43話 釘を刺す
「なるほど、じゃあルイはメリアスの正体を探るためにあえて誘いに乗ったと」
「そうだ。オレは別にアイドルなんか興味ないからな……まったく、でかい出費だったぜ」
「ふぅん」
どうやらカーミラはオレがメリアスというか、アイドルにご執心だと思って訝しんでいるらしい。
ラァ子と会ったのがバレたときもご機嫌斜めだったし、意外とヤキモチ焼きというか、独占欲が強い感じなんだろうか。
「それじゃあ、ルイはもうメリアスと会うつもりはないんだな?」
「金払って遊ぶみたいなのはちょっとなあ……出来れば対等な関係で会える相手が良いと思ってデスティニーやってるわけだし」
オレやカーミラが使っているマッチング魔道具のデスティニーは、プロフィール設定はかなり匿名性の高いものになっているが、購入及び使用者登録の際には審査があり、ある程度の年収と身分でないと使用できないようになっている。
その為、女性であってもみんなそれなりの収入があるはずなのでメリアスのような援助交際的な使い方をする人はほとんどいないとされている。
つまり、そんなデスティニーを使ってる男性側もそういうことは目的にしていない人が多いというわけだ。
若い子にお金を払って遊びたいなら別のマッチング魔道具を使用すればいいだけだしな。
ただ、本当に一部のお金を持っている身分の高い男性は、メリアスみたいなのにのめり込んでしまいそうではある。
まあなんにせよ、ファンを自身の魔力供給源として戦いに活用するメリアスの使い方が特殊なだけだろう。
「カーミラはメリアスと仲良いのか? ラァ子はなんか、あんまりな感じだったけど」
「ん? そうだなあ……良くも悪くもないというか。よく一緒に写真撮ろうとかは言われるが、プライベートで遊んだ記憶はほとんどないかもしれん。出勤時間もあまり被らないしな」
カーミラの言う出勤時間というのは、帝国軍の戦闘配備時間ということだろう。
人間族が多くを占めるサンブレイヴ聖国とは違い、帝国軍には様々な魔人族が所属している。
種族の特性などを最大限生かせるようにヴァンパイア族のカーミラやナーガ族のラァ子は夜間の配備が多いというのは、実際に戦ったことのあるオレも把握していることだ。
「そうか、アルラウネ族だから基本的には日の出てる時間の方が調子が良いのか」
「あいつらには光合成が重要だからな。メリアスは何故か日差しを嫌っているようだが」
「なんか、葉緑素を増やしたくないとか言ってた気がするな」
「アルラウネ族としての本能に抗ってまで色白の肌を維持したいもんかのう」
まあ、人間族の女性も『日焼けは大敵』みたいなマインドの人が多いしな。
馬術部に所属してるくらいアクティブなフランキスカはそこまで気にしていないらしいが、学校の友人たちは毎日お高い日焼け止めと大きな日傘で必死に太陽光と戦っているらしい。
「そういえば前に、メリアスから我の肌が羨ましいとか言われたことがあるな」
「カーミラの肌、めちゃめちゃ色白だもんな」
「ヴァンパイア族は日に当たったら逆に調子を崩すからの」
カーミラが腕まくりをして二の腕を見せつけてくる。
「でもな、我にもやりたくても出来ないことがあるのだ」
「やりたくても出来ないこと?」
「水着の日焼け跡の境目をな。こう、チラッとやって男を誘惑みたいな」
そんなことを言いながら襟元を引っ張ってこちらに胸元を見せようとしてくるカーミラ。
いやいいからそれ。仕舞っときなさい。
ピロンッ♪
「……ん? って、またメリアスか……」
「どうしたのだ?」
「これ」
カーミラにデスティニーの画面を見せ、たった今貰ったメッセージを表示させる。
『ルイさんっお元気ですか~? 最近お会いできてなくてあたし寂しいです……来週とか時間ありませんか? お食事だけでも良いですから~』
「あなたのメリーちゃんより……こやつ、もしかしてメリアスか。色々顔写真を加工してあるから一瞬気付かなかったぞ」
「こんな感じでちょくちょく営業メッセージが来るんだよ……あ、ちなみにこのお食事ってのは交通費含め諸々オレの奢りになるやつだ」
普通に遊ぶだけなら行ってもいいかなーと思わないでもないんだけど、1度会うだけでまあまあのお金が飛んでいくし、接待みたいな対応されるのもちょっとな。
「ふむ……ルイは迷惑しているということだな?」
「まあ、そうだな。これがメリアスの熱狂的なファンなら大喜びだろうがな」
「それなら今度、我がメリアスに会ったときに一言釘を刺しておこう。我の愛するルイに手を出すなとな」
「おい、その設定はガルリックの時に終わっただろ」
でもまあ、カーミラから何かしら忠告してもらえるなら抑制効果は抜群かもしれないな。
「ふふふ、今から楽しみだ……釘を刺した時のメリアスの悲鳴がな」
「いや物理的に刺すなよ」
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