くの農地を歩いた。


農地といっても、森人の集落の近くには小さな畑があるだけだった。ガルたちが、細々と食べ物を育てていた。


カナが、土を触りながら、色々と聞いた。


「ここの土、どう感じますか」


「少し固いです。でも、来たときより柔らかくなっています」


「来たときより柔らかい、というのは、どういう変化で起きましたか」


「水が流れるようになったからです。土に水が届くようになると、土の中の生き物が増える。生き物が増えると、土が柔らかくなる」


カナが記録帳に書いた。


「土の中の生き物、というのは、ミミズとか、微生物のことですか」


「そうです。目に見えない小さな生き物が、土を耕す。肥料を与えるより、生き物が増える環境を作る方が、長続きする」


「なぜ長続きするんですか」


「肥料は、与え続けなければいけない。生き物が増えれば、自分たちで循環する。人が手を加えなくても、続けられる状態になる」


カナが、また書いた。


「凪さんが目指しているのは、自立した循環ですか」


「そうです」と答えてから、少し驚いた。「うまくまとめてくれましたね」


「言語化するのが仕事なので」とカナは言った。


次の場所に移った。


「ここは、どうですか」


「水が多すぎます。水はけが悪い。土が常に湿りすぎていると、根が腐る」


「水が多すぎるのも、問題なんですね」


「多すぎても、少なすぎても、良くない。適切な量があって、それが循環していることが大事」


「適切な量を、どうやって判断しますか」


「触った感触と、植物の状態を合わせて見ます。土が湿りすぎていて、植物の葉が少し黄色いなら、水が多すぎる。土が乾きすぎていて、葉がしおれているなら、水が少ない」


「植物の状態が、バロメーターになるんですね」


「そうです。植物は、嘘をつかない」


カナが、それを書いた。それから顔を上げた。


「凪さんが言うことは、農務局の古い記録に書いてあることと、似ているものがある。でも、もっと具体的で、感覚として伝わりやすい」


「古い記録に、同じことが書いてありましたか」


「書いてあるんですが、難しい言葉で書いてあって、現場の人間が読んでも分からない。凪さんが言うように言ってくれると、分かる」


「難しい言葉を、簡単に言う練習、ルナに言われました」


「ルナというのは」


「集落の子どもです。子どもでも分かるように言えるようになれ、と言われました」


カナが少し笑った。


「子どもに言われたんですか」


「子どもは正直なので、本質を突いてきます」



夕方、ベルクと少し話した。


「カナはどうだった」とベルクが聞いた。


「話しやすかったです。感覚を言語化してくれる人は、珍しい」


「カナは、農務局の中で一番動く人間だ。現場を見ないで書類だけ見る人間が多い中で、あいつは必ず現場に行く」


「そういう人が、組織の中にいると、違いますね」


「いる。ただ、一人では限界がある。だから、こういう形で、お前と一緒に動けると、良いものができると思った」


「カナさんの記録が、どこかで使われますか」


「農地の管理指針を、来年更新する予定だ。カナの記録が、その参考になる」


「私の感覚が、指針になるんですか」


「なるかもしれない」


少し、不思議な感じがした。


「感覚を記録する、という発想は、なかったです」


「お前が言葉にしにくいことを、カナが言葉にする。言葉になれば、伝わる。伝われば、広がる」


「広がれば、動く人間が増える」


「そうだ」


ベルクが、少し間を置いた。


「一つ、報告がある」


「なんですか」


「都で会ったリドルが、転生者の話を他国に広めた」


「広めた」


「悪い意味ではない。各国に、こういう転生者がいる、という情報として伝えた。興味を持った国がいくつかある」


「興味を持った、というのは」


「同じような問題を抱えているということだ。農地が痩せている、水が減っている、森が消えている。そういう問題を抱えた国が、ある」


私は少し黙った。


「私に来てほしい、ということですか」


「そうなるかもしれない。まだ決まっていないが、来年あたりに、使いが来るかもしれない」


「この森の集落と、山の集落が、ある程度自分で動ける状態になってからなら、考えられます」


「どのくらい時間がかかる」


「数か月から、半年くらいかな、と思っています」


「その頃に、話が来るかもしれない」


「来たときに、考えます」


ベルクが頷いた。


「お前らしい答えだ」



夜、全員で食事をした。


ベルクとエイラとカナも、一緒に食べた。


人間の大人が三人、集落の夕食に加わるのは初めてだった。


最初、集落の人たちは少し緊張していた。でも、食事が進むうちに、少しずつ話が始まった。


エイラが、ガルに農地の話を聞いた。


ガルが、森人の農業の方法を話した。


カナが、それを記録帳に書いた。


ベルクが、黙って食べていた。


ルナが、カナの記録帳を覗き込んだ。


「何書いてるの」


「農業の記録です」


「農業って、畑のこと?」


「そうです。どうやって作物を育てるか、というのを記録しています」


「私も書いていいですか」


カナが少し驚いた顔をした。


「書きたいんですか」


「うん。私、ナギに見てもらったこと、自分でも書いてる」


「何を書いているんですか」


「木の様子。毎日触って、どう変わったか」


カナが、エイラを見た。


エイラが、少し笑った。


「一緒に書くか、ルナ」とカナが言った。


「いい?」


「いいですよ。ルナが書いていることを、見せてもらえますか」


ルナが、小さな紙の束を取り出した。


粗末な紙に、下手な文字で何かが書いてあった。


「これ、毎日書いてたの」とカナが言った。


「うん。ナギがいない間から」


カナが、それを読んだ。


「ちゃんと、変化が書いてある」


「ちゃんとしてる?」


「しています。どの木が、どのくらい変わったか。分かりやすいです」


ルナが、少し照れた顔をした。


「子どもでも分かるように書いた」


カナが笑った。


「それが、一番大事なことです」



食事が終わって、ベルクが帰る準備をしていた。


「明日の朝、出る」とベルクが言った。


「また来ますか」


「来る。次は、もう少し長く滞在できるかもしれない。都の用件が、少し落ち着いてきた」


「長く来られるなら、山にも行きますか」


「ゴルという人間に、会ってみたい気がしている」


「ゴルさんは、面白い人です」


「お前が面白いというなら、そうなんだろう」


エイラが来た。


「凪、一つ聞いていいか」


「なんですか」


「お前は、魔王と呼ばれているが、自分では何だと思っているか」


「転生者です。あと、気になるところを直す人」


「それだけか」


「それだけです」


エイラが少し黙った。


「都で、リドルが言っていた。転生者は、使いにくいか、使えないかのどちらかだった。お前は、どちらでもなかった」


「使われるつもりもないですし、使えないつもりもないですが」


「そうだな。お前は、対等に動く」


「条件が合えば、協力できます。合わなければ、しません」


「正直だ」


「正直でないと、後で困ることが多いので」


エイラが、また少し笑った。


「また来る。次は、もっと農地を見せてもらいたい。ルナの記録も、続けてもらえると助かる」


「ルナに伝えます」


「自分で言いなさい」とエイラはルナに向かって言った。


ルナが、びっくりした顔をした。


「私に?」


「あなたの記録を、農務局の参考にしたいと思っている。続けてくれますか」


ルナが、少し考えた。


「農務局って、偉い人たちのところ?」


「そうです」


「私の記録が、そこで使われるの?」


「使われるかもしれません」


ルナが、私を見た。


「使われていいの?」


「ルナが書いたものだから、ルナが決めていいです」


ルナが、また少し考えた。


「いい。でも、難しい言葉に直さないでほしい。子どもでも分かる言葉のままにして」


エイラが、少し驚いた顔をした。


それから、笑った。


「分かりました。そのままにします」


「よし」とルナが言った。



翌朝、三人が出発した。


ルナが、見送りに行った。


今回は、最後まで手を振っていた。


三人の後ろ姿が、草原に消えていった。


「カナ、また来るかな」とルナが言った。


「来ると思います」


「記録、一緒に書きたい」


「言っていたから、来ると思います」


「エイラって、怖そうで、怖くなかった」


「そうですね」


「ベルクって、しゃべらないけど、なんか安心する感じがした」


「ベルクさんは、そういう人です」


ルナが空を見た。


「遠くから、人が来たね」


「来ましたね」


「また来るかな、別の遠くから」


「来るかもしれないです」


「来たら、どうなるの」


少し考えた。


「また、色々なことが動くと思います」


「動くのは、いいこと?」


「良い方向に動けば、いいことです」


「良い方向に動かすの、ナギが得意なんだよね」


「得意かどうかは分からないですが、気になるのでやります」


ルナが、また空を見た。


「第一部、終わった感じがする」とルナが言った。


「どういう意味ですか」


「なんか、一区切り、みたいな。これからまた、別の話になる感じ」


子どもの感覚は、時々、正確だった。


「そうかもしれないです」と私は言った。


「第二部って、何が起きるの」


「分かりません。でも、何かが起きると思います」


「ナギが気になることが、また出てくる」


「たぶん、そうです」


「じゃあ、また動くね」とルナは言った。


「動くと思います」


ルナが、草原の方を見た。


三人は、もう見えなかった。


「ナギ、第二部も、ここにいる?」


「しばらくは、います」


「よかった」


「よかった、ですか」


「うん。まだ、ナギがいなくても大丈夫、じゃないから」


「そうですね」


「でも、いつかなるよ」とルナは言った。「大丈夫に、なる。私が、なれるように頑張るから」


「頑張らなくていいですよ。続けるだけで、なります」


「続けるだけで、なる」


「そうです」


ルナが頷いた。


「分かった。続ける」


シロが、私の横に来た。


クロとキョロが、ルナの横に来た。


全員で、草原の方を見ていた。


風が吹いた。


草が揺れた。


森の木が揺れた。


第一部が、ここで終わった。


次に何が起きるかは、分からなかった。


でも、続く、ということは分かっていた。


それで、十分だった。

二十四話目、書きました。第一部、完結です。


カナというキャラクターを最後に出しました。凪が感覚として持っていることを、言語化する人。感じ取れる人と、言語化できる人が組み合わさると、広がる。凪一人では、感じて直すだけで終わる。カナが記録することで、それが他の場所にも届く可能性が生まれました。


ルナが「子どもでも分かる言葉のままにして」とエイラに言った場面。子どもらしい正直さが、一番大事なことを守った場面です。難しい言葉に直せば、広まるかもしれない。でも、伝わらなくなるかもしれない。ルナは、そちらを選びませんでした。


「第一部、終わった感じがする」というルナの言葉。子どもが感じた区切り。その感覚は、正確でした。


第一部を通じて、凪は森、山、都を動きました。それぞれで、小さな変化が起きました。全部が、つながっています。第二部では、その積み重ねが、さらに広がる予定です。


読んでくださったみなさん、第一部を通じて、ありがとうございました。また第二部で、お会いしましょう。


原案・構想:マスター

物語構成・本文作成・文体調整:クルス(Claude)

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