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第4話 ザックスへの道

 私達は、ザックスまでの道のりを、それなりに楽しみながら進んで行った。


 ギルは、アルフレドをのんびり歩かせたり、平坦で障害物が少ない道では、走らせたりなんかしながら。

 昼前には、関所みたいなところに着いていた。


 その後も、国王様がサインしてくれた通行証みたいなものとか、王族の紋章がデザインされたアクセサリー(ギルの場合はブローチ。男性は指輪やブローチやカフスボタン、女性は指輪やネックレス、ブローチやティアラなんかのどこかに、必ず紋章を入れなければいけないって決まりがあるんだって)を示して見せ、王子であることを証明して、すんなりと国境を通過することが出来た。


 その間、特に心配するようなことは何もなかった。


 ……と、言いたいところなんだけど。


 実は、私の方の身元確認とゆーか、ザックスの姫であるってゆー証明が出来なくて、ちょっとまごついたりした場面はあった。


 でも、王子が共にいて、隣国の婚約者だと証明しているんだからってことで、特例として、国境を通過することを許してもらえたみたい。



 まあ、ギルの方は、小さな頃から何度も国境を越えてるそうだから、役人さん達も、すっかり顔を覚えちゃってたようで。

 ホントは、国王様のサイン入り通行証とか、王族の紋章入りアクセサリーなんて示さなくても、通行は許可してもらえてたっぽいんだけど。


 私の方(って言うより、桜さんだけど)は、ほとんど(もしくは一度も?)自国から出たことがなかったらしいし。

 ギルが一緒にいてくれなかったら、絶対、許可なんか下りてなかったんだろうなぁ……。


 ルドウィンに入国した記録だって、当然ないワケだもんね。

 国境を守る役人さん達も、私達の言うこと、よく信じてくれたよねぇ……。


 ……それだけ、ギルが信用されてるってことなのかな?

 もともと、ルドウィン国でのギルの人気は、すごく高いってことだったし。


 ……うん。

 ギルのこと、だいぶ見直しちゃったかも。




 国境を越えてからは、途中、森の川辺で、休憩を取ったりもした。


 ウォルフさんが、小さなバスケットに入れてくれたサンドウィッチと、コルクみたいなもので栓をした、ガラス瓶に入った飲み物とで、簡単に昼食を済ませたりして。


 やっぱり、ウォルフさんの作ってくれたサンドウィッチは、めちゃくちゃ美味しくて。

 当分、これも食べられなくなるんだなぁって思ったら、ちょっと寂しくなってしまった。


 ギルは、そんな私の様子には一切気付かず、昼食を食べ終えると、明るく笑って。


「ここまで来れば、あと数時間ほどで、君の城に着けるよ。……うん。思ったより早かったな。君が一緒だから、アルフレドにも、あまり無理はさせられないと思って、歩く時間を長く想定していたんだが……。良い方へ予想が外れたようだ。この調子なら、薄暗くなる前に着けるはずだ」


「そっか、よかった。……あ、じゃあ……。ねえ、ギル? ひとつ、お願いがあるんだけど――」


 早く城に着けるらしいってことに、ホッとしつつ。

 可能であれば頼んでみようと、密かに思っていたことを告げる。


「まだ時間があるなら、神様のところに寄って欲しいの。……ダメかな?」



 神様のところ、とは言っても。

 もう、あの場所に神様はいないけど――。


 それはわかってても、やっぱりどーしても、あの場所に行って、きちんと報告したかった。


 『私が心から好きな人、誰だかハッキリしたよ。気付くきっかけを与えてくれて、ありがとう、神様』――って。



 あの桜の木に、神様はもういない。

 ……それでもやっぱり、あの大木は――大切な神様なんだ。


 だから……。

 これからもずっと、この国の神様として、あそこに存在し続けて欲しい。


 ――お父様だって、きっと、そう思っていらっしゃるはず。



 私の願いに、彼は優しく微笑んで、


「もちろん構わないよ。あの場所は……私達が初めて出会った、大切な場所でもあるからね」


 そう言って左手を差し出すと、私が重ねた右手を、ギュッと握った。




 私達が、神様の――桜の木の前に着いたのは、太陽が、大きく西に傾き始めた頃だった。

 きっと、あと半刻もしないうちに、辺りは薄暗くなってしまうだろう。


 でも、ここからなら、城まではもう少しの距離だし。

 ちょっとくらい、ここでゆっくりして行っても、全く問題ないと思う。



「ただいま、神様」


 私はそうつぶやくと、桜の木に、片手でそっと触れた。



 ……あれ?

 気のせいかな?


 なんだか、この木……かなり弱っちゃってるように感じる。

 葉も枝も、元気がないってゆーか、勢いがないってゆーか。

 ちょっと前までは、すごく立派に見えてたはずなんだけどなぁ……。



「リア? 木を見上げてぼうっとして……どうかしたのかい?」


 ギルの声で我に返り、私は慌てて笑みを浮かべて振り返った。


「ううん。なんでもない。……ただ、なんとなく……なんとなくなんだけど、この木、前より元気がなくなっちゃってるような気がして――」


「元気がない?……うん。言われてみれば、そうかも知れないね。この木も、かなり昔から、ここに立っていたそうだから……もしかしたら、寿命が近付いているのかな」


 木を見上げながら、彼はそんなことを口にして……私は急に不安になった。


「寿命?……じゃあ、この木……そろそろ枯れちゃうってこと?」

「それは、私にだってわからないよ。わからないが……その可能性はあるだろうね」


「可能性――。枯れる、可能性……」


 それを知ったとたん、例えようのない寂しさに、心が重く沈んだ。



 ――この木が、全ての始まりなのに――。



 この木を通って、私は向こうの世界に行き……そしてまた、この木を通って戻って来た。

 ここでセバスチャンに会って――ううん、再開して。

 ギルにも出会って(彼にとっては、再会だったんだろうけど、私にとっては初めてだもん)、そして――神様にも出会った。



 ここは……この木は、大切な思い出なのに。

 もうすぐ、枯れちゃうかもしれないなんて……。

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