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Imitation/L∞P  作者: ヴィラノ・エンヴィオ
幼少期編
14/368

1-13

2021/06/20 加筆修正しました。話の内容が大幅に変わったことと、この後の話の流れが前後することが確定したことをお知らせしておきます。

「ロキちゃん、こんなのどう?」


スクルドが宣言通りロキの部屋で一緒にロキの準備を進めている。ロキは自分にできることがないのでマナーと礼の仕方をガルーやリウムベル、アリアから教わっていた。誕生日まであと2週間を切っており、それでも仕立て屋をスクルドがキープしているので対応は可能だ。きっとロキを見せたら仕立て屋が暴走するのが目に見えていた。


「……母上、本当にいいんですか、男装しても」

「ええ、ええ、自分に一番合った姿が良いに決まっているわ!」


ロキはといえば、スクルドが持ってきた衣装案に男物が混じっていることに戸惑いつつも、衣装を選ぼうとしている。一応選んでいたドレスは、作ってもらう事にはなった。スクルドだって、可愛い娘の姿を見たいに決まっている。そんな考えからか、ロキはスクルドの顔色を見て衣装を選んでいるようで、スクルドはそれを払拭するために自ら足を運んだのだ。


ロキのストレートの銀髪は柔らかさを活かすために緩い三つ編みをリボンで縛っており、花でも編み込んだらそれはそれは映えそうなのだが、スクルドはロキに似合う宝石を考えてしまう。ラズベリルの瞳がキラキラと輝いているのは、きっと衣装が好きだと話してくれていたことも関係しているのだろう。この身体にはこんな衣装が似合う、と言いながら、自分が着るとなると上手く感覚が嚙み合わないらしいロキ。面倒な感覚を抱えてしまったものだ。


「あら、これなんかどう?」

「ああ、これいいですね! このスカーフを合わせるともっと素敵です」

「いいわね!」


とある衣装案が目に入り、スクルドがつい声を掛ける。ロキはそれを見てパッと顔を輝かせた。キラキラの瞳を、スクルドに向けた。


「これにします!」



ロキの誕生日当日。パーティに招待されたのはごくごく限られた親類たちだけで、しかしその親類の中にカル王子は呼ばれなかった。


ロキが、カル殿下を呼びたくないと言ったためだ。スクルドは了承し、アーノルドは苦悩した。公爵家が王家を呼ばないのは流石にどうなんだろう、と。しかも、現国王はアーノルドの従兄弟であった。そこで、国王自身に相談をした、その結果が――


「アーノルド、お前の娘たちは可愛い子しかいないな!」

「来て第一声がそれかね、ジークフリート」

「久しぶりね、スクルド」

「お元気でしたか、スクルド……」

「久しぶりね、ロマーヌ。私は元気よ、ブリュンヒルデ」


別の王子を連れてくる、という荒業に出た。

今日の主役であるロキは椅子に座ってにこやかな笑顔を浮かべている。その服装は、布地と同じ色で刺繍の施された白いシャツ、黒のスラックス、金糸で刺繍の施されたワインレッドのジャケット、ダークブラウンの革靴。大人と並んでも見劣りしないくらいには決まっているのが、なんとも不可思議。


「初めまして、ロキ君。ジークフリート・ヴーイ・リガルディアだ。誕生日おめでとう」

「ありがとうございます、ジークフリート陛下」


「お誕生日おめでとう。ロマーヌ・ロッティ・リガルディアというの。その服、良く似合っているわ」

「ありがとうございます、ロマーヌ殿下」


「初めまして、ロキ。ブリュンヒルデ・ヴァルキュリア・リガルディアです。えっと、服、とても似合っているわ。……加護の悪戯の波を、越えられることを祈ります」

「ありがとうございます、ブリュンヒルデ様」


大人たちの後、青い髪に青い瞳の少年が前に出る。


「お誕生日おめでとうございます、ロキ君。アル・ルード・リガルディアといいます。君のお兄さんたちと同い年なんだ。よろしくね」

「ありがとうございます、アル殿下。兄たちがお世話になっております。今後とも、よろしくお願いいたします」


アル・ルード・リガルディア。ブリュンヒルデの息子で、この国の第1王子である。ロキが呼ばないでと言ったのは第2王子カルの方で、だからアルを連れてくれば、外聞も悪くはないという王家側の配慮。フォンブラウは王家に大事にされている、とロキは思った。


ロキの我儘を叶えようとしてくれた両親と王家の心遣いに感謝もする。何より、詳細を聞かずに行動してくれた母にとても、ありがたみを感じた。


「では、また後で」

「はい、また後程」


王家が挨拶を終えると貴族たちが動き出す。ロキの挨拶はこれからで、アルはひとまずロキたちの傍を離れていく。パーティの給仕に駆けまわっている白髪の若い使用人がやけに目についた。


誕生日パーティに呼ばれたのは上流貴族と親類のみだ。ロキが転生者であることはこれで疑いようも無くなったわけだが、アーノルドとしては情報を出す相手を絞ったと考えるのが妥当である。


現在リガルディア王国には公爵家が5つあり、それぞれ得意な属性が異なるので、それぞれの分野で活躍しているのだが、その中でも最も防衛に特化している家が、ロッティ公爵家である。現王妃ロマーヌの生家でもあり、フォンブラウと並んで今リガルディア国内で2大勢力を築いていた。


「お誕生日おめでとうございます」

「ありがとうございます」


次々と挨拶をしていく。リガルディアの貴族は長話が得意ではない者が多く、簡単な話をして終わり、という流れが多い。男装で現れたフォンブラウの娘に思うことがないではないのだろうが、何か言う者も特になかった。


そろそろ飽きてきた、とロキが思ったのは、最後の公爵家、ロッティ公爵家が挨拶をしに来たタイミング。子供の集中力などそんなもので、ロキはただ笑っていればそれでよかったのだが、ふと、牡丹色の髪の少女に目を留めた。


「お誕生日おめでとうございます、ロキ様。ロゼ・ロッティと申します」

「ありがとうございます、ロゼ嬢」

「その服、とってもお似合いですわ。御自身でお選びになったの?」

「ありがとうございます。母上が選んでくださいました」

「そうなのですね」


恐らくなんてことはない会話と仕草だった。ただ、ロゼと名乗った少女の動作が、ロキが知っている誰かに似ていただけだ。


朱玉の瞳が、ロキには目の前の少女が自分と同類であると直感的に訴えてきた。そう思った。


「ロゼ嬢、後で少し話をしたいのですが」

「まあ。ありがとうございます。お待ちしておりますわね」


良かったわね、とロゼに声を掛けるロッティ公爵夫人は栗色の髪をしていて、アーノルドに絡んでいるロッティ公爵は茶金の髪をしている。ロキは一瞬ロゼの髪はどこから来たのかと思ってしまったが、ロゼの名が植物の名であることに起因する色かもしれないと思い直し、口にすることは止めた。


「じゃあまたな、アーニー!」

「はよ行け!」


アーノルドを愛称で呼ぶロッティ公爵と、それを追い立てるように次に順番を回すアーノルド。日常的な光景らしくじろじろ見る者さえいない。ロゼに向き直ってよかったね、と言いながら去っていくロッティ公爵夫妻とロゼを見送って、ロキは挨拶回りでやってきた従兄弟たちも含めたパーティ参加者全員と挨拶を交わした。



ロキの誕生日パーティ、ロキはそこに男装して現れた。常識の無い者だと思われたか、はたまた、理由があると受け取られたか。ロキはそんなことを考えるつもりはない。そこをあーだこーだとするのはアーノルドの仕事であるし、子供が頭を回すべきことでないのは確かだ。


ロキは約束通り、アル王子とロゼの元へ向かう。アルと話す約束をしているのを見ていたロゼが先にアルに願い出てくれていたようで、2人でデザートの並べられたテーブルの付近に居た。近くでロマーヌ王妃がロッティ公爵と話している。


「アル殿下、ロゼ嬢、お待たせいたしました」

「お待ちしておりました」

「御随伴に与れるよう願い出たのですけれど、よろしかったかしら?」

「はい、ありがとうございます」


ロゼがとても5歳と思えない言葉遣いをしている。中身がいる(転生者)と考えていいだろう、とロキは判断した。


「ねえ、ロキ嬢。父上が、君とカルの婚約話を消すことにすごく躍起になってるのは何でか知ってる?」

「そんなお話初めて聞きました」

「あれ、お話聞いて無い?」

「聞き及んでおりません。理由は何となくわかりますけれども」


アルが話を振ってきてくれたので、遠慮なくその問いに答えていく。ロゼはひとまず2人の話を聞くことに決めたようだ。というより、ロゼの前でこの話をしているということは、ロゼが正式にカル殿下の婚約者になることになったのかもしれないとロキは思った。


「父上は、君が嫌がるだろうから、と仰ったんだけれど、会ってもいない弟を、嫌わないで、欲しいなって……」

「アル殿下、私別にカル殿下のこと嫌いとか、そんなことはございませんわ。御安心なさってくださいまし」

「ほんと?」

「ええ、本当です」


アルの思考は最もだろう。理由も分からぬまま突然弟を避けるような令嬢が現れたらきっと驚く。しかもそれが同い年で傍に居るフレイやプルトスの妹ともなると余計に。アルの青い瞳が揺れ、少し金色の光を帯びる。ロキは事実をありのままに伝えてアルを落ち着けた。ロキは別にカルのことを嫌っているわけではない。ただ、身体と精神が異なる違和感に悩まされているだけだ。


「じゃあ、どうして? 政治的な立場をよく理解しているフォンブラウ公爵が、このタイミングでこんな態度を取るのはおかしいと思うんだ」

「私むしろアル殿下の御年でそこまで理解しておいでであることに驚愕いたしました」


このアルという少年ちょっと思考回路が大人びすぎちゃいないか、とロキは独り言ちる。ロゼの方も目を見開いているので、何か感想はあるのだろう。


「ロゼ嬢、私ちょっと賭けに出ますが、よろしくて?」

「あら、リスクヘッジのつもりですか?」

「貴女絶対私と同類でしょう」


ロキ呆れたような表情を見たロゼは目を見開いた後、小さく笑った。


「まあ、とても5歳児とは思えない言葉遣いも気になっておりましたの。私、『鈴木佳代』という名だったのですけれど」

「、『鈴木』? ……『高村涼』です。ちょっとその話はあとで」

「うわー『涼』君マジで言ってるんですか……後でちゃんと話しましょうね」


日本人の名前が飛び出した時点でアルがきょとんとしているのだが、ロキは前世の知り合いの名が出て悲鳴を飲み込んだ。反応を完全に隠しきったわけではないが。ロキに下手なリスクを負わせるより、とロゼが先に事情を明かしてくれたのだが、話すことが増えただけだった。先にアルの話を終わらせるべきだ。


「アル殿下、ロゼ様の事情はどこまで御存知ですか?」

「転生者だ、というところまでだね。ここにいる大人たちは皆もう知っていると思う。よく会議に集まっている人たちばかりだし」


ロゼの事情の方が先にばれていたようだ。なるほど、ロキが明かすより先にロゼが言い始めるわけである。しかし、それならばスクルドやアーノルドがロキが転生者であることを他の貴族に伝えていないことが気になった。


「ロキ様、貴方多分教会から狙われているでしょう? 外に出る情報を抑えようとなさったんじゃないかしら」

「……なるほど」

「勿論、他の人には言わないわ」

「……さんきゅ、」


一旦思考を切る。アルの分かっている情報から見て、ロキが言っていい情報は。


「アル殿下、()は転生者です」

「……!?」


小声で放った言葉はちゃんとアルの耳に届いたようで、アルが目を見開いて、「な、」と。

ロキは思う。リガルディアの言語が一人称が複数ある言語でよかった、と。カタカナに直したくなる名前しか並んでいないものの、リガルディアの言語は日本語がベースになっていると思しき言語体系をしている。


「……父上は、」

「陛下は御存知ではないでしょうか。父上の従兄弟ですし」

「……確認してみるよ」

「殿下、無茶をなさりませんように」


アルの目が不安げに揺れて、ロキの頭に手が伸びる。逃げもせずにいると、アルの手がロキの頭を撫でた。


「……フレイが、君はすごいんだと言っていたんだ」

「兄上は私を評価しすぎです」

「そう、かな?」

「自分がもう少し、フレイ兄上やアル殿下と同じところまで、この国の事を知ったら、またその時にお話ししましょう」

「……うん」


アル、と呼ぶ声。ブリュンヒルデがスクルドに勧められた料理を皿に取っているのが見えた。ブリュンヒルデはあまり話をするのは得意ではないため、食べ物の方に逃げることもしばしばだ。アルは軽く会釈をして、ロキとロゼの傍を離れていった。


『……ロキ様、日本語まだ喋れる?』

『問題ないよ』


ロゼとロキが言葉を交わす。若干イントネーションがロキとロゼの知る日本語と異なっているリガルディアの言葉。どう考えてもドイツ語な言葉が混じっていたり、他の言語らしきものが混じっていたり、説明は難しいが文法上の特徴は日本語なのに英語でしゃべっている気分になる言語、それがリガルディア語だった。


『ていうかロキ様、中身男だったのね! 涼君、お疲れ様!』

『早く男に変身できねーかな』

『できるんじゃない?』


ロキはそれから、パーティが終わるまでロゼとばかり喋っていた。


ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

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