第8話 諦めと覚悟
アリティア王城 練兵場
ドサッ
砂地に人が倒れこむ音がする。倒れたのはショーンだった。
「どうした。そんなんじゃあ、覚悟がどうのこうのってのを考える資格はねぇぞ」
ガンドルフはショーンに覚悟を教えるにあたって、ショーンの我流戦闘術を鍛え直していた。覚悟が有ろうと無かろうと己の力を十全に使いこなせなければ意味はないからだ。
「くっ…もう一度だ」
ショーンは悔しげに呻き、ガンドルフにまた、向かっていく。
「踏み込みが甘い」
「かはっ」
「フェイントが雑だ」
「ぐっ」
「剣を振るのに集中しすぎだ。足の動きが疎かになってやがる」
「がっ」
何度向かおうと、ショーンはガンドルフに攻撃を当てることなく倒された。当然だ。かたや、一国の英雄である大剣聖、かたや、一介のしがない高校生であったガキ。ショーンがどれだけ強い体を持っていようと技術が伴わない。
ショーンの問題は実戦経験の少なさに対しての過剰な強さであった。その強さが技術と精神を鍛えることを疎かにさせる。ガンドルフがショーンと初めの試合をした後、ガンドルフはショーンにこう言った。
「お前はそれ以上の強さを望んでねぇ。だから、剣筋が甘くなる。覚悟が生まれねえのもそのためだろう。お前はまるで初めからその強さで成長がなく、それが限界だと思って諦めてるように思える。だが、お前はそれ以上になれるはずだ。手っ取り早く覚悟が欲しいなら強さを求めろ」
ガンドルフの言うことは当たらずも遠からずと言ったところだ。ショーンはこの世界に来てから初めから力を持っていたし、それで大抵がどうにかなったからそれ以上の強さは求めていなかった。平和ボケした日本人であるショーンには強さの希求は、縁のないことだったから。
国のシステムがすべてを守ってくれる、そんな環境で育つ者は努力の必要性を見失いやすくなる。努力をしようとしまいとやっていけるから。
だがしかし、ショーンが今、生きるのは自分の身は自分で守るのが基本である世界だ。努力を放棄すれば、待っているのは死だけだ。たとえ、神から力をもらっていても、それは変わらない。
ショーンは己に染み付いた日本の生き様を剥がそうとしていた。
アリティア王城 客室
「はぁ…」
一つため息が聞こえる。
「レイルちゃん、なに悩んでの?」
そこに声が掛けられる。ため息の主であったレイルはその声に驚く。
「えっ、あっカーミラさん…」
レイルは声を掛けたのがカーミラであると気づく。王城に来た当初は、カーミラの身分にレイルが萎縮してしまいぎこちなかったが、ここ数日でそれは解消されていた。
「いえその…」
「ショーンのことかい?」
「えっと、はい」
「だろうね。彼が悩んでいるのに自分では力になれない。それが好きな人相手ならなおさらだろうね」
「へっ⁉︎えっとそれはその……そうです」
レイルがショーンを好きになったのはいつだろうか。それはレイル本人もよくわかっていない。いつの間にか彼女はショーンのそばにいたいと思うようになっていた。
「その彼の悩みってのが、別の女のことに関連するのも嫌なんじゃない?」
カーミラが意地の悪い笑みを浮かべて問いかける。
レイルはあっさりとそれを肯定した。
「はい、そうですね。サクラさんが羨ましいです。正直、嫉妬しちゃいますよ」
「……ショーンは今よりも強くなるわ。ずっとそばにいたいのなら、あなたも鍛えなければならない。いつまでもうじうじしてんじゃないよ」
「そう…ですよね。ありがとうございます、カーミラさん。わたしも鍛錬に参加できるようお願いしてきます」
「あっちょっと…」
レイルはカーミラの呼びかけを置いて部屋を出た。
「そういう意味じゃなかったんだけどなー。まっいっか」
カーミラの独り言が部屋の中に染みていった。
サクラが置いてけぼり……
当事者なんだけどなあ。まあ王様の前で寝ちゃうからいけないのさ




