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赤と黒の輪舞曲~【桜咲く国の姫君】続編・ギルフォードルート~  作者: 咲来青
第18章 最後の夜

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第9話 部屋の前でのためらい

 ギルの部屋の前で。

 私はドアノブに手を置いては離し、また置いては離し……という動作を、さっきから何度も繰り返していた。


 彼と顔を合わせて、何事もなかったかのように振る舞える自信がなかったし。

 フレディとのことがバレて、最後の夜が気まずいものになってしまったら……と考えると、怖くて堪らなかったから。



 ああ……困った。

 このままずっと、ここでこうしてるワケにも行かないしなぁ……。


 だけど、ギルの前で不審な行動取っちゃったら……って思うと、やっぱり、どーしても勇気が出せない。


 ……ギル、すぐ気付いちゃうんだもん。私のちょっとした変化に。


 ま、まあ……さすがに、首元の()()は……ちょっとした変化とは、言えなかっただろうけど……。


 ……ハァ。

 あの時だって、あれさえ気付かれてなかったらなぁ。

 ギルが怒っちゃうこともなかっ…………って、んん?



 あ! そっか!

 あの時は、首元のアレに気付かれちゃっただけで。

 フレディに、他のとこにもキスされちゃったことは、結局、バレずに済んだんだっけ?



 ……なんだ。そっか。

 だったら今度も、私さえボロを出さなければ……。



 ちょっとだけ、マズい展開にならずに済む自信(?)が、湧いて来た時だった。

 いきなり、ドアが内側から開き、私はギョッとなって、数歩後ずさった。


「ああ、やはり君か」


 ドアを開けたのは、当然のことながらギルだった。

 私は心底ビックリして、


「えっ?……どっ、どーして? なんで、私がここにいるってわかったのっ?」


 ついつい、訊ねてしまったら。

 彼は困ったような顔をし、小首をかしげた。


「いや……なんでと言われても。なんとなく、君がいるような気がしただけなんだ。もしかして……かなり前からここにいた?」

「えっ?……ま、まさかっ。たった今、ついたばっかりだよっ?」


 慌ててふるふると首を振ると、彼は眉をひそめて、


「本当に? また、何か隠しているのではないだろうね?」


 両手で私の頬を挟み込み、顔をそらせられないように固定すると、探るような瞳で覗き込む。

 私は彼の両手をつかんで、必死に顔から引き離そうとしながら。


「な、何も隠してなんかいないってば!……そんなことより、早く部屋に入れてっ? さっきから肌寒くて……このままじゃ、体調崩しちゃうよっ」


 確かに、肌寒くはあったけど。

 そこまで深刻に、体調の心配をしてたワケじゃない。

 話をそらす目的で、わざと大袈裟に言ってみただけだ。


 それなのに。

 彼はたちまち顔色を変え、


「すまない、気が付かなくて。――さあ、おいで。明日国へ帰るというのに、体調を崩させてしまったら、クロヴィス様とセバスに、申し訳が立たないからね」


 優しく私の肩を抱き、部屋に招き入れると、後ろ手にドアを閉めた。

 そして出し抜けに、後ろから私を抱きすくめ、


「ああ……本当だ。体が冷えてしまっているね。……だが、おかしいな。今まで君は、父上の部屋にいたんだろう?」


 不審そうに訊ねて来て、私の心臓はドッキンと跳ね上がった。


「えっ?……う、うん。……そー……だけど?」


 内心、ヒヤヒヤしつつ答えると。

 彼は体をかがめ、耳元に口を近付けて、ささやくように訊ねる。


「では、どうして……こんなに体が冷えてしまっているんだい? 父上の部屋は、そんなに寒かった?」

「そ――っ、……そんなこと、ないよ? ちょーどいい……感じだった……よ?」


「……ふぅん……」


 意味ありげに相槌(あいづち)を打ったきり、彼は黙り込んでしまった。

 彼の腕に抱かれたまま、私は身動きひとつせず、ひたすら、彼の言葉を待つ。



 う……マズイ。

 なんかこれ……すっごく、ヤバイ感じになっちゃってるんじゃない?



 で……でもっ、まだバレたワケじゃないしっ。

 だいじょーぶ、だいじょーぶ……。


 こんなに体が冷えちゃったのは、庭を少し散歩してたからだ――とかって言えば、ごまかせるはず。



 ……うん。大丈夫。

 問題ない、問題ない――。



「リア」

「えっ?……な、なぁに?」


「フレディと、どんな話をしたの?」

「ん? どんなって、べつに、大したことは……。って、ええッ!?……ど、どどっ、どんなっ……て……」



 うぇええええっ!?

 な――っ、なんか知らないけど、バレちゃってるッ!?



 ……嘘……っ。

 な……なんで?


 私、今……特に変なことは……言ってなかった……よね?



 心臓が、ドックドックと暴れ出し。

 一瞬、頭がクラッとなって……息苦しくて、私は慌てて胸元を押さえた。

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