第9話 無情に迫るは現実
主人公、現時点では最強じゃないよね……
でも、いつか、最強になるさ…
ー絶望したよ、もう充分絶望した
ーなんでわたしが、わたしだけが……
それは偶然の不幸を積み重ねた少女の嘆き。
かつて、神は言った。
ー世界は不完全だ
ーだけど、だからこそ幸福になれるんだ
その言葉は嘘だったのか。少女は不幸のなかで生きていた。
少女は、幸福を追い求める。
その行動が破綻していることを自覚せぬまま……
夜、ショーンは王城の自室で横になっていた。
「はぁ…」
自然とため息がこぼれる。
ガンドルフとの訓練は熾烈を極める。己が強くなるのを自覚できる。しかし、覚悟が信念がその心に描かれることはなかった。
ー焦っていると思う
ーだけど、しっかりと己を保たなければ
ー俺はいつか負ける
ショーンは覚悟のつかぬ己を責める。
しかし、現実は無情だ。待ってはくれない。
誰かが慌てた足音を響かせショーンの部屋へとやってきた。
誰かはノックもせずに扉を開けて叫んだ。
「急襲です!魔物の軍勢が王都の南側に急襲してきました!」
叫んだのはここ最近、ショーンの世話を任されていた侍女であった。
ショーンはその言葉を聞いて、さっと立ち上がり王都の南側に走った。
覚悟なき青年は、そのときなにも考えてはいなかった。
「ガンドルフさん!」
「おう、ショーンか!」
ショーンが王都の南側にたどり着くとすでにガンドルフを含めた王都の兵士が集まっていた。すでに住民の避難も完了している。
「どうなってるんだ?」
「分からん。だが、王都の結界が魔物の侵入をしっかり阻んでいる」
ショーンに魔物侵攻の報が届いたのは、実は実際の魔物侵攻から何時間も後のことであった。だからこそ、住民の避難も完了していた。王都の結界は強力であり、余計な混乱を防ぐために伝達は必要最小限に抑えられる。そのため、ガンドルフの指示があるまでショーンには魔物侵攻の報が届かなかった。
「もう、諦めてもいい頃なんだが……」
ガンドルフが呟く。それがショーンを呼び出した理由でもあった。魔物がどれだけ暴走状態であっても、結界に阻まれていては普通は諦める。しかし、今回魔物たちは諦めることなく、果敢に攻めてきていた。異常であった。
ガンドルフは目を閉じ、決断する。
「ショーン、魔物の殲滅手伝ってもらうぞ」
「ああ」
ショーンの返事に笑みを浮かべ、ガンドルフは次いで兵士たちにも指示を出す。
「お前らは、弓矢や魔法で援護だ!下に降りてくるんじゃねぇぞ!」
「「「はっ!」」」
了解の返事を受けるとガンドルフとショーンは城壁の中の階段を上がり、城壁の上に出る。地球でいう5階建の高さを誇るそれから彼らは躊躇なく飛び降りた。
「はあぁぁぁああ!?」
「ウオォオォおおお!?」
裂帛の気合いとともに、ショーンは巨斧重豪を、ガンドルフは大剣を魔物の軍勢に振り下ろす。
地響きとともに魔物たちは吹き飛ぶ。一拍の間をおいて、一人の英雄と一人の英雄の卵が魔物の軍勢に向けて走り出す。
その様子を見ていた兵士たちは一瞬惚けていたが、徐々に回復して規格外の強さを誇る二人の援護にまわる。
色とりどりの魔法が放たれ、矢の雨が降り魔物たちはその数を減らし……はしなかった。
それどころかその数は徐々に増えている。一人の兵士が魔物たちの背後を伺い悲鳴をあげる。
そこにいたのは七罪魔王の一柱、嫉妬のアニヤ=レヴィア。
彼女は小さく呟いた。
「迎えに来たよ。サクラ」
唐突なアニヤちゃんの侵攻。
南だけ襲うのは結界の一点突破を狙ってるからです。結界強力だから満遍なく攻めたら破れないのさ……
結界、強力にしすぎか?




