プロローグ
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東京――某所。
会場では、これから始まるであろう発表を、今や今やと大勢の人々が待ち焦がれていた。
人々の熱気で、まだ春先だというのに、会場内が梅雨の様にジメつく。
がやがやと騒がしい室内だが、段々と人の声が少なくなり、パイプ椅子の軋む音や紙が擦れる音だけが目立つ様になる。
――始まりの合図だ。
「皆様。大変長らくお待たせしました――。」
司会の女性が、ゆっくりと丁寧な口調で挨拶を始めた。社名やら、注意事項やら何やらを説明していく。
しかしながら、彼女の声は、左耳から右耳へと聞き流される。記者たちは、これでもかと言うぐらい首を長くして、これから現れるであろう人物の事で、頭がいっぱいだった。
「それでは、ここからは、社長の風立がご説明いたします。」
司会の女性が、一拍置いた。
客席の背筋が伸びる。
すると、女性が大きな声で、はきはきと喋り続ける。
「皆様、盛大な拍手でお出迎え下さい。レイ&ライブラ社・代表取締役の風立 春告です。ど――。」
大勢の拍手の音で、女性の声が掻き消された。
壇上には、テーブルや椅子が無く、大きなスクリーンを前に、CEOらしき男性が陣取る。スクリーンを使ったプレゼン形式で、発表するみたいだ。
大企業の社長であろう彼の容姿は、若く30代の様に見える。細めのメガネに、明るめのスーツを着こなし、髪も短めで清潔感が漂っている。
笑顔で手を振りながら白い歯を見せ、ぺこりと頭を下げた。まるで人気俳優の様だ。
「こんにちは。社長の風立です。こういう場に上がることは、社の入社式ぐらいのもので……とても緊張しております。」と、彼は、気さくな笑顔を見せた。
そして、姿勢を真っ直ぐに保ち、少し歩きながら話し続ける。
「皆様にお集まり頂いたのは、皆様ご存知の通り、新作ゲームの重大発表があるからなのですが……それがどのくらい重大かと言いますと、世界がひっくり返るものだと自負しております。」
彼が片手を上げると、スクリーンに映像が映し出された。黒い機械にガラスが覆い被さっているカプセルの様なものだ。
「こちらが弊社で開発中のVRゲーム機となっております。」
その映像を見た記者たちが、がやがやと騒ぎ始めた。そのカプセルが、明らかにゲーム機の見た目をしていなかった為だ。
その様子に彼の目が踊った。メガネのレンズ越しでも見て取れる程に、喜んでいる。
「察しの良い方は、気づいたみたいですね。弊社は、ゲームメーカーのレイと、医療機器メーカーの天秤社が合併して設立されました。その理由は、フルダイブ形式の筐体の開発を進める為です。」
そこで、「おー。」と、関心の声が上がる。
「実現不可能。あと何十年も掛かる。などと言われて来たフルダイブ技術ですが……実は、弊社では、数年前にその技術を確立し、実験を繰り返して来ました。そして、今……やっと、発表出来る段階まで、持って来る事が出来ました。」
会場が騒めく。スクリーン上では、カプセルの映像が動き、人が横になる様子や、機械の各部位の名称の説明が、文字で記されていく。『VR-fog』と、筐体には、刻印されている。
「仕組みについては、社外秘なので、詳しくは言えないのですが。簡易的に言いますと、この『霧』と呼ばれるカプセルで、みなさんには寝て貰い、一つの夢をサーバーに接続する全員と共有する。と、そう思って頂ければ良いと思います。そして、今回。この夢の共有装置を使い、発表するゲームが、こちらとなっております。」
風立がスクリーンに向けて、大きく手を伸ばした。
「夢の世界の一番星、アムリタです。」
スクリーンに、地球と良く似た大きな星の映像が映し出された。宇宙から星を見下ろした視点が、大気圏を突破して地上へと向かって行く。
そして、映像は、一人の男性と視界が融合し、一人称視点に変わった。自分の手足を見る様に映像が動き、そのまま歩いて周囲を見渡す。大自然の中を歩く人々や不思議な動物たちが、魅力的に映し出された。
会場内は、最高潮に湧き、拍手喝采が壇上へと贈られたのであった――。




