命惜しさに父親を生贄に捧げたら王妃になってしまいました
「皆の者、今宵、私はエリカ・ドラグノ公爵令嬢への求婚を行い、受け入れられた。
本来ならば正式な婚約を経て成婚となるが、
彼女は本来我が息子と間も無く成婚の儀を執り行う予定であった。
その準備も既に進んでおり、それを延期、ないしは中止するのは忍びなく、よって婚約式は割愛し、直接成婚の儀を予定通りの日程で私と行う事とする。」
朗々と言い放つ国王陛下。
その言葉に否を突きつける勇気ある者はいなかった。
「この婚儀に賛成の者は喝采にて知らせよ」
その瞬間、爆発的な喝采が起こった。
勢いに押されて面食らう。
彼らは別に私達の関係を諸手を挙げて歓迎しているわけじゃない。
ただ、ここで喝采しなくては後々王家から睨まれて仕事面などやりづらくなるだろうとの打算から喝采しているのだ。
その証拠に顔が引きつっている。
それが分からぬほど、彼は愚鈍ではないだろう。
わかってて彼は喝采を彼らに強要させたのだ。
私を逃さない為に強固な檻に閉じ込めたと言い換えてもいい。
「今宵は祝いの宴だ。我が妻の卒業祝いの席にして私の伴侶が生まれた日。
今宵ほどめでたい日もないだろう。
王家秘蔵の酒を出すので、最後まで楽しんでいってくれたまえ」
機嫌の良さそうな声で貴族達をねぎらうと、彼は私の手を取った。
「一度、我が未来の妻は色を直す為に退席させる。私と共に来るがよい」
「は、はい……」
ふわふわとした足取りで、私は彼のエスコートを受けてパーティー会場を退出する。
喝采を受け、本音かどうかわからない祝福の言葉を貰いながらの退場だ。
会場を出るとその熱気は消え去り静かな廊下が永遠と続いている。
先導する執事のような男が一人、護衛騎士と思しき男が数人。
彼らに囲まれては何も言えない。
ただ、彼に任せて王城の廊下を歩く。
やがて別室に辿り着いた。
案内された部屋はパーティーの休憩室。
八畳程度の部屋に丸いテーブルと椅子。
テーブルの上には立派なアフタヌーン・ティーが置いてある。
部屋の隅には二人のメイドが置物のように気配を消して控えていた。
彼は私に席を勧めると自らも席につく。
そして、執事も騎士もメイドさえも下げさせた。
完全なる人払い。
国王陛下という高貴すぎる身分の人は滅多に完全な人払いはしない。
そばにいる人間は守秘義務を徹底的に教育された者達で、そこで知った秘密は墓場まで持っていく。
そうと知らない陛下ではない。
なのに人払いをしたのは、求婚の際に呟いたあの言葉にあるのだろう。
側仕え達が部屋から出た。
完全に二人きりだ。
「…紅茶飲む?」
「私がコーヒー派だって知ってるでしょ?」
私は呆れたように言う。
私の言葉に僅かに目を見開いた彼。
だけど、すぐに微笑んだ。
あ、顔が変わったのにその笑顔から受ける印象は不思議と同じだと気づく。
「…そう言われても。この世界にコーヒーってどうも無いらしいよ?」
「え、マジ?」
私は身を乗り出した。
「…なら、王様なんだし作ってよ、コーヒー」
「…やっぱり、君は真帆ちゃんなんだね」
私の悪役じみた無理難題を物ともせず紅茶をとぽとぽ注ぎながら彼は言う。
「そう言う貴方は有起哉なのね?」
私の半ば確信した言葉に彼は頷いた。
私の言う我儘の殆どは単なる冗談だ。
周囲の人はそれが冗談だと思わず顔色を悪くしてそれを叶える為に無理をする。
だけど有起哉だけは違う。
ちゃんと、私の言葉を理解してくれるのだ。
私は淹れて貰った紅茶を口に含み、一息ついた。
そして、前触れもなく頭を抱える。
「…どうしてこうなった!?」
「さぁ?」
私とは真逆にやたら落ち着いた有起哉は紅茶を優雅に啜る。
そしてスコーンにジャムをたっぷりと塗って口に頬張った。
「…これって転生よね…?」
「うーん、わかんないよ。
転生といえば転生だけど死んで魂が天国に行き損ねて憑依しているような気もするし」
「どちらにせよ、私達は今別人として生きているのよね?」
「多分。…このままこの世界で生きていけるのかはわからないけど」
「……そっちはいつ思い出したの?」
「昨日の夜。」
「え!?私も!」
「…本当?」
少し驚いた顔をして私を見る有起哉。
「え、実質半日程度であの起死回生案を捻り出して証拠も掴んだっていうの?」
「そうよ。」
「頑張ったねぇ〜」
良い子良い子と頭を撫でてくる。
鬱陶しくてその手を払うが…。
それもまた、昔と変わらない。
いや、最近はやらなくなったか。
子供の時はやっていたけど、私が中学に上がった頃からやらなくなったっけ?
ムゥとして唇を尖らせる。
「そりゃ、私は死にたくなかったもの。
死ぬくらいなら私は本物の悪女にだってなるわ」
サンドイッチに手を伸ばし言う。
「悪女…悪女ね…?」
「何よ?」
「真帆ちゃんが悪女じゃないのは僕がよく知ってるよ」
「っ!」
「見た目がちょっとツンってしていて女らしさが強調されていただけで、実際はかなりのサバサバ系。
だから、男は俺に気があるって勘違いするし女は嫉妬する。
勘違いと嫉妬から真帆ちゃんは悪女だって言われただけだ。
でも実際の真帆ちゃんは普通の女の子。
それは僕がよく知ってる」
「………っ!なら!」
私は身を乗り出した。
「なら、少しは私を庇ってくれてもよかったじゃない!」
私、知ってる。
周囲の人間が私に隠れて有起哉に囁いていた言葉を。
「あんな女のお守りも大変ですね。
苦労しているでしょう?
何か弱みでも握られているんですか?
よければ私が力になりますよ。
弁護士の友人を紹介しましょうか?
…この辺りがよく言われていたベスト5ってところかしらね」
「……」
「それらすべて曖昧に笑って誤魔化していたよね?
そういうのに、一言くらい物申してくれてもよかったんじゃない?」
「やだよ」
「やだって……」
「そんな事言ったら、真帆ちゃんの良いところが皆にバレちゃう」
「…….は?」
「好きな女の子の良いところは僕だけが知ってればいいと思うんだよね」
しれっと言われたけど…
「ちょ!?ちょっとまって!?
貴方私が好きだったの!?」
「うん」
「いや、うんって……初めて知ったよ…」
「まあ、今初めて言ったし。
真帆ちゃん、僕の事は完全にそういう対象から外してたよね」
「………まあ」
バツが悪くてそっぽを向く。
「それは別にいいんだよ。だって有起哉は真帆ちゃんの好みとは違う外見だったし。」
「そんな事は…」
「あるよ?」
「ええ?」
「気づいてないかもしれないけど、真帆ちゃんがカッコいいって好きになる男は皆わかりやすい特徴があったからね」
「え、嘘」
「嘘じゃないよ。皆大人で包容力のありそうなタイプだった」
少しだけつまらなさそうに言う有起哉。
それもそのはず、有起哉は今言った人物像に掠りもしない。
子犬系というか、可愛い系だった。
どちらかと言えば年上の女性にいい子いい子されている方が似合うというか…。
私は軽く咳払いした。
「……確かに言われてみれば?」
考えてみれば私の好きになる人は大抵年上で私の噂に惑わされない大人の男である。
思えばユリウス役の男優などその典型例だ。
「だろう。だから、僕なんかが好きだと言っても相手にされないのはわかっていたんだ」
「………」
何も言えず気まずいままに紅茶を啜る。
「だからこちらの世界に来て僕の外見を見たときは少しだけ嬉しかったんだ」
「それって…」
「真帆ちゃんの好きなタイプになれたなって」
「……」
「まあ、すぐに真帆ちゃんがいないって事に気付いて絶望したけど」
「いや、いるし」
「思い出した夜更け時点ではまさか真帆ちゃんがいるなんて思わないし、
ましてここが例の舞台の世界だなんて気づきもしなかったよ」
「……え、私はすぐに気付いたよ」
エリカの記憶が確かにあった。
エリカの記憶をなぞらえていけば、すぐにここがあの舞台の世界だと気づきそうなものだが。
「国王陛下なんてちょっと目立つモブじゃんか。台本にも名前すら出てないし。
エリカとの関わりも薄いし、唯一の手がかりになりそうなのは息子の名前ぐらいだけど、ありふれた名前だったし」
「……あー…」
舞台序盤から出演していた悪役令嬢エリカと違い出番といえばあの断罪シーンしかない国王陛下じゃ、
たとえ国王として生きてきた記憶があったとしてもここが舞台の世界と気づくのは無理かもしれない。
「だから、記憶を取り戻してすぐには気付かず、今日はパーティーです、お支度願いますってな感じで連れてこられた会場で断罪が始まって漸く気付いたって感じだったんだ」
「うわぁ…」
私、その頃超必死。
「でもね、てっきり舞台通りの進行になるって思っていたのに、ならないからびっくりした」
「そりゃそうでしょうよ…」
「あの足掻き具合は真帆ちゃんが必死で自分の悪名を払拭しようと陰で努力している姿に似ていてね」
「…っ!ちょ、なんで知ってる!」
こいつ、まさか私が隠れて発声練習とか演技レッスンとか受けてるの知ってる!?
「そりゃマネージャーだし。」
「…」
「幼馴染だし」
「…」
「君が好きな一人の男だからね」
「っ!!!」
ゆ、有起哉ってこんなキャラだったの!?
こんな明け透けに口説いてくるような…!?
赤くなった頬を両手で隠す。
「でもこの時点では真帆ちゃんに似てるけどまさか本当に真帆ちゃんだなんて思ってなかった」
「……そりゃね…」
「だけど、真帆ちゃんが重なって見えたしエリカは真帆ちゃんが演じた大事な役だったから。
絶対に助けたいって思ったんだ」
「あ…!」
だから、多少なりとて私にとって都合よくシナリオは動いたのか。
私だけが助命の為に動いたんじゃない。
国王陛下に生まれ変わった有起哉の助力もあったからなのだ。
「ついでに舞台を見ながらいつも思っていたツッコミも全力でできたし、まあまあ満足だったよ、あの断罪劇は!」
本心からの言葉なのだろう、楽しそうにスコーンを頬張る有起哉。
「それに、僕の思うままに周りを動かせるってのもいいね」
「え?」
「どさくさに紛れて僕、真帆ちゃんをお嫁さんに出来るみたいだし」
「そ、そうよ!それ!なんであんな…!」
「生まれ変わったらこの外見だよ?
しかも真帆ちゃんがいるなら、前世の分まで押すしかないなって」
「いやいやいや…というか、一体どの時点で私が真帆だって気づいたのさ」
断罪シーンで足掻いている時点では気付いてなかった。
だけど、それ以外のシーンで私が私であると確信する場面があったのだ。
それがどこなのか見当もつかない。
「…それ言わないとダメ?」
「え?言えないようなシーンあった?」
「あー…うん…無いね」
「じゃあ教えてよ」
私の言葉に少し唸って考えた挙句ボソボソと教えてくれた。
その答えに唖然とする。
「は!?ユリウスを見ていた私の目ですって!?」
「ああっ!もう言いたくなかった!」
言って顔を隠す有起哉。
隠れていない耳が赤い。
「…一体私はどんな目でユリウスを見てたの…」
「…好きな人を見る目だったんだ」
「え?いや、ええ…?」
真帆からすればユリウスは推しキャラって奴だし、エリカからすれば単なる兄だ。
それを好きな人って…
「その目を見て、嫉妬して…。
僕が嫉妬を覚える相手は真帆ちゃんしかいないからね。
それまでの断罪シーンと合わせて確信した」
「だから求婚の時…」
「ユリウスなんか見ないで。名前を言わないで?思い出すのも不愉快だし。」
「…嫌いすぎない?」
「ユリウスが嫌いなのは何も嫉妬からくるものだけじゃないんだよ」
「え?ほかに何があるのさ…」
「まあ、色々あるけど。一番は僕達を轢き殺した女いたでしょ?」
「あ、うん。誰か知らないけど…」
「あれ、ユリウス役の役者の彼女」
「ええええええ!??」
私は思わず椅子を蹴倒し叫ぶ。
慌てて椅子を起こして座り直した。
「ええ?マジ?彼女いたの!?」
「そう。なのに、彼奴ってば真帆ちゃんに乗り換えようとしてたんだよね」
「ええ…!?」
まさかの両思いだった!?
「落ち着いて。彼奴の性癖はドMだから」
「……………はい?」
え?
ドM?
ええ?
なんでそんな事知って…?
まさか調べ…?
「それを真帆ちゃんにはあの日の打ち上げ後、
伝えるつもりだったんだよ…。」
溜息混じりに言われるが…えっと話を整理すると…
「つまり…私を轢いた彼女さんはユリウス役の役者のご主人様だった。
けれど、私の方がもっといい感じで性癖を満たしてくれそうだったから彼女を捨てた?」
「そう。」
「…誰よりも私の噂を真に受けていやがったのか!!」
そして捨てた彼女は私を逆恨みして轢き殺すと。
「あー!!もうっ!私だけを轢くならまだしも無関係な有起哉も殺すなんて!」
プリプリ怒る。
「自分が殺された事は怒らないの?」
「怒ってるよ!?でもそんな事より有起哉を巻き込んだ方が許せない!!」
「…ねぇ、ちょっと今すぐ抱きしめたいんだけどいいかな?」
「え?…ふぁっ!?」
有起哉は言うが早いか私の前に立つと椅子に座ったままの私に覆いかぶさるようにして抱きしめてきた。
「あ、不思議…真帆ちゃんの匂いとおんなじ匂いがする…」
「私の匂いって何!?ちょ、嗅ぐな!!」
暴れる私をものともしない。
流石、元軍人という設定を持つ国王陛下の肉体よ。
箸より重いものを持ったことのない私では有起哉の腕から逃れることは出来ない。
「ねぇ、真帆ちゃん」
「な、何…」
ドキドキと心臓がうるさい。
私好みの大人。
それも端正で強そうで実際強いと思われる男。
そこに加えて私の事を本当に理解してくれて見守っていてくれた中身。
時々見せる有起哉の面影。
そんな人が
「好き。本当に好き。前の人生では諦めていたんだ。
でも、この世界じゃ我慢出来ない」
彼の親指が私の唇をなぞってくる。
真摯な求愛に胸が早鐘のように強く高鳴る。
「ねぇ、僕と結婚してよ。愛してるんだ。
僕より君を理解出来る奴なんてこの世にいるわけがないんだから」
「で、でも…ちょっとまって!?
考えたら息子であるレオナルドがいるって事は奥さんが既にいるのでは!?」
私は側室って奴になるのか!?
キスを迫る男の顔を力の限り押し出してそう問えば。
「…この男の記憶によると、王妃…レオナルドのお母さんは既に死んでるよ」
「え!?」
「レオナルドを生んで割とすぐにね。
流行病だったみたい」
「そ、そうだったんだ…」
舞台に描かれていない新事実。
「以来この国では王妃の座は空席だった。
どうも、周りからはしきりに後添えを薦められていたようなんだけど、
王妃の事が好きだったみたいで拒否って今に至るかんじ」
「……王妃…の事、有起哉は好きじゃないの?」
「え?王妃が好きなのは国王であるこの男。僕じゃないよ?
ねぇ、そんな事より結婚してよ。
それで、子供いっぱい生んで」
「こ、子供!?気が早くない!?」
「いやいや、この国から王太子がいなくなったからね。
早急に後継作らなくちゃ」
「…,いやいや待って!?確かにレオナルドは今、王冠か恋かを選ぶ瀬戸際よ?
だけど彼がマリーナを諦めて王家に残る可能性も高いと思わない?」
「まあ、賢く生きるなら王家に残るよね。
でも、台本を信じるならフィナーレは二人の結婚式だ。
だからレオナルドはマリーナを選ぶ可能性は高い。
時間はかかるかもしれないが、今度こそ手順を間違えずダウ男爵を説得して結婚するんじゃないかなって俺は思うよ」
「そうかもだけど!でも絶対じゃないよ!
シナリオは変わるって例がここにあるわけだし!」
「僕達はかなりのイレギュラーだと思うけど…。
仮に王家に残るという選択をレオナルドがしても僕は王太子位は返して貰うつもりだ。」
「でもそんな事したら…」
現時点で国王陛下の息子はたったの一人。
レオナルド王太子殿下だけだ。
もし彼から王太子位を奪えば傍系の誰かが王位を継ぐことになる。
「僕は所詮王家とは無関係の日本人としての意識が強いからね。
王家を誰が継ごうがあまり気にしてない。
でもエリカの敵であるレオナルドだけは許せない。」
「……」
真帆の生まれ変わりであるエリカを断罪しようとしたレオナルドを有起哉は決して許そうとはしない。
「でも僕の子供…エリカとの子供が将来王様になるっていうのは悪くない。」
ニマニマとした顔をする有起哉。
何を想像しているのか…。
「僕は真帆ちゃんとの子供に王位は上げたい
から、レオナルドから王太子位は返して貰う。
その後は王家に単なる王族として置いておくのもいいけど、彼奴も優秀だからね。
いつ叛旗を翻すかわからないから、早々にどこか遠い外国にでも婿として送り出そうかなって思ってる。」
「……容赦ないな…」
「真帆ちゃんの婚約者だったってだけで本気でイラつくしね」
「……愛はなかったよ」
エリカはレオナルドを愛していたとは言わないでおこう。
これは私とエリカの秘密だ。
てか、知ったら今すぐレオナルドはどこか遠い異国に安売りされそう。
「知ってるよ。でも嫌なものは嫌。」
「兄にあたるユリウスにも嫉妬して…」
「真帆ちゃんの推しキャラとか死ねって思う。
なんで彼奴リアルに存在してるの?
彼奴なんていなくてもよくない?」
「いや…必要でしょ…」
「なんで!?」
「彼が公爵家継いでくれないと私嫁に行けないし」
「それはそうだけど…って!」
ハッとした顔をする有起哉。
私はふふふと笑う。
ちょっと悪役じみた顔だったかもしれない。
なのに、有起哉は顔を真っ赤にした。
「ちょ、何今の笑み…!反則すぎ…!
可愛いは正義じゃない!反則です!」
「何いってるよ…」
「だって、だって!今のセリフって…」
「今のセリフって?」
「真帆ちゃんが有起哉の求婚を認めたってことでしょ!?」
「まぁ…」
「やばい、嬉しくて死にそう!
今日は国民の祝日にしよう!」
「やめて!?」
そんなの恥ずかしくて死ねる。
「真帆ちゃん、大好きだよ!」
ぎゅっとされた。
そして頬や首筋、耳にキスを落としていく。
「ん…有起哉…」
「可愛い…可愛くて今すぐ…」
「ダメだからね!?」
「わかってるよ…」
そう言いつつ私の唇を奪った。
「!」
「いいでしょ?レオナルドとマリーナはチューまで進んでいるんだし。」
「そういう…」
問題じゃないと言うより早くまたキスされた。
甘いジャムの味。
これが私のファーストキスの味だ。
「ああ、幸せ…」
そう言いながら本当に蕩けた顔で私の顔に次々とキスを落としていく有起哉。
顔立ちは全く違うのに、間違いなく有起哉だと確信してしまう行動に私は苦笑する。
やがてもう一度、私の近くに唇が戻ってきて……
私は心からその唇を受け入れたのだった。
まさか、父親を生贄に捧げたら王妃になるなんて思わなかった。
だけど、私は私の事を理解してくれる男性と結婚出来て幸せだ。
このまま、有起哉と二人でこの世界で生きていく。
それも悪くないな…と心から思える頃に私と有起哉は成婚式を挙げたのだった。
お腹に既に赤ちゃんがいた事は…公然秘密ってやつで。
もしかしたら、私はどこかで国王陛下を誑し込んだ悪女として噂されているのかもしれないが…
前の人生と違い、全くその手の噂を聞くことがない。
やはり伴侶が国王だからだろうか?
見た目悪女、中身は普通な私は普通じゃない幸せを手にして今日も優しくて理解のある旦那様に溺愛されているのだった。