捜査ファイル3 闇の裏組織VS怪物怪事件捜査部 前菜をフルコースで(2)
捜査ファイル3 闇の裏組織VS怪物怪事件捜査部 前菜をフルコースで(2)
「初めまして。天狗族の長、大天狗です」
それは、名前か? と、言うのが本音だった。
正確に言えば、大天狗とは天狗族の長に代々、襲名される名前らしい。つまり、歌舞伎役者が名前を継ぐようなものらしい。
まあ、それはわりとどうでも良い事のような気がするのでスルーする。
「この旅は、我々の種族がこのような大罪を犯したことを、ここに謝罪します」
「気にしないでください。
そもそも、天狗族とか怪物云々ではなく犯罪は個人の問題です。たしかに、多少の環境は影響が出て来ますが、種族全体の問題ではないと俺は思っています」
と、俺が言う。まあ、ここで我々の種族はけして間違った事をしない。人間族の勝手な主張だ。と、言っていたら話は違ったのだが、外交では本音と建て前。言わぬが花と言う言葉があるのだ。
……なんで、警察官で外交まで考えなければならないんだ?
そう思いながら、俺はお茶を勧める。まあ、考えたところでやらなくては行けない事は変わらないのだから、やるしかない。
「では、コルボーの正体と西藤の正体について」
「西藤の方は解りませんが、コルボーのほうは……可能性があるものが居ます」
と、大天狗が言う。
「まあ、そりゃね。
古の血はほとんど絶滅危惧種レベルに少ないからね」
と、彩花が言う。
「はい。我が天狗族でも古の血を持つものは、数が絶対的に少なく我々が確認しているものでも、わずか三名です。ですが、その三名とも我が里の特別な所で、次期大天狗候補として厳しい修行をしております」
「では?」
「実は、五年前に一人、古の血を持つ者が消息不明になったのです」
五年前のあの怪物が人類に認知されるようになった頃。
その騒動と言うのは、怪物の中でもあったらしい。
すなわち、住む場所の騒乱や混乱があったらしい。人類の中で、伝説や幻とされるほどの長い月日は怪物の中にも人間と言う生き物は昔話に出てくる大昔の生き物だったらしい。……俺たちは、恐竜か? サンショウウオか? シーラカンスか? と、思いたくなるような話だ。
とにかく、その中の若いカラス天狗が人間に興味を抱いたらしい。
そして、その人間を大量に連れて来たらしい。……ようするに神隠しだ。この事件は、五年前にはそれこそ有象無象に起きていた事を覚えている。
人間に興味を持った若い連中が、人間について知りたい。と、言う欲求を簡単に晴らすためにちょっと連れてきたのだ。向こうにとっては、ちょっと自分の家で遊ばない? の、乗りだったのだろうが……。時間感覚と移動距離の感覚が違っていたために、文字どおり神隠し状態と成ったわけである。その中の人間に悪人と言うタイプの人間がいたらしい。
その人間が錯乱して、持って居た爆弾をぶっ放したらしい。
「爆弾?」
「いえ、正確に言えば花火を改造したものでしたが……」
ちなみに、その事件はちゃんと警察が調べたらしい。カラス天狗の子供たちはかなり厳重な注意があったらしい。
「その事件に関して詳しく教えて頂けませんか?
あとで、その警察に資料を送って頂きます」
と、彩花がそう口を挟んだのだった。
「ですが、その事件についてあなた方の意見も聞かせてください。
覚えている限りで良いんです」
その目は生き生きとしていた。
言ってはなんだが、どうやらその事件に興味を抱いたらしい。
その言葉に大天狗さんも素直に話を始めた。
カラス天狗が連れて来たのは、町中にいるいろんな人間だった。ただ、たんに闇雲にランダムに選んだが、あまり騒動にならないように一人だけの人間を選んだらしい。
部活が遅くなった女子高生、塾帰りの小学生。酔っ払ったサラリーマン。老若男女問わずに本当に適当に人間を選んだらしい。だが、その仲の人間に問題がある人間があった。
長い間、人間と交流をとっていない。さらに、人間と言うのを見た事無いカラス天狗たちは自分たちが無作為に連れてきた人間の中に危険な人間。
自分の欲望を満たすためなら手段を選ばない人間がいたことに気付かなかった。
そして、その人間は突然、天狗に連れてこられたことをあっさりと受け入れた。
男は持っていた花火を改造した爆弾で天狗族の秘宝を手に入れようと考えた。
まあ、天狗が宝を持って居ると言うのは無理のない発想だ。
昔話の天狗の隠れ蓑、遠めがねなど日本昔話ではなぜか天狗と鬼はお宝を持って居ると言うのが通説だった。とくに天狗の宝と成れば、不思議な力を秘めた道具と相場が決まっているのだ。花火やモデルガンやオモチャの手榴弾を改造した品で天狗族を脅迫した。だが、その場所が悪かった。人間を勝手に連れてきた事から、人気のない場所を選んでいた。
そして、その爆弾の威力を見せるために放ったので近くにあった崖が崩れたのである。
そこに、現れたのがその騒動に気付いた数名の天狗族。その中には古の血を引いているこれまたごくまれな女性の天狗もいたらしい。女性と言ってもまだ少女の域を出てない天狗であったが、それでも有能であった。
だが、崖崩れはとんでもない被害をもたらした。天狗族の数百人が重症を負い十数名が消息不明の行方不明となった。
その中に、その古の血を引く天狗族の少女がいたのである。
「ようするに、行方不明になったその少女の可能性が高いと言う事ね」
「はい。本名は八咫と申します」
「あ、そう言う事か」
と、なにか納得した様子の彩花。
「なにが、そう言う事なんだ?」
「コルボーってフランス語でカラスと言う意味なのよ。カラスと天狗は縁が深いしね」
「「あー」」
「それなら、八咫で間違いありませんな。
あの娘は天狗族の古の血を引いていながら、西洋文化を気に入っておりましたから……。人間の世界に行きたいと常々言う、変わり種でした。古の血を引く者は少なく、里から出すわけには行かないと言い聞かせていたのですが……」
その言葉に俺は思う。ひょっとしてコルボーは、行方不明になって怪盗をした理由は知らないが、里に帰らないのはただたんに自由に旅をして回る理由が出来た。と、言う理由なのではないのだろうか? と、俺は密かに思う。
「それと、西藤と名乗る天狗族ですが……。あいにくと、こちらには本当に……。ただ、先ほどの事件で今も消息不明の天狗は数名下りますが……。あの者はけして、犯罪……それも、多種族に迷惑をかけるような者ではない模範的な天狗でした。
このような事をするとは思えません」
「そうですか……。それと、相手が天狗族ならば多種多様な術を使います。どうか、逮捕に協力して頂けませんか?」
長老の言葉に俺がそう尋ねれば、長老は、
「もちろん、我が一族の恥は我が一族が晴らします」
と、断言してくれたのだった。
天狗族の長は近くの宿……日本旅館に泊まるらしい。天狗族は山里の多種多様でその行動からわりとお金持ちらしい。
人間に近いこともあって人里で暮らすのも問題は無さそうである。
彼等の宿泊場所を確認してから、その事件に対する捜査資料を俺は貸して貰う。
「まったく。全てをデータ管理にすれば良いのにどうして、書類なのよ」
と、忌々しげに彩花が言う。
「あのな。全てを全てデータにまとめるのも危険だろうが!」
と、俺は怒鳴る。
古い人間と言われるかも知れないが、データでまとめるのと書類でまとめるのではだいぶ、違うのだ。たしかにデータでまとめた方が保存が利くかも知れないが、あれはあれで劣化があるし盗まれる可能性が高い。
だが、書類。それも書物となれば盗み出すのはそう簡単な話ではないのだ。
それに、データならば数年間も使わなければ使えなくなることもある。定期的に使うデータならともかく、保存しておきましょう。数年後、ひょっとしたら十数年後に使うかもしれないから……。と、言う情報なら紙媒体が良いのだ。……そもそも、十数年後にはそのコンピューターのデータが古すぎて読み込めないという可能性があるのだ。
俺が子供のころなんぞ、携帯電話なんてあり得なかった。なのに、今では携帯電話と言うよりも携帯するパソコンのようなものまである始末だ。
つまりメモリーチップが使えなくなるような事になったら不毛なのだ。
「そりゃ、理屈は解るけれどさ」
と、俺の言葉に彩花は頬を膨らませながら書類を見る。
こう言う所は子供らしい。
とにかく、俺も書類を見ている。
その事件が起きたのは、五年前のある晴れた日の事であった。
天狗族が誘拐した人間の一人の青年がいた。その青年は、大学受験に失敗して滑り止めとして入学した大学に入った。ただし、かなり頑張っていた大学に入れなかった事からショックが隠しきれずに大学の授業態度は悪かった。
その結果、半年もたたないうちに大学を中退。悪い知り合いと出会い、麻薬の売買などを始めるなどの人生を裏街道へと転がり落ちていく。
得に珍しい話ではない。少なくとも犯罪者の過去としてはありがちだ。
失敗をしてその後は、楽な方へ楽な方へと転がり落ちていくのだ。
ここで失敗してもどうしてもと思う所があれば、人は何があっても転がり落ちないのだ。
それがあると、俺は思う。……そりゃ、俺だって楽な事は楽なほうが良い。だが、やりたい事やどうしてもと思う事があったら、失敗したとしても挑戦し続ける事があると俺は思う。……彩花の場合は挫折を知って居るのか知らないのかたまに心配になるが……。
とにかく、そうやっていくうちについに麻薬で何かを失敗して大金が必要になった。男はモデルガンとオモチャの手榴弾。そして花火を使って改造拳銃と改造手榴弾を作製した。 そして、銀行でお金を盗もうと企んだのだ。そして、カラス天狗たちに捕まったというわけである。この経緯がわかったのは、ひとえに日記帳が持ち物に残っており事細かく書かれていたからだ。
存外、几帳面な男だったらしい。
その男の名を……西藤隆也と言った。
「西藤隆也ね」
これまた出て来た名前に俺は思わず声を上げる。
はたして、これは偶然なのだろうか? とは言え、戸籍や出生などを調べても彼が人間である事は疑いがない。
「俺みたいに隔世遺伝しているとかは?」
「その可能性も無い訳じゃ無いけれど……。珍しいのよ。そう言うやつって」
黒羽の言葉に彩花はそう言って肩をすくめたのだった。
「そもそも、怪物と人間が恋仲になる可能性は低い。しかも、遠い先祖にその持ち主が居たところで、大抵はその血は薄れて覚醒する事はまずないわ。
それこそ、一万人の子孫がいたとしても一人、覚醒するのはごくまれ。
しかも、直系のすぐの子孫のうちから人間に鬼子や忌み子として嫌われたり畏れられて結婚できない可能性も高いわ。得に怪物が居なくなって伝承となってからも、畏れや恐怖の対象になって居たからね。その血が少しでも濃い者が現れたら、それこそ畏れられたわ」
と、断言する。
たしかに、それはあり得なくない。……また、昔ならばその怪物の遺伝子が黒羽ほどではなく強く出た者はそれこそ、鬼の子供。たたりとして捨てられたり、殺されたりした可能性もある。そう言う逸話を俺も聞いた事がある。
とは言え、それは黒羽に対しては禁句だろう。
なにしろ、その現代版の最も悲惨な事件が黒羽の事件なのだから……。
「とにかく、西藤隆也の他にも数名のカラス天狗が行方不明になっているみたいね」
と、彩花は言うとしばらく考えて、
「出かけるわよ」
と、唐突に口を開いた。
俺は驚いた。
「出かけるのか?」
「外に出るのか?」
俺の言葉に被さるように黒羽も驚いたように言う。
彩花は引きこもりだ。
彩花を知って居る人間が聞いたら、大抵の人間は頷くだろうほどの引きこもりだ。
それに関して否定されたことは、今のところは一度として無い。
仕事で出かける必要があったとしても、興味が無かったり室内で可能ならばでかけない。そして、今の世の中では大抵の事はパソコンで調べようと思えば調べられる。
その彩花が出かけると自分から言い出したのだ。
驚いている中で彩花は立ち上がり歩き出す。慌てて俺と黒羽も身支度をして外に出れば、
「お前な」
対して歩いたわけでもないのだが廊下で域が折れている彩花がいた。
困惑したように見ている同僚たちが周囲を見ている。
「あー。すみません。珍しく無いんで」
と、俺は言うと彩花を背負う。
「いつもすまないねー」
「時代劇か!」
黒羽の言葉に俺はそう突っ込みをいれる。
そもそも、それを言うのはむしろ彩花の役目だろう。
とは言え、彩花に言われたとしても俺は同じようなツッコミを孵していたような気がするが……。
それは言わない約束というやつだ。
「それで、どこに行くんだ?」
俺はそう尋ねると、
「……栗山古典書店」
「は?」
初めて聞いた言葉に俺は思わず聞き返す。
栗山古典書店。
……その名前からして、本屋だと言う事はわかるが……。あいにくと、本は大型店舗で買うかあるいは、コンビニで雑誌しか買わないのでよくわからない。
「道順はカーナビにセットしておくから……」
と、彩花は言ったのだった。