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幸せへの選択を  作者: サカのうえ
第三章「幼き当主の蕾」
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第三十三話 少女と化け物

 ──それから173年後 シラ家が壊される3日前


 ヨヤギ家本邸のアリマの執務室は既に和風から変わって洋風になっている。そして机の上にはそれぞれお茶が入った湯呑みが2つ置かれている。その机を挟んで左側のソファーに変わらずの灰色の着物を着た髪を下で結んでいるアリマが座っていて右側のソファーにシラ家の黒い貴族服を着たハジメが座っていた。


「シラ家が処刑課に壊される……そうか。其れで何の用だ? 本題に入れ」


 アリマは常に無表情で左手に湯呑みを持ってハジメを見て問うも。ハジメは真剣ながら深刻そうな表情で少し前屈みに俯いている。


「フラブを守ってほしくてな。十中八九……俺もミハも殺される。ここ最近の処刑課の動きを予想するのなら徹底的にミハの無罪を揉み消しに来るだろう」


 ハジメの真剣な言葉にアリマは少し目を見開いて湯呑みを机の上に置いた。


「死ぬ……? 待て、冤罪だとしてもミハさんがそこまで重罪を犯したワケではないだろう。それに処刑課に名家の者を殺す度胸と権力……あるワケがない」


「当たり前だ。正直に言えば処刑課に裏があることは確実だろ。だが変に中途半端に処刑課に刃向かえばそれこそ名家として……それよりあのクソ親父が。最高管理者の割に仕事をしない」


 圧ある声色でそう言うハジメは悲しそうな何故か明るい表情でアリマを見て、それにアリマは深刻そうにも真剣な表情へと変わった。


「……覚悟はあるんだな?」


「ああ。既にコウファとミハと話し終えてるし……だからアリマ。俺たちシラ家が社会的にも殺された原因と処刑課に対する調べを、──誰よりも強くて優しい信用に値するお前に任せたい」


 確固たる意思で真剣な眼差しを向けているハジメの言葉に嘘も動揺も存在しない。


「あと、フラブのこともお前に任せる。いいか? これは俺とミハが容易に下した決定ではない。出来ることなら……コウファも守ってやらないと、守りたかったんだが……」


「仕方ない。もし今回逃げられたとして、幼い娘さんはともかくコウファ君も指名手配されるだろう」


「ああ。お前の全てを信じるぞ、アリマ」


 その言葉に込められた重みをアリマは深く背負いながら覚悟を決めて再びハジメの目を見る。


「覚悟があるのなら余から言うことはない。処刑課については余とて既に警戒はしているからな」


 それから3日後に予定通りシラ・ハジメは無慈悲にも殺された。殺される事はハジメから事前に聞いていたアリマ。だが予想外に山奥には化け物が居た。


 毛先が黄色い黒髪のドレスの衣服が微かに燃えている身長80センチ程の少女。その周りに沢山の燃え焦げた形をやっとで保っている沢山の死体。


 ただ誰でも異常だと分かる程の殺気と狂気が酸素と同化したかの用に漂っていた。


「何が起きて……」


 様子を見に来たアリマがただ呆然とそう言葉を溢した瞬間にその少女と目が合った。その目が合った瞬間に背筋が凍る程の恐怖とドス黒い目に冷や汗を流す。


「……っ」


 ──久しぶりの死の予感、それにアリマは躊躇わずに左腕を前に出して少女に左手を当てる。


 ──花草魔法「血華」


 アリマが魔法を使った瞬間、少女の足から次第に身体中へ可愛らしい花が咲き始める。花が咲いた箇所の体が次第に枯れ始めるも、少女は無反応、無表情でアリマの元へ歩き出す。──枯れ始めた体の沢山の箇所からは血が流れるも、気にも留めない光景にアリマは目を大きく見開いた。


「其処まで無反応など人間に……しかも子供に有り得るのか……?」


 ──直後、アリマの視界から少女が消えてアリマの右手側に現れアリマに左足で蹴りかかる。

 だがアリマも強さや思考速度も全て化け物のため瞬時に対応して右腕で受け止めたのだが。それでも左足を受け止めた箇所からアリマの体へ物凄い速さで電気が流れた。


「……っ! 魔法が使える歳なのかっ!?」


 アリマは眉を顰めて左腕で少女の左足を掴んで力を入れて少女が元居た位置へと投げる。速度0.8秒でその地点に物凄い土煙が舞い、アリマは油断せずにその土煙を見て警戒を止めない。ーーだが土煙が晴れた頃、少女がゆっくり起き上がってきて両拳に炎を纏った。


 ─ ……! 余が全力で投げただろうッ! つまり5段以上……怪物級か……!


 ──変幻魔法「現…


 アリマの魔法を遮るように小型の魔力通信機に父アサヒトから通信が来て、アリマは小型魔力通信機を左耳に掛ける。


「アリマ。適性魔法は使ったら駄目だよ」


 優しい声色のアサヒトの言葉にアリマは目を大きく見開いて辺りを見渡す。すると木々よりも遥か上に魔動操縦機が浮いていて呆れるような目で魔動操縦機を見る。


「父様……まぁ良いですが。あの化け物、どうするのが正解でしょうか?」


 アリマは冷静に無表情でそう言いながら止まってアリマを見て首を傾げている少女の方を見る。


「彼女ね……多分だけどフラブちゃんだろう。魔力も異質だけど薄らとハジメの魔力も覚えてしまうからね」


「……だとしても有り得ないでしょう。ハジメから聞いた話だとまだ7歳、そして魔法が使える歳の基準が100歳以上。故に魔法が使えるわけがない。其れに使えたとしても力が異質に強かった」


 冷たくも少女の方を見ながらアリマが冷静に淡々とそう言いつつも少しの間無言が続いた。


「……ハジメの適性魔法を使った、他の炎はミハさんの電気はコウファ君のかな。通常なら有り得ないけどそう考える事は出来ないかい?」


 アサヒトの言葉にアリマは目を大きく見開き少女を見て反論する言葉を詰まらせる。ありえないがありえてしまう、アサヒトの言葉にはそんな説得力があってしまった。


「……一旦気絶させます」


 アリマは無表情でそう言い、少女の背後に回って左手で背中を触る。それに少女は反応さえ出来ずに一瞬で体に電気が流れ気絶して前方に倒れた。


「…そうだね、アリマ。これからアリマをその子の世話係に任命します!」


 アサヒトのふざけた口調の言葉にアリマは目を少し見開いて冷たい目を向ける。


「娘さんのことはハジメからも頼まれていました。しかし状況が違うでしょう。もし目が覚めても化け物だったらどうする気ですか? 厳重な檻に入れるか殺すかが最適だと…」


「それは何があっても駄目だ」


 アサヒトの真剣な口調の言葉にアリマは言葉を喉に詰まらせた。


「分かるだろう? 170年程前、アリマも化け物だと避けられて利用されていた。その孤独がどれだけ辛いか……アリマなら誰よりも理解出来るはずだ」


「……分かりました。余が殺されれば骨くらいは拾って下さい」


 優しい声色にも冷たくそう言って通信を切り、少女の方を見ると髪の色が黒一色に変わっていた。そして明るい表情で俯きに顔だけ横を向いてすやすやと眠っている。それは殺意とは程遠く、アリマは屈んで右手で少女の髪を優しく掬い上げるように触った。


「髪色……なんなんだ、この子は……」



 それから丸一日が経過した頃の早朝。

 ──死体はアリマが全て燃やしており燃えた家の灰は害のない様に消滅魔法で消していた。


 アリマは邸を囲っていた沢山の木々の整備された道とは反対側の1本の木を素手で壊した後、幹を2つに切断して縦に重ね固定。そしてそれを横にして座って無表情で左手に本を持って読んでいた。少女は目を覚まして木に座って本を読んでいるアリマの左足にしがみついていた。


「……目を覚ましたのか」


 無表情なアリマは本を閉じて無表情で少女の方を見ると。その少女は怒ってるように頬を膨らませてアリマを見上げていた。


「だれ!?」


 表情と行動からの見て予想外の言葉にアリマは困るも無表情で少女を見る。


「ヨヤギ・アリマ、ヨヤギ家の当主で君の世話係を任せられた。君は?」


 小首を傾げながらもアリマがそう言うも、少女は警戒するような目でアリマを見上げていた。


「わたしのなまえ、しらふらぶ! せわがかりってなに!?」


「……親代わりみたいなものだ」


 アリマの冷静な言葉に少女、フラブは目を見開いて次々と涙を流して泣き出した。


「おかあざまもっ、おどうさまもっ……おにいざまも殺されたっ! ふらぶのせいでっ…!」


「……やり辛い子だな。生後1ヶ月の弟達よりも会話が難しい……」


 アリマは本を置いて困ったように右足にしがみついているフラブの頭を優しく撫でる。


「フラブ君、泣くな。泣く暇があるなら殺した者へ復讐するために強くなれば良いだろう」


 ─ 殺した処刑課は多分、この子が既に殺しているが泣き止ます方法を此れ以外知らないからな……


 アリマは深刻そうに考えながらフラブを表情を変えずに見てると、フラブは泣き止むのと同時にアリマの右足の衣服で涙を拭き始めた。


「は……? 君は脳を捨てて来たのか……?」


 フラブは少し泣き止み、アリマの右足に掴まったまま真っ直ぐな可愛い目で再びアリマを見上げる。


「ふらぶ、つよくなれる?」


 アリマは困って少し冷や汗を流し、無表情でフラブを見下ろしていた。


「……ああ。君が強くなるために一旦余の右足から離れなさい」


 アリマがそう言うとフラブはアリマの右足を使って丸太に登り、アリマに背を向けて前に座った。


「……何だ?」


 フラブは無言でアリマが右手側に置いた本を取って両手で持って読み始める。


「ふらぶ、べんきょーするの! このじなに!」


 フラブがそう聞きながら右手を離そうとすると、思わず落としそうになる。それをアリマが軽々と右手で支え、結果的にアリマが両手で本を持ってフラブの高さに合わせて見せた。


「此れは時間と読む。例えば6時と18時の間とかを指す言葉だな」


 アリマは困惑するも弟達の世話をしていたため何となくで教えていた。


「ふらぶあたまいい!」


「急にそう言われても……」


 フラブの予想外の言動にアリマは困りつつも受け答えをして、気がつけば太陽が真上に登っていた。


「ふらぶおなかすいた! ふらぶがりょうりする!」


 フラブはそう言って動こうとするも、アリマは本を閉じ右手側に置いてフラブの両脇を掴んで元の位置に戻す。


「酷だが料理をするための場所も無いだろう? 君に火や包丁を使わせるのも駄目だ」


 そんな冷静な言葉にフラブはアリマに凭れる。


「じゃあどうするの? ありまものたれじぬの?」


「……凄い言葉を使うな。まず歳上には敬語を使いなさい。フラブ君」


「けいごってなに!?」


 フラブは興味津々な表情で目を輝かせながらもアリマを見上げる。


「……まぁ良い。其の代わりに、名前に対してさん付けはしろ。余の場合はアリマさんと呼ぶんだ」


「アリマさん! ふらぶは、アリマさんを、アリマさんさんってよべばいいんだね!……それだと、アリマさんさんさんになる!?」


 ハッと気づいて驚いたようにアリマを見つめるフラブは人差し指を唇に置いて考え始める。


「……さんさんさんにはならない。アリマさん、だ。わかったか?」


「……〜わかった!」


 フラブは明るい表情で笑顔でそう答えるも、イマイチ理解できてなさそうだ。


「ああ。肩車をするから余に捕まっとけ」


 アリマはそう言ってフラブの両脇を掴んで軽々と持ち上げて肩に乗せて肩車をした。それにフラブは目をキラキラ輝かせながら高くなった景色を見渡す。


「ふらぶつよくなった!」


「なってない。其れより落ちないように捕まりなさい」


 フラブは元気良く明るい表情でアリマの頭に両腕を回して強く掴む。それを確認したアリマは地面を強く踏み込んで目に見えない速さで左斜めの方向に真っ直ぐ進んだ。踏み込んだだけでその地面は8メートル程強くヒビ割れて。アリマは目に見えない物凄い速さで獣魔物を倒して行きフラブはとても笑顔で楽しんでいた。──そしてその獣魔物は全て回収した後に山積みに置いてその山の前に立つ。


「たのしかったね! ありまさん!」


 フラブは肩車をされたまま、楽しくて両手でアリマの頭を叩いていた。


「ああ。子供は無情だな」


 疲れたように言うアリマはフラブを肩車したまま死んだ3匹の獣魔物も一緒に本邸にの厨房に転移した。


 そして多々ありながらもフラブとアリマは元の丸太に座って昼食を食べる。昼食は白米と魔肉野菜炒めで野菜は玉ねぎやピーマンや人参などが入っていた。


 フラブは心置きなく右手にスプーンを持って笑顔で食べ始めて目をキラキラ輝かせながら左手側に居るアリマの方を見る。


「おいしい! まさか! ありまさんっておんなのひとなの……!?」


 アリマは左手に持つスプーンを皿の上に置いて驚き疲れた表情でフラブを見下ろした。


「は……? こんな筋肉質な女性がいるか。それに今どきそんな偏見を持つ者は居ないだろう。1人暮らしで家事が出来なくてどうする」


 アリマの言葉にフラブはムッと怒った表情でアリマを見上げる。


「いみがわからないことばかり、いわないで! なにからきいたら良いのかわかんないでしょ!」


「余は君のお世話係では……お世話係だったな……」


 呆れるような目でフラブを見ながらもアリマは疲れて前屈みで俯き目を瞑って軽く溜め息を吐いた。するとフラブがお皿を自身の太ももの上に置いてアリマの背中を優しく摩った。


「だいじょうぶ? きぶんわるいの?」


 フラブは心配そうな目つきでアリマを見て言い、アリマは驚き少し目を見開いてフラブの方を見る。


「ごめんなさい……ここからはなれないの、ふらぶあたまいいからわかるよ……」


 フラブは申し訳なさそうな表情で俯いて元気もない口調でそう言葉を溢した。だがアリマは少し道が開けたかのようにフラブの方を見ては見て優しく微笑む。


「違う。余がなるべく君と2人きりで居たいから此処から離れないんだ」


 そのアリマの姿にフラブは嬉しそうに頬を赤くして笑い表情が晴れた。そして明るい表情で微笑んで楽しそうに嬉しそうにご飯を食べ進めたのだが。


「ありまさん!」


 急なフラブの元気ある声にアリマは無表情でフラブの方を見る。


「ふらぶこれきらい!」


 フラブは嫌そうな表情をしながらアリマを見て、スプーンで人参を指していた。


「まずは食べろ。ニンジンの数が減っていない」


「でも、きらいだから……」


 フラブは落ち込むようにお皿を見ていて、アリマは気にせず食べすすめた。


「ありまさん、すぷーんもつてちがう! みぎてでもたないの?」


 フラブは不思議そうな目でスプーンを持ってる左手を見ていた。


「余の利き手が左手なのたがら仕方ないだろう。フラブ君は初対面の余を警戒しないのか?」


「……けいかいってなに?」


 フラブの問いにアリマは少し驚いて心配そうな目でフラブを見る。


「……余が悪い人だったらどうしたんだ?」


「わるいひとだったら、ふらぶがたおす! でもね、ごはんもつくってくれたから、わるいひとじゃないよ!」


 フラブは真剣な表情でアリマを見てそう言い、アリマは優しい表情を浮かべる。


「そうだな」


 それから少し経過し、アリマもフラブもご飯を食べ終えて、アリマは2つの皿とスプーンだけ転移魔法で自身の家の台所に転移させた。


「……水を取って来る。10秒待て」


 アリマはそう言って立ち上がり転移魔法でその場を後にした。


「いなくなった!」


 フラブは驚くもアリマが居なくなった瞬間に沢山の獣魔物がフラブの前に現れた。


「なんで、まもの……」


 フラブは恐怖で足が震えて動けず、獣魔物はフラブ囲っていきフラブは怯える様に周りを見渡す。沢山の獣魔物はフラブを強く睨んで一斉にフラブに襲いかかった。ーーフラブは恐怖でどうする事も出来ずに怯えて震えて全身に力を入れて目を強く瞑る。


「フラブ君、怪我は?」


 アリマの声と共にフラブは恐る恐る目を開くと左前に何も持ってないアリマが居た。辺りを見渡すと、アリマが軽々と全匹の獣魔物の首を茎で締めていて獣魔物は全匹倒れていた。


「ありま、さんっ……」


 フラブは獣魔物の恐怖と助かった安心感で涙を次々と流し始め、アリマは困惑してフラブの前でしゃがむ。


「すまない。怪我があるなら見せてくれ」


 そう申し訳なさそうに言うアリマは涙を次々と溢れ出しているフラブを見る。フラブは泣いたまま丸太から降りて勢い良くアリマに抱きついた。


「こわがった……っ」


 アリマは右手で優しくフラブの背中を摩り、フラブは暫く大泣きした。


「そろそろ泣き止め。余が居る限り獣魔物は余を恐れて襲って来ない」


 アリマがそう言うとフラブはアリマの羽織物で涙を拭いて泣き止んでアリマからゆっくり離れる。


「みずのみたい!」


 フラブは笑顔でアリマを見てそう言い、アリマも優しい表情へ変わりフラブと共に転移魔法を使った。


 転移先はアリマの1人暮らしをしてる家の台所。アリマは立ち上がって後方にある冷蔵庫へ歩くも、フラブは不思議そうに辺りを見渡していた。


「ここどこ? ありまさん」


 アリマは無視して冷蔵庫から冷水筒を取り出し、収納スペースから湯呑みを2つ取り出して机の上に置く。するとフラブがアリマの右足に力強く掴まってアリマを見上げる。


「ここどこ?」


 フラブは警戒するような目でアリマを見て、アリマは無表情でフラブを見下ろす。


「此処は余の家だ。案ずるな。成る可く早く戻らねばシラ家の資産や領地を奪おうとする馬鹿が現れるからな」


「それってどういうこと? わかりやすくいって!」


 フラブはアリマの右足に掴まりアリマを見上げたまま首を傾げる。


「……君の親の宝物を盗もうとする者が訪れると言うことだ」


「それはたいへんだ! ふらぶがまもらないと!」


 真剣な表情でアリマを見上げて言うフラブにアリマは優しい表情でフラブを見下ろした。


「そうだな」


 それから元いたシラ家の領地の山奥へ戻り2人で水を飲んだ。



 3時間後、──アリマが素手で木を折って簡易な正方形の机を作り、机の上にコップ等を置いた。フラブはアリマの側で不思議そうにしながら見守っていた。


「風呂場も壊れているから家を簡易的に作って水を再び通すか……」


 アリマは羽織物の内側から腕を組んで左手を顎にあてて考え始める。


「ありまさん、むずかしい?」


 フラブは心配そうな目でアリマを見上げていて、アリマは優しい表情でフラブを見下ろす。


「否、難しい事はない。少し面倒だから弟に押し付けようと考えていた」


 その瞬間アリマが転移魔法で居なくなり、5秒後にアツトと幼いアマネの襟を左手で持って現れた。アツトは青年で、アマネは少年ほどの見た目でいて苦しそうに両手で自身の首を掴んでいた。


「では任せようか。アツト、アマネ」


 アリマはそう言って襟を離し、アツトとアマネは地面に膝を着いて苦しそうに咳き込んだ。フラブはひたすらに不思議そうな目でアツトとアマネを見ていた。


「アリマ兄様、何ですか急に! 刀の修練の邪魔をしないでください!」


 そう言うアマネはアリマを軽く睨んで見上げていて確かに鞘から刀を抜いて右手に持っている。


「まさか俺と戦ってくれるのか!? アリマ兄様!」


 そう嬉しそうに言うアツトは希望に溢れた明るい表情でアリマを見上げている。


「否。家の修繕をやってもらう」


 アリマの言葉にアマネは後方の家を振り返って見てアツトは首を傾げてアリマを見上げていた。


「家の修繕って……」


 アマネはそう考えながら左手側にいた不思議そうな表情を浮かべているフラブに気づいて言葉を止める。


「……そう言うことですか。シラ家関連ですね、父様から概要は聞いています」


 アマネは冷静にも優しい表情でそう言いながらゆっくり立ち上がる。


「ん? どう言う事だ? アマネ」


 アツトは状況がまだ理解出来ず立ち上がって左手側に居るアマネを見る。


「家を建ててくれ。完成したら戦ってやろう、アツト」


 アリマは優しく微笑んでアツトを見て言い、アツトは表情が明るくなる。


「ぜひ俺に任せて下さい! アリマ兄様!」


 次にアリマは優しく微笑んだままアマネの方を見たのだがアマネとフラブは楽しそうに話をしていた。


「フラブ様。俺はヨヤギ・アマネです。よろしくお願いします」


「うん! わたしね! しらふらぶ!」


 その微笑ましい光景を目の当たりにしたアリマは何とも言えない表情で微かに俯いた。


「……打ち解けるの早くないか?」


 だがフラブはこのアマネとの事を覚えておらず190年後に初めましてで再会したとか。


「……フラブ君はアマネに任せようか」


 こうして幾度と時間が経過していき、アリマとアツトで建てた少し手抜きの少しボロボロな民家みたいな家が完成した。

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