41話 第8師団の後輩アイドル
「それにしても、アイドルねえ……」
メリアスに会ってから、オレはアイドル文化について少し興味が湧いたので色々と調べていた。
自分の魔力を吸い上げられても本望というレベルの信者が出来るほどだ。下手したら洗脳兵士とか作れてしまうかもしれないし、今は衛生部隊をやってるからこちらに影響はないが、メリアスのような敵が魔力を無限回復しながら突撃してきたらたまったもんじゃない。
「おお、人間族のアイドルも結構いるんだな」
子供のころは生きるのに必死で、インロック義父さんに拾われてからはオブシディアン家の恩に報いる為に必死で己を鍛え、エビルムーン帝国と戦ってきた。
たまの休日は後輩のハルバードと遊ぶか、義妹のフランキスカの相手をするか、喫茶ハロゥでハチェットと飲み明かすかで大体終わっていたので、アイドルとかは全然見たりしてなかったんだよな。
うちは男ばかりの師団だし、アイドルに熱を入れているやつも結構いるとは聞いていたが……
「お、アニスターには人狼族のアイドルもいるのか……この子とかマズルが少し上向きで結構かわいいな」
「なにが可愛いの?」
「ああ、この人狼族の子が……」
…………。
「団長、ちょっと前までマッチング魔道具がどうとか言ってけど、最近はアイドルにハマってるんだね……」
「いや、マッチング魔道具は今でもやってる……って、そんなことはどうでも良くて」
「マッチング魔道具使って女の子引っかけて、アイドル追っかけて……いつから団長はそんなに女好きになっちゃったのさ」
「そんなんじゃない、オレは清廉潔白だ」
ハルバードにオレがアイドルを検索している所を見られてしまい『師団の精神的な慰安としてのアイドルの導入を何とかかんとか』みたいな理由で調べていたと説明する。
実際、オレが団長を務める聖国軍の第8師団は男しかいないむさい集団なので、普通の衛生班としてメリアスみたいな子たちを導入しても良いのかもしれない。
出来るかできないかは置いておいて。
「ふーん……まあいいや。でも団長、第8師団のアイドルならここにいるじゃない」
「ここって、どこに何がいるんだ?」
「ほら、ここだよ。ここ」
自分を指さしながらニパ~っとアイドルスマイルを浮かべるハルバード。
そういえばこいつ、見た目が中性的だから聖国軍の一部の連中からアイドルというか、お姫様扱いされてるみたいな話を聞いたことがあるな。
「よし、じゃあボクが団長のアイドルサポート力を見極めてあげるよ」
「サポート力?」
「団にアイドル枠の子を入れるなら、ちゃんとアイドルとして盛り上げてあげないと。ライブ盛り上げたりコールしたり。ファンも大変なんだよ」
「そういうもんなのか……」
というわけで、よく分からないがアイドル役のハルバードをサポートするファンのシミュレーションをすることになった。
「今日はボクのライブに来てくれてありがと~! あ、ルイソンさんだ! いつも会いに来てくれてありがとねっ」
「お、おう」
「団長、もっとこう、ボクをチヤホヤして褒めたたえて。あ、ボクの事はハルちゃんって呼んで」
面倒くさいアイドルだなおい。
「ハルちゃん、今日も可愛いね。ライブも盛り上がって良かったよ」
「え~? ボク、可愛い? えっへへ~」
「一緒に写真とか撮っても良いかな?」
「もちろんい~よっ! あ、ボクが右手を『d』にするから、団長は左手でハートの形作って」
「なんでそっちはハートじゃないんだよ」
「これが最近の流行りなのっ。はい、それじゃあ撮るよ~! はる・ば~ど☆」
通信魔道具を構えてパシャッと1枚写真を撮る。
そこには親指を立てたハルバードと、ひとりでハートを作ろうとしている勘違いオタクみたいなオレのツーショットが。
「……なにこれ」
「わ~めっちゃ良い写真撮れた! 団長、これ待ち受けに設定していい?」
「まあ好きにしてくれて構わないが」
「やった! 団長大好き~! 一生推し!」
いやお前がファンの方なのかよ。
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