逆転観測
結果から言うと、僕は…………銃弾を避けられた。
もうダメだ。そう覚悟した後、せめてもの足掻きとして自分の姿をコードで見えなくした。
そしたら、体を縫い付けていたコードの規制が解けた。
だからギリギリではあるが僕は銃弾を避けられた。理由は分からないが。
取り敢えず、仮定はできた。
事象観測による干渉制限は、観測した通りに事象が起こればあらゆる行動を起こしてもいい。
でもまだ仮定。確定させなければまだ部分観測は使い物にならない。
「こっちだよ」
また姿を現し、テロリストへ告げる。
「……お前、どうやって…………?」
「ちょっとしたトリックだよ」
部分的に観測を始める。観測する事象は、これから先の20秒間のテロリストの目線。
すぐさまに頭に情報が流れ込む。データはそろった。
5秒後、下方へ移動。その3秒後、銃へ移動。1秒後、標的へ移動。4秒後、ロッカーへ移動。6秒後、標的を目視。
これにすら従えばいい。これ以外は何も従わなくていい。
これから僕はテロリストの視線をこれの通りに動かしてしまう。ただ動かせば、あとはその最中に何をしたって構わない……はず。
さっきの銃口よりは安全な確かめ方だ。
しかしどうやってその通りに視線を動かす? 一輝先輩のような無駄に饒舌な人間じゃないし。
……いや、そこら辺は考えなくたっていい。どうせ制限のせいでどう抗ったって、その事象に干渉する行動、言動はとれないんだ。なら干渉しない行動や言動を僕は強制的にとらされる。
何を考えようとも、何も考えてなくても。
「あ、お前の下にゴキブリ」
自然と僕の視線はテロリストの足元に移り、口からそんな言葉をが出た。
僕にはそんな物は見えないが、自然と口からそんな言葉が出てきたのだ。
テロリストは多分反射的に自分の足元に視線を落とした。
それに合わせて僕の体が自然と、不自然なくらいに自然と、距離を測るように横へ移動する。
……あぁ、そうか。二度ほど標的目視を観測してしまったから、そこでは僕という標的は姿を晒していなければならない。
だからわざわざテロリストの視線が下に移って、姿を晦ませるチャンスだというのに僕はコードを使わずに横へ移動しているわけか。
動く必要性はあるのか…………標的目視のときの目線の位置とかの関係か。
案外、《非観理論》の制限ってのは使い用があるかもしれない。
「……テメェ!」
一瞬、アサルトライフルに目線を映したテロリストは僕の姿を見るや否や、僕に向かってアサルトライフルを乱射してきた。
なんて迷惑な野郎なんだ。しかも先程と違って胴体狙ってきやがった。
僕は僕で、テロリストに見られた瞬間にコードを使用し姿を消して、適当に飛び退く。
そのため幾つもの弾丸は空を切り、その先の壁にめり込んでいったわけだが…………。
このままだとマズい。適当に教室中に乱射される可能性がある。
下手な鉄砲、数撃ちゃ当たる。そんな戦法を取られたら僕は簡単に死んでしまう。それにロッカーに当たって蜂の巣のように穴が空いてしまうようなら、隠れてる千秋先輩にも弾が当たってしまう。
……でもまあ、その心配はほんの少しの間だけ無いんだけど。
「……チッ! また消えやがった!」
テロリストが周囲に目配せしようとした瞬間、ロッカーの中で何があったかは知らないが、がたんっ! 何かがぶつかる音がロッカーからした。
それでロッカーに視線を向けるわけか。千秋先輩のドジをこういう風に役立つとは驚きだ。
さて、ここから6秒後に僕は姿をまた現さなければいけない。
その間に、あのドジな先輩が作ったこの自由に動ける6秒間で、終わらせる。
テロリストは音がなったロッカーへと静かに近付いていく。
おおよそ、最初の異変であるクシャミをした音あたりを思い出してロッカーの中に誰かがいるかもしれないと検討づけたんだろう。
そしてそう検討したら僕が姿を現した理由も、そのロッカーの中に誰かいることがバレないようにしたことだと勝手に想像がついてしまう。事実、その通りだ。
そして自分の身を危険に晒してでも隠したかった人物を人質に使えば、おのずと僕を引きずり出せるかもしれない。
そう思ったんだろう。思ってなかったとしても、どちらにしろロッカーの中は怪しいと考えたはずだ。
目線も意識も銃口も、完全にロッカーに向いたその状態なら。
「チェックメイトです」
このテロリストの脇腹に直接アサルトライフルの銃口を突きつける事が出来るだろう。
最初、教室に入ってきたテロリストは二人いた。その内の一人は最初に昏倒させておいた。だからそいつからアサルトライフルを奪い取って、切り札にする。
でも、一輝先輩が鋼凪にしたような効果……相手を抑制する意味などこの行為には無いと思うが。テロリストの反抗的な目を窺い見れば、そう思ってしまう。それに僕も相手がその気ならヤル気があるからだ。
「……素人が扱えると思ってるんのか?」
「その素人すらこういう物騒なものを持って戦わなきゃいけないのが現代の戦争ですから」
実際、銃を撃つにしたって反動っていうものがあるだろうし引き金を引く以外の操作はまったく分からないし知らない。
それでも、僕にはこういう殺戮兵器よりも扱い難くて圧倒的な効力をもつ武器を一つだけ持っている。
一か八かの賭けをもう一度だけ、もう一度だけ未来の事象を観測する。
そしてその結果を、この何も知らないテロリストに伝えてやる。
「それに僕には観えてますから。反抗しようとしたお前が僕に脇腹を撃たれてのた打ち回っている姿が」
ようは虎杖君の勝ち。
文章が雑なのは毎度のこと。本当にすいませんでした。