第十一話 神様への招待状
時を戻してから、地球の様子は大分落ち着いている。
ホープ様は、執務室の椅子から地球の観察をする事が多くなった。
ただ、地球では大きな出来事は無く少し退屈なようで、今は椅子に座ったまま寝ているみたい。
寝顔はすっかり、以前の顔に元通り。
「まあ、あれだけの苦労をなさったのだもの、多少は仕方がないですね」
ホープ様のだらけきった顔を横目に、私は室内を軽く掃除することにした。
「部屋よ。きれいになーれ」
呪文を唱え、パチンッと指を鳴らす。
私の魔法が発動し、少し位置のずれた椅子や机、モニターなどの家具が元の位置に整列される。
ちなみに呪文は雰囲気作りだ。本当は指を鳴らすだけで十分。詠唱は不要。
話し相手がいないと、つい言葉がでちゃうものなのだ。
神様の生活には、地球と違って埃はない。
衣服の繊維、食べかす、手垢など、およそ埃の元になる物質は生み出されない。
神様の衣服だって、私たち神様自身だって、埃を出さない。
それは私たちの住む天界も同様。pm2.5と呼ばれる超小粒子物質は天界には存在しない。
もちろんいくら天界の片隅だからって、埃の元は存在しない。
天界はきれいで当然なのだ。
だから、掃除といっても、家具を整頓するだけ。とても簡単なお仕事。
あっという間に片付いた。
ガタンッ。と音がした。ホープ様の方からだ。
もしかして、呪文聞かれたかしら……。
ちょっと恥ずかしいところ見せちゃったかしら……。
そう思ってホープ様を見たが、まだぐっすりと眠っていた。
口元がニヤニヤ動いている。どうやら夢を見ているみたい。
「本当はもっと、広い部屋でも一瞬でできるのだけれど……」
狭くて家具の少ない部屋の掃除に少し物足りなさを感じながら、再び椅子についた。
「私は神……、全知全能なんだから……」ホープ様の寝言が聞こえた。
地球の消滅を解決した直後、きっと少し浮かれたこんな夢を見ているのだろう。
『
「この星メルトドラゴンの卵がありますよ。しかも複数」
お使いの天使であるミカエルの言葉に、私は自信をもって答えた。
「あら懐かしい、お久しぶりね、メルトドラゴン。
望むところよ。
成長した私の啓示と神の力で、中世時代までにすべて片づけてやるわ。
タイムアタックよ。
名付けてタイトル『私の星は消させない!!』」
星に寄生した卵は根で固定されているにもかかわらず、少し委縮したように見えた。
完
』
あれだけ立派に星の消滅に立ち向かったホープ様のだらけた寝顔は、少しだけほほえましい。
「ホープ様の夢に出てくるなんて、光栄ですね」私はくすりと笑ってしまった。
「でも、物語を勝手に終わらせないでください」そっと「完」の文字を消した。
机に目をやると、一通の封筒が届いていた。
外部から届いた手紙は、神の力で自動的に机上のボックスに仕分けされる。
普段は見えないが、手紙が届くと見えるようになる不思議なボックスだ。
だから、手紙が届いていることがすぐにわかる。
神様宛てには、物件のチラシからアクセサリーの広告、グループへの勧誘まで、あらゆる手紙が届く。
それらの要否をより分けるのも、お使いの天使の役割のひとつ。
勧誘といえば、以前勧誘してきたメルトドラゴンの根絶派と保護派は、ホープ様の活躍により解散した。
ホープ様の報告から共存の道が模索され、無理に根絶することもなく、また、保護する必要もなくなった。
次はどんな話題で争うのだろう。確かに議論は大切なのだけど、忙しい人たちの邪魔になるのはよくない。
私は、早速、届いた封筒を開き中身を確認した。
「文明発展コンテストへのご招待」コンテストへの招待状だった。
メルトドラゴンへの対処法を見つけた功績が認められ、ホープ様がコンテストの参加者として招待されたみたいだ。
少し誇らしい気持ちになって、ホープ様に声をかける。
「ホープ様。『文明発展コンテスト』が開催されるそうです」
「……物語はもちろん続くわ……時間操作は封印、今回はRTAよ……」
ホープ様は寝言を言っている。まだ眠っているようだ。
そして、寝言の内容に私は「やっぱり」とくすりと笑う。
しかもRTAという言葉遣い、多分、地球の文化に少し影響を受けている。
これはまだまだ起きそうにない。私はちょっと大きな声で起こすことにした。
「星、消滅しました!」
「えっ?まだ中世にもなっていないのに……早すぎる……!」
ホープ様はハッと目を開く。でも、まだ少し、寝ぼけていらっしゃる様子だ。
「RTAって何ですか?」
「リアルタイムアタックといって、神様時間で攻略の早さを競う……って地球の様子は……あれ?変化ない」
私の問いに答え目を覚ましたようだ。ホープ様はモニター越しに星を観察し始めた。
「もう、寝ぼけたこと言わないでください。
メルトドラゴンによる星の消滅なんてそうそう起きませんよ」
「あれっ?勘違いかしら」ホープ様はそうつぶやくと「ふぁー」と体を伸ばし椅子に座りなおした。
もう大丈夫そうね。私は招待状を手にとって、ホープ様に話しかけた。
「ところでホープ様。『文明発展コンテスト』が開催されるそうですよ」
「へぇ、そんなの今まであったっけ?ちょっと見せて」招待状を渡すと、ホープ様は読み始めた。
私は気づかなかったが、ホープ様の言う通り、聞き覚えの無いコンテストだ。
少なくとも私には、こんなコンテストの記憶は無い。
天界でよくあるイベントと言えば、勉強会や、研究会、展覧会が多い印象だ。
目を通した感じだと、文明発展コンテストは文字通り、誰が文明をより強く発展させるかを競うようだ。
生命体の発展を競うという発想自体、天界では珍しい気がした。
神様は、生命体を愛でることはあれど、他の神と競う事はあまりしないと思っていた。
「文明発展コンテスト……、なになに……」
初めての「文明発展コンテスト」にホープ様は興味津々に手紙を読み進めた。




