第12話 巨大化せずとも待ったなし!⑧
「ビッグマスク奥義その一! ビルディング・スプラッシュ!」
説明しよう! 『ビルディング・スプラッシュ』とは――
その辺に生えている建物をひたすらもぎ取って、とにかく投げまくるという、ビッグマスクお得意の、クッソ卑怯な基本技のひとつである!
怪獣の鼻っ面に、いにしえの映画館「広守八百木座」がブチ当たり、残骸が周囲に飛び散った。
意表を突かれたのか、カーマスが唖然とした顔で叫んだ。
「なっ! 自ら街を破壊するとは! テメー、それでもヒーローか!」
「そうだ! オレはマスク一枚、ほぼ裸一貫の弱小ヒーロー! どこまでも泥臭く戦い抜く! たとえ街じゅうを更地に変えても、この手に勝利をつかみ取る! それがビッグマスクの流儀である!」
はっきりいって、自分でも言ってることはメチャクチャだけど……。
オレにはヒーローとしての専用武器がない以上、背に腹は代えられない。
それにヒーロードームが展開しているいま、この街を利用しない手はなかった。
だってドームは、戦闘終了後に破壊された街を、自動でもとどおりに修復してくれるからね!
もしかしたらオレのヒーロー遺伝子は、こうなることを予想して、左手のケガよりもドームの展開を優先したのかもしれない。
なるほどねぇ~。オレに似てなかなか賢いヤツだなァ、きみは。
というわけで、オレはしゃべるあいだにも右手を動かして、周囲の建物を投げまくった。
しかし、やはり片手だけでは弾幕が足りないようだ。
こうなったら――
「ビッグマスク奥義その二! 路上のファンタジスタ!」
オレは道路上に移動すると、路面に止まっていた車をとにかく蹴りまくった。
蹴って蹴って蹴りまくり、またもや怪獣の顔面にシュートのラッシュを浴びせかける。
今回の戦い。重要なのは『ヤツらの指揮系統をつぶすこと』だ。怪人が怪獣に指示を出すというのなら、その暇を与えなきゃいい。
考える暇もしゃべる暇も与えずに、とにかくカーマスの突っ立っているあの場所――ライノの鼻っ面に向けて、あらゆるモノを投げこみまくる。
ヤツらをシンクロさせたらオレの負けなのだ。
だからそうなる前に、敵の意思疎通を封じて活路を開けと、オレの直感がそう告げていた。
だがカーマスは、投擲のラッシュにめげずに、怪獣の角の裏に隠れて声を張り上げた。
「チッ! なにが流儀だよ! ふざけやがって! ライノ、姿勢を低くしな! 突進攻撃だ! ヤツを角で串刺しにしてやれ!」
「串刺し? 焼き鳥か? なら、具材選びはオレに任せろ!」
オレはそう叫ぶと、道路上の市営バスをつかみ上げて、ライノの角をめがけて投げつけた。
さてと、おつぎは――おっと、いいものを見つけた!――オレは路面にデンと鎮座する大型車をガシッとつかむ。
ここでピッチャー、ビッグマスク選手!
大きくふりかぶって第二球! 投げました!
突進の姿勢で構えるライノレスラーの角先に、市営バスと……。
つづけて、危険な化学薬品を満載した「巨大なタンクローリー」が、二段構えで突き刺さる!
「なッ!? なにィーッ!?」
カーマスの絶叫がこだまする。
ありがたいことに、タンクから吹き出したナゾの液体が目に入り、ライノは痛みでもがき苦しんでいるようだ。
「いいねぇ! ナイスコントロール! さあ、ドハデにいくぜ! 空も飛べなきゃ、ビームも撃てない! そんなヒーローになにができる? できるとすれば――あった、これだ!」
オレは近くにあった、お目当ての建物を引きはがすと、生じたヒビ割れから敷地内の地面をめくり上げて、目的のブツを掘り出した。
無理やり引っ張り出したから、若干液漏れしているみたいだけど……。まあいいでしょう。
実際に使ってみるのは、初めてだが――
きっとうまくいくはずだ!
「ニッポンのインフラに感謝! ビッグマスク奥義その三! ガソスタ大大大爆発!」
満を持して、焼き鳥の三つ目の具材が登場!
ガソリンスタンドに敷地に埋まる、可燃性オイルたっぷりの地下タンクが、怪獣の鼻先をめざして、回転しながらブッ飛んでいく。
「ライノ! 避けろ! そいつに触れるな!」
カーマスがあわてて指示するも、ライノはパニック状態だった。
飛んでくる燃料タンクをはじき飛ばそうと剣を構える。
タンクが剣に触れて火花が散った。
ボカン!――当然のことながら、タンクが爆発する。
もちろん実際には、ボカンなんてかわいい音はしなかった。
文字で書き表すならば「ドグワァァァン!」とか「ボゴグアァァァン!」って感じで、とにかくドハデに大爆発。飛び散ったオイルにも火がついて、辺り一帯がお祭り騒ぎって感じだ。
ちなみにオレの計算では、角に刺さった市営バスが追加のタンクに押しつぶされて炎上し、そこから引火する予定だったんだけど……。
まあいっか! 結果は同じだしな! 運も実力のうちって言うもんね!
つーわけで、タンクの爆風が怪獣を直撃した。
爆風で剣がふっ飛び、ライノの額に剣の柄が激突する。
いきおい余った剣は、明後日の方向にキリモミ状態で飛んでいく。一方ライノは大きくひっくり返って、その場に尻もちをついてしまった。
怪獣が目を回し、その鼻先から転げ落ちたカーマスが、ライノの肩にしがみついて必死に声を上げている。
「クソッ! 完全にペースを乱された! さあ立て、ライノ! あんなザコにやられてどうする!」
よっしゃー! いい気味だぜ! ざまあみろ!
どぉ~れ。ヤツらが混乱している隙に、いっちょオレはフィナーレの準備とシャレこむか~。
幸い怪獣の近くには、大きな建物があった。オレの身長よりも高いビルだ。
いや、待てよ。よく見たら、このビル……。
前に公園で変身したとき、オレの弁当を上から目線で批評したマダムたちの住む、あのタワーマンションではないか!
なんという偶然! 運命のイタズラ! ありがたい!
あのときは、いろいろと言われて腹が立ったけど、今回のコレでチャラにしよう。
オレは右手と両足を器用に動かしながら、六十メートル超えのタワマンを登り始めた。もちろん建物を崩さないよう慎重にいくぜ!
そして……やっててよかった、登り棒の訓練! まさか本当に片手損傷のシチュエーションが直近で舞い降りるとはね! わが先見の明に感謝!
オレはタワマンを無事に登りきると、その上に立って、地面で尻もちをつくライノレスラーを見下ろした。
左手を腰に当て、右手でグッドサインを作る。その親指でマスクを指さし、一世一代の大勝負だ。
さあ、クライマックスを見逃すな!
大ワザ披露の五秒前! みんな大好き、ヒーローの特権!
フィニッシュムーブのお約束、仰々しい前口上のお時間である!
「やっぱり最後は、自分のマスクでビシッと決めないとな! これぞ我が身体能力のなせるワザ! かけ持った運動部は数知れず! そんな男が編み出した、机上の空論! ビッグマスク究極奥義!」
タワーマンションの上空で、ビッグマスクが飛び上がる。
その巨体が弧を描き、まるで三日月のように大きくしなった。
「必殺ッ!! ムーンサルト・ヘッドバットォォォーーッッ!!」
技の内容はいたって普通。名前のとおりだ。
オレはタワマンの上で宙返りをすると、頭を下にして真っ逆さま、地面に向かって落下した。
頑固なラーメン屋の店主がごとく、胸の前で両腕を組み、エビ反りでのスカイダイビングだ。重力を味方につけて加速する。
狙いはもちろんライノレスラー。地面でへたりこんでいる怪獣の頭頂部に向かって思いっきり、お得意の頭突き攻撃をブチかます。
「バ、バカなッ!? こんな負け方ッ!! こんなヤツにッ!!」
カーマスの絶叫もなんのその、巨大ヒーローの頭と怪獣のそれが、ドハデな音を立てて激突した。
あまりの衝撃に、思わずオレの目ン玉から無数の星が飛び散った(注:個人の感想です)。
いッッッてェェェェーーなあッ! もう、コンチクショウッ!
だが、かまうもんか! 痛いのはオレだけじゃあないんだ!
ライノレスラーが悶絶する。ヤツの最期のひと言は「ぐう」。
その鳴き声を皮切りに、ライノの頭に生じたヒビ割れは全身へと広がり、その身体が散り散りになって爆散した。
黒い霧が周囲に広がり、ライノが身につけていた、かわいらしいデザインのショートタイツが宙を舞う。
そしてオレ自身は、というと……。
頭突きの反動と爆発の衝撃で、空高くに吹き飛ばされてしまった。
大空へと舞い上がるオレの眼下では、黒い霧が辺り一面にブワーッと広がっている。
ワーオ。まるで嵐の前の雨雲みたいだぜ。
だが、つぎの瞬間――
拡散中だった黒い霧が、一点をめざして収束し始めた。
よく見ると、ライノの立っていた地点。道路の中央に、ドリルパラソルで掘り開けたような穴が空いていた。黒い霧はその穴に向かって吸いこまれていくようだ。
なるほど……。あれはおそらく『回収班』の仕業にちがいない。怪獣使いは、ペットの怪獣の霧を集めて再構築するって聞いたことがあるし、この現象もたぶんそれだろうね。
さて、敗残兵と化したカーマスはどうなったのか?
ヤツは周囲に散らばった黒い霧とともに、地面の穴をめざして落下の真っ最中だった。
カーマスはあおむけに降下しながら、上空にいるオレのほうを指さして、悪役お決まりの捨てゼリフをつぎのように吐き捨てた。
「おのれ、ビッグマスク! テメーとブーメラン野郎は容赦しない! いつかアタシの手で必ず殺してやる! せいぜい、そのときを楽しみにしておくんだねえ! アハハハハ!」
そう宣言すると、カーマスはドリルパラソルを開いた。
パラソルで落下の速度をゆるめて地表に到達すると、ヤツはそのままスルリと真っ暗い穴のなかに姿を消した。
うーん、流れるような作業。撤退の仕方が手慣れている。
もしかして、あいつ……。意外とこれまでもボロ負けして、敗走をくり返してきたんじゃないのか?
なんだか、そう思える手際の良さだった。
いずれヤツとは、また対決する日が来るのだろうか。
そうなると、オレの手の内は完全にバレてるし(我ながらカードが少ない!)、新たな戦い方を模索する必要がありそうだ。
まあ、それはまた今度ゆっくり考えるとして……。
にしても、アレだなァ~。
オレはずいぶんと高いところまで飛ばされちまったみたいだな。
空を飛ぶオレの身体がゆるやかに上昇しつづける。なんだか妙にフワフワして、まったく落ちる気配がない。
やけに地面が遠くに感じるし、急にいまになって、負傷した左手の指がズキズキと痛み始めた。
街を覆うドームだって、点滅をやめて、発光を開始したようだし……。
……え? 発光?
おそるおそる右手を顔に近づける。
指にふれた感覚は、まぎれもなく地肌のそれだった。
オレはマスクをつけていない。
ってことは、変身が解けているのか?
え、でもオレって、いま空を飛んでるよね?
それなのに……
普通の人間にもどってしまった……だとッ!?
オイオイオイ、マジかよ! 勘弁してくれ!
よりによって、このタイミングで?
いまさっき死闘を乗り越えたばかりなんだぞ?
それなのに……ここでエネルギー切れなんて……。
そんな結末ッ!!
あんまりじゃないかッ!!
だが、いくら文句を言おうとも現実は非情である。
物理法則はぜったいなのだ。上昇はいずれ下降へと転じる運命にあった。
さきほど戦闘中にあれだけ味方してくれたはずの重力が、いまやオレを引きずり下ろす呪いと化して、全身の細胞ひとつひとつに襲いかかる。
肉体の降下が始まった。身体が地球に引っ張られる。
オレはこのまま、なすすべなく、地面に叩きつけられる!
いや死ぬ、死ぬ、死ぬ!
マジで死ぬって!
ってか、死んだわ。終わった。
もう助からないですわ、これは……。
ごめんよ。父さん、母さん……。
アユム、ルイ……。オレはダメな兄ちゃんだった。
あれだけ啖呵切って、大学辞めて、家を飛び出して……。
ここがオレの……限界なのか……。
風を切る轟音が両耳を包みこむ。
まぶたとくちびるがめくり上がり、大地が眼前にせまる。
視界が暗転して、意識が――
遠のいていく――
◇
さて、つぎのお話は――
ライノレスラーを打ち倒すも、落下の途中で気絶した進太郎。
気がつくと、かれは自宅のベッドの上で目を覚ました。
もしや、あの戦いは夢だったのではないか?
そう思い、両手を見つめる。
すると左手には、グルグルに巻かれた包帯と……。
そして部屋のソファには、見知らぬイケオジ紳士が座っていた。
かれは進太郎のことを知っており、仕事を紹介してくれるという。
って、いったいアンタだれなんだ?
次回、第13話「身バレ、勧誘、チョイ困るし!」
ナゾのイケオジの正体とは?
みんな、もうわかってると思うけど……。
乞うご期待!




