ラグナ式魔力制御
「まずは自分の手足を動かすように魔力を動かしてみろ」
とラグナは指示を出す。
「は、はい」
シギュンは言われたとおりにやろうと試みるが、少しも思うようにはならない。
「む、難しいです」
「いきなりやれと言っても無理なのは判るが……」
ラグナはじっと彼女を見ていたが、やがて小さくうなずく。
「やり方を変えてみようか」
「え、はい」
シギュンは目を丸くしながら首を縦にふる。
「よし」
ラグナはそう言うと、自分の白い魔力を放出して彼女の体を包み込む。
「な、何ですかこれ?」
シギュンにしてみれば白いベールで全身を覆われたようなものだ。
あくまでも魔力だから、視覚的な問題に過ぎないが。
「白い布に包まれているように見えるだろう? そのうちどこか一点だけ破れるように魔力を注いでみろ」
ラグナはそう告げる。
「わ、判りました……」
シギュンはとまどいながらも従う。
相手がラグナなので、疑問が浮かぶを余地はない。
シギュンが狙ったのは右手の人差し指だった。
右利きの彼女にしてみれば何となくやりやすかったからである。
指に魔力を集めていくが、なかなか破れない。
「む、難しいですね」
「簡単に破れたらトレーニングにならないからな」
ラグナは笑う。
けっして意地悪をしているわけではない。
「は、はい」
シギュンは一分くらい集中し続けておこなっているが、結果は出なかった。
そこでラグナは一度魔力を消す。
「あっ」
シギュンは残念そうな声をあげる。
手ごたえがあったわけではない。
またダメなのかという失望が頭をよぎったからだ。
「一回で成功しなくても気にしなくていい」
ラグナははげます。
彼は彼女に成功体験がとぼしいと察する。
(少し難易度を下げておくか)
と判断した。
まずは成功する喜びを教える。
難しいことに挑戦させるのはそれからでも遅くない。
もう一度魔力で白い幕を展開する。
「さて、先ほどとは違う部分を狙ってもう一度だ」
「は、はい」
シギュンは言われたとおり、今度は左の人差し指の部分を狙う。
彼女の暗い緑色の魔力はやがて白い幕に浸透していく。
「お、できるじゃないか」
「えっ? 本当ですか?」
シギュンは目を丸くする。
こんなにもすぐ自分ができるようになるとは信じられなかった。
「なかなかセンスがいいな、シギュン」
「あ、ありがとうございます」
ラグナにほめられて彼女は頬を染める。
『最強』ラグナに褒められるというのは、魔法使いの夢の一つとして挙げる者は少なくない。
そんな夢を彼女は実現してしまったのだ。
「じゃあ忘れないうちにもう一回」
「はい!」
ラグナに言われたシギュンはやる気を燃やして実行する。
一度できたと思えば、もう一度できるはずだと信じることができた。
そしてそれは実現する。
「で、できました!」
「いい感じだな」
ラグナは褒めた。
実は難易度を少し下げているなど、彼女に悟られないように気をつけながら。
「では今度は俺の補助なしに魔力の制御をやっていこう」
「はい」
シギュンは元気よくうなずく。
彼女はすっかり自信を得ている。
「では魔力の移動をやってみよう。右手、右足、左手」
ラグナの言うとおりに彼女は少しずつ、魔力を移動させていく。
「だいぶよくなった」
ラグナは少しだけうそをついた。
マシになったのは事実だったが、シギュンの魔力操作はまだまだ雑だ。
「そ、そうでしょうか?」
しかし、そのうそがシギュンのやる気を引き出している。
「いつまでも俺が見ているわけにもいかないから、何か手を考えよう」
とラグナは言った。
彼の役目は落ちこぼれかけてしまっている生徒たちをすくいあげること。
どうやればいいのかを理解し、指導すれば次の生徒に向かったほうがよい。
「そうだ」
ラグナはひらめき、自分の『収納庫』から白い布のアイテムを取り出す。
「ふえっ?」
その瞬間を目撃したシギュンはすっとんきょうな声をあげる。
「知らないのか、『収納庫』という魔法を?」
「あ、いえ。知ってました。失礼しました」
シギュンは冷静なラグナの声に我に返った。
「でもあきらかにわたしが知っているものじゃなかったような」とつぶやく。
「この紙は『セルキーの布』という。一定量の魔力を浴びせれば黒く変色し、時間が経てば戻る」
「はい」
しげしげと布を見つめるシギュンにラグナは言う。
「この布を身にまとい、魔力を浴びせながらも変色させずにいられれば、お前は魔力で誰かを害する心配はいらなくなるだろう」
「!!!」
シギュンは驚きのあまり声も出ない。
「はげむといい」
「はいっ!」
ラグナの優しい言葉にシギュンは目をうるませて返事をする。
「誰も傷つけなくてもいい時が来るかもしれないなんて……」
ささやくように漏れた彼女の言葉は重かった。
だが、ラグナはあえて声をかけずにその場を後にする。




