箱担ぎメイドと首切り騎士
ヘンテコな逸話が登場します。
主人公視点の一人称は最後の方に出ます。
ブクマありがとうございます。
まだまだ欲しいですのでよろしくお願いいたします。
創作意欲が湧いてくるので……。
アリシアは父トーマスの姿に驚いた。
「お父さん、あなたは幽霊ですか?」
「いや、ちょっと死にきれずに少しだけ神様に時間を貰って来たんだ。ロイドの奴が馬鹿なことを始めたみたいじゃのう。アリシアよ、急いで領主様に来て貰ってくれ。その間儂がほかの準備をしておく。今夜儂の葬儀をここで行う筈じゃろ。なに、手配をしておくから心配するな」
「領主様を? わかりました」
アリシアは急いで領主館の方に急いだ。
ロイドが王都店のスタッフと一緒に戻って来たときに、葬列の準備が始まっていた。
「どういうことなんだ? 葬儀は王都でやると言ったろうがっ。おい、みんな力づくで棺を奪うんだ「お前がトーマス殿の長女のレイナの連れあいか?」」
「はあ? あなたは……誰なんだ?」
「このポールタウンの領主のグラント・ポール男爵だ。トーマス氏の希望によりここで葬儀を行うことになってる。お前は棺の傍に立っている二人を知らないのか?」
男爵が指さすところには箱を背負ったメイドと抜剣の構えをした騎士が立っていた。
「分からない。なんだって、その二人が棺の傍に立っているんだ?」
「やれやれ葬儀店を経営する者が『箱担ぎメイドと首切り騎士』の逸話を知らんとはな。仕方がないから実演を交えて教えてやろう」
男の姿をした実物大の人形が運ばれて来た。そして箱を担いだメイドが人形に喪服を着せ始めた。
「百年ほど前に王が死ぬ前にある遺言を残した。それは行いの悪い第一王子を退け第二王子を跡目にしようとした王の遺言で、それ即ち王命のもとで行われたことだ。王の葬儀にやって来た第一王子は喪服を着ておらず酒で酩酊しておった。だから今やっているようにそのメイドが喪服を着せたのだが、いつもの悪い癖で胸や尻を触ったのだ。『おやめください。王の葬儀を汚す行いは』メイドはそう警告したが王子はやめなかった。着せ終わったメイドは言った。『これでこの喪服はあなたの為の喪服になりました』そしてこうなったのだ」
メイドは人形から少し離れて距離をとったときに、騎士は剣を抜き一閃。
実際は斬る真似をしたのだろうが、その次に剣先を首につけるとヒョイと上に上げた。
放物線を描いて落ちる人形の首をメイドは上手に背中の箱の中へキャッチする。
「分かったかね。これより葬儀を汚す者はこの古式にのっとり、領主の命により首を切り落とすものとする。因みにその騎士もメイドもわが配下の中でも最も手練れの者だ。お前たちが何人でかかろうとも、逆らうものはすべて首が胴から離れると思え」
ロイドはその言葉に逆らえず、葬列の中に自分の配下と一緒に並ぶことになった。
葬列には国内から集まった葬儀店の店長が揃っている。
さていよいよ葬列が墓所へ出発しようとしたときに、葬列の前を立ち塞がる者がいた。
死んだ筈のトーマス氏その人である。
「申し訳ない。私の葬儀に集まってくれた皆様。実は神様から時間を貰ってここに戻って来た。ほんの僅かだけ私に時間をくれないか?」
そこでトーマス氏は自分が残した正式な遺言を諳んじていたものを言った。
「ところがこれとは全く反する内容の遺言をでっちあげた者がいる。それはそこにいる長女レイナの婿のロイドだ。彼は全財産を自分のものにしようとして、偽の遺言書を作った。ゆえに私の葬儀を汚した者として、ここで首をはねてもらうかそれとも私が用意した魔法契約書に署名して血を垂らしてもらうかどちらかを選んでもらう。読み上げる。ロイドは葬儀店の経営権を放棄し、長女レイナの元から去ること。この葬列に参列しないこと。以上だ」
「そんな……経営権を放棄するなんて」
「それでは首を刎ねてもらうか?」
「……署名します」
ロイドは契約書に署名し指先を切って血を垂らした。
すると魔法契約書は光に包まれ消えると同時にロイドの胸の中に入った。
「これで今の契約に反する行為があった場合は、お前の心臓が絞められて死ぬことになる。では皆さん、私の葬儀をお願いします。私は棺に戻りますので」
そう言うと、トーマス氏は消えて一頭の白い蝶々となって棺の上に止まってから空の向こうに飛んで行った。
僕のできることはここまでだった。
それにしてもトーマス氏になることはともかくまさか蝶の死骸に触って吸収のスキルで変身できるとは思えなかった。
ロイドの恥知らずな行いは防げたとして、後のことは三姉妹で相談して決めれば良いことだ。
ちょうど葬儀で集まっているからいくらでも話して知恵を絞れるだろう。
翌日僕は『こんがり亭』に行って親方と一緒に仕込みをすることにした。
お金はいくらあっても良い。
僕はこの仕事を二年間続けて少しでも蓄えをしておきたいのだ。
学生になれば学費や生活費がかかるけれどあの金貨を全部その為だけに使う訳にはいかない。
僕が『こんがり亭』に通い始めて半年が経ったときに事件が起きた。
見るからに貴族風の男と料理人らしき男が二人連れで来て何点か注文して食べた後に言ったのだ。
「調理人を呼べ」
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