第十三話 参加者の集い
今日は、コンテストの参加者が事前に集まる日。
そして、今日から、星での10年間が始まる。
10年間といっても、時空を自在に操ることのできる神様にとっては大した時間ではない。
ある神にとっては一瞬だったり、でもある神にとってはとても長い時間だったりする。
私は既に地球の観察を2000年単位で数十回見てきたけれど、他の神にとっては瞬きする時間だったりする。
この辺りの感覚は、きっと3次元空間を生きる人類にはわからないだろうな。
初めてのコンテストの緊張感もあるが、それ以上にやりたいことが山のようにあり、ワクワクが止まらない。
私は胸の高鳴りをできるだけ抑えて平静を装って、今、天界のアカデミアの本館に来ている。
アカデミアの正式名称は、セントラル・アカデミア。とても立派で大きな、由緒ある建物だ。
天界には埃や錆など存在しないが、芸術の神様が時折年季に合わせて装飾を整えるから、格式高く感じられる。
“セントラル”の文字の通り天界の中央区画にあり、多くの研究や研究報告はこのアカデミアで行われている。
参加者は、このアカデミア本館の第10会議室に一度集まることになっている。
本館の入り口の大きな扉から中に入る。
普段星の観察ばっかりに明け暮れていた私は、慣れない本館の様子に思った通り少し戸惑ってしまう。
というのも、アカデミアの内部は、空間が少し歪んでいる。
扉をくぐり抜けるるとそこはすぐに、アカデミア本館の中央にたどり着く。
とても大きな本館。外からの扉を潜り抜けただけでその中央に着くのだ。
つまり、大きな扉が空間をゆがめ、入り口と中央をつないでいるということだ。
この空間のゆがみに私はまだ慣れていない。
そして、本館の中央にはまわりを囲むように円形に部屋が10個、第一会議室から順に会議室が並んでいる。
外から見た時は正方形の形状の建物だった。
その建物の中央部から円形に会議室が連結されていて、それぞれの会議室は大小様々な正方形の形をしている。
久しぶりにここにくると空間認識がおかしくなって面食らってしまうが、空間が歪んでいるだけなのだ。
深く考えても仕方ない。
そんなことを考えていると、手慣れた神様が私を追い越して右側の第三会議室に入っていく。
もしかしたら、田舎ものとか新参者とか思われているかもしれない。
「よしっ」私は早速第一会議室左隣の第10会議室に入っていった。
第10会議室に入ると、「これを読みながらもうしばらくお待ちください」と係員から資料を受け取った。
資料は手紙の内容とほぼ同様だった。軽く一読して辺りを見回した。
参加者に資料が配られるとすると……、すでに私以外の参加者は全員集まっていたようだ。
四つの椅子に3柱の神様が既に座っている。私は残りの一つの椅子に腰かけた。
前二つの椅子に座った神たちは知り合いらしく話し合っていたため、隣の女神に話すことにした。
赤ちゃんを抱きかかえた女神だ。ときどき、赤ちゃんを優しくさすっている。
「こんにちは!私、ホープと申します」
「あら、ご丁寧に。この子はディアノアって言うの」
女神らしく優美に抱えていた赤ちゃんをこちらへ向けた。赤ちゃんと目が合った。
「かわいらしい赤ちゃんですね。ディアノアって言うのね。よろしくね」
私は撫でながら話しかけると、ディアノアは笑みを浮かべながらちっちゃな右手を私に向けた。
握手の代わりだろうか。人差し指を手の前に出すと、しっかりと握ってきた。
「……、もしかして……。ディアノアがコンテストに参加するんですか?」
「そう。そうなの。この子がコンテストに参加するの」
そういうと女神は、ディアノアが参加することになった経緯を話し始めた。
初めてのコンテスト。主催者側も参加者を用意した方がいいという意見があった。
主催者側として参加する以上、勝ちにこだわることは許されない――けれども負けることは嫌。
そんな大人げない神様の代わりに、天界の未来を司るオルディアの赤ちゃんが、癒し枠として選ばれることになった。
オルディア自身も自慢の子供を皆に見せることができて、悪い気はしなかったみたいだ。
まだ自我を持たない赤ちゃんを参加させるなんて……天界の神々の考えることは私にはよくわからない。
そんな話をしていると、過去の武勇伝を話していたらしい前の席の神々も話に加わってきた。
「オルディアの息子のディアノアだな。よろしくな。俺は外敵駆除チームのマスクルだ」
そう言ってごつい手をディアノアの頭の上に軽く載せた。
でかくて怖くて泣き出すんじゃないかと思ったけれど、そんなことは無かった。
かわいらしく右手を振り上げた。挨拶のようだ。とても強い子だと思った。
神様の作った宇宙ではあるけれど、時々、宇宙の秩序を壊す生物が現れる。
多くの場合は、全ての生命に公平で平等の立場を取る神様にも、我慢の限界はある。
あまりの多くの星や生命を意味もなく破壊する生物は、外敵として駆除されることになる。
ただ、安心して欲しい。多くの生命は意味もなく壊すようなことはしない。
そんなことをするのは決まって人間ぐらいなのだから。
マスクル……、名前を聞いて思い出した。
マスクルはそんな外敵駆除チームの特攻隊長だ。とても有名な神様だった。
特攻隊長らしく、そのごつい体に傷跡が無数についていた。
「おや、自己紹介した方がいいのかな。私の名前はストラテス。同じく外敵駆除チームだ」
前の席に座っていた残りの神様が、ディアノアの頭の上に手を差し出した。
ディアノアは、嬉しそうにその手を触っている。
ストラテスも聞いたことがある……。
マスクルが特攻隊長だとするならば、マスクルは殲滅を狙う総司令官だ。
手の付けようがないぐらい増殖した生物を、戦略的に殲滅する役割を持っている。
「時間になりましたので、始めますね」新しく部屋に入ってきた係員が説明を始めた。
本来であれば、神様の力は封印しようと思っていたが、赤ちゃんの参加のため、許可する事。
ただし、一回限りの10年間としたいので、時間操作だけは禁止とする事。
その他、星は複製するため条件は一緒であるという事、など手紙に記載されていたことを話し始めた。
「説明は以上となります。ご質問などありますか?
特に無いようであれば、早速コンテストを始めましょう。
星への移動をお願いいたします」
部屋の中央に転移装置が用意された。
私たちは神様だからそんなもの無くても、星の座標さえ教えてくれれば、テレポートぐらい扱える。
まだ赤ちゃんのディアノアのための配慮とも考えたが、少し考えて違う気がした。
多分、コンテストの公平さのために星の情報を秘密にしたいってことだと思う。
「ホープって言うんだろう。ドラゴンを駆除せず星の消滅を回避したって有名になってたな。
おれはマスクルって言うんだ。よろしくな」
「私はホープといいます。星の観察を仕事としています」
「私は、ストラテス。お手柔らかにお願いしますね」
私たちは、転移するまでの短い時間で軽い挨拶を交わし、星へ転移していった。
皆、優しい神様だった。無様な戦いは見せられない。
がんばらなくちゃ、そう思った。




