Act1
この作品には、グロテスク要素が含まれています。苦手な方はご遠慮下さい。
私の家の前にあるマンホール。
なんの変哲もないその場所に、まさかあんなことが起きようとは、知るはずもなかった……
―――4月13日
―――金曜日
―――午前11時
私はこの日、18歳の誕生日を迎えた。
高校には行っていない。
中学も不登校。
小学にもたまに行くだけだった。
幼稚園に関しては、何も覚えていない。
私はこの日も、自室で【バイオハザード】というゲームに没頭していた。
ウォオオォ………
――――ズガンッ
向かってくるゾンビを銃で撃つ。
―――痛快だ。
………コンコンッ
自室の扉をノックする音が聞こえた。
――また来たよ。
―――あの人が…
「毎日毎日ゲームばっかりやって、将来どうするつもり?」
―――母だ。
父が死んでから、この人は変わった。
毎日学校に行かずとも、無理に止めることはなかったし、口先だけで私のことなどあまり考えていないだろう。
「聞いてるの?美園」
「うっさいな。ほっといてよ」
将来なんてどーでもいい。
人なんか信じられるか。信じたくない。
私が人を信じられなくなったのは、いつからだろう。
思い出せない。
記憶がすっぽり抜けたようだった。
―――結局、それから母が自室に来ることはなかった。
今日が何の日かでさえ忘れている。
最低な人。
―――午後4時
別に淋しくなんかない。
ただ一言、かけて欲しかっただけ。
プレゼントも何もいらない。ただ一言、「おめでとう」の言葉が欲しかった。
かけてくれる「人」が欲しいだけなのかもしれない。
別にあの人でなくてもいいんだ。
――午後4時15分
私は近くのコンビニへ出掛けた。
そこでお菓子を大量に買う。
私にお金だけくれて、後は何も買ってはくれない。
バイオハザードシリーズも全部、自分の意志で買った。
…………あの人が働いて稼いだお金で。
――午後4時44分
コンビニで必要な物を買って家へ帰る。
すると、
家の前にあるマンホールの蓋が開いている。
ふと、誰かの気配がした。
午後4時44分44秒
[それ]は現れた。
目の前に銀色にたなびく髪をした男が一人、こちらを見ている。
[銀色のそれ]は、躊躇いもなくマンホールの中に飛び込んだ。
私はマンホールに駆け寄った。
中を覗くと、暗闇で覆われたかのように奥が全く見えない。
―――キモチワルイ。
――――突然、体が前方に傾いた。
私はマンホールの闇へ落ちていく。
背中に手の感触が残っている。
――――私は誰かに
――――落とされた。
気がつくと、辺りは闇に包まれ何も見えない。
―――私は…………………………死んだ?
しばらくして、暗闇に目が馴れたのか、周辺の様子がぼんやりと浮かび上がった。
何もない。
黒い地面に黒い壁、暗闇と全く変わらない情景が目に飛び込んだ。
ふと、あることに気付いた。
暗闇の向こうから、こちらに向かって何かが動いている。
それが「人」の形をしていると気付くのに、そう時間はかからなかった。
だが、様子がおかしい。
「歩いてくる」というよりも、「動めいている」と表現した方が正しい。
―――キミガワルイ。
段々と動めく「物体」が近づいてくる。
逃げようとも思ったが、足が動かない。
マンホールから落ちた衝撃で、足に怪我をしたようだ。
怖さと痛みで頭の中がぐちゃぐちゃになった。
もう…………………………………………………………………………動めく「物体」は私の目の前にいた。
皮膚が溶けて垂れている。服も焼けたように切れている。
「人間」じゃない。
…………ウォ………………オオォ……
その姿はまるで、人の形を保とうとしている塊と言うしかない………。
私が毎日、ゲームの中で殺している「ゾンビ」に酷似している。
『生きた………人間……の………肉………食わ………せろ……』
「塊」は私に手を伸ばした。
…………………………………殺される。
殺される……………殺される…………。いや…………殺さないで。……………………死にたくない………………………………………………死にたくない………………………
――――ドンッ
「塊」の後ろから鈍い銃声が聞こえた。
その音と同時に、黒い液体が辺りに散らばった。
「塊」が横に倒れた瞬間、銃を構えた男の姿が現れた。
「お前、死にたいのか?」
私の眼前に現れた男は、マンホールに落ちる以前に見た[銀色のそれ]だった。
顔中に黒い液体を被り、冷酷な瞳で私を見下ろしていた。
Act1 …END…
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