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Imitation/L∞P  作者: ヴィラノ・エンヴィオ
初等部編
40/376

2-3

2021/10/20 改稿しました。

魔術訓練は基本的に2学級合同で行われる。カル、ロキらの所属する1年2組は、精霊学専攻の教師のためか、実践的な魔術訓練を行うことが多い。合同で訓練するといっても、やはり担当の特色は出るものだ。


「これでどうだ!」

「「「おおおおおおっ」」」


1年2組が楽しく魔術初級訓練を行っている横で、1組は2組を見ながらチマチマと訓練を行っていた。担当が理論から入るタイプの教師であるためか、あまり子供たちも乗り気ではない。理論を理解しないとできるわけがない、安全策を取るべきだといって、1組の担当は理論を子供たちに詰め込んでいる最中なのである。けれど、流石に横で実践をされると子供たちの中にはそわそわしだす子もいるもので、1組もようやく実践に入ったのだ。


「……2組、いいなぁ……」

「この先生の授業難しいもんね……」


異世界の教師に教員免許などあるはずもなく、学者が教えているのに難しくならないわけがなかった。まだ10歳11歳の子供に、学者の理論は難しすぎる。簡単な言葉で説明しながら、分かり辛い所は実践と実例を見せることで対処しているレイヴンの授業とでは、進度が圧倒的に違う。というより、レイヴンの授業は置いて行かれる子が圧倒的に少ないのが強みだ。


「アビゲイル先生、もう少し実践を交えてはいかがですか?」

「いいえ、何があってもいけませんので、理論を先に教えないと。理論さえ分かっていれば魔術のコントロールは容易いのですから」


アビゲイル・レンダ、子爵家生まれの伯爵夫人である。研究熱心で魔術師としての実力はかなり高い。子供たちに怪我をさせたくないのは分かるが、いきなり研究者が専門にして喜ぶようなものを普通の10歳の子供に教えたって理解するはずもないし、眠っている子がちらほら見受けられる。寝ていては話にならないが、何せアビゲイルの声は、とにかく眠たい。睡眠導入に丁度良い、心地よいアルトボイスなのである。


「ですから――」


理論の説明など受けたって面倒なだけだろうにとロキは考えつつ皆の訓練を見ている。ロキはこの時間は適当に魔力結晶を作っていることがほとんどだ。テストのときに倒れた原因は魔力を普段の生活の中であまり弄っていなかったためである。


授業中にやるのはどうかと思って魔力結晶作りをサボったツケだったらしく、髪の色を変えるだけでやって来たデスカルに相談したら怒られたのはいい思い出である。焦ったようにすっ飛んできたのも、ロキの魔力を奪って魔法として放ったものだから教師たちに説明が必要になったことも驚いたけれど。


デスカル的にロキを子供の1人のように考えている節があったらしく、ブチ切れの態度が前世の母親そっくりだったことだけは確かである。


ゴロゴロと出来上がっていく魔力結晶は最近遊ばれ始め、グラス的な形になったり誰かのペン立てになっていたりする。

ただの石の形じゃ面白くないと言ったのはカルだったので、タンブラー型第1号はカルに最初に押し付けてやった。当たり前のように持て余して、今は布をかけて簡易枕に落ち着いている。ペン立てになったりもしているので使い勝手はまあまあといったところか。


魔力結晶とロキたちが呼ぶものにはいくつか種類があるが、主に使われているのは魔力結晶と魔晶石の2つの呼称である。


魔力結晶は単純に魔力を結晶化させたものであり、言ってみればマナとエーテルの配合割合が結晶を作った本人の魔力と同じものを指す。魔晶石は魔力結晶を精製してマナとエーテルの割合を弄ったものを指し、通常はマナの濃度を上げる精製を行う。


ロキの魔力を固めた魔力結晶はタンザナイトと遜色なく煌めき、非常に上質なものであることが分かるとレイヴンが言った。色が濃い者ほどマナを多く含むらしい。とりあえず褒められた気がして、嬉しくなったのもあって調子に乗ってクラスの皆に配ってしまったので、皆タンザナイト色の何かを持っている状態だ。

次は何を作ろうかな、とロキは考える。


魔力で作る結晶を魔力でさらに形を変えると、結晶の純度が上がることが分かった。これは魔晶石の精製と似たような現象であるらしい。魔力の消費にも丁度良いので、最近ロキは魔石を作って魔晶石にしてから形を整えるというとても手間がかかり魔力を消費する方法をとっている。なお最近の人気はリアルな猫や犬の置物で、令嬢の方が欲しがるところが非常に気になるロキである。


「なあロキ」

「ん」

「割と本気で宝石みたいなの作れないか」


手元で招き猫を作っていたら声を掛けてきたのはセト・バルフォットだった。バルフォット騎士爵の息子であり、彼が爵位を継げば男爵に繰り上がる。基本的に騎士爵に相続権は無いが、彼の家は特殊だ。


バルフォットと言えば現在の騎士団長がバルフォットである。そう、セトは騎士団長子息であった。乙女ゲームでの攻略対象でもある。


「どうしてまた?」

「母上が、魔石の上等なものが欲しいと言っていらして、俺がお前に貰ったのを見て、もらえるなら欲しい、と」

「ああ、タリスマンにか」


タリスマン、護符。

魔石や魔力結晶、はたまた魔力を込めたインクや木や布に至るまで、何らかの守護効果を持った物は全てひっくるめてタリスマンと呼ばれる。


上質な魔力で構成された結晶ならばまず確実に大白金貨10枚は下らない。

この国の金の単位はリールというが、一番下は小銅貨、10枚ずつ繰り上がって大銅貨、小銀貨、大銀貨、小金貨、大金貨、小白金貨、大白金貨が存在する。


大白金貨1枚で平民は5人家族が1年贅沢な暮らしができる。セトの実家は金がそんなにない。領地持ちの騎士爵である以上仕方がないとは思うが、屋敷の維持費やなんやで騎士団長の給金は消費されているのだろう。その状況で高級なタリスマンを手に入れるのはなかなか難しい。

ロキを頼ってきたのは、セトの親の役職から考えると、アーノルド経由かスクルド経由かどちらかだろう。アーノルドとセトの父は職場一緒だし。


「……じゃあ、俺が普通の魔術が使えるようになったらなんか教えろ」

「……安くね?」

「死ぬまでな」

「俺の人生を縛る気かテメー」


2人でぷは、と笑い合って、ロキは魔力結晶を作り始めた。詳細はあまりよくわからないが、何型がいいだろうか。

雫とか、どうだろう。

やってみよう。


ロキは静かに目を閉じる。

セトは緑と黒の2色の髪で、短めにしてしまっているその髪からは、彼が剣術に生きようとしていることを示していた。


彼の魔力保有量はそんなに高くないのだろう。扱う属性は風がはっきり出ているが、ロキは知っている。

彼は、闇も扱うことができる。というかむしろ、闇をつけ足して暴走するような術の方が強いことを知っている。


セト・バルフォットは、『イミドラ』にも協力ユニットとして登場している。こんな顔だったっけかとこの10年で大分薄らいだ前世の記憶に思いを馳せつつ、ロキは1つ目の結晶を生成した。魔力結晶の純度を上げて、そこから滴型にカットを施していく。


「……ちょっとずれたか」

「え、こんなに綺麗に揃ってるのにか?」

「タリスマンだとすぐばれては意味がないと思うから、人工的に作られた形の方がいいだろ?」


タリスマンになりやすいのは、どちらかというと天然石です感満載の石が多く、宝飾品に偽装されたモノはあまり出回っていない。魔道具の一種になってしまうからかもしれない。


ロキは何個か作り直し、それを全てセトにくれてやった。魔力結晶の可能性は無限大である。中に花を彫り込んでみたり、そもそも滴から離れてタンザナイトの薔薇を作ってみたり。


「すごいな……」

「絵に描けるものは大体再現できる」


ロキはそう言ってセトの魔力を見る。

リオ――ドルバロムとの契約の結果、徐々にだが魔力の流れを掴めるようになってきた。それでもなんとなくわかる程度でしかないのが残念なところで、しかしだからと言ってそれ以上を今望めば身体を壊す。面倒だとロキははっきりドルバロムに言った。

それでもまだこの状態を続けなくてはならないから頑張れとドルバロムは一蹴した。


死んでもらうわけにはいかないと冷たい言い方であっても、ロキは別に気になどしない。ドルバロムはそもそも上位の住人で、上位の住人であることと人間の心の動きが理解できないのはイコールなのだ。むしろ理解を示すデスカルがおかしいのだ。


相手の心情を推し量るのが苦手なのではなく、できない。

何故そう考えるのかが分からない。

なぜならば彼は竜人だからである。

竜人は存在する世界のルールそのものと言っていい。


草木が枯れ人が死ぬことを嘆く寿命の概念など存在しない。建物も岩も風化し劣化していくことを止めようとする雨風などないのだ。それが自然の法則なのだから。


ドルバロムが気にかけてくれている時点でかなり彼が人間とかかわりを持つ部類の竜人であることを理解しておかねばならない。

急に知ることができるはずもなく、ロキはこのあたりのことはすべてデスカルから貰った情報である。言われてみればなるほどその通りだとしかならず、しかし目の前で人に近い姿を取る竜人が自然法則そのもので心も嘆きも存在しないと言われればそれは理解しがたく。ロキはゆっくりとそれを受け入れるしかなかった。


「精霊見えるか?」

「まだわからん」

「そっか。中等部上がる前に解決するといいな」

「ああ」


セトの言葉に小さくロキは頷いた。

学校。

やはりそれは、交友を深めるという点において万国共通の有用性を持っているようだ。


ロキにとって友達と呼べる人間はそこまで多くない。ロキは交友関係を広げようとしているのだが、皆がやはり公爵家の子供と常日頃から接するのを少し倦厭しているため、という理由が大きい。


ロキは別に文句などないが、せめてこちらが話しかけたときに挙動不審になるのはどうにかしろと言いたい。そんなに怯えさせるようなことをしただろうか。


ロキが沢山の魔力結晶を生成する横で、他の生徒達は皆魔力の操作をやっていた。火属性の子供と水属性の子供は火の玉と水の玉をそれぞれ作り出して好き勝手弄り回している。ロキが皆に魔力結晶を見せたことが大きかったようで、動かすよりもその形を変える方を重点的にやっている子が多かった。


ロゼが火を花の形にしたり鳥の形にしたりしている。ソルが火を蝶の形に変えて動かしてみる。水属性の子供たちがそれを真似て水で生き物を作って動かす。


カルは光の玉の光量を抑えつつこちらも小鳥を作ろうとしているようだった。風は目に見えないので、どうしようと悩んでいる子が多かったが、レイヴンが葉っぱを取ってきて、これが船です、一番長く浮かせられた子が勝ちです、と言ったので皆葉っぱを取りに行った。土属性の子も何か作っているようだし、なんだかんだと2組の皆はロキと同じことをやっているのだ。


ロキはぐっと伸びをして皆の様子に目を走らせた。まだ魔力の流れを感じる程度ではあるが、できるようになってきたということは、十分な進歩なのである。マナを見ることができるようになれば精霊たちを見ることもできよう。

そうなれば今よりさらにマシになるはずだ。


そう信じて今やれることをやる以外にロキにできることはないのである。

授業中にほとんどドルバロムは出てこない。なんとなく、どこにいるというのは分かるのだが。


―――はー、ロキももう少しでマナの流れ掴めそうだねー。


ドルバロムの声が聞こえた気がして、ロキはそうか、と小さく呟いた。


――顔が良いって罪だよねえ。


「俺の顔が良いなんて当然だろう」


ドルバロムの言葉がロキが話しかけてもらえない理由となっていることを、まだこの時のロキは、知らない。


ここまで読んでいただきありがとうございます。

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