表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
二進法原初魔法  作者: lukecat
幕間
70/207

チェックポイント

エピローグ:ヒロイン来襲の後の話です。







⋈ ・・・・・・ ⋈ ・・・・・・ ⋈

 長い戦いは敗北に終わった。

 辛うじて生き残った者達は、瓦礫だらけの大地に立っている。


 ルファンジアを含めた仲間達の殆どは、強大な魔王の大規模攻撃を食らって、今は瓦礫の下にある。

 エルフ族、人族、獣人族、竜人族と、特徴がわかる者はまだましだ。

 炭化して、四肢が砕け落ちてしまった遺体もある。

 焼けた肉の匂いが辺りに充満していた。


 召喚獣は、死力を尽くして主を守った。

 立ったまま息絶えたその身体を、マクシーが愛おしげに撫でる。

「マシュ。熱かったよね。ごめんね」

 黒い鱗は半分焼け焦げていた。


 時折魔王の放つ黒い炎が、瓦礫や遺体を襲う。

 装飾品も、身体も鎧も、防護用に刻まれた魔法陣も全てが、その炎に触れると消えてしまう。質量を吸い取り、魔王の消費するエネルギーに変換されているのだ。リセット用のブレスレットまで分解されてしまえば、生き返る事などできない。


「時を巻き戻して、初めからやり直さないと」

 と、背後で女が呟いた。

「貴方ならできるはず」


「何度も言っているだろう。そんな魔法は知らないって」

 ザイオンが苛立たしげに彼女の方へ振り返った時。

 薄暗い炎が、召喚獣の亡骸越しに襲ってきた。


 とっさにザイオンを離れた場所に突き飛ばして炎から救ったのは、マクシーだった。


「マクシー!」


 召喚獣の体が消え、マクシーも暗い炎に飲み込まれる。

 鎧に刻まれた防御用の魔法陣が、ほんの一瞬だけ抗った。

 炎の中で微笑むマクシーを、ザイオンは見守る事しかできなかった。


 あにうえ。


 そう言葉を形作った口元が見えた気がした。

 それきり、マクシーの身体は塵の一つさえ残さずに、消えた。


 何が起こったのか認識するまでに、しばらくかかった。

 そんな馬鹿な。

 そんなはずはないと、心の中で打ち消し続ける。

 マクシーが死ぬはずがない。


「……嘘だ」

 ザイオンは、現実を受け止めまいとする。

「……こんなの。夢だ。嘘だ。……夢だよな?」


 そうだ。これは夢だ。

 ここはどこなんだ?

 いったい、どうしてこんな事になっているんだ。

 これは現実じゃない。

 なのにどうしてこんなに、生々しいんだ。


『あにうえ』


 確かにマクシーは最期にそう呼んだ。


 子どもの頃はずっとそう呼んで、後ろをくっついてきた。

 昔はそれが鬱陶しくて仕方がなかった。

 座って本を読みたいのに、いろんな虫や葉っぱや花を見せてきたり、突然かくれんぼを始めて見つけて欲しそうにしたり、兄上、兄上などと言って邪魔ばかりしてきて。


 好きで面倒を見たわけじゃない。放っておくとすぐに服を脱ぐし、平気で地べたに座るし、砂だらけのまま家に入ってくるし、木に登って樹脂だらけになるし、まれにおねしょはするし、肉ばかり食って野菜を食べない。見かねて、仕方なく世話をしただけだ。


 兄としての責任を負ったつもりは全くなかった。

(勝手に俺の家に棲み着いて、勝手に兄上などと呼んで、こんな気持ちにさせて……)


 そのマクシーが、もういない?

 どうしてそんな、酷い事が起こり得るんだ?


 立ってはいられなくなり、ザイオンは瓦礫の上に膝を突く。

 尖った欠片が膝に突き刺さったが、どうでも良かった。


「嫌だ。こんな……こんなの。酷すぎる……マクシーが?」

 激情の持って行き場がなくて、ザイオンは力任せに地面を叩いた。

 細かな破片が突き刺さり、拳から血が流れるが、構わずに何度も叩く。

「あああ。なんでだ! 酷すぎる。……マクシー! マクシー! 嘘だ! こんなの嘘だ! 酷すぎる!」

 絶望しながら、ザイオンは叫び続けた。






 ⋈ ・・・・・・ ⋈ ・・・・・・ ⋈


(夢か。……夢だったのか。そうだよな? そうに決まってる。夢で良かった)

 ザイオンは朝、自宅のベッドで寝ている自分に気づいて、ほっとした。

(あんな事が、現実に起こる訳がない)

 夢だとわかった後もしばらく、恐怖に身体が震えていた。


 いつもと同じ朝だ。

 南側の窓から、まだ太陽が昇りきっていない朝の空が見える。

 拠点内は静まり返っていて、聞こえるのは小鳥の声ぐらいだ。


『あにうえ』


 最期にそう呼んで消えた、マクシーの姿が頭をよぎった。


(あれは、夢だ)

 薄暗い炎の中で微笑んだその姿形は、夢だとは思えないぐらい鮮明に記憶に残っている。

(魔王と戦うとか。有り得ない。魔王なんていない)


『時を巻き戻して、初めからやり直さないと。貴方ならできるはず』

 女の言葉をザイオンは思い出す。

 よく知っている女のように思えたが、誰だったのか。

 クロエの声ではなかった。


(まさか。本当に時が巻き戻ったのか?)

 恐ろしい考えが、浮かんだ。

 夢だとは思えないほどリアルだった訳が、それなら説明できる。


 枕を抱き締めながら、ザイオンは無意識のうちに涙を流していた。

(違う。時間がまき戻るなんて事があるはずがない。マクシーが死ぬなんて。そんな酷い事が、起こる訳がない)


 確かにあれは夢だった。

 けれど、夢の中で引き起こされた情動は本物で、なかなか収まってはくれなかった。











⋈ ・・・・・・ ⋈ ・・・・・・ ⋈

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ