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エピローグ:ヒロイン来襲の後の話です。
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長い戦いは敗北に終わった。
辛うじて生き残った者達は、瓦礫だらけの大地に立っている。
ルファンジアを含めた仲間達の殆どは、強大な魔王の大規模攻撃を食らって、今は瓦礫の下にある。
エルフ族、人族、獣人族、竜人族と、特徴がわかる者はまだましだ。
炭化して、四肢が砕け落ちてしまった遺体もある。
焼けた肉の匂いが辺りに充満していた。
召喚獣は、死力を尽くして主を守った。
立ったまま息絶えたその身体を、マクシーが愛おしげに撫でる。
「マシュ。熱かったよね。ごめんね」
黒い鱗は半分焼け焦げていた。
時折魔王の放つ黒い炎が、瓦礫や遺体を襲う。
装飾品も、身体も鎧も、防護用に刻まれた魔法陣も全てが、その炎に触れると消えてしまう。質量を吸い取り、魔王の消費するエネルギーに変換されているのだ。リセット用のブレスレットまで分解されてしまえば、生き返る事などできない。
「時を巻き戻して、初めからやり直さないと」
と、背後で女が呟いた。
「貴方ならできるはず」
「何度も言っているだろう。そんな魔法は知らないって」
ザイオンが苛立たしげに彼女の方へ振り返った時。
薄暗い炎が、召喚獣の亡骸越しに襲ってきた。
とっさにザイオンを離れた場所に突き飛ばして炎から救ったのは、マクシーだった。
「マクシー!」
召喚獣の体が消え、マクシーも暗い炎に飲み込まれる。
鎧に刻まれた防御用の魔法陣が、ほんの一瞬だけ抗った。
炎の中で微笑むマクシーを、ザイオンは見守る事しかできなかった。
あにうえ。
そう言葉を形作った口元が見えた気がした。
それきり、マクシーの身体は塵の一つさえ残さずに、消えた。
何が起こったのか認識するまでに、しばらくかかった。
そんな馬鹿な。
そんなはずはないと、心の中で打ち消し続ける。
マクシーが死ぬはずがない。
「……嘘だ」
ザイオンは、現実を受け止めまいとする。
「……こんなの。夢だ。嘘だ。……夢だよな?」
そうだ。これは夢だ。
ここはどこなんだ?
いったい、どうしてこんな事になっているんだ。
これは現実じゃない。
なのにどうしてこんなに、生々しいんだ。
『あにうえ』
確かにマクシーは最期にそう呼んだ。
子どもの頃はずっとそう呼んで、後ろをくっついてきた。
昔はそれが鬱陶しくて仕方がなかった。
座って本を読みたいのに、いろんな虫や葉っぱや花を見せてきたり、突然かくれんぼを始めて見つけて欲しそうにしたり、兄上、兄上などと言って邪魔ばかりしてきて。
好きで面倒を見たわけじゃない。放っておくとすぐに服を脱ぐし、平気で地べたに座るし、砂だらけのまま家に入ってくるし、木に登って樹脂だらけになるし、まれにおねしょはするし、肉ばかり食って野菜を食べない。見かねて、仕方なく世話をしただけだ。
兄としての責任を負ったつもりは全くなかった。
(勝手に俺の家に棲み着いて、勝手に兄上などと呼んで、こんな気持ちにさせて……)
そのマクシーが、もういない?
どうしてそんな、酷い事が起こり得るんだ?
立ってはいられなくなり、ザイオンは瓦礫の上に膝を突く。
尖った欠片が膝に突き刺さったが、どうでも良かった。
「嫌だ。こんな……こんなの。酷すぎる……マクシーが?」
激情の持って行き場がなくて、ザイオンは力任せに地面を叩いた。
細かな破片が突き刺さり、拳から血が流れるが、構わずに何度も叩く。
「あああ。なんでだ! 酷すぎる。……マクシー! マクシー! 嘘だ! こんなの嘘だ! 酷すぎる!」
絶望しながら、ザイオンは叫び続けた。
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(夢か。……夢だったのか。そうだよな? そうに決まってる。夢で良かった)
ザイオンは朝、自宅のベッドで寝ている自分に気づいて、ほっとした。
(あんな事が、現実に起こる訳がない)
夢だとわかった後もしばらく、恐怖に身体が震えていた。
いつもと同じ朝だ。
南側の窓から、まだ太陽が昇りきっていない朝の空が見える。
拠点内は静まり返っていて、聞こえるのは小鳥の声ぐらいだ。
『あにうえ』
最期にそう呼んで消えた、マクシーの姿が頭をよぎった。
(あれは、夢だ)
薄暗い炎の中で微笑んだその姿形は、夢だとは思えないぐらい鮮明に記憶に残っている。
(魔王と戦うとか。有り得ない。魔王なんていない)
『時を巻き戻して、初めからやり直さないと。貴方ならできるはず』
女の言葉をザイオンは思い出す。
よく知っている女のように思えたが、誰だったのか。
クロエの声ではなかった。
(まさか。本当に時が巻き戻ったのか?)
恐ろしい考えが、浮かんだ。
夢だとは思えないほどリアルだった訳が、それなら説明できる。
枕を抱き締めながら、ザイオンは無意識のうちに涙を流していた。
(違う。時間がまき戻るなんて事があるはずがない。マクシーが死ぬなんて。そんな酷い事が、起こる訳がない)
確かにあれは夢だった。
けれど、夢の中で引き起こされた情動は本物で、なかなか収まってはくれなかった。
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