第15話 現状の把握と唯一の戦友
「あー……。成功しようと失敗しようと関係なくなぜか好感度アップに繋がる不思議。いやまあ不快感を与えるよりずっといいけど平和な一般人エンドが遠ざかる……」
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教室での一コマ。
デイジーの周りには、もはや身分を問わず人が集まっている。
ここまでのことを、私は思い出していた。
無邪気な笑顔
裏表がなく、誰だろうと元気に、だけど上品に挨拶をする。愛嬌のある顔つきで屈託もなく向けられる挨拶を、誰が嫌おうか。
国立学校の制服という上質な着衣。なぜかいつでもサラサラな、ピンクのメッシュ入り金髪。私の教育の賜物である清潔感。これで平民だなんて全く思われないレベル。
第一印象から既に好感度が高すぎる。
適性属性の判定
何もせずに5つも適性を示し、注目の的に。
ちなみに大半の人が一つ、ローベリアでさえ3つということを考えると、5つはどう考えてもバグってる。
才能だけで注目の的になった。
魔力測定
一流の一般人な田舎娘を目指すけど、少なすぎてバカにされたら可哀想。そんな思いで畑を耕す程度でAP注いだら、謎水晶玉が魔力ドカ食いでピッカピカ。
強大な魔力を出力できるものの、そのせいでAPすっからかんからの儚さ属性が加わった。
剣捌き
辺境の森での生活やAPによる学習強化により、もはや一流の剣士と言っても過言じゃない程の剣技を身につけたデイジー。
儚さだけでなく、技巧による美しさにより、ただか弱い人ではないと刷り込まれた。
むしろ、どこかの白髪剣士には、普人で唯一妖精流を身につけたと勘違いされる始末。
魔術の命中率
魔術なんて今まで全く触ってこなかったし、当然教えたことなんて無かった。デイジーが失敗したら可哀想という姉心が裏目に出て、なんと的当て失敗。
かと思いきや、たまたま隣の的の中心に当たったせいで、妖精流の技として勝手に解釈された。
半分くらい私のせいなような気もしなくもないけど、何このドミノ倒しと言うか、ピタゴラ装置と言うか……。
ことごとくデイジーにとってプラスにしか働かない、謎の運命力。
おまけに歌の授業により、歌姫さながらの歌唱力を披露したことが決定打となり、アイドル的な立ち位置が不動のものに。
森の生活では娯楽が少なかったから、自然に鍛えられたのよ……。
そんなこんなで、とにかく人が絶えない。
ハインリヒなんてデイジーにも敬意を払い始め、「師匠や姉弟子の手を煩わせることもない」と、デイジーを利用しようとする人たちをあしらったりしてる。
こいつがいつも持ち歩いてる手帳をこっそりチラ見したら、「一瞬のよろけすらもフェイントの軌道」とか、「妖精流の太刀筋は変幻自在」とか、真面目にメモを取ってる。
っていうか待って、ハインリヒくん。
あんた、公爵家の跡取りよね?
なんで平民の警護を買って出てるわけ!?
私やデイジーに政治的な立ち回りはムリだからありがたいけど、それでいいの!?
……まあ実害無いからいっか。
◆ ◆ ◆
昼休み、学食でもデイジーは目立っていた。
あからさまなヨイショは無いけど、デイジーの人当たりの良さだけでなく、頭の回転の速さによるコミュニケーションにより、明らかに人気なのが分かる。
そんな中、ドリル令嬢ことアデルハイトが近寄ってきた。
「皆さま、1人の平民相手に何をそのように熱を上げておいでなのですか。自分の的を射抜けない未熟な生徒をそれが当たり前だと持ち上げ、皆して向上心を失ったらどうしますの! ローゼンベルク公爵家として見過ごせませんわ!」
まあ確かに褒められ続けてたら天狗になるわねえ。
ちなみに私なら絶対調子に乗ってる。
わはは!
「またアデルハイト様が厳しいことを……」
「そうですが、このお祭り気分が良いのです」
「乗るしかないだろ、このビッグウェーブに!」
あんたら分かったうえでノリノリでやってたんかい!
パリピか!
とにかく、アデルハイト、もっと言ってやって!
この学校で正気を保ってる……と言うかノリに流されない生徒はあんただけよ!
◆ ◆ ◆
放課後、寮の自室に戻り、いつもの最高級ワンピースに着替える。
はー、落ち着くわ。
制服は可愛いけど、なんだかんだとコルセットっぽいのを巻かないと服がずり落ちちゃうから息が詰まるのよね。
それに比べてこの解放感ときたら!
やっぱ息抜きは大事ね。
寮の窓辺に座りながら寛いでいると、庭園の東屋でアデルハイトが1人でお茶をしばいてた。
公爵家の令嬢だったわよね。
取り巻きとかいないのかしら?
うーん、もしかしたらノリノリでパリピな空気が苦手なのかしら?
まあ彼女とは話してみたかったしちょうどいい。ちょっと行ってくるか。
「デイジー、私、ちょっと庭園に行ってるわね」
「分かったわ。私は今日、課題をやっておこうと思ってるから気にせず行ってきてね。あ、お姉ちゃんが困らないよう窓は開けておくね」
「ありがとー。んじゃ行ってくるわね」
「いってらっしゃーい。……あれ? お姉ちゃん、着替えの時に下着って……行っちゃった。まあいつものことだしいっか」
最後の方、言い終わる前に出てきちゃった。悪いことしちゃったかな?
ま、後で聞けばいいでしょ。
とりあえず、アデルハイトに話を……ってその前に相手が1人ならやることは決まってるわ。
「やっぱ妖精はイタズラしなくちゃ! さーて、アデルハイトはどんな反応するかしら?」
アデルハイトの正面の草むらに潜んで風で声を運ぶ魔法を使う。
『聞こえますか……あなたの心に直接呼びかけています……』
っ!!
お、ビクってしてて良い反応!
『そうです……ドリル令嬢……アデルハイト……あなたです』
「わ、わたくしに!?」
『あなたと直接会話したいのです……どうか、驚かないで……』
「よ、よろしくてよっ!」
これぞ神秘的な存在が自身に神託を授けるために顕現するかのような演出!
この演出で話を聞かなかった相手はいない!
ここで背景と同化する魔法をゆっくり解除!
スッと現れるような演出!
「そう、話しかけたのはこの私……。と言うわけで、じゃじゃーん! ガーベラちゃんの登場よ! どう? 驚いた?」
「な、な、何をしてますのガーベラ!? べべべ、別に驚いてなどおりませんわ!?」
これこれ!
こういう反応よ!
アデルハイトくん、あんた、やっぱり最高だわ!
「いやー、庭園の東屋にアデルハイトがいるじゃん? 一度ちゃんと話してみたいと思ったのよ。あ、大丈夫よね? 話しかけて」
「え、ええもちろん」
わざわざこんなことしてまで妖精がいったい何を?
って顔してるけど、そんな身構えなくても良いのよ。
「いやー、大したことないんだけどさ。ストレートに言うと、あんただけでもデイジーを甘やかさないで欲しいって話」
今までやってきた私の教育方針を、って言うと仰々しいけど、ちゃんと自分の力を身に着けて欲しいってこと、他の生徒達がなぜかデイジーにお熱になってて甘やかしてくることを素直に伝える。
「なるほど……あなた、わたくしと話が合いますわね」
何だかんだとデイジーの姉である私がアデルハイトの言動を肯定してることが嬉しそうだ。
「私は話したいことを話せたし、もう行くわね」
「ええ、ごきげんよう。……っ!? だ、誰にも見られないよう戻るのですわっ」
「?? うん、まあすぐそこだし見つからないと思うけど……ま、いいわ。んじゃまた明日!」
「え、ええ。また明日……妖精ってツルツルですのね……」
さっさと自室に戻った私に、アデルハイトの最後の方の声は届かなかった。
◆ ◆ ◆
学校の授業は中々面白い。
そう思えるのはヒューゴ先生の教え方が上手だからかな。
妖精サイズの極小机は用意してもらっているものの、教科書は標準サイズしかないので、基本的には先生の話を聞きながら、デイジーの教科書を読んでたりする。
ノートは超小型の手帳で何とかなるけど、ペンについては、マジックハンドの魔法が無かったら厳しかったわね。
ま、記憶力には自信があるし、こう見えても私ってば頭は良いから今のところは話を聞いたり教科書を読んでるだけで理解できるけどね。
ポカをやらかすから頭悪いって思ってたら大間違い。残念だったわね。おほほ。
そんな感じでしばらくの間は平穏に……デイジーがアイドル的な感じになってるけど、平穏に過ごしたある日のホームルームのこと。
「来週は王都西側にある森、通称、薬草の森で野外演習があるよ。週末は各位準備を怠らないように」
あー、確か地理でそんな森があったって習ったわね。
まあ王国は冒険者が興した国だからさもありなん。森を歩いたことが無い生徒たちは大変ねえ。
学校の寮から子どもの足で片道鐘一つ分程度。まあまああると言うのか、思ったよりもかなり近いと言うのか。
薬草の森って呼ばれてるけど、それは森の浅い部分だけで、森自体は非常に広大。
地図を見る限りじゃ辺境の森といい勝負ができそうなくらいかしら?
ちなみに森の一部はローゼンベルク公爵家の領地の一部でもあるみたい。
「あまり生徒同士の交流に口を挟むつもりは無いけど、他人の世話をする前に、まずは自分が困らないようしっかり準備するんだよ。使用人は連れていけないのでそのつもりで」
うーん、正論!
ヒューゴ先生はアデルハイトと同じく、正気の一人ではあるけど、あんまり干渉はしてこないのよね。
それでも、釘を差すくらいには皆が浮かれてるってことかしらね。
まあ身分制度がある中、言葉一つでも大変なんでしょう。私は自重しないけど!
「今回行く薬草の森は我が家の領地ですわ。わたくしが森まで案内しましてよ。あと、先生がおっしゃったようにデイジーばかりに構って疲れてしまっては本末転倒。わたくしが監視しますわ!」
そうそう、それで良いのよ。
デイジーはなぜか守られるべき対象とかアイドルとか、そんな感じにロックオンされちゃってるから助かるわ。
◆ ◆ ◆
苦言を呈すヒューゴ先生、ツンデレドリル令嬢ことアデルハイト。
この二人はまだ良いけど、何だかなあ……。
「お姉ちゃん、お友達がたくさんできて、アデルハイト様も優しくて楽しいわ!」
デイジーの屈託のない笑顔に力なく笑う私。
と、とりあえず振り返ってみよう、そうしよう。
結果発表!!
デイジーの一流な一般人田舎娘計画
結論だけ、書く
失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した私は失敗
デイジーのステータス
愛され系の守られアイドル最強ヒロイン
私の収穫
ドリル令嬢の戦友一人
今は、王国歴744年の夏。
春に入学し、ほんの僅かな時間で、デイジーは取り返しのつかない立ち位置になった。
今は夜。窓の外、森を想像すると、不気味に静まり返っている様子がありありと目に浮かぶ。
この戦力差でどうしろと?
あー、もう!
来週の野外演習、嫌な予感しかしないわよぉー!!
「あ、お姉ちゃん、学校でもノーパンでいたいのは分かるけど、お外出ても大丈夫なの?」
「ぎょえええぇぇぇ! 失敗したァ!」
明日18時に更新予定です。




