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幸せへの選択を  作者: サカのうえ
第序章「過去の記憶」
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第序章11 久しぶりの来客


 真剣な考え始めたり笑顔になったりして楽しそうに本を読んで居るカケイ。ベッドの間にある小さい机の上にある小窓。小窓は開いていて夜風が気持ちいいくらいに入ってくる。


「俺ちょっとヨヤギさん呼んで来るわ。聞きたいことがあんだ!」


 そしてカケイは楽しそうに笑顔で言い、本を閉じつつ右腕に抱えてベッドから降りた。


「大丈夫なのか? アリマさんは確か仕事だって……」


「仕事中でも用があればどんな些細な事でもそっちを優先するって! 目ぇ覚めたとき言ってた!」


 そして子供らしい笑顔のままカケイは部屋のドアを開ける。


「アリマさんなりの気遣いか。お節介な人だ……本当に……」


「それぁそう! 目一杯、感謝しなきゃだな!」


 カケイは満面の笑みでフラブの方を振り返ってそれだけ返すと部屋を後にした。1人になった部屋の中で、フラブは微かに俯きながら涙を頬に伝わらせる。


「それも、カケイなりの気づかいか……」


 フラブは素手で涙を拭った瞬間から、次々に涙が溢れていた。


 ――どうして今さらっ……お母様……お父様、お兄様のことを思い出すんだ……っ?


 心の中でそう呟いたフラブは、気分転換にベッドから降りる。そして小さい机の上に手をおいて、開いている小窓から外の景色を眺めた。外の景色は夜空と木々に囲われていて、よく見ると凄く遠くに壁で囲われた王国が見える。


「罪人処刑課、アルフェード教会、敵か。領地から出てみればこれだ。……頭が追いつかない」


 フラブが涙を溢しながら窓の外を見ていると、急に後方にある部屋のドアが勢い良く開かれた。それにフラブは驚いて肩をビクッと震わせると、瞬時にドアの方を振り返る。


「ちょ、ヨヤギさん! まだ入っちゃ……」


 見るからに焦っているカケイはアリマの羽織物を掴んで引き留めようとしていた。そしてカケイは恐る恐るフラブの方を見ると丁度目が合ってしまう。それによって


「あ……」


 とカケイは落ち込んだ声を溢してしまう。ただフラブは涙を溢していながら理解が追いつかずにきょとんとしていた。

 その状況から察したアリマは袖を通していない羽織物の内側から腕を組んで、左手を顎に当てて冷静に考え始めた。


「……そうか。タイミング、というヤツか。すまなかった、出直そう」


 申し訳なさがあるのか淡々としてアリマはそう言うと部屋のドアを閉める。


「……え?」


 フラブは急な事で涙が引っ込みつつ冷静に部屋のドアへ歩いて進んで部屋のドアを開ける。左横を見るとアリマが此方側の壁に軽く凭れてカケイは反対側の壁に凭れて座って話をしていた。


「アリマさん。仕事では?」


 不思議そうに問いながはフラブは部屋から出て、アリマを見やると小首を傾げる。それにアリマは冷静にもフラブの方に視線を移した。


「早く終わった。故に資料の整理をしていたらカケイ君に呼ばれてな。フラブ君の様子がへ……」


「ヨヤギさん! それぁ言っちゃ駄目だって!」


 焦りながらカケイはアリマの言葉を遮るように、アリマの前に来ると背伸びをして両腕を大きく振る。


「そうか。ありがとう、カケイ。大体わかった」


 フラブは優しく微笑んで感謝の言葉を述べると、カケイは恐る恐るフラブの方を振り向きながら顔を赤くしていた。


「ちっ、違う! 別に俺ぁ泣きそうな人を慰める方法がわかんないとか! そういうんじゃなくて! えーっと……」


 カケイはアリマを呼んだ目的をつい言ってしまったことに気づき、耳まで顔を赤くする。フラブはそれに心を打たれたように右手でカケイの頭を優しく撫でた。


「これが、可愛いという概念か……」


 カケイの頭を優しく撫でながら無意識にそう言葉を溢すフラブ。それにカケイは頬を膨らませ恥ずかしそうに顔を赤くしながら怒りを顕にした。


「俺ぁ可愛くねぇよ! 格好良いんだ! もういい! 庭で本読んでくる!」


 カケイは頬を膨らませながら、すぐそこの右手側にある階段を降りて行く。そのカケイをフラブとアリマは子を見守る保護者のように何も言わずに見送った。


「……それで、すみません、アリマさん。折角なので質問しても良いですか?」


 カケイが居なくなるのを確認したフラブはアリマの方を見ながら真剣な顔をして話題を切り出す。それにアリマは無表情で「ん?」と疑問符を声にしながらフラブの方を振り向いた。


「ここはどこなんですか? ヨヤギ家の本邸ではないでしょう。それに傷も痛くない……治ってる」


 不思議そうに問うフラブは、ナラミナに蹴られた箇所を痛々しい素振りもなく触る。


「ああ、傷は余が魔法を使って治しておいた。そしてここは余の家だ。仕事と生活の必要最低限な部屋の数と物しかないが君等に使わせた部屋はこんな時があろうかと予想して……」


 それにアリマは言葉を止めて、ある事に気づいたのか不安要素を消すために詳しく説明を付け加える。


「山ごと余の領地だから手加減を誤って人を害める事もない。故に安心してほしい」


 そんな付け加えられた説明に対して、フラブは呆れたような目をアリマに向けた。


「確かにアリマさんなら人と肩をぶつけただけでその人を殺める可能性が否定出来ませんね……」


「……昔の話、本屋で万引きを現行犯で見つけ、咄嗟のことでその者の腕を掴んだら手加減を間違えて腕の骨を折ってしまった事がある」


「え……?」


「その辺りから罪人では無くとも処刑課に目をつけられてしまっていた」


 微かに斜め上を見ながら懐かしむように説明をすると、フラブは更に呆れたように右手で頭を抱えた。


「半分冗談だったんですが。本当にアリマさんなら否定出来ない……」


「……多分、君の父親も生きていて苦労しただろう。ハジメは十七歳の余と本気で戦って生き残った……たった一人の人間だからな」


 平然として当たり前のように説明するアリマは羽織物の内側から腕を組んだ。


「ハジメ……お父様のことですか。知り合いなんですね……いやそれよりアリマさんが17歳の頃ってお父様何歳なんですか!?」


 それにフラブは驚きつつ目を見開くも直ぐ様に呆れるような表情を浮かべる。それにアリマは腕を組みながらも左手を顎に当てて真剣に頭に思い浮かべた。


「ああ確か……三百四十五年前だから、ハジメは百九十五歳だったな」


 平然と説明したアリマにフラブは「えぇ……」と呆れの言葉を不意に溢した。


「歳の差、記憶力も……待って下さい。お父様と戦った……? そう言えばアリマさんって何歳でヨヤギ家の当主になったんですか……?」


 恐る恐る引き気味に質問しつつ、化け物を見るような眼差しをアリマに向ける。


「愚問、十九歳だ。その歳だったはずだが……史上最年少だと忌み嫌われたな。余は年齢や性別など力に於いて意味を持たないと……」


 淡々と説明を続けるアリマは急に言葉を止めて少しだけ目を見開いた。


「来客だ。フラブ君」


 そしてフラブに背を向け階段を軽々と飛び降りて下の階にある玄関へと向かう。それにフラブは少し急ぎながらも歩いて階段へ進み玄関に急いで向かった。


 階段を降りると真っ直ぐ先にある玄関のドアを、既にアリマが開けていた。この家の玄関奥には一人、白いパーカーに深くフードを被っている者の姿がある。


 そして、その三歩ほど手前でカケイは地面に本を落として呆然としているようだ。その光景を見たフラブは更に急いで小走りながら玄関まで急いで向かう。


「久しいなぁ、カケイ君」


 白いローブにフードを被った男性はカケイを確認してフードを脱いだ。――黄緑色の胸下まである長い後ろ髪とセンター分けの前髪。そして光が宿っていない黄緑色の瞳の姿。

 青年程の見た目で、身長は百八十センチ程の男性。嘘偽りのないその姿を見て、カケイは驚きのあまりに大きく目を見開いた。


「タナカ……?」


 と言葉を溢して片足下がって地面に尻をつく。



** ** * ** **



 二百年前 とある実験施設。


 一階は大きい窓ガラスで分けられた部屋が二つあり、壁も床も天井も白い。右の部屋では沢山の白い人形が真顔で口も開かずに階段状に座っていた。


 左の部屋では沢山の人が部屋の中心にある二メートルくらいの球体に魔力を込めて、それを記録してる人が二人くらいいる。


 それを二階のガラス壁の廊下から見下ろしている人が三人、人形が二人。人全員と人形二人は真っ白い羽織物に深くフードを被っていた。


「カケイ、ココア、よーく見ろ。お前たち2人は感情がある。失敗作だ」


 一番左側にいる者がそう言うもカケイとココアと呼ばれる人形は黙っている。


「そうやけど、別に言わんくてええやろ」


 冷たい口調でそう言う男性は左側に居る者の方を見ずに機能していない人形の方を見ていた。


「感情があるからって人形は人形でしょ。タナカは人と人形の区別つけれないの? 目ぇ悪」


 右側にいる女性からの言葉にタナカと呼ばれた男は嫌そうに魔力人形から目を逸らす。


「はぁ? 俺が優しいだけや。ナラメちゃん口悪いなぁ」


「黙れ。喧嘩をしろと言った覚えはない。あの方に気に入られただけの新人が騒ぐな」


 左に居る男性は嫌そうに圧をかけられると、廊下を左手側に歩きだしてその場を後にする。それにタナカは道端に落ちているゴミを見るような目を男性の背中に向けた。


「しょーものな。いちゃもんつける事しか出来へんのか、糞爺」


 ただその独り言は距離的に相手には聞こえはおらず、陰口のようになってしまう。すると、白い人形の一体――カケイがタナカを見上げて口を開いた。


「なぁ、タナカは俺たちの味方……?」


 それに気づいたタナカは屈んで、フードの中からカケイの頭を優しく撫でる。


「さぁな、知らんわ。俺は俺の目標、みたいなのないんよ」


 それを聞いていた右側に居る女性、ナラメは溜め息を溢した。


「それって夢がないってことじゃん。ごめんねー、カケイ君、タナカがこんな奴で。ココアちゃん、私と散歩してこよ」


 ナラメがそう言うと人形の一人、ココアは軽く頷いてその二人も左手側の通路を歩きだす。その光景を見つめていたタナカはカケイを撫でる手を止めた。


「口悪い奴ばっかでほんまごめん、あんなならんでなぁ、カケイ君」


 タナカがそう言うとカケイは深いフードをとって太陽のような笑顔を見せる。


「ん! でも目標がないって、タナカはここから居なくなる?」


「知らん、あの方の意思次第で変わるわ。カケイ君は心配さんなん?」


 優しく問うタナカはカケイの両頬を優しくつねる。


「おへはへつにしんはいさんしゃねぇ!」


 そう言いながらカケイは顔を赤くして怒り、タナカはカケイの頬を離した。


「ごめんなぁ、照れ屋さんとは思わんかったわぁ」


 タナカが揶揄い気味にカケイにそう言うと。カケイは腕を組んで「ふん!」と言いながら外方を向いた。


「カケイ君の世話係大変やなぁ。どないしよ、俺どっかいってまうかもなぁ」


 そう言うタナカは面白そうに優しい声色で立ち上がりながらそう言い。それにカケイは少し悲しそうな表情を浮かべて咄嗟にタナカを抱きしめた。


「嫌だ……!」


「今度は甘えんぼさんかぁ。ごめんなぁ、他にも仕事あんねん」


 タナカはカケイの頭を軽く叩きながらそう言うとカケイはタナカを離す。


「ん、じゃあ終わったら絵本読み聞かせて」


 明るい声色で言うカケイは太陽のような眩しい笑顔を浮かべていた。


「カケイ君には敵わんなぁ。わかったから良い子にしときぃ」


「わかった!」


 カケイの明るい元気な返事にタナカは軽く頷いて右手側に廊下を歩きだす。距離が四メートル離れた地点でタナカは小声で独り言を呟いた。


「ごめんなぁ、カケイ君。多分そんな良い人じゃないんよ、俺も」


 そんなタナカの表情はどこか苦く、されど感情を仕舞っているようにも見える。

 そしてカケイはガラス壁に右手を当てて、一階に居る階段状の人形に目線を移した。


「……俺たちってなんなんだろうなぁ」


 悲しさを堪えながら不思議そうに言葉を溢し、微かに表情を暗くする。


「本当、誰一人として動かねぇんだ。外見は俺もお前らも同じなのにな……」


 それだけ言うと廊下を左手側に進む。


 その時、背後から声がかけられた。


「カケイ、君のお兄様だよ」


 カケイが背後を振り向くと、そこにはカケイと同じ身長の深くフードを被った者の姿が確認できる。



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