第4話 やっかいな方向オンチ
後を追ったまではよかったけど。
国王様の部屋には、アセナさんとウォルフさんの案内でしか、来たことなかったし。
帰りも、当然案内してもらえるもんだと思ってたから、順路なんか、全く頭に入ってなかった。
……そう。
どこをどう行けばギルの部屋に戻れるかなんて、さっぱりわからない――ってことに、今更ながら気が付いて、私は足を止めた。
……マズイ。
こうなったら、意地でもフレディを見つけ出さないと。
この広大な城の中、完全に迷子になっちゃうわ!
私は必死に辺りを見回し、フレディが走り去ったと思われる方へ、ほとんど勘だけを頼りに進んで行った。
フレディはどこへ向かったんだろう?
大人しく、自分の部屋に戻ったのかな?
……ううん。違う気がする。
頭に血が上ってる時は、無意識に、落ち着かなきゃって考えて……誰もいない、静かな場所へ行こうとするんじゃないだろうか?
静かな場所……って思ったところで、この城の見取り図なんか知らないし。
隅から隅まで、案内してもらったことがあるワケでもないんだから、見当つけようにも、つけようがないんだけど。
……なんてことを考えながら、闇雲に走り続けてたら。
かなり真っ暗なところに迷い込んでしまっていて、私は再び立ち止まった。
……う、う~ん……。
これは……マズイぞ? かなりヤバイ状況だぞ?
フレディの姿は、これっぽっちも見えやしないし。
この真っ暗な通路は……たぶん、王族の人達が住んでる棟とは別の……使用人さん達が住んでたり、働いてたりする棟の方……じゃないかな?
……とすると……。
……うん。
どーやら、また迷っちゃったみたい……。
……ハァ。
どーしてこうも簡単に、迷子になれちゃうんだろ……私ってヤツは?
方向オンチをひたすら嘆きながら、途方に暮れて立ち尽くす。
早く何とかしないと、使用人さん達に見つかっちゃう。どーしたらいいんだろうと、キョロキョロ周りを見回してたら、
「まったく。何をなさっているんです、リナリア姫様? フレデリック様の後を、追っていらしたのではなかったんですか?」
なんてゆー、聞き覚えのある声が聞こえて来て。
ハッとして、声のした方へ振り返る。
「――アセナさん!」
声がした時点で、誰かはわかってたけど。
迷ったとたん、救いの神が現れて――なんて、あまりにも出来すぎたシチュエーションだったものだから。
すぐに反応することが出来ず、私はただただポカンとして、アセナさんを見つめていた。
「そうやって、呆けていらっしゃる暇はございませんでしょう?――ほらほら。さっさと参りますわよ。フレデリック様は、そちらにはいらっしゃいませんから。大人しく、私についていらしてくださいな」
くるりと方向転換し、アセナさんはスタスタと歩き出す。
私はハッと我に返り、慌てて彼女の後を追った。
「すごい! 私が迷ってるって、どーしてわかったんですか?……あ。国王様に頼まれたんですか? きっと迷うだろうから、教えてあげなさいって?」
必死に彼女について行きながら話し掛けると、彼女はちょっとだけ後ろを向いて、素っ気ない口調で返す。
「陛下に頼まれた訳ではございません。私が独断で、フレデリック様を、陰から見守らせていただいていただけです。陛下のお部屋から、フレデリック様が飛び出していらっしゃったので、後を追おうとしたら……あなた様も、すぐに出ていらっしゃったでしょう? その時とっさに、あなた様の方について行こうと、判断しただけのことですわ」
「へっ?……えっ……と……。なんで私の方に?」
「フレデリック様でしたら、どこにいらっしゃろうと、この鼻で追えますもの。その点、あなた様の匂いはまだ、完全に記憶してはございませんので」
「……に……匂い……」
そー言えば、聴覚と嗅覚が、めっちゃ発達してるんだっけ。ウォルフさんも、アセナさんも。
……でも、匂いとかって言われちゃうと、なんだかなぁ~……。妙に恥ずかしくなっちゃう……。
「えっと……。私、フレディが向かったっぽい方向へ、進んでたつもりだったんですけど……。やっぱり、全然違ってました?」
「ええ、全く。むしろ、逆の方向へ走っていらっしゃいましたわよ? 一瞬、フレデリック様を追っていらした訳ではなかったのかと、疑ってしまったくらいですわ」
「……ああ……。そー……です、か……」
うぅ…っ。
私の勘が、どれだけ当てにならないものか……つくづく、思い知っちゃったなぁ……。
情けなくて、ちょっぴり落ち込んだりしながらも。
足早で歩くアセナさんの後を、私は必死に追って行った。