第九話 予感
寝ているはずのフラブは草原に居て、辺り一面魔物も居らず両親以外の人も誰も居ない。草というよりは可愛い花がぶわぁっと辺り一面に広がっていて木の下に母ミハと父ハジメが居る。その光景を驚いて見ているフラブは貴族のような可愛らしい黄色いドレスを着ていた。
「ここは……?」
死んだはずの母ミハは白い長袖に動きやすい藍色の長ズボンを着ている。地面に座り木に軽く持たれて目を瞑って魔力笛で綺麗な音色を奏でていた。ミハを起源に辺り一面に音が現れたかの様に世界に色がついたかの様にミハは綺麗な女神の様な可憐さがあった。
「お母様……? なんで生きて……」
驚きを隠せないでいるフラブは目の前の光景に動きが止まり唖然としている。
父ハジメはシラ家の黒い貴族服を着てはミハの方を向きながら地面に胡座座りで座ってミハの奏でた音に涙を流していた。だが兄のシラ・コウファの姿は見当たらず見渡す限りは確認できない。
「なんで、お父様まで? ……お兄様は?」
「フラブ? ふふっ可愛いわね」
音を止めたミハは楽器を地面に置きながらフラブの方を見て優しく微笑む。
「なん、で……」
フラブは声を震わせながら目を見開いて母の方にゆっくりと近づいた。
「どうしたの? フラブ、おいで?」
ミハは優しく微笑みながら自分の横にと、左手で左側の地面をポンポンと叩く。
「お母……様……お母様! ──大好き! ずっと! 大好きです!」
フラブは溢れ出る程の涙を頬に伝わせながら指定された場所ではなく勢い良くミハの懐に飛び込んだ。
「あら、甘えん坊さんね? どうしましょう、あなた」
それにミハは微かに驚きつつも冷静に優しい表情でハジメを見て問う。するとハジメはゆっくりと立ち上がりながらもフラブの右背後で屈んだ。
「全くだ。にしても俺達の子は世界一可愛い!」
そう力強くも感慨深い声でそう言いながらハジメはフラブの頭を強く撫でる。──フラブは変わらず溢れ出るように次々と涙を流していて、それにハジメは見守るように優しく微笑んだ。
「フラブ、ちゃんとご飯食べてる?」
そうミハは震えた声でフラブに言い、フラブがミハの方を振り向くと。ミハは目が涙で潤んでいて必死に涙を止めようと少しだけ仰向けになっている。
「ミハ、笑顔でいると言っただろ? フラブが困っちまう」
そう気楽そうに言うハジメだが無意識にも一滴の涙が頬を伝って地面に落ちてしまい。フラブは目を少し見開きハジメの方を見て少し首を傾げる。
「どう言う……ことですか」
状況が上手く呑み込めないフラブは震えた声で恐る恐る問う。
「親が子へ想う気持ちなんてのはなぁ、フラブはまだ理解しなくて良い」
ハジメは涙を少し流しているにも関わらずもっと涙を流して左腕で拭っている。フラブは状況が分かってきたが、分かりたく無い気持ちで胸が締め付けられていた。
「そんな事フラブは聞いてないわよ。フラブ……よく聞きなさい」
ミハは震えた声で必死に涙を止め袖で拭いながらもそう言い。受け止めたくないフラブは目を大きく見開いて眉間に皺を寄せながら怯えるように後ろへ2歩離れて崩れ落ちるように地面へ座る。
「フラブ、コウファについては触れないわ。そういう約束なの……」
微かに震えた声ながらもミハは涙を止めたにも関わらず無意識に悲しそうな顔をしてフラブにそう伝えるも、それにフラブは何かを察したのか微かに俯いて表情が暗くなった。
「いやだ」
「そして……こんな夢じゃなくて今ある現実を見なさい。フラブなら出来るわ」
「──いやです」
「フラブはきっともっと強くなれる……大好きよ、ずっと、ずぅっと大好きよ。フラブ、愛してる。幸せにならないと許さないんだから」
フラブはミハの優しいその言葉にゆっくり恐る恐る前を向く。母ミハは涙を堪えて微笑んでいて、父ハジメはフラブに背を向けて仰向けになっていた。その光景にフラブも心が締め付けられるように次々と涙が流れてくる。
「いやです……私にはっ! その言葉は受け取れませんっ! 私には……」
フラブの脳裏に焼き付いているのは幼いフラブ自身を守ろうと頑張っていた父と母、そして兄の背中だった。
「フラブ!」
ミハが震えた大声でフラブの言葉を遮って訴えかけて、それにフラブは驚いて少し目を見開く。
「なぜですか……私が! 私にしあわせになる資格はありませんっ! どこを探しても!」
そういうフラブの声はとても悲しそうに震えていて自分の胸を右手で握り締めた。
─ どうか今だけは……今を生きてることを後悔させて下さい……
「……私たちはフラブを守ってって……ハジメがヨヤギさんに頼みに行ってくれたの。だからフラブは生きれてるのよ」
「っ違います……! お母様たちのお陰でっ、だから私はっ……!」
「フラブを世界一愛しているもの。でもヨヤギさんは幼いフラブには無関係な人でしょ……戻ったら凄く感謝しなさい」
その優しくも力強いミハの真っ直ぐな言葉にフラブは言葉が喉で詰まる。言いたい事が沢山ある、だがまるで喉に蓋がされてるように言葉が出てこない。
「フラブ……アリマは元気か?」
優しい口調で問うハジメは涙を拭っていてフラブの前まで来て屈む。それにフラブは悲しそうな表情を浮かべながらハジメの方を見る。
「……鬼、ですよ」
「そうか。良かった」
フラブの答えにハジメは安心したかのような優しい表情でそう言い、ミハもフラブの目の前まで来て優しい表情を浮かべながらゆっくり地面に膝をつける。
「フラブ……忘れないで。フラブには私たちと違ってこれからも幸せになる資格はちゃんとあるの。だから自分を責めちゃ駄目よ」
ミハも悲しくも真剣な優しい表情で涙を流さず、真剣な表情でフラブにそう伝えるも。フラブの表情は悲しげに心の中では過去の自分を追い詰めて何度も殺していた。
「お母様も未来永劫に幸せになる権利はあったはずでしょうっ……!」
そう苦しそうにも俯いてフラブが涙を流しながらそう言うと。申し訳なさそうな表情をしてるミハがフラブを勢い良く優しく抱きしめた。
「ダメ。フラブは幸せにならないとダメなの。だから幸せへの選択を辿りなさい。──約束よ」
** ** * ** **
目を大きく見開いて瞼を開けると見慣れない天井が見えて涙で頬を濡らしていた。その眠っていた左横にアオイがしゃかんでベッドに前屈みに凭れている。
視線を感じたフラブと目を見開いたアオイの目があって少しの間、しんと静かになった。
「あの……?」
それにアオイは安心したかのように明るくなり優しい表情を浮かべた。
「起きた……起きたわ! フラブちゃん! 1日眠ってたのよ!」
アオイはフラブの左頬を人差し指でぷにぷに触りながら話しかける。
「あの? 失礼ですが……何方ですか……?」
フラブはベッドから起き上がろうとしたが、腹部や胸部から全身に痛みが走る。
「──っ!」
フラブの頭や胸部や腹部、左肩にも丁寧に包帯が巻かれていて左頬に絆創膏が貼られていた。腹部は努力が目に見えて分かる程に腹筋が割れていて腕からも筋力が分かる。丁寧に巻かれている包帯以外は上半身は裸で被り布団を被っている。それにフラブは驚きながらも痛みから自身の腹部を優しくさすった。
「安静にしなさい? 私はヨヤギ・アリマの妹、ヨヤギ・アオイよ」
アオイはフラブの頭を優しく撫でながら丁寧に自己紹介をした。それにフラブは再び目を見開きながらアオイの方を見る。
「……妹!? そう、ですか。私の身体の傷、胸の辺りは傷を負った記憶が無いんですが……」
「それは後々アリマ兄様から無理矢理にでも説明を貰いなさい。それより今朝4時だけどどうする? ヨヤギ家本邸は行くの? 車椅子なら準備出来るわ」
心配するような目つきでフラブを見つめてはて怖がらせないよう優しく問う。それに少し目を泳がせていたフラブも真剣に真っ直ぐな目で再び視線を戻す。
「……出来るなら行きたいです。ですが私の只の興味でアリマさんの迷惑になるのは嫌で……」
「優しいのね、可愛らしいわ」
そう優しい口調でそう言うアオイは至ってふざけているわけではない。
「可愛くないですっ……! それよりここは……?」
照れながらもフラブは横になりながらも冷静に不思議そうに部屋中を見渡した。
「ん? ここはアリマ兄様の寝室」
それにフラブはきょとんとするも次第に申し訳なさで表情が曇っていく。
「……え?」
「大丈夫よ、私が許可取ってるもの。カケイ君、何回もこの部屋訪れて本を読み聞かせしてくれてたの。愛されてるのね、フラブちゃん」
優しい表情でフラブの頭を撫でるアオイだが、その親近感にフラブは少しだけ首を傾げる。
「……私を知ってるんですか?」
「これが初対面よ。だけど190年前くらい、フラブちゃんについてアリマ兄様に沢山相談されたの。女の子の気持ち? とかこれは正解なのか? とかね」
そのアオイから伝えられたアリマの優しさにフラブは驚いて目を少し見開いた。
「……感謝、しなきゃですね。アオイさんもありがとうございます」
「不器用ながらアリマ兄様は優しいのよ。それはそうと可愛いわね、フラブちゃん」
そのアオイの何度目かの優しい声色の言葉に、フラブは顔が赤くなって布団をかぶり、恥ずかしそうに目から上だけを布団から出す。
「っ可愛くないですよ……」
フラブは顔を赤くしながらまた恥ずかしさを隠すように再び布団に潜った。それを見てアオイは驚いて目を少し見開くも直ぐ様に優しく微笑む。
「あら意外、照れ屋さんなの」
だがそんな会話も終わりかと言わんばかりに急に部屋のドアが開くと部屋にアリマが足を踏み入れた。
アリマは髪を肩あたりで緩く束ねていて羽織物は羽織っていない。
「丁度起きたわよ。フラブちゃん」
アオイは優しい表情でアリマの方を振り向きながら伝えると、それにフラブは布団から顔だけ出して申し訳なさそうにアリマの方を見る。
「そうか。フラブ君、身体の調子は?」
アリマは冷静に淡々として問いながらフラブの前で立ち止まる。それにフラブは再び微かに申し訳なさそうな表情を浮かべた。
「大丈夫、ではないですが……状況がイマイチ読み込めません」
そう答えるフラブのベッドの横のアオイの左横で立ち止まりつつ真剣な表情を浮かべる。
「処刑課との戦闘の記憶はどこまである?」
「私は、確か圧倒的に負けて……それからが真っ白というよりは強くぼやけている感じです……」
少しだけ深刻そうにフラブは思い出しながら真剣に答えた。それにアリマは腕を組んで左手を顎に当てて考え始める。
「……そうか。自身が持つ魔力に違和感は?」
アリマの変な突拍子もない質問に、フラブは訳も分からず不思議そうに首を傾げる。
「何ですか? その質問。ありませんが……」
するとアオイはゆっくり立ち上がり微かに眉間に皺を痩せながらアリマの方を見る。
「深刻よね? 連れて行くの?」
「無論、連れて行く。処刑課に動きがあったからな。フラブ君は余の側から絶対に離れるな」
アリマは常に無表情で考えが読めないが、フラブの方を見ながら優しい声色でそう答えた。それにフラブは理解が追いつかず小首を傾げてアリマを見上げる。
「どういう……? あくまでアリマさんは仕事とか単独行動とかって言ってませんでしたか?」
その返答に困っているアリマを見たアオイは背伸びしてアリマに何かを耳打ちした。
「……そうか」
アリマがそれを承諾したようで、アオイは揶揄うようにアリマから離れる。
「フラブ君が凄く可愛いから守りたくなった。それだけだ」
アリマが真剣な表情でフラブを見て言うと、横でアオイが腹を抱えて笑いを堪えている。フラブはきょとんとするも、直ぐにゴミを見るような嫌そうな目でアリマを見る。
「は?」
そのフラブの反応にアリマは呆れるような目でアオイを見た。
「アオイ……」
だがそのアリマの呆れはアオイには微塵も伝わらず
「じゃあ後は2人で仲良く!」
元気良くそう言いながら楽しそうにドアから部屋を後にした。
「……アオイは面白がってるだけだ。フラブ君、さっきのは聞き逃してくれ」
アリマがフラブを見て言うが、フラブはまだゴミを見るような冷たい目でアリマを見ていた。だがある事を思い出したフラブは真剣にも優しい表情へと変わる。
「……ありがとうございます。190年前から10年間、それとこの1週間と、私の面倒を見てくれて」
「別れの挨拶か? それなら受け取れないが……」
「違いますよ、素直な感謝です。夢でお母様とお父様と話した気がして……アオイさんからも話を聞いたんです。本当にありがとうございます」
優しい表情ながらそう言うフラブは常に真剣に真っ直ぐな目で見ている。それにアリマは優しい表情を浮かべるもどちらかと言うと無表情に近い。
「まぁ良い。どういたしまして。フラブ君、起き上がれるか?」
フラブは起き上がろうとするが、やはり腹部と胸部から全身に痛みが颯爽と走り断念する。
「──っ無理ですね。凄く身体が痛くなります。すみません、回復魔法の取得は難しくて使えなくて……」
フラブが申し訳なさそうにもそう言うと、アリマはフラブが被っている被り左手で布団を取る。
「……え?」
そのアリマの行動にフラブは訳も分からすわ困惑して目を少し見開いた。
「待って下さい! 上半身は包帯以外は着てないんですよ! この鬼!」
以前からアリマの鬼畜さを理解しているフラブは怒ったような表情でアリマを睨みつける。だがアリマは関係ないような無表情で瞬時にフラブに浮遊魔法を使い、フラブが空中に浮いた。
「え……えぇ!?」
行動理由を教えてさえくれないアリマにフラブは慌てて驚くも。アリマは収納魔法をから選択済みの羽織物を取り出してフラブ着せて軽々と左肩に担ぐと同時に浮遊魔法を解いた。
「アリマさん……!? どういう!?」
フラブは慌てるも、何故か腹部の痛みと胸部の痛みが和らいでいる事に気づく。
「余の衣服は全て余の魔力を練って余が自作した物だ。故に魔法からの痛みも軽減するだろう」
冷淡としているアリマはフラブを持ちながらドアから部屋を出ると、丁度隣の部屋から出てきた元気そうなカケイと目が合った。
「ヨヤギさん! おはよーございます!」
カケイは何故かフラブの方を見て目をキラキラ輝かせながらそう言い。ドアからカケイに続いて現れたタナカはアリマを見て少しだけ目を見開く。
「おはようさん。まぁ寝てないけど!」
そう元気良く挨拶をするタナカはとても太陽のように眩しかった。カケイは魔力人形のため寝る必要さえないがタナカは単に不眠症なのだろう。
「寝てないんですね……」
そう驚くような表情でタナカの方を見て問うフラブだが、タナカは平然として疲れたような優しい表情を浮かべた。
「当たり前やろ? 7時にはアリマさんの家行く言うて、遅ければ置いて行く言われたんよ」
「なぁヨヤギさん! 今度俺も持って! 高いところから色々見てみたい!」
カケイはそう言いながらも無邪気に楽しそうに目を輝かせている。
「分かった。朝食は……」
アリマの言葉を遮る様に階段から水が入ったコップを2つ御膳に乗せて運ぶアオイが登ってきて。アオイは何故か驚いたのかタナカとカケイを見て目を見開く。
「もう起きたの!? 今から睡眠薬入れた水をタナカさんとカケイ君に飲ませてアリマ兄様の邪魔をしないように……」
だがフラブを左肩に担いでいるアリマを見て、アオイは言葉を止めた。
「アリマ兄様? なんでまたフラブちゃんを肩に担いでるのよ……」
アオイはゴミを見るような冷たい目で引き気味にアリマに問うも。アリマは常に無表情で考えが読めない上に平然とまでしている。
「持ち運びやすいからだ。片腕で完結するからな」
「そう、やっぱり駄目よ! アリマ兄様は女性の扱いがなってなさ過ぎる! 私がフラブちゃんを持つわ!」
アリマの答えにアオイは怒ったように素早くアリマの方に歩き出す。だが案の定と言えど階段を登り終えたところでアオイが転んだ。
──マジック魔法「位置変更」
タナカは瞬時に判断し魔法を使って自身と直ぐ側にいるカケイの位置を颯爽と階段下に移した。
アリマはフラブを持った状態で魔法を使ってアオイが溢した水を全てその場で凍らせる。
そのアリマをフラブは感心するような目で見るも少しだけ目を見開いた。
「気をつけろ。氷の後片付けは任せるぞ」
淡々とアリマはそう言いながら廊下を歩き驚いているアオイをすれ違い階段をゆっくり降り始めた。
「凄い、ですね。アリマさん。手を翳さずに正確に凍らすなんて……」
フラブは感心するようにアリマを見ながら言うも、アリマだから納得したような表情へと変わった。
「彼の方が凄いだろう。マジック魔法はそう簡単に使える魔法ではない。回復魔法と同等にレア物だ」
アリマは階段下に居るタナカを見ながら言い、タナカはカケイと仲良さそうに話をしていた。
「確かに初めて見ました」
「そんな褒めんといてや、アリマさん」
タナカが嬉しそうにも満更でもなさそうに言いながらアリマの方を見る。
「否、本当の事を言っただけだ。それより朝食はまだだろう。食パンか白米、どっちが良い?」
階段を下り終えたアリマはタナカの方を見ながらもその場にいる3人に質問した。
「俺ぁどっちも!」
カケイは嬉しそうにも目を輝かせとても喜びながら笑顔で答える。
「どっちもはないやろ。俺は任せます」
「私は……私も任せます」
「わかった。対して意見が分かれているワケでもないのに此処まで困ることになるとは……」
アリマは朝食を作りに行こうとそう言うがある事に気づいてフラブの方を見る。
「フラブ君、一度地面に降ろすぞ」
そう言いながらアリマは客室部屋のドアの横に移動してゆっくり屈み、丁寧にフラブを壁に凭れさせるように座らせて降ろした。
「余が料理をする間は安静にしてろ。10分過ぎくらいで終わる」
アリマは淡々とそう言って階段を降りて右手側の廊下を歩き出して台所がある部屋に向かう。それにタナカは興味本位でアリマの後をついて行った。
そして静まり返る玄関前でその場に残ったフラブとカケイは互いに目を合わせた。
「1日2日くらしか経過していないのに……久しぶりに感じるな。2人きりなのは」
フラブが優しい表情でカケイを見ながら言い。それにカケイは楽しそうに優しく微笑んだ。
「ん! 確かに!」
そして元気良くそう言いながらフラブの隣まで歩いて来てフラブの右隣に座った。
「カケイは優しいな、天使みたいだ」
「俺ぁ天使じゃねぇ!」
「そうか、すまない」
そう謝るフラブだが優しく微笑んでいて、カケイはどこか浮かない表情をみせる。
「フラブさんってさ……いや、やっぱ何でもねぇ」
「……カケイ、教えてくれないか? 私が処刑課と戦ってる最中に途切れた記憶の続きを」
フラブは真剣な表情でカケイを見つめながら真っ直ぐそう問う。それにカケイはフラブを見て恐ろしそうに目を見開き悲しそうに微かに俯いた。
「……言えねぇよ。だってフラブさんを1人にしたくねぇもん!」
「……そうか。なら明るい話をしよう。カケイは饅頭と御萩、どっちが好きなんだ?」
フラブは真剣な表情から優しい表情へと変わりカケイを見てそう問い。それにカケイは申し訳なさそうな表情でフラブを見るも直ぐ様に優しく微笑んだ。
「俺ぁ饅頭が好きだ! 和菓子も捨てがたいが洋菓子も好きだぜ!」
「良いな。確かカケイは苦いのが苦手なんだっけ? 苦いのって例えば何だ?」
フラブからの問いにカケイは少し仰向きながら、腕を組んで考え始めた。
「んー、ゴーヤとか? 苦手の代表格だよな」
カケイがそう答えると階段から足音が聞こえ、アオイが歩いて降りて来た。
「何の話をしてるのかしら? 私も混ぜて頂戴な」
そう優しい声色で言うアオイはフラブとカケイの前まで歩いてきて、フラブとカケイの視線の先にいるアオイへは目線を合わせるようにゆっくり座った。
「俺たちは何か明るい話をしてんだ!」
カケイは楽しそうに微笑みながらアオイの方を見ながら笑顔でそう言い。
「つまり題材は無いってことね。なら私とフラブちゃんの生まれでもある名家について少し話しましょうか」
その言葉にフラブとカケイは真剣な表情を浮かべてアオイの方を見た。
「名家はシラ家、サトウ家、ヨヤギ家、ユフィルム家の世界で4つしかないの。特徴は何だと思う?」
アオイの優しくも真剣な問いにフラブは考えるも分からず小首を傾げる。
「わかりません……何ですか?」
深刻そうにも少し冷たく見えるフラブを見てアオイはフラブを見て優しく微笑んだ。
「特徴は3つ。1つは魔力発展に大きく影響を与えたこと、2つは何処の国にも属してないこと。そして最後は対魔物が主な仕事ということ。フラブちゃんの家も山奥だったでしょう?」
「でも属してないって……お母様は罪人処刑課の人でしたよ? 確かに山奥ではありますが……」
「罪人処刑課は王国だけじゃなく全国共通なのよ。当主じゃないシラ・ミハさんの職業は関係ないけどね。全国共通だけあって処刑課はかなりの勢力を持ってるの」
フラブは腕を組んで俯きながら考えていたのだがカケイは少し目を見開きながら口を開く。
「つまり、その処刑課に指名手配されてる俺たちはやべぇ状況ってことか!」
カケイの元気ある言葉にアオイは少し深刻そうに「ええ」と言いながら頷いた。
「対魔物で重要な名家、それもあって動きは遅いけどね。だから謎なのよ。フラブちゃんの家族が殺された理由が。何故、名家なのに幼いフラブちゃん以外の家族が目をつけられてしまったのか」
深刻そうにも真剣な説明にフラブは驚きを隠せずに目を大きく見開いた。
「処刑課を裏で操っている人が居るかもって事ですか……?」
「考えられないわ。だけどそう考えてしまえば辻褄が合ってしまうのも事実なのよ」
その返答に暫く緊迫したように無言が続いた。ただフラブは驚いたまま考えがまとまっていない。




