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幸せへの選択を  作者: サカのうえ
第序章「過去の記憶」
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第二話 190年目の過去

 フラブはユーフェリカに御萩を奢ってもらい、その後に別れてどこにでもある様な宿に入った。

 王都は日が暮れても明るく賑わっていて交代制のため夜も警備員が一定位置に居る。


 フラブが入った宿はこれといって特徴の無い簡素な宿だった。高級でも安くもない宿の白くふかふかなベットで眠りに入る。180年ぶりの睡眠、見た夢はとても太陽が眩しい朝の夢だった。


 大きな机に凡庸な椅子、どこにでもある様な貴族らしい食卓の風景。部屋も至って普通で、この部屋で他にあるのはドアと窓だけ。

 机の椅子に座る黄色いドレスを着た少女は黒い髪を揺らし目をキラキラ輝かせている。


「お母さま! フラブいつになったら魔法が使えるようになるかなっ?」


 そう問う幼いフラブは朝食を前にフォークとナイフを片手ずつに持ち反対の席に座る母の方を見る。


「そうね、あと100年はかかると思うわ」


 反対側の席に座っていた母、ミハは黒く美しい瞳に黒く長い美しい髪を右下で纏めている。簡素な長袖長ズボンという服装だが美しい容姿とスタイルが普通の食卓を彩る花のような気品がある。

 ミハはフラブの方を見て微笑んで答え、それにフラブは残念そうに少しだけ俯いた。


「100年もあとなの? フラブもお母さまとお父さまみたいな凄くて強い魔法使いになりたいのに……」


 フラブが残念そうに微かに俯きながらそう言うとミハは優しく微笑んだ。


「ふふっ……! 嬉しい事を言ってくれるわね? フラブ。魔法を使える用になるのは沢山の訓練がいるの。でもフラブはまだ7歳でしょ?」


 次第に落ち込むフラブだがミハは優しく見守るような表情でフラブの方を見ている。


「下手したら暴発してフラブ自身と周りを巻き込んじゃうかも。だから今のうちに座学を頑張りなさい?」


 フラブとミハが話をしていたらドアから入って来た兄コウファが話にも入って来た。


 コウファは父親譲りの黄色い髪と毛先だけ母親譲りの黒い短い髪、瞳は完全に母親譲りで黒い。貴族の黒い服を着たかなりの好青年だ。


「勉強なら僕を頼りなよ、フラブ。こう見えてお兄ちゃんは1番凄い学校の首席なんだ」


 コウファが話しかけた瞬間フラブはコウファの方を見て目をキラキラさせ小走りで近づく。


「お兄様! 今日も学校ですか?」


 突然近くに来たフラブを見て、きょとんとした顔をしたコウファだが直ぐに笑顔になった。


「あははっ! 今日もフラブは可愛いなー! 僕は今日休みだよ」


 コウファはフラブの低く軽い体の両脇を掴み上へ持ち上げる。するとコウファの服についてるポケットから手のひらサイズの魔道具から何通かの音が鳴る。


 偶然にも服からその魔道具が落ちて、コウファは落ちた魔道具を取ろうとフラブを下ろした。だがその画面を見たフラブは揶揄い気味な表情でコウファを見上げる。


「お兄様モテモテだ! フラブ知ってるよ、こういうの、えっーと……モテ期って言うんでしょー!」


 フラブが楽しそうにそう言うとコウファは蹲り両手で顔を抑え泣き出した。もちろん嬉し涙だ。


「フラブ! もうそんな単語覚えたのかい? フラブの成長が怖いよ、僕は……!」


 その場で蹲ったコウファを見てフラブは不思議そうに見つめる。ドアが開いた音がして、突然背後から先程と同じように上へ持ち上げられた。


「相変わらずの家族愛だな! コウファ! フラブも何か言ってやったらどうだ?」


 鍛え上げられた筋肉を自慢するかの様な白服半袖でとても大きい声、家族に1人しかいない。その男性は黄色く短いボサボサな髪に黄緑色に近い黄色い瞳、身長は2メートル位でかなり高い。


「お父様、お仕事から帰ってたんですか! 大丈夫でしたか、僕も凄く心配してたんですよ。家族1人でも欠けたら僕もうどうしたらいいか」


 父ハジメの登場にコウファは嬉し、いや心配からの安心涙を流し大号泣する。


「こら! コウファ、朝っから泣かれたら皆んな混乱するでしょ?」


 流石にずっと見ていたミハも怒りを表現に顕にしながら口を挟んで注意したのだが。それにもハジメは楽しそうに微笑んでコウファを見ていた。


「全くだな!」


 そしてフラブを地面に下ろしたハジメも腕を組みながらコウファを見下ろす。


「善処します。ですがお母様とお父様は尊敬出来る人柄でフラブは可愛くか弱いので僕は心配なんですよ。大事な人を失うのは凄く、その……怖い事なので……」


 コウファが悲しそうにも震えた声でそう言うと空気ごと静まり返る。そしてご飯を食べ終えたミハはある事を思い出して席を立ち上がった。


「あなた? 今日確かヨヤギ家の当主が来る日だった気がするの」


 それにハジメは変わらず優しい表情を浮かべながらミハの方を振り向く。


「ああ、確か今日か。アリマは他と多少変わってるからな! だが俺が居れば大丈夫だろ!」


 楽しそうに笑いながら答えるハジメ。それにミハは呆れたような目を向ける。


「そう言うことじゃないわ。私はその格好をどうにかしなさいと言ってるの」


 ミハの呆れたような怒っている言葉にハジメは少し目を見開いて自身の格好を見る。


「そうだったな! ありがとう、忘れていた!」


 そして反省したのか分からないがハジメは元気良くドアから部屋を後にした。次にミハは見守るような優しい表情でフラブとコウファの方を見る。


 幼いフラブは母親と父親のそんな会話を不思議そうに聞いていて小首を傾げた。


「……そうだ、お兄さま。ざがく? おべんきょうって何をしたらいいの?」


 フラブは地面に蹲って泣いているコウファを上から見下ろしながら不思議そうに質問した。


「あー、座学って言うのはね。魔力について詳しく勉強したりするんだけど……フラブは読めない字と遭遇したことある?」


「フラブあるよ! えーっと、えーっと……」


 幼いフラブは考える時の癖なのか右手の人差し指を唇の下に置いて考え始める。


「考えてる姿も可愛、いや違う消えろ僕の脳みそ今妹が頑張ってるんだぞ」


 コウファのその発言でフラブは考えるのを止めて空気が冷たくなった。


「急にどうしたの? お兄さま?」


「えーっと……大丈夫。思い出さなくても良いよ。そのわからない字を読み書き出来るようになるためとか、つまり知らない事を知るためにあるんだよ」


 コウファは先程までの空気を変える用に笑顔で座学とは何かを説明する。


「そうなんだぁっ! 凄いね、ざがく、って! あ、聞きたいこと思い出した! お兄さまは魔法とか使えるのっ?」


 目を星のようにキラキラ輝かせながら前のめりに問いながら兄コウファを見つめている。


「フラブのお兄様は魔力が強過ぎて使えば辺り一面吹き飛んじゃうから今は使えない、かな……!」


 目を輝かせているフラブを見てコウファは焦り咄嗟に出た言い訳をする。ただミハは口を挟むことなく優しい表情で暖かく言い訳すらも見守っていた。


「お兄様、格好いい! フラブもそれぐらい強くなって、お兄さまとお母さまとお父さまを守れるようになるんだ!」


 満面の笑顔でそう言うと、いつもなら感動するコウファだが目を見開いて驚いている。



 ーーだがこれは夢という事を教えられるかのように1秒後には焼けた家と焼けた家族の情景が映った。


「これはアルフェード教会の一件が無ければ存在した家族が全員死んだ日の朝の光景だ」


 突然背後からフードを深く被った女性らしき者が不気味に話しかけてきた。


「……貴様は誰だ?」


 警戒するようにフラブは身構えようとするも、魔法が使えないことに気づいて目を見開く。


「君がこれから進む道は感情が無ければ良かったと思える程過酷な復讐劇だ。時には仲間さえ恨んでしまう事もあるかもな。君にそれは耐えきれるのか?」


 その淡々としている何者かからの問いにフラブは深く瞬きして決意めいた表情を浮かべた。


「私は考える事が苦手なんだ。そんなのわかるわけないだろう。だけど私は未来の自分を信じる」


「そうか、なら貴様が……」


 だがその人はさっと霧のように最初から無かったかのように暗闇の中へと姿を消した。


「話の途中で消えるか? 普通……」



 小鳥の鳴き声で目を覚ます。……予定だったが鳥は大抵全滅していて存在しない。フラブは鳥の形をした魔道具の五月蝿い鳴き声で目を覚ました。


「今日は思い出せないタイプの夢だったな」


 眠たそうに言いながらも壁に掛かっている時計を見ると朝6時半を指していてユーフィリカと待ち合わせした時間は朝7時。つまり非常にまずい。フラブは慌てて急ぎで身支度を終わらせた。


「準備出来た……!」


 嬉しそうに誇らしげに言うフラブはあまり変わらない簡素な服装で後ろ髪も変わらず1つに束ねている。部屋の少し重いドアを開け一歩踏み出すと目の前に見慣れた姿があった。


「フラブさん! 時間余り過ぎたので直接来ました!」


 その女の子は自身と同じ身長の杖を持っており、フラブを見た瞬間凄い笑顔になる。


「ユーフェリカ! ……宿屋は良いとして何故部屋がわかった?」


 フラブは少し警戒するような目でユーフェリカを見て質問したのだが。ユーフェリカはフラブを見て誤魔化すように優しく微笑んだ。


「それは私の人脈というコネのお陰、でしょうか?」


「質問に質問で返すな。何故答えが疑問系なんだ」


「まぁそれは良いとして、カケイ君とは雀荘で待ち合わせしてるので早く向かいましょう!」


 ユーフェリカはフラブの手を引き手前の階段を降りようとした。だが手は引けなかった。それにユーフェリカはフラブの方を見て不思議そうに小首を傾げる。


「えーっと? フラブさん?」


「ユーフェリカ、雀荘とはなんだ?」


 フラブがその質問をすると3秒間があったがユーフェリカが納得をした顔をした。


「そうでしたか。確かに王都にしかないですし……ずっと引き篭もってたから王都が初なんでしたね! でもあまり重要ではないので……ではそうですね、雀荘は遊び場って思って頂ければ!」


「ん? カケイ君って言う人は遊ぶのが好きなのか?」


 不思議そうに問うフラブの手も引けないことにユーフェリカは何とも言えない表情を浮かべる。


「はい、私は次にその質問されると思ってました! 面倒くさいので説明省きます!」


 ユーフィリカは再びフラブの手を引いて手前の階段を降りようとした。成功した。

 それから街中を歩いていると珍しい完全な黒髪黒目からかそれなりには注目された。


「あの2人、可愛らしいわね。兄妹かしら?」

「俺は手合わせしてみてぇな! 直感だがかなり強いぜ、あいつ! 直感だがな!」


 野蛮にも突如ナンパされたりしたが、その度にフラブが無言腹パンで全員倒した。


「そういえばフラブさんって、ずっとヨヤギ・アリマさんと過ごしてたんですか?」


 ふと不思議に思ったのか急にそんな質問をしてくるユーフェリカは常に前を向いて歩いている。


「ん? それは違う。子供の頃10年間だけアリマさんにお世話になった。随分と嫌われてるらしいがな。とても鬼だけどお節介な人なんだ」


 フラブは昔を思い出しながら優しい表情でユーフェリカに教える。だがユーフェリカは突然足を止めた。


「ヨヤギ・アリマ……その人がフラブさんを守ってくれた理由とかって聞いてます?」


 そう真剣に問うユーフェリカは深刻そうな顔をしてフラブの方を見る。


「……それは重要な事か? 私も会えれば聞こうとは思っているが……」


「あー、そうですよね! すみません! もう少しでつきますよー!」


 そう明るい声で言うユーフェリカは誤魔化すために話を終わらしたように感じ取れる。こんな事があったが取り敢えず2人で目的地の建物の前まで来た。

 壁の色も抜け、台風程の風が吹けば家ごと飛んで行ってしまうような、でもそれが何処か親しみを覚えるような、そんな2階建ての建物だった。


 フラブは店を見たあとに何も言えず軽く腕を組んでユーフェリカの方を見る。


「ここ本当に古い建物ですよね? それはそうとカケイ君はここの2階に住んでるので早く部屋に突撃しましょう!」


 ユーフェリカは建物の2階を指差し、フラブの方を向いて微笑んでいる。それにフラブは驚いて目を少し見開いた。


「え……? 遊び場の2階に住んでるのか? それは置いといてカケイ君さんには突撃する連絡はしてるんだろうな?」


「は? あ、いえ……フラブ様って、真面目ですね? 真面目は悪い事ではありません。ですが! 連絡を入れたらドッキリじゃなくなる!」


 その勢いあるユーフェリカの言葉にフラブは腕を組んで目を瞑り考え「そう、か」と溢し。


「確かに私は常識を殆ど知らないからな。ユーフェリカに任せる」


 だがフラブが考えてる間にユーフェリカは既に突撃していたみたいで姿が見えない。


「っもういない…」


 勢い良くユーフェリカが開けて入ったドアから中に入りゆっくりドアを閉める。入ると直ぐ右手側、レジらしき所に年老いたお婆さんがいた。


「ユーフェリカのお友達かい?」


 そのレジらしき所にいたお婆さんがフラブに優しく問いかけた。


「友達ではない。昨日知り合ったばかりだからな。それはそうとお婆さん、歳いくつだ?」


「……わしは921歳だよ。全く。初対面で年齢を聞くなんて失礼なこと、カケイの奴と君の2人だけだっての」


 お婆さんは呆れるような目でフラブを見ながら面倒くさそうにそう答えた。


「それは失礼でした、すみません。では何故貴女に老化魔法が掛けられた形跡があるんですか?」


 そう真剣な声色で問うフラブ。それにお婆さんは驚いて大きく目を見開きながら咄嗟にフラブの方を見つめる。


「図星か。……これでも魔眼を持っていてな。人にかけられた魔法とかは大体分かる」


 少し悲しそうに説明をするフラブは魔眼と言うものについて思うところがあるのか。ただ冷静に悲しみさえ無視して真剣な口調で話を戻す。


「まぁ本題だ。誰にかけられた? ──そして何故嘘をついた?」


 フラブが真剣に眉間に皺を寄せながらもそう問い詰めるとお婆さんは息を呑み込み話そうとした直後。


「おーい! フラブさーん! 早く! 遅いですよー!」


 階段の上あたりから聞こえるユーフェリカの元気があるその一言が場を白けさせた。


「っすみません。言いたくない事くらい誰にでもありますからね」


 その空気で我に返ったかのようにフラブは申し訳なさそうな表情で再びお婆さんの方を見る。ただそのお婆さんは焦りと困惑と冷めた空気に戸惑い続けていた。


「……──あと疑って問い詰めてしまうのは悪い癖なんです。気にしないで下さい。それでは……」


「まっ、待って!」


 歩いて階段を上ろうと進んだフラブを焦った口調で呼び止めるお婆さん。それにフラブは少し深刻そうな表情で足を止めては振り向いた。


「このことユーフェリカとカケイには言わないで!」


「……それは何故だ?」


 恐る恐る深刻そうに、怪しむように問うフラブは見るからに必死そうなお婆さんを瞳に映している。


「カケイには知られたくない! 義理の息子なの! 知られたら心配するに違いないわ!」


 若々しい口調で、お婆さんは勇気を持ってフラブに伝えたと分かるほど真剣にフラブの背中を見つめていた。


「それなら問題ない。貴方に年齢を聞いたのはカケイ君さんも。知っていて聞いていると思いますよ?」


「カケイには! 事実を完全に知られて迷惑をかけたくない! 義理でも大事な1人の息子なんだ!」


「自分の事より他人の迷惑を優先……そう考えるのなら寿命で死ねません。アリマさんからの教えです」


 淡々としている冷たいフラブの過去に触れたかのようにお婆さんは言葉を呑んだ。その冷たさは大きい氷に触れたかのような、鋭利に触れたかのような鋭さまでも含んでいる。


「……アリマ? まって君の……その見た目! いや貴女の名前は?」


「……シラ・フラブです」


 微かに悲しそうな口調でも嫌そうに名乗るフラブは拳を軽く握りしめている。そのフラブの名前にお婆さんは驚きを隠せずに大きく目を見開いた。


「シラ、って……あのシラ家の?」


「やっぱり実年齢、そんないってなかったんだな? 義母さん」


 そんな激しい口争いは2階から階段をゆっくり下りて来て、声色では性別さえ分からない者の一言で幕を下ろした。


 その者はユーフェリカと同じくらいの低身長で、短いストレートの白髪で肌も白く目も真っ白。服もズボンも半袖で白く、白を権化とした者のような少年らしい姿だった。


「なっ、カケイ! これは作り話を語っていただけ! 案外話が合うだけで、この人と!」


「ん? 別に俺ぁ義母さんに匿ってくれた恩とか感じてねぇよ」


 白い者、カケイは怠そうに面倒くさそうな口調でフラブの方を見ながらそう言い返す。それにお婆さんは戸惑うも、どこか安心したかのような表情をしていた。


「ちょっと! 流石にそれはないよ! カケイ君!」


 カケイの後からついて来たユーフェリカはカケイの言葉に怒ったような表情を浮かべていた。だがフラブは冷静にも怪しむような素振りなく真剣にカケイを見る。


「そうか。君がカケイ君さんか。少し話がある。外で話せるか?」


 深刻そうなフラブの言葉に、カケイは何故か笑顔になる。それはまるで作られた太陽のような笑顔とも言える。


「ん、饅頭奢ってくれ! それぁ置いといて確か、ユーフェリカが言うにあんたシラ家の生き残りなんだろ? 俺からも話がある」


「……そうか君もシラ家を知っているのか。名家だが今や機能していないんだぞ」


「ん? 知ってるも何も機能してなくても名家を知らない奴なんていないだろ。有名だからな。ヨヤギ家も同じもんだし」


 当然のように言うカケイはフラブの前で足を止めると白い目でフラブを見上げる。


「あ! フラブさんはヨヤギ家の当主さんと知り合いなんですよね?」


 明るいユーフェリカの言葉にその場の空気が冷凍庫のように凍りついた。


「……まぁそれぁ置いといて。俺ぁアルフェード教会の関係者だからな。当たり前知ってる」


 少し冷たい口調のカケイは階段を降りながら優しい表情でフラブを通り過ぎる。それにフラブは一瞬だけ目を見開くも直ぐに真剣な表情へと変わった。


「……まぁここでする話ではないな。先に外で待っておこう」


 そして真剣にも悲しそうな表情が混ざっているように見えるフラブだが、振り返って入って来たばかりの入り口に歩き出す。


「2人で話進めないで下さいよ! 私だってついて行きます!」


 明るい声色で元気良くそう言うユーフェリカだが、瞬時にフラブとカケイは真剣にユーフェリカの方を振り振り向いた。


「「それは駄目だ」」


 強い口調でのフラブと真剣な口調でのカケイが口を揃えて圧を込めつつ同行を止める。


「何でですか! 私だって! ……あ、そういうことですね! わかりました!」


「ちょっカケイ! わしは……っ!」


 お婆さんの口調に戻っていても、直ぐにユーフェリカは明るい表情でお婆さんの前に来ては止めるのを止める。


「カケイ君の義母さん! 客が来るまで少し私とお話しませんかー?」


 ユーフィリカはお婆さんがフラブたちを止めようとしてるのを阻止した。その止められたお婆さんさんの様子が変だったのはユーフェリカ以外、誰も気づくはずもない。


 その間にカケイは先に外に出ており、続けてフラブも入り口から外に出た。


「こりゃあ久しぶりの太陽だな……」


 なんて眩しそうに言葉を溢すカケイは眩しい光から目を逸らすように、出てきたフラブの方を見る。


「ユーフェリカは巻き込みたくねぇし。んでフラブさん本題だが……」


「本題に入る前に、来る途中見つけた饅頭屋に入るぞ」


 微かに暗い声色でそう言うフラブは来た道の方向、左手側の道へと歩きだす。


「え、饅頭は話すための嘘じゃねぇの?」


 その不思議そうに小首を傾げてフラブを見て問うカケイだが。フラブは不思議そうに首を傾げながらカケイの方を振り向く。


「何故嘘をつかねばならん。美味しい饅頭食べたくないのか?」


「それぁ食べたい!」


 そう元気良く言うカケイは目を輝かせながら饅頭を想像して涎を垂らしていた。



 初対面だがフラブとカケイは似た者同士のようで打ち解けるのが早かった。歩くと周りから注目されていたカケイとフラブは歩いてる途中で同時に止まりお互いを見る。


「……カケイ君さんは不思議だな。こんなに髪と瞳、そして肌が白い人、昨日から王都を歩いていてカケイ君さんが初めてだ」


「ん? 皮肉か? だがまぁ当然フラブさんは見ねぇよな、シラ家だろ? ずっと領地に居たんだっけ?」


 そう優しく微笑みながら話すと間が2秒ほど空き、それにフラブとカケイは優しく微笑んで再び歩き出す。


「何だか良く分かんねぇけど気が合いそーだな、フラブさん! 俺ぁ呼び捨てでいい!」


「ああ、私の事も呼び捨てでいいぞ。カケイ君」


「俺ぁカケイだ! フラブ……いや、さん付させて貰うわ」


 微かに暗い表情をしながらそう言うカケイを見てフラブは不思議そうな表情を浮かべた。


「そう……か? わかった」 


 それからも引き続き歩いていると、所々の建物の壁に4枚の紙が貼られていることに気がついた。右手側の建物に貼られていたその紙を視界に入れると1枚、フラブにとって見知っている姿が描かれていた。それにフラブは足を止めて紙へと歩き出した。


「ん? どうしたんだ? フラブさん」


 そう不思議そうに問うカケイは訳も分からずフラブのあとをついて行く。


「え……? ヨヤギ・アリマ、懸賞金360億……は? 360億!? アリマさんが指名手配されてる!?」


 そう言うフラブの声は大きくて、フラブは驚いているのが分かるのだが、周りの目を集めている。4枚の紙があり、それぞれ違う人物の詳細が書かれていた。そして紙は右から


ヨヤギ・アリマ 364歳 ヨヤギ家当主

指名手配150年目 懸賞金360億


ラーラ・ミリエ 34歳 殺し屋

指名手配3年目 懸賞金30万


ロスラ・ラスリ 134歳 マフィア 情報屋

指名手配5年目 懸賞金56万


タナカ 年齢不明 出自不明

指名手配200年目 懸賞金6000万


 そう書かれていて丁寧にも並んでいるのだがカケイは右手をフラブの左肩に置いて微笑んだ。だがその微笑みには明らかに怒りが混ざっているように見えてしまう。


「フラブさん。声、でかい」


 その怒りに微かに冷や汗を流したフラブは恐る恐るカケイの方を振り向いた。


「すまない。だが何故アリマさんが……」


「ん? ヨヤギ・アリマって指名手配されてる名家の当主で結構有名だぜ。処刑課に150年指名手配されても普通に生活してる怪物級とか。来る客さんから聞いた噂だけどな。フラブさんの知り合いだっけ?」


 カケイの当然かのような説明に、フラブは考え過ぎて頭が真っ白になり微笑んでカケイを見る。


「……饅頭、食べに行こうか」



 ──それから歩いて10分後、左手側に店として並んでいた饅頭屋の前に置かれた看板を見つめる。


「ついたな。さてどうするカケイ」


「全くだ、ほんと」


 そう疲れたように言うフラブとカケイの視線にあるその看板の内容は


 ──「トラブル発生のため、今日6時から無期限休暇を取らせて頂きます。常連様や他のお客様、大変申し訳ありません」


 と書かれている。それを見ながらフラブとカケイの会話に冷たい空気が流れて無言が5秒続いた。


「……すまない、カケイ」


 そして申し訳なさそうに言うフラブは恐る恐るカケイの顔色を窺っている。


「本当にな、まぁいい。……そうだ! 良いこと思いついた!」


「ん? 何だ? いいこと?」


 きょとんとしながら問うフラブだが、カケイは太陽みたいに明るい表情でフラブを見つめる。


「次行くカフェの席が空いてるかどうか、賭けよーぜ! 合ってた方が何か奢り!」


「カフェか、なるほど。カケイは賭けごとが好きなのだな? ならば私は埋まっている方に賭けさせてもらおう」


「ん! なら俺ぁその逆に賭ける。あと勘違いすんじゃねぇ、賭けが好きってワケじゃねぇから!」


「そうか。そのカフェは? どこにあるんだ? あの建物から離れ過ぎてはユーフェリカが心配するぞ」


 フラブは不思議そうに問いながら確認するように再びカケイの方を見る。


「ん、遠くねぇからついて来い!」


 カケイは再び来た道とは逆の道を歩き出す。フラブは警戒を解かずにそのままついて行った。

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