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2021/06/16 加筆修正しました。
2026/01/21 加筆修正をしました。
2026/01/05 大幅に書き直しました。この後の話を書き直します。
ロキの誕生日パーティは、最初に想定されていた規模のおよそ5分の1程度にまで縮小されることになった。これは、招待客を最低限呼ばなければならない貴族家に絞った結果である。
「領地の件は父上たちに頼るほかないな……」
「ロキ様のお誕生日、楽しみにしていらしたのに残念な限りですな」
「10歳の誕生日パーティで挽回するしかないだろう」
アーノルドとガルーは書類を捌きながらぼやいた。ロキの5歳の誕生日、本来であれば領地にいるアーノルドの父テウタテスや母エメラルディアらも呼ぶ予定だったのだ。しかしフォンブラウ公爵領の魔物はリガルディア王国及び周辺国の魔物の中でも強いものが多く、魔物の発生量が増えるほど領地を放置して離れることが難しくなってくるのだ。
リガルディア王国の貴族の間では、5歳ごとに大規模な誕生日パーティーをするのが通例となっている。決して高いとはいいがたい医療水準の事もあり、本来は子供の頃のパーティには多くの人の目に晒すことでこの世界に繋ぎ止める手を増やすという意味合いがあった。
平民たちでも、王都などの大規模な都市に住んでいる場合は半年ごとに一度、誕生日が過ぎた子供たちを集めて祭を行う。貴族よりも平民は魔力が少なく、この世界に留まる力が弱いとされているため、祭は伝統として残り続けているのだった。
ロキの5歳の誕生日パーティーは小規模なものとなる。10歳までの誕生日のどこかで他の大規模な茶会やパーティに連れて行ってやる必要があるだろう。お披露目は大事なことなのだ。
「……そういえば、ロキは……今まで、どこの茶会にも参加していなかったな」
「そうでございますね」
「……普通ならば、小規模な身内の茶会から慣らしていくものだったが」
アーノルドは思い返す。そもそもロキは、神子で、転生者で、令嬢ではあるが精神は男性だ。誕生日パーティーに向けてある程度の礼儀作法などをガルーやリウムベルに叩き込んで貰ったものの、ロキ自身はパーティーへの参加経験が皆無である。その状態でいきなり大規模な誕生日パーティーへの参加は正直荷が重かったかもしれない。
「……もう少しちゃんと予定を確認しておこう」
「それがよろしいかと」
アーノルドは書類に視線を落とす。もうちょっといろいろ教えてくれても良かったじゃないか、という愚痴は、今は飲み込む。手元の書類は概ね王宮の仕事だったり領地の方の報告書だったりで割と早めに捌く必要があるものだ。ロキのことは大事だがそれだけではいられないのである。
♢
ロキはスクルドと共に自分の着る服のデザインを選んでいた。とりあえず、とロキはドレスの中から着るものを選ぼうとしているところだったのだが、ドレスを持ってきたデザイナーの方がロキの見た目を気に入って白熱してしまったので一旦休憩を挟んでいる。
「ロキちゃん、大丈夫?」
「はい……」
すごく熱心なデザイナーだった、と隣の部屋に待機させたデザイナーの事を考えてロキは遠い目をした。デザイナーが悪いのではない。ロキは少々問題を抱えていて、ロキを少女として扱おうとする人と長時間接触したくないのである。
「身体の違和感は?」
「んー……だいぶ治まってきました」
「よかった」
ソファに沈んでぐでっと伸びているロキの頭を撫でながら、スクルドは小さく嘆息した。
ロキには、パーティーに参加するうえで重大な欠点がある。それは、ロキが女児らしい姿で、女児らしい態度をとり続けると体調を崩す、というものであった。
これにはスクルドも、そしてロキの侍女であるアリアもお手上げである。何が原因なのかはよく分かっていないが、明らかに原因であろうことがあるのでそのあたりの調査をアーノルドが続けているところだ。
「……これ、どうにかなりませんかね……」
「呪いだったからねえ……解呪しようにも、ロキちゃんの耐性を抜かないといけないから……」
「うわぁん」
普通であれば、いくら男の精神だからと言って、生まれた肉体が女児で、スカートを履く、ドレスを着る、という行動をとって、女らしい態度をとったからといって、違和感は抱けど体調を崩して倒れる、頭痛を訴える、なんてことにはならないはずなのである。だが、ロキはそうなった。
基本的に人前に出る際にはドレスやワンピースで行動することが多いロキだが、長時間の行動はできない。単純に身体が弱いだけという説もないでもないが、案外男らしい言動、例えば一人称を僕にするであるとか、そういった態度をとっている場合は別に頭痛を訴えることも体調不良を訴えることもないのである。そんなロキの態度に、いろいろと心配したアーノルドは、ゼオンを呼んだ。ゼオンの医療関係者としての眼と腕を信頼しての事だったのだが。
結論を言うのであれば、ロキには呪いが掛かっていた。
ドウラ・ドラクルの掛けた生温い封印魔術とは全く関係なしに、ロキは呪われていたのである。
そして、この呪いの内容が、“性別を反転させる”というものだったのだ。
つまり、今ここに生きているロキは、本来は男児である、ということになる。
だが、いったい何者によってこんなことになったのか、術者は、目的は、何もわからない状態なのだ。少なくとも術者はいるはずで、公爵家の子供に手を出したのだから相応の対処をアーノルドもスクルドも考えている状態だ。これは攻撃だ。まして、この呪いはロキの体質にとてもよく馴染んでおり、解呪を難しくさせている。
ロキにはロキ神の加護があるが、このロキ神の加護は、ロキ自身の肉体の変身を安定させる効果も持っている。つまり、ロキが女児に変身している限り、下手に解けないように補助している状態になる。そしてこの呪いには、まだ幼くまともに扱うことができないはずのロキの魔力を吸い上げて使うという、非人道的な術体系を組み込んであった。この術体系は、罪人の魔力を封じるために作られたものだ。それを公爵令息に対して生まれる時を狙って行使したというのだから、術者は相当な手練れであることは間違いなく、疑いようもなかった。アーノルドが犯人を躍起になって探しているのもそこに原因がある。
さて、結果的にロキは男児である、というのが分かったものの、その解呪を簡単にできそうにはないことはゼオンの見立てで発覚した。実際アーノルドの見立てでも、アンリエッタの見立てでも解呪は難しいという結論に達している。であれば、解呪ができる何者かを探さなければならなくなるのだ。
「……よし。もう、大丈夫です」
「本当に?」
「はい」
わかったわ、とスクルドはアリアにデザイナーを呼びに行かせる。こんな調子で人前でずっと女児のフリを続けると、まるで拒絶反応でも出ているかのようにロキは体調を崩していく。実際、呪いに抵抗しているから体調を悪くしているという可能性は高いので、あまりスクルドとしてもロキに無理をして欲しくはないのである。
「服、選ばなきゃ終わりませんから」
「……そうね。でも、ロキちゃん。男装して、もう男の子としてお披露目してしまうのも手なのよ」
「……うーん、それが許されるのであれば、それが一番楽ではあると思います」
ロキの言葉にスクルドは少しでもロキの苦痛を取り除ける方法を探っていた。アリアがそれでしたら、と口を開く。
「服だけ、ドレスも買ってしまいませんか? 服装に問題が発生するというよりも、態度の方、要するに性自認を男性として、態度も男性に寄せておけば、突然倒れることは少ないじゃないですか」
「ああ、そうね! それが良いわ!」
「んー……では、そうしましょう」
このデザイナーはフォンブラウ公爵家の御用達商会であるグラン商会の服飾部門の責任者でもあるので、ロキの事情を打ち明けるに至っていた。
「オリビア、とりあえず男の子の服に近いデザインのものから選ばせてくれる?」
「畏まりました! それであれば一旦こちらをご覧になっていてください」
「ありがとう」
グラン商会服飾部門代表デザイナー、オリビア・リットレットは手早く男装に使える服を見繕い、ハンガーを仕分けてスクルドとロキの前に持ち出した。仕訳をアリアに手伝わせる間、スクルドとロキには宝飾品のボックスを渡しておく。
ロキは準備してもらえた服の中から自分好みの色のシャツとスラックス、そしてジャケットにカフスや髪飾りなどを選んで、仕立てをデザイナーに任せた。ロキ初めての大きな買い物である。
「――では、こちらで仕立てて参りますので、楽しみにお待ちくださいませ」
「ええ、よろしくね。それと、これが終わってからでいいんだけれど、男の子用の服も見たいから、次はお願いね」
「承りましたわ」
オリビアとの会話は案外最低限だった気がしたロキだったが、オリビアはいつもあんな感じだ、とスクルドが笑うので気にしないことにした。
「あ、そうだわ」
「どうしたんですか?」
「んーとね。ロキちゃんの状態を、私達とは違う視点から見てくれるかもしれない人に心当たりがあったのよ。ドゥルガーっていうんだけど」
スクルドはロキを撫でながら知り合いであるというドゥルガーという人物について語る。
ドゥルガーとは学生時代に会ったのが初めだったと言い、ドゥルガーは竜種で、イミットと結婚しているという。ロキは竜種がイミットとはいえ人類と結婚するのだと理解して宇宙を背負った猫のようになった。最近こんな顔ばかりしている気がする。
「アリアちゃん、アリアちゃんはドゥルガーには会ったことある?」
「いえいえ、残念ながらあの力ある黒竜には会ったことないですねえ」
「そう。……ロキちゃん、ドゥルガーは竜種だけど珍しく加護持ちになっているのよ。竜だから私たちが知らない部分にも視点が及ぶかもしれないから、呼んでみるわね」
「はい。パーティーに間に合うでしょうか?」
「今結構西にいた気がするのよねえ。たぶん間に合わないから、パーティーが終わってから迎えることになるわ」
ロキはスクルドの言葉を聞きながら、思ったよりも大物を連れてきそうな予感がするなあ、と内心ボヤいていた。
これから約半月後、ロキの誕生日パーティが開催されることになる。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。




