表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
214/225

第11話 口車に乗せられて

「まったく。……何故君は、そうもわかりやすい反応をするかな……」


 ギルはため息まじりにつぶやくと、体を離し、私の腕を柔らかくつかんで、自分と向き合うように体ごと振り向かせた。


「えっ?……あ、あの……。ギル?」


 戸惑って見上げる私に、彼はぐいっと顔を近付けて来て、


「今のは、君の反応を見るためについた嘘だよ。フレディが君に何をしたかなんて、黙っていられたら、わかるはずないじゃないか」


 少し拗ねた口調で告げ、私の額に、コツンと自分の額をくっつける。


「え……。ええっ!? じゃあ、私がフレディにキスされたこと……」

「もちろん、知らなかったよ? されたとすれば、キスくらいだろうと思って、芝居(しばい)を打ってみたんだ」


「しっ、……芝居って……」



 つまり私は。

 まんまとギルの口車に乗せられて……キスされたことがバレちゃってるのかと、焦った時の反応で……『やっぱりキスされたんだ』って、ギルに確信を持たせちゃった、ってこと……?



「も……もぉおおおおーーーッ!! どーしてあなたはっ、いつもそーやって卑怯(ひきょう)なことをぉおおおっ!!」


 またしても、してやられてしまった。

 情けないやら腹立たしいやらで、ギルの胸元をポカポカと打つ。


 彼はムッとしたように、口をへの字にして、


「私が卑怯と言うなら、君だって嘘つきじゃないか。何故、正直に話してくれなかったんだい? 別れの日くらいは大目に見ると、さっき伝えておいたのに」


 軽く手を置いていただけだった肩を、今度は力を込めてつかみ、眉を吊り上げて不満を漏らした。


「そ…っ、それは……。悪かったと思ってる、けど……」

「――けど?」


「だっ……だって、大目に見てくれるって言っても、どの程度のことまで大目に見てくれるんだか、わかんなかったし……。これでまた、二人の関係にヒビが入っちゃったりしたら、悔やんでも悔やみ切れないって……そう思ったから……」


 思ったことは事実だけど。

 嘘をついちゃったのは、明らかに私の方が悪かったんだから、強気に出ることも出来ず。

 気まずくて、私は彼から視線を外した。


 彼は小さくため息をつき、


「信用がないんだな、私は……。まあ、今までの経緯があるから、そう激しく、君を責めることも出来ないが……」


 私の頬に手を当て、瞳の奥を覗き込むようにして。


「それで? フレディはどういう方法で、君にキスしたんだい?……どうせまた、小さな罠にでも掛かってしまったんだろうけれど」

「う――っ。……な、なによ、『どうせまた』って? それじゃ、まるで私が、何度も罠に掛かってるみたいじゃな――っ」


「掛かっていないとでも言うつもり? 何度も君を罠に掛けて、そのたびに成功して来た男が、目の前にいるというのに?」

「う――ッ!……う……うぅ……」



 あーーーっ、屈辱(くつじょく)っ!

 何か言い返したいのに、ぐうの音も出ないなんて……。



「そ、れ、で? 今度は、どんな罠に引っ掛かって、フレディに唇を奪われたんだい?」


 ……悔しいけど、完全に負け(いくさ)だった。


 私はすっかり観念して、フレディにされたことを、全部正直に打ち明けた。

 とたん、彼は額に片手を当て、ヨロヨロと数歩後ずさり――。

 新種の生き物でも発見したかのような目で私を見つめ、軽く頭を振りながらつぶやいた。


「バカな……。そんな子供騙しのような罠にすら、たやすく引っ掛かってしまうなんて……」

「かっ、簡単な罠じゃないもんっ! ギルだって、急に目の前に手を出されて、あんなこと言われたら――絶対、そっち向いちゃうに決まってるんだからっ!」


 ムキになって言い返すと、彼はまた、ゆるゆると首を振り、


「……ないよ。それはない。……そんな手に引っ掛かるような人間は、そう多くはいないよ」


 ガックリと肩を落とし、私の意見を完全否定する。

 私はグッと両手を握り締め、負けじと食い下がった。


「嘘っ! 絶対絶対、ギルだって引っ掛かるよ!」

「引っ掛からないよ、私は」


「嘘うそっ!! 引っ掛かるっ!!」

「引っ掛からない」


「引っ掛かるっ!!」

「引っ掛からない」


「引っ掛かるったら引っ掛かるッ!!」

「絶対に引っ掛からない」


「う……。む、むぅ~~~……」


 どこまでも冷静に否定されてしまい……。

 ムカムカして、キツく唇を噛み締めた。



 ……嘘だよ。

 ギルだって、気を抜いてる時にあんなこと言われたら、絶対つられて、そっち見ちゃうはずだもの。


 今は身構えてるから、無理かも知れないけど。

 もうちょっと、リラックスしてる時にでも、何気なく言われたら……。


 絶対絶対、引っ掛かるに決まってるんだからッ!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ