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第6話 涙目の王子

「リアッ! リア、リア――っ!……しっかりしてくれ! お願いだ、目を覚ましてくれッ!!」



 ……え? ギル?


 ……どーして……なんで、そんな悲しい声……。



 私は、大丈夫だよ? ちゃんとしっかりしてるよ?

 だからそんな……悲しい声で、呼ばない……で……?




「――リアっ!!」


 重いまぶたを開くと、今にも泣き出しそうな顔で、ギルが私を覗き込んでいた。


「ああ、よかった……! 君が急に消えてしまった時は、どうしようかと――。リア……リアっ!!」


 ギルは私を掻き抱き、何度も何度も名前を呼んでは、頬ずりしたり、額にキスしたりした。


「もう嫌だ…っ! 何故、いつも君はそうやって、私を不安にさせるんだ!? お願いだから、もう二度とこんな思いはさせないでくれ! 私の前からいなくなったりしないでくれ! 君を失ったら、私は生きて行けないと――何度言えばわかってくれるんだッ!?」


 声も、体も、小刻みに震えていた。

 消えてたって言っても、ほんの数分程度のことだと思うのに、こんなにも取り乱して……。



 私は彼の背に手を回し、なだめるように何度もさすった。


「ごめんね、ギル。神様と会ってただけだから。あなたを置いて、どこにも行ったりしないから。――ね、だから安心して?」

「……神、様……? 神様って、あの――?」


 彼は私から体を離すと、潤んだ瞳で覗き込む。


「うん、そう。会ったって言っても、声だけ聞こえただけで、姿は見えなかったけど。……神様ね。今、桜さんの世界に行ってるの。桜さんに会いたくて、会いに行ったの」

「……サクラに?……どうして、そんな……」


 不思議そうに目を見張る彼に、私はクスリと笑って、


「好きなんだって。桜さんのことが」


 彼の反応をよく見たくて、両手で包み込むように頬を挟んだ。


「好き?……好き……って?」

「だから、神様。神様はずっと、桜さんのことが好きだったんだって。だから、会いたくて……向こうの世界に会いに行ったの」


「好き……? 神様が、サクラを?」


 イマイチわかっていないような顔で、私をじっと見返す。

 私は更にくすくす笑い、彼の胸元に額を当てた。


「そう。……だからね、ギルは神様に嫌われてたんだよ? 『桜を泣かせたから、許せない』って」

「え? 私が……泣かせたから?」


「うん。……桜さんね、神様の前では、しょっちゅう泣いてたみたい。寂しかったからってゆーのも、あったんだろうけど……。ギルに婚約解消されたって思った時は、特に泣いてたんだって。『向こうの世界に戻りたい』って」


「……そう、か……」


 彼はぽつりとつぶやくと、辛そうに視線を落とした。


「私は、彼女を救ってあげることが出来なかった。私の方こそ救われたいと、そればかり考えていて……。彼女の寂しさに、気付いてあげることすら……」


 暗く沈んだ声に、私は急に不安になった。

 顔を上げると、彼は自分を責めるかのように、きつくまぶたを閉じていて……。

 しばらくしてから、静かに目を開き。


「いや、違う。気付いてはいた。気付いてはいたが……あえて、彼女の想いから目をそらしていたんだ。私には、どうすることも出来ないことがわかっていたから。私は……彼女から逃げたんだ」


「ギル……」


「もしかしたら、そんな卑怯な私に、彼女は気付いていたのかも知れない。だからこそ、神様に救いを求めたんだろう。……まったく。私はどこまで、頼りがいのない男なんだろうな」


 フッと自嘲気味に笑った後。

 彼は私の頬に手を当てて、親指だけを何度かすべらせるようにしながら、ゆるゆると顔を撫でた。


「彼女を救えなかった私が、こうして君に救ってもらい……。ほんの少し、君の姿が見えなくなっただけで取り乱し、一人で大騒ぎしているのだからね。……本当に、みっともない男だ。自分でも嫌になる。私のような男は、君にはふさわしくないのではないかと……どうしても考えてしまうよ」


「ギル――!」


 私は彼の胸にしがみつき、堪らずに、強く訴えた。


「ダメっ! そんな風に考えちゃヤダッ!!……私は、そんなギルが好きなんだから! 私がいなくなったら必死に捜して、泣きそうな顔で捜し回って、うろたえてくれるギルが好きなんだからっ! だから……だからお願い! 私にふさわしくないなんて――そんなこと、もう二度と考えないでッ!!」


「……リア」


 彼の手が、優しく頭を撫でてくれる。――大きくて、整った指先の綺麗な手で。

 彼の温もりを感じるだけで、私はすごくホッとして……満たされて、瞬時に幸せな気分に包まれてしまう。



 私にとって、彼の手は、魔法みたいなものだった。


 彼の優しい、大きな手は……いつだって、私を幸せへと導いてくれる。

 彼だけが使うことの出来る――私だけに効果のある、小さな魔法。

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