【2】-09-アメリア(2)
##アメリア視点
##人物紹介
アメリア:
カラドカス公爵家三女。スピンオフ『モブ令嬢はお邪魔な王子を殺したい』のモブ令嬢。前世ではサーバー会社の社畜で重度のゲーマーで死因はおそらく不摂生。
クロエ:
本編第一章『悪役令嬢は退場しました』主人公。コミュ障気味だが最近は改善。
ザイオン:
この世界の元になったゲーム『闇より出でて光を求め』第三作目の主人公。元の性格設定は『誰にも心を開かない孤高の冷徹王子様』だったがキャラ崩壊中。
マクシミリアン:
ザイオンの腹違いの弟でザイオン大好き。
ユージーン:
クロエの兄でクロエ大好き。
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アメリアがザイオンに苛立っているのは、彼が主人公としての役目を果たさず、世界を危機に晒したと感じているせいだ。
彼女はそれが理不尽な怒りだと理解していた。
ザイオンには主人公としての自覚がない。
普通に生きていきたい人間には、いきなり『お前には力がある。世界を救え』などと言われても迷惑だろう。喜ぶのは厨二病患者ぐらいで……。
(私なら、その力を有効活用するのに……)
そんな嫉妬混じりの気持ちもあった。
久しぶりに見るザイオンはますます元のキャラクターから乖離しているようで、アメリアは彼にどう接すれば良いのか、よくわからないでいた。
だが、魔法というものに対する好奇心を抑えることはできなかった。
「リセット魔法について、教えてくれないかしら?」
アメリアは複雑な気持ちを抑え込み、隣に座っているザイオンに尋ねた。
「ブレスレットに書き込んであるスクリプトってどんなものなの? 魔法術式と言えばいい? コード? 呪文?」
「知ったところで、お前では使えないのに」
そう文句を言いながらもザイオンが、ポケットの多い服から筆記具と真四角の白紙を取り出して、古代エルフ文字を書き始める。
不思議な気分になりながらアメリアは、彼の美麗な横顔を眺めた。初めて会った時は七歳も年上だったのに、今はアメリアとそう変わらない年齢に見えた。華奢な体格に、まだ幼さの残る顔が、少年っぽい。
事情を知らない人が今この場にいたら、デザートを嬉しそうに食べている、大きく育ったマクシミリアン王子の方が年上だと思うだろう。
ザイオンは文字の一部に二重線を引いて、古代エルフ語の読み方らしいものを書いた。
『リセット』
「これは、簡易術式と呼ばれる一行だけの魔法術式だ。他の構文に入れ込んで、魔力を流すことで発動する。それから、リセットという言葉は古代エルフ語じゃない」
と、ザイオンは言った。
「百年ほど前に魔法学者が見つけて、使い始めた」
「しかも、同じ魔法にもランクがあるのです」
ルファンジアが得意げに付け加える。
「私たちがこの魔法術式を使っても、身体の状態を巻き戻すだけです。ところがザイオン様の刻んだ術式は最高ランクのルート魔法となり、死んだ者さえ蘇らせることができるのです」
「ルート魔法……?」
アメリアは前世の不愉快な記憶を呼び起こす。
(最高ランクの……ルートってもしかして、管理者権限のことかしら。大勢で共有して使うタイプのサーバーを契約したユーザーで、ルート(管理者)権限がないって怒ってくるお馬鹿がたまにいて……あらいけない)
「あらゆる聖霊の祖にして我らが始祖、アレシャトに繋がる王の血筋の方のみが使う事のできる、最高位の魔法をルート魔法と呼びます」
ルファンジアが、崇拝の視線をザイオンに向ける。
アレシャト。
アメリアはこの言葉に、聞き覚えがあった。
この世界の元になったゲームを作ったのは、プロデューサーの有城という人物だ。
ファンの間ではそのハンドルネーム「アリシャトー」で知られていた。発音は『ありがとう』になぞらえており、違う言葉に聞こえるが、無関係ではないだろう。
ルート魔法という言葉はゲームにはなかったが、彼が関わっているのかもしれない。
有城の所属するゲーム会社は日本にあり、使用言語は主に日本語で、その中には日本語化した外国語も混じっていた。
……というのは、登場人物やユーザーの使用する言語の話だ。
ゲーム制作に使われたゲームエンジンは海外製であり、実行プログラムは海外製のオペレーションシステム上で動いていた。どちらも使用言語は英語だ。
そのゲームを元に派生したこの世界を裏で動かしているのは、コンピューターのような演算システムではないだろうか?
『リセット』という言葉が魔法として成立していることから、アメリアはそんなことを考えついてしまった……あまりにも突飛な仮説に、彼女自身半信半疑だ。
(前世でも、世界は『宇宙をシミュレーションしている神の演算器』だという仮説をネットで読んだことがある。面白い考えだけれど……)
アメリアは、事実だけに絞って考えようとした。今大事なのは、『利用できるかどうか』だ。
「整理すると、『リセット』という言葉は百年前の魔法学者が魔法として使えることを見つけた。世界の根源にあるのは機械語で、『リセット』などのコマンドを含むプログラミングコードが魔法として有効だとしたら……もしかしたらこれは、古代エルフ語よりも原初に近い魔法かもしれない……?」
たった一つの言葉だけで、短絡的にそんな結論に飛びつくわけにはいかない。
「検証しないと……」
「また訳の分からないことを口走り始めたな」
ザイオンは歪んだ笑みを浮かべて、食後のコーヒーを飲んでいる。
「僕はリンゴジュースを所望します」
マクシミリアンが手を上げて厳かに言った。
「自分で取ってこい。王子様は辞めたんだろ?」
ザイオンがキッチンの方角を指す。
「ふぁあい」
すごすごとキッチンへ向かうマクシミリアンの後を、クロエが追おうと立ち上がったが、ザイオンに睨まれて座り直す。甘やかすな、自分でやらせろ、という意味だろう。
「ねえ、クロエ。この世界でキャラ──自分や相手の状態を調べる時、どういう方法を使うの?」
アメリアは皆の前でも、転生者としての知識を隠さないことにした。
どうせ、転生者以外の者には何を言っているかわからないだろうし、どの単語も、この世界にはない理解不能なものばかりだ。
「たとえば、あるサーバーでソフトウェアの状態を調べる時には、SYSTEMCTL STATUSというコマンドを使うのだけれど……手を翳すと判定が出る魔導具とかないかしら……?」
アメリアは、『リセット』の他に魔法として動作しそうなコマンドを見つけ出そうとしていた。
もしもあるとしたら、ステイタス表示だ。
リセットブレスレットのように、ステイタス石版などという名前のアイテムがあるかもしれないと考えた。
クロエは少し首を傾げて、考え込む。
「小説に出てくるあれよね? ギルドの窓口にあって、ピカッて光って俺強えぇぇってなるやつ……うーん? ここにはギルドとかはないしなぁ」
彼女の隣でユージーンが、デザートのプリンをゆっくりと食べている。
マクシミリアンが絶妙なバランスで、縁までジュースの入ったコップを運んできた。
しばらく頭を悩ませた後でクロエは答える。
「……そんな便利な魔導具は見たことがないけれど、魔法ではありそうじゃない?」
彼女は急に芝居がかって言った。
「『運命に抗う気高き汝、我が前に真の姿を顕現せよ! ステータス、オープン!』みたいな……?」
「なんだそりゃ」
ザイオンが鼻で笑ったので、クロエは顔を赤らめた。
「自分だってそんな感じで魔法を使うくせに」
「ねつ造するな。そんな訳のわからんポエムは絶対に言ってないぞ?」
「ステータスオープン……そうよね」
アメリアがその言葉で思い浮かべるのは、アニメなどで見たことのある、HP、MP、レベル、経験値、スキルなどが並んでいる表示画面だ。
あのようにユーザーインターフェースを整えて表示するような仕組みは、現実世界では有り得ない。それこそ、世界がコンピューターのように、オペレーションシステムを内包している必要がある。
「魔法として成立するとしたら、『情報開示』、もしくは『状態表示』かしら」
「状態表示、という意味を持つ術式そのものを作ることはできます」
そう言ったのはルファンジアだ。
彼女は、ゲーム上では主人公の世話を焼くヘルプキャラだった。
チュートリアル章で戦闘中に突然割り込んできて、『Aボタンを押してジャンプしてみましょう!』『フロントボタンを押しながらレバーを右に倒すと回避ができますよ』と教えてきたり、ショップ画面では『必要なものはありますか?』と回復薬を売ってくれる。
ゲームの中のヘルプキャラと同じように、ルファンジアはアメリアにヒントをくれた。
「基本的に魔法とは、定番はあるにしても絶対的なものではなく、組み合わせることで様々な魔法を考え出せるのです。ただ──」
ルファンジアは、心地よい音韻の言葉を呟いた。アルファベットでその音を表現するとしたら、こんな感じだ。
《farnathelenionaemir Amelia》
最後に『アメリア』と聞こえたので、おそらくはアメリアの状態を示せ、と古代エルフ語で告げたのだろう。
アメリアは目を煌めかせて待ったが、何も起こらなかった。
「……という風にですね、術式としては正しくても効かないことの方が多いです。原因としては、状態表示という魔法が存在しないか、もしくは術者にその魔法を使う権限がないか、ですね」
「権限……?!」
アメリアは、思わず身を乗り出しそうになった。
「権限とは、アレシャトから私たちエルフ族に与えられた、その血統に含まれる『鍵』だと言い伝えられています。エルフであることは絶対条件ですが、他にも血統によって権限が異なり、使える魔法が違います。先ほど申し上げた、王家直系のザイオン様にしか使えないルート魔法のように、ですね」
(王家直系、つまり管理者権限のある者……)
確かに、情報を開示するような魔法がもしあるのなら、管理者権限が必要だろうとアメリアは思った。誰にでも個人情報だだ漏れでは困る。
「さっきルファンジアが口にした魔法は、王族のザイオンなら使えるのかしら?」
アメリアとクロエとルファンジアの視線が、ザイオンに向けられた。
ザイオンは、面倒臭いな、という顔をした。
人に期待された通りのことを素直に実行するなんて、プライドが許さないのだろう。
「そんな魔法、発動したから何だって言うんだ?」
ザイオンは抗った。
「古代エルフ王家の末裔にしか使えない魔法よ?」
アメリアが唆す。
「秘密の魔法なんて、楽しそうじゃない?」
「楽しくなんかねぇよ。……何の役に立つんだ?」
「あら。夢が無いわね」
「まだ試してもいないんだから、何の役に立つかなんてわからないよね」
建設的な意見を言ったのはクロエだ。
隣でユージーンが頷く。
マクシミリアンはリンゴジュースを飲み終わり、満足そうな顔でプリンを食べ始めていた。
「試してみるだけよ? 多分何も起きないでしょうけれどね」
アメリアは内心、上手くいくなどとは考えていなかった。
(この世界が演算器で動いているなんて……そんなの、妄想に過ぎないもの)
それでも、もしかしたら──? という探究心を抑えることができない。
しばらく考えていたザイオンが、渋々といった体でルファンジアが唱えた通りの詠唱を口にした。
《farnathelenionaemir Amelia》
その途端、青く光り輝く文字列がまるでホログラムのように、アメリアの頭上に出現した。
アメリアのいる世界が、突然色を変えた。
位相がずれ、暗転し、全ての価値観が引っくり返ったような感覚があった。
ここは本当に、二進法で演算する世界なのかもしれない……アメリアは戦慄を覚えながら、表示された文字列を見上げていた。
システムコマンドなのに ¶(シバンみたいに使う記号) がついているような発音になっていたので修正しました。何言っているかわからないと思いますが私もよくわかっていませんうふふ。
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