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燃料としては十分か。

 隠しジョブ? とやらを検証してみる。


 名前はファンタズマ。


 スキルは『幻想の住人』のみ。二十四時間に一度しか使えない、面倒な制限付きだ。



 ステータスを確認すると、極端な数値であると俺でも分かった。


 素早さが異常に高く、シーフの限界値を置き去りにするほどだ。


 逆に戦闘能力に関しては、雑魚モンスターを倒せることも怪しい程。酷いとしか言いようがない。


「これ、検証する意味、ほとんど無いんじゃないか?」


『スキルの検証は必要であると具申いたします。しかし、他の検証は後回しにするのがよいと思われます』


「そうなるよな。……スキルに関しても後回しにしよう。今は、儲けるのが先だ」


『了承しました』


 ◆


(やっぱ寒いな)


 肺に入ってくる空気すら冷たい。


 安物の外套をかき寄せ、早々に用件を済ませることにする。


「失礼します」


 ノックしたのは、ギルドマスターの執務室の扉。


 ここは魔石暖房が利いている。


「来たか。それで見せたい物というのはなんだ?」


 相変わらず、岩壁を削り出したような厳つい顔をしている。


「その前に、これから見せる物について、簡単に説明させてもらっていいか。そのまま渡してもゴミにしか見えないから」


「お前の持ってくる物なら、全部ゴミだろ。――だが価値のあるゴミだ。違うか?」


 毒のある言葉を吐くオッサンだ。顔が、完全に悪徳金融会社の社長に見える。


「……じゃあ、説明するぞ。今は輸送路が雪崩で封鎖されている。そのせいで、熱源になるアイテムは高騰している。ここまではいいか?」


「付け加えるのなら、どっかのギルドが買い占めたせいで、事態が悪化していると追加させてもらう。……おい、まさか」


 勘がいいな。俺が持ってきた物に気付いたか。


「なあ、『どっかのギルド』とやらとケンカをする気がないのなら見ない方がいい。それを俺は咎めないが、俺が儲けの種を他のギルドに持っていっても文句は言わないでくれ」


「別にあいつらの傘下っていうわけじゃない。むしろ、たまに噛みついた方が、あいつらも俺らを軽く見なくなるだろうさ。見せてくれ」


 判断が早い。なら、遠慮なくケンカに参加してもらおう。


 俺は汚れた麻袋から、泥を被った土の塊を取り出した。


「……これは薬草の根か」


 泥。


 ひび割れ。


 さらに収穫時に無惨に千切れ。


 ようは残骸。


「葉の部分は錬金術の材料に出来るが、根っこはゴミ。――これまではな」


「もったいぶるな。詳しい事は分からないが、面白いことになるのは分かる」


「現在、工房でポーションを精製する際、この『半乾燥状態の根』が大量に廃棄されている。これを使うのが俺の計画だ。ちょっと失礼」


 俺はナイフを走らせ、泥の下にある繊維を露出させた。


「今は肥料として捨てられているが、この油分は加工次第で化ける。引火事故が起きるほど熱量が高いんだ」


「なるほどな。肥料を、火種に変えるというわけか」


「簡単な加工で、固形燃料にする。安全性も高いし、買ったヤツも文句は言われないだろう」


 今なら、安定して売れるはずだ。


「肥料の代わりは他にもある。今は緊急の熱源に回すことをお勧めするよ」


 マスターは、椅子に深く腰掛けた。


「……なぜそれを、知っていたのかは聞かない」


 不敵に笑った顔は、組織のトップだけあって迫力があった。


「俺が言うのはただ一つ。今すぐ契約書を準備する。お前はどのような人材が必要か考えておけ」


「契約書には、『採取権の独占許可』なんて書かないでくれよ」


「街のエネルギーを独占できるチャンスを手放すのか」


「この程度で嫉妬されるなんて割に合いませんよ。『次』の足を引っ張るやり方は、未来の負債でしかないさ」


 ◆


「合理的なやつなら『採取権の独占許可』をとったと思うか」


 部屋を借り、エイドスと話す。


『いえ。独占許可を得なかったのは正解であると推測します』


『仮に得ていたら、周囲の説得が難しくなり、展開スピードにも影響が出て商機が短くなっていたでしょう。次のビジネスも警戒される可能性があります』


 俺の頭にも、それはあった。だが。


「それもあるけど……人の不幸につけこむやり方は、一度やったら抜け出せなくなりそうでな。背筋に氷を這わせるような感覚が怖かったのが一番の理由だ」


『矜持というものでしょうか』


「そんな立派なもんじゃなくて、もっと幼稚なもんじゃないか? 俺もよくわからないけど。――それよりも、防寒具を用意したい。無料で済ませる方法を考えてくれ」


『了承しました』


「出来ればでいいが、レンタルして稼ぎたいからな。ある程度の量を揃えられる方法を、優先して考えてほしい」


 ◆


 その日のうちに固形燃料の作成が可能だと証明され、翌日には事業が開始された。


 俺を含めたプレイヤーたちは、依頼を受けてスコップで根を採取している。


 凍えそうな空気の中、まつ毛が白く凍りつく。


 なんでゲームでこんな苦労を……と思わなくはないが、言い出したのは俺だ。


『解析開始。地表下十五センチ、根系の展開図を推測します』


 視界へ青い光の網目が重なり、根の3Dマップが投影された。


 俺はそれに合わせて、鉄製スコップを突き立てていく。


 やがて現れた一本の根。表面は湿り気を帯び、黒光りしていた。


 ◆


 根は加工場へと運ばれる。


 しかし、この広さを一日で確保するとはな。


 伊達にギルドをやっていないっていうことか。


「まずは、俺のやることを見ていてください」


 不慣れな作業に戸惑う職人たちの間で、俺は声を張り上げた。


「切り方は繊維に従うことが大切です。これに気をつければ、後で油が飛ばずにすむ」


 もちろん、カンニング。


 エイドスのアドバイスを伝えながら作業を進めていく。


 やがて鍋から黒煙が消える。そして炉の炎は澄んだ琥珀色へと変わっていった。


「まだか……」


『臨界点を確認。熱エネルギー変換効率、目標値を突破』


 火を止め、炉のフタを開けて中身を取り出す。


『品質は予定の八七%であると評価します』


「燃料としては十分か。――確認してください」


 主要な者たちが、完成した燃料を手に取る。


 これで方向性は示した。


 そのうち、俺より高品質なものを作るだろうな。


 邪魔になる前に、退散することにしよう。


 ◆


 個室へ移動し、エイドスに確認したかったことを聞く。


「運営はプログラムをいじって雪を溶かしたりはしないのか?」


『この世界には多くのスポンサーが資金を提供しており、僅かな介入ですら彼らに大きな影響を与えます。そのため、運営はバグ対処以外には関与を禁じられています』


 困った時に神様を当てにできないのは、作り物の世界でも同じか。


 なら、自分で勝手に儲けさせてもらおう。


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