【お菓子にはオマケがつきもの♪/前世1話単発♡】番外編?
カチャリとドアノブを回す。
玄関のセンサーライトがパッと点いた瞬間、脱ぎっぱなしジャーマン!?みたいな勢いで靴を脱ぎ捨てた。
廊下のキッチンを横目に通り過ぎ、誰もいない自室のベッドへルパン並みの躍動感でダイブ。
沈み込むマットレスに顔を埋め、ため息と一緒に全身の力が抜けていく。
「……はぁぁぁぁ……ヒール履いてるだけでカカトが死ぬし、足の小指がヤムチャってるし……絆創膏、まだ残ってたかしら」
終電で帰宅した部屋の空気は冷え切っていた。
頭に浮かぶのは、月末棚卸しだった今日の職場。……ここは戦場最前線ですか?
自分の担当でもないミスを押し付けられ、頭を下げさせられ、理不尽な説教を笑顔で聞き流した1日。
真面目にやってる人間が損をして、調子の良い奴だけが得をする。
「……やってらんない。マジでやってらんない」
一息ついて手洗いうがいだけ済ませると、メイクも落とさないままゲーミングチェアへなだれ込んだ。もうブツブツ独り言も止まらない。
「はぁーあ……ホントは可愛くライブ配信でもしてさ、パーカー着てさ、ジッパーを上下にずらしてさー、スポブラをチラ見させてさー、同接爆上がりで投げ銭ガッポリ……とかで楽して生きていきたい……。あーもう、こんな夜に健康的なサラダなんて食べていられるか!」
デスクの脇から引っ張り出したのは、スーパーで買い込んであった『コンソメ濃いめポテトチップス』。
パリッと袋を破き、指先で一枚つまんで口に放り込む。そして冷蔵庫から冷えたハイボールを――♡
「……くぅぅぅッ……!! やはりうまい……! このコンソメの濃さがマイブーム……!」
バリバリと噛み砕く音とともに、強烈な塩分と旨味が脳を直撃する。そこへハイボールを一気に――
ゴクッ、ゴクッ、ゴクゴク♪
「ぷはぁぁっ……!」
指についた濃厚なパウダーをペロリと舐め取り、ささっと拭いてモニターの電源を入れた。
画面に立ち上がったのは、現在ドハマりして絶賛3周目プレイ中の神ゲー『聖国の祈りと欲望の迷宮』。
そこに映し出されたのは、私の最推し――圧倒的な美貌を誇るSSRサキュバスクイーンのリリス様だった。
「あー……尊い……顔が良い……顔が良すぎて削られた精神が再生していく……」
推しの神作画に脳汁を出し、現実のダメージを癒やしていく。
――だが、メインストーリーを進めた瞬間、私の眉間が思い切り寄った。
『不浄な悪女め! 貴様との婚約を破棄し、この国から追放する!』
『神聖なる我が教会の名において、その罪を裁いてくれよう!』
画面の中で、理不尽な冤罪をかけられ、王立学園から惨めにはじき出される主人公・ディード。
ニヤニヤと嘲笑うエリック王子と、善人面して裏で甘い汁を吸っているマルティス枢機卿の姿。
「……はぁ、毎回ここ胸糞悪いわよね」
ポテチを口に運ぶ手に勢いが増す。
手探りで袋の中を探るが、指に触れるのは小さな砕けカスだけ。すっかり空になった袋を小さく畳み、口元へ顔を上げて残りのポテチと濃厚なパウダーをザーッと一気に流し込む。
舌に残る強烈なコンソメ味を感じながら、胸の底から冷ややかな怒りがフツフツと湧き上がってきた。
「現実でもそう、ゲームの中でもそう。なんで胸糞悪い奴らの好き放題見なきゃいけないわけ? 意味分かんないんだけど」
すっかり冷めた冷徹な思考で、私はコントローラーを握り直した。
「私だったら絶対に泣き寝入りなんてしないわよ。……って、ゲームに向かって何言ってるのかしらね。でも3周目だし効率良く攻略するなら、お父様のパッシブ金策で経済力つけて、Wikiにあった判定抜けと無敵フレームで秒で詰ませてやるわ。ついでにあの枢機卿の不潔なネグリジェ姿と裏金データ、王都の上空に4Kで上映して社会的に即死させるわね」
画面の向こうの敵役に冷ややかな愚痴を吐き捨てながら、私は攻略サイトで調べた『反復横跳びによる即死結界の無敵判定』の検証に入った。
入力、入力、反復横跳び、キャンセルの繰り返し。
ポテチの油で滑るコントローラーを握り締め、深夜3時に黙々と無敵フレームを繋ぎ合わせていく。
「……よし、無敵判定繋がった。……はぁ、メイク落として寝ようかしら? あ、そうだ、冷蔵庫に白ワイン残ってたわね。つまみはコンソメポテチ……♪ んん!? あれ!? 急に頭が……痛い……!? あらやだ、めまい……!? ちょっと……横になろう……かな……」
視界がぐるりと激しく歪み、意識が深い闇へと落ちていく。
まさか本当にその「悪女ディード」に転生して、自分が言った通りのバグ技と4K上映で王国を爆速で撃破することになるとは――この時の私は、夢にも思っていなかったのであった。
(おわり)




