番外編(2)
本編には関係ないシーンです。
下世話な感じになってしまいましたので、苦手な方は飛ばしてください_(._.)_
前世の日本には、家に帰るまでが遠足、という名言があった。
家に帰り着くまでは、油断するな、という意味だ。
私は油断していた。
魔王城に連れて帰ってもらう途中で、私はうっかり寝てしまった。
とんでもない失態だ。
直前の話の流れから考えれば、何が起こるかある程度は予測できたはず。
気がついたら私は、裸に近い格好で、ソファの上に横になっていた。
下着は、辛うじて大事な部分は覆っていたが、半分脱がされかけていた。
(いったい何が!?)
私は思わず叫び出しそうになりながら、何とか理性を保つ。
私の身体の上には、顔からつま先まで、白いシートのようなものが被せられていた。
灯りで幾何学模様が透けて見える。これは多分おそらく、テーブルカバー。
外から見たら、殺人現場で遺体に掛けられたシートみたいに見えるはずだ。
(私また死んだの?!)
などという馬鹿な考えが一瞬頭をよぎったが、そんな訳がない。
第一、両足の強烈な痛みが、生を実感させてくれる。
あと、延々と聞こえてくるザイオンの小言も。
シートをそっと持ち上げて覗くと、半裸のマクシミリアンが、床に座らされていた。
その前に仁王立ちしたザイオン曰く。
女性と一緒に風呂に入ってはならない。
女性の服を勝手に脱がせてはならない。
そもそも、女性の身体に触れる事も、いちいち許可を得るべき。
「好きな女の子でも?」
マクシミリアンが、尋ねた。
「あのなぁ」
ザイオンは少し呆れながら言う。
「お前が好きでも、女の子の方がお前が好きだとは限らないんだぞ?」
「えっ」
マクシミリアンが、びっくりしたような声を立てた。
「そんな……そんなの……。そう……か、そうだよね……」
基本的な事なのに、それが理解できない男はたくさんいる。
だから、ストーカー事件が多発するんだ。
「じゃあ、僕、クロエにきいてみる。僕が好きかどうか」
マクシミリアンが立ち上がろうとするのが見えたので、私は慌ててシートを戻した。
(寝たふり……寝たふりしなきゃ……)
目を閉じて、息を整える。
今訊かれても、困る。
自分でも良くわからないのだ。
「まあ待て。もしクロエがお前の事を好きだったとしてもだ。今、寝てる間に勝手に服を脱がされたと知ったら、大嫌いになるかもしれないな」
マクシミリアンがショックを受けて、息を詰めるような音が聞こえた。
「僕は……クロエをお風呂に入れなきゃと思って」
「いちいち言い訳をする癖を直せ」
「……どうしよう?」
「泣くな!」
ザイオンが、盛大にため息を吐く。
「クロエが起きたら、俺が一応説明はしておくが、嫌われる覚悟はしておけ。それから、好きか嫌いかなんて訊いたら余計に嫌われるから訊くなよ? お前は先に風呂に入って、俺がいいと言うまで出てくるな」
しばらくして、力ない足音が遠ざかり、扉の開閉音が聞こえた。
「という訳だから」
ザイオンの声が近づいてきて、言った
「できれば、嫌わないでやってくれないかな。俺の教育不足という事で」
さっきシートを持ち上げた事に、めざとく気づいたらしい。
私は顔だけ出して死体袋状態から脱し、ソファの肘掛け部分に座ったザイオンを見上げた。
あらぬ方向を見ている、彼の難しい表情は、兄と言うよりも子育てに悩む父親のようだった。
「マクシミリアンって、男女間のあれこれについては、ちゃんとわかってるよね?」
頬へのキスを含め、距離感の詰め方にどうも違和感があったので、きいてみたのだが、ザイオンはすぐには答えなかった。
「まさか、何も知らないとか?」
この世界にはネットも無いし、本もそれほどあからさまなものは出回っていないだろうから、その可能性もありそうだと思った。
「……何も知らない事はないと思うが、あいつは鈍いところがあって、仄めかしぐらいじゃ理解しないからな」
ザイオンは考え込みながら言う。
「もっと具体的に説明しないと……。男女の合意が必要なところから始めて、互いを尊重しつつ、(自主規制a)に及んで準備を済ませた後、男の(自主規制b)を、女の子の(自主規制c)、(自主規制d)をして、最後は(自主規制e)、ぐらいの事を、誰かが、はっきりと言う必要がある」
セクハラか?!
と思ったが、ザイオンは真剣な顔をしていた。
淑女に聞かせるような内容じゃない。
スルーしようと思ったのに、誰かが、という言い方にひっかかったため、つい訊いてしまった。
「誰かって? 貴方でしょ?」
ザイオンの金色の眼が、ピタリと私を見据えた。
「お前だよ」
……ホラーじみていて、身震いした。




