第9話 理想は歪み
ショーンの刀が、トーカの薙刀が、レイルの槍が、サクラの魔法が、アニヤの血槍があらゆる方向から迫る槍を受け流し、打ち砕く。
だが、槍は止まらない。あらゆる方向から次々と新たな槍が生え、すべてが彼らに突き出される。圧倒的なチカラだった。
「クククク、くはは、はーっはははは!なぁ、半魔よ。勝てまい。我が城にあって勝てるわけがない。ここは我の理想よ。心象器などという紛い物ではたどり着かぬ、本物の強さだ」
スペルは自信を持って告げた。絶対に覆らないことを知っているかのようだった。否、彼は知っているのだ。この戦いが自らの勝利に終わるという結果を。
「……」
ショーンは沈黙し、淡々と槍を捌く。
ふと、トーカが言葉を発する。
「君は…滅亡の必然を語る。ならば何故、理想がある?」
思いついたから、自然と溢れたような問いだった。
「……」
彼は無言のうちに手を振るった。まるで‘進軍せよ’というように。
それによって、確かに兵は動いた。城の槍に貫かれた騎士が貴族が次々と動きを見せ、ショーンたちへと襲いかかる。
「そ奴らは生きているぞ、半魔。我が槍は理想の槍、すべてを支配する傲慢の権化。早くしなければ、街の民たちすらここに押し寄せて来るだろう。大人しく貫かれろ、我こそが王である」
「断る!」
スペルの誘いに、ショーンは毅然と対応する。相入れぬ思想でもって戦うかの如く、言葉は紡がれる。
「我に従え。さすれば、この世に理想の世界を創り上げる。すべてを我がもとで合理的に効率的に運営し、管理し、生産と消費の均衡を齎らし、安全で安定した平和を約束しよう。滅びが訪れるその時まで、我が我こそがこの世に理想郷を創り上げる!」
歪んだ理想、それはまさにディストピア思想そのものだった。スペルの根底にあるのは神への恨みか、憧れか。
「そんな世界は理想郷ではない!オマエの独善に従う謂れはないぞ、スペル!」
「そうです!」
ショーンの言葉にレイルが賛同の声を上げた。
「黙れ、黙れ、黙れ!貴様らの意見など聞いていないわ!愚か者どもがぁぁぁああ!!」
妄執に取り憑かれた王に言葉は届かず、王の城は彼の感情に呼応するように攻撃の激しさを増す。
ジャキン!ガガガ……!
最早、常人には反応を許さない連続の刺突。レイルとサクラは防衛に参加できず、ショーン、トーカ、アニヤだけが刺突に対応した。だが、それは悪手である。今まで、五人でやっていたことを三人でやれば、当然どこかに綻びが出る。しかも、二人は脱落したのではないから、守らねばならない。体力は減少の速度を上げて彼らを刻一刻と追い詰める。
帝都、とある路地裏。そこにショーンたちが捕らえたはずの魔族の女がいた。
「〜〜〜♪〜〜♪〜〜〜〜♪」
彼女の口は不思議な歌を奏でていた。哀しく、喜ばしく、楽しく、怒りに満ち溢れていた。けれどそれには憎悪がなく、愛がなく、優しさがない。
「何故?奪ったの〜♪」
それは彼女の声による感想なのか。その歌詞はとても悲しげなものに思えた。
ー夢もなく、希望もなく
ーーわたしは、ただ生きていただけなのに
ーーーあなたはわたしのすべてを奪う
帝都の獣たちを連れて、彼女は姿を晦ませた。
ーまた会いましょう、大英雄
そんな言葉を残して
魔族の女……未だ名はなく……
カンナ「もうすぐ、わたしの出番ですね」
えっ、えーと今回はどうしようかなぁ
カンナ「わたしの出番ですね」
えっ 「出番ですね」
あー「出番ですね!」
はい……




