第13話 剣士の勘違い弟子入りと、唯一の常識人
「あー……。乙女ゲーの攻略対象からの熱い視線なんて、本来なら喜ぶべきなんでしょうね。でも、白髪の剣士の目は違うわ。あれは恋する男の目じゃない。未知の剣術に飢えた、ヤバい武芸者の目よ!」
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デイジーが凄まじい剣技を披露した直後のこと。
「すごい!」
「怪我してない?」
周囲の男女が称賛の声をかけたり、タオルや水を妹に差し入れるがごとく群がる。
「ありがとう、みんな。私は大丈夫よ」
可憐に汗を拭うデイジー。
あと、「ふう、ちょっと疲れちゃった」じゃないわよ。
くそう、でも可愛い!
「デイジーって戦えるのね!」
「あなたもガーベラと同じ技を使えるの?」
「辺境の森じゃあこれくらい戦えないといけないわ。ただ、こんなに強い人はお姉ちゃん以外で初めてだからびっくりしちゃった。ええ、私もお姉ちゃんと同じ技を使えるわ。まだまだだけどね」
「ほう」
ざわめきを真っ二つに割るように、ハインリヒが鋭い眼光で歩み寄ってくる。
「その話、ぜひ詳しく聞かせてくれまいか」
お?
なになに、どうしたってのよ。
「先ほどの踏み込みや体捌き……そして我が師である騎士団長のものとも異なる、変幻自在な剣技。君は先ほど姉のガーベラと同じ技と言ったな。それは一体、どういう流派なんだ!?」
「え? 流派? うーん、何かしら? あ、お姉ちゃんは妖精流剣殺法って言ってたし、たぶんそれじゃないかしら?」
ちょ、まてーい!
デイジー、そんなこと言ったら……!!
「そうか、ありがとう」
怖っ!
ほら、ハインリヒがビタッて言うくらいこっちをガン見してるじゃない!
私は今デイジーの肩に乗ってるけど、デイジーはこの顔を向けられて怖くないの!?
「ガーベラ、君に聞きたいことがある」
「な、何かしら?」
「君やデイジーが使う妖精流剣殺法なるものは、いったい誰から習ったものなのだろうか。剣士として、非常に興味がある。ぜひ私も修めてみたい。教えていただきたい」
やばい!
前世のアニメの真似をして遊んでただけなんて言えないわ!
「な、なかなか良いところに目をつけるわね。でも誰から習ったかについて言うことはできないわ。残念だったわね」
「で、ではどのような人物なのだろうか?」
「うーーん……」
「お姉ちゃん、ちょっとくらい教えてあげても良いんじゃない? ほら、元勇者の先生って……」
「ちょっ、ちょっとデイジー!? ハインリヒ、今の話は忘れなさい。良いわね!」
ひそひそ声でも、ハインリヒに聞こえてるじゃん!
めっちゃ目が開いてるわよ!?
その昔、勇者はマジで存在してたみたいだけど、私の言う元勇者の先生は実在してる人じゃない。そんなこと言えるわけ無いじゃない!
まさか昔面白半分で語った内容をデイジーが覚えてたなんて。
「……分かった。その代わり、どのような武術なのかもう少し教えてくれまいか」
良かった……。
幸い、元勇者だとかその辺の話は、周りにあんまり聞こえてないみたいね。
クソ真面目そうなハインリヒなら、大丈夫そうかな。
あ、でもこうもクソ真面目だと、ちょっとイタズラ心が湧いてきちゃうわね。
もうちょっとだけ語ってみよう。
「仕方ないわね。妖精流は、古くから伝わる門外不出の武術。その極意は剣や槍だけに留まらず、斧、鎖、弓、牙と多岐にわたるものよ」
前世の記憶はほとんど無いけど、覚えているものもある。大半がこんなサブカル知識ばかりだけどね!
サブカル知識を語るのは楽しい!
こいつ、聞き上手ね!
「長命種である妖精族の、永い時をかけた武術の境地……!! ガーベラ殿。いや、ガーベラ師匠!! どうか私にも、その深淵の片鱗を教えていただきたい!!」
思いっきり騎士の礼っぽいことをするハインリヒ。
そ、そうきたかぁ~~……!
どどど、どうしよう?
「いや、さっきも言った通り、妖精流は門外不出なのよ」
「では、デイジーに授けたのは?」
「いやいや、デイジーは妹だし!」
「では私も弟に!」
「やめて、ホントやめてぇ!?」
どうしてこうなった!?
「と、とにかくやめてぇぇぇぇ~~!!」
「弟子にしてもらうまでは動きません!」
もうどうしろっていうの!?
だれか たすけて!
わたわたと視線を彷徨わせていると、周りの生徒から一歩離れたところに一人の女子生徒が。いかにも高飛車な赤髪の縦ロールの令嬢がこっちを見ており、その顔は完全にひきつっている。
わかる。
声に出してなくても。
目は口程に物を言うってくらい、こう叫んでいるのが私にはわかるわ!
『いや、おかしいですわ!? なんで次期公爵が妖精に騎士の礼をとってますの!? 錯乱していますの!?』ってね。
間違いない、あのドリル令嬢、この狂った空間で唯一正気を保ってる常識人だわ!
とりあえず現実逃避したけど、どうしようかな……。
「もう、勝手にしなさい……」
疲れた……。
半ば諦めの境地で遠い目をしつつ、デイジーの肩を離れ、校庭の隅にある木の上を目指してふわふわと飛ぶ。
「師匠! まずは何から始めましょうか!」
キラキラと目を輝かせて追いかけてハインリヒは無視。
そう言えばと、さっき目の合ったドリル令嬢をチラリとみると、まだドン引きしてた。
っていうか、またもやばっちり目が合った。絶対こう思ってるでしょ。
『一体全体、どうなって……なんで弟子にしてますの!? 妖精が師匠ってどういうことですの!?』ってね。
いや、違う!
認めてないから!
攻略対象の師匠ポジションなんて認めてないから!!
分かる、分かるわよその気持ち!
この状況、絶対おかしいわよね!?
私だってドン引きだから!
あんただけが私の心の友よぉー!!
明日18時に更新予定です。




