捜査ファイル3 闇の裏組織VS怪物怪事件捜査部 前菜をフルコースで(3)
捜査ファイル3 闇の裏組織VS怪物怪事件捜査部 前菜をフルコースで(3)
たどり着いたのは、一見の小さな……なんで潰れていないのかが不思議なお店だった。本屋と言って俺が思い浮かべるのとは違う。だが、本屋だと言われれば納得した。
今日日、珍しく自動ドアではないお店。
空調もあまりよくなく窓はないために、昼でも蛍光灯を灯してないと暗いだろう。否、蛍光灯があっても薄暗い状態だった。そして、壁という壁……正確に言えば、人が一人通れるぐらいの道幅がある形で後は、本棚と本が山積みになっていた。
「栗山さん。お久しぶりです」
淡々と彩花がそう言って店へと入る。近くにあった駐車場(有料)から歩いて行こうとして、途中で力尽きた彩花だが、店には自力で入った。
「おや。珍しいね」
そう言って現れたのは、怪しい人物だった。
「おや。黒羽くんと……後は、初めての人だね」
にっと不思議の国のアリスに出てくるチシャ猫を思わせる人物だ。猫っぽいと言うよりも、あえて言うならばつかみ所がないのだ。
神出鬼没で謎めいた言葉を言って、困ったり困惑している様子を見て楽しんでいる。そんな印象を与える人物だ。……年齢は、おそらく成人しているだろうがよくわからない。
俺より年下と言われれば、納得できる。けれど、逆に俺より年上はおろか俺の親父と同い年だと言われても納得させる何かがあった。
年齢不詳の印象を与えるだけでも、怪しげなのにもっと怪しげに見せるのは性別がわからない所だ。
男性としてはやや女性的な、けれど女性と言われれば男性的な印象。声も女性にしては低めの声だが、男性としては高めの声。
つまり、性別も年齢もわからない。身に着けている服装もこれまた怪しい。今日日、漆黒のローブを頭から被った人間なんて居ない。……だが、
「えっと……失礼ですが……お名前は?」
「栗山だよ。ちなみに、ちゃんとした人類だからね。魔女でも魔法使いでもないよ」
「…………」
一瞬、魔女か魔法使いかと思っていたが違ったらしい。
だとしたら、やっぱり怪しい人間となってしまう。まあ、黒いローブを頭から身に着けてはいけない。と、言う法律は無いのだが……。
「まあ、外見とか言動は怪しいけれど善人よ。まあ、謎が多いけれど……」
と、俺の胸中を察したかのように、彩花が言う。
「ここは、ネットでも見つからない。それどころか、私立、市立、県立は元より国立の図書館や大学でもないような貴重な蔵書があるのよ。
得に怪物関係の蔵書に関しては、あたしが思うに国内どころか国外でも有数ね」
そう言うと彩花はふらふらと店を歩く。
「唯一の欠点は……ネットで販売してくれないところよ」
「そりゃ、こんな店でネットなんてやったって生産はとれやしないさ。ここに来るのはよっぽどの物好きか変わり者の変人さ。あんたらみたいなね」
「…………」
店主の言葉に俺は思わず睨む。
まあ、彩花や黒羽は変わり者や変人の類かも知れない。だが、
「なんで俺まで変わり者や変人呼ばわりされるんだよ」
「俺は、海津さんは物好きだと思っているよ」
俺の言葉に黒羽がそう言うが、
「フォローになってねえ」
と、俺はため息をついたのだった。
そんな中で、彩花が見つけてきたのは一冊の古びた本だった。
出版社が書いてない和紙と糸でまとめられた本は、本と呼ぶよりも書物と呼ぶのに相応しい雰囲気を持っていた。
書いてある文字も印刷した文字ではなく、筆で書かれている手書きだと断言できる。しかも、かなり達筆で……言ってしまえば、ミミズが載った喰ったような文字にも見える。
「なんだ。こりゃ、字が下手だな」
「これは、達筆と言うのよ」
「達筆って字が綺麗と言う事だろ。こんな文字が読めるのかよ?」
「書道で達筆な文字はこう言う文字になるのよ」
「下手くそな文字と、達筆な文字ってどう違うんだよ」
と、彩花と黒羽が言い合っている。
まあ、俺としても黒羽の言いたい気持ちもわからないわけではない。
文字とは読めなければ、意味が無い。
「それに、読み方が解っている人間にはこの文字はちゃんと読めるのよ。
悪筆はそれもできない」
と、彩花は言うと奥にあった椅子に座る。
「まったく。ここは図書館じゃないんだよ」
と、呆れたように言う店主。
「ここのスポンサーをしているのは、あたしでしょうが」
「まあね」
彩花の言葉に店主はあっさりと受け入れる。
「お前、スポンサーなんてしていたのか?」
と、俺は驚いたように言う。
お金にあまり興味が無い。
だから、お金持ちと言う事で別荘やどこかのスポンサーと言うのには、興味が無い。の、一言で切って捨てていたと思っていたのだが……。
「怪物関係の書物を手に入れる事に関しては、ここは有能なのよ。
言ってしまえば、ここはあたしの本棚みたいなものよ。
その管理と利用費と思えば、安いわ」
「販売しているだろうが! その本!」
と、思わずツッコミを入れる。
書庫と言うならば、本をむしろ全て買い取るぐらいをするべきだろう。
「いや、無関係の本もあるしね。売った本があったとしても、それはそれよ。売った相手の情報を聞いて、本でも借りにいくわ。
それに、一度でも読んだ本は忘れないし」
そうだった。と、俺はため息をつく。
彩花は興味がない事を忘れているが、興味が蘇れば思い出す。
こいつは、正真正銘の天才なのだ。
新しい可能性を思いつく柔軟な発想力。そして、あらゆる可能性を緻密に考える計算力。いろんな出来事を観察して見極める観察眼と分析力。そして、大量の情報を考える処理力。そして、その状況がどう言うものなのかを知って居る知識力とそれを忘れない記憶力。全てが卓越しているからこそ、彩花は天才と呼ばれているのだ。
まあ、天才ゆえの特徴として変人と言うか……。日常生活においてはいろな意味で問題のある変人であるが……。
おそらく、知らない知識が書いてある本を読みたかったのだろう。
「で、なんの本なんだ?」
と、俺が尋ねると、
「怪物がまだ人間と暮らしていた昔にある天狗族に対する研究資料」
と、あっさりと国宝級の品になるであろう書物の事を教えたのだった。
「天狗族に対する研究資料ね」
「と、言うより伝承を集めた感じなんだけれどね。
なにか西藤についてわかるかもしれないでしょ」
彩花はそう言いながら書物を読む。あいにくと、俺と黒羽は何もすることがない。なにしろ、本に書いてある文字は達筆すぎて読めないし、そもそもえらく古い本なので読み方が現代とはかなり違う。旧仮名遣いなどもある。
自慢ではないが、俺は古典の成績は恐ろしく悪かった。黒羽はそもそも、中学の卒業資格はあるが真面目に通っては居なかった。高校には現在進行形でまともに通っていない。
……たとえ、古典を真面目に受けていて得意だと言う人物でも一般家庭の授業程度では読めないだろう文字なので、この場合は俺も黒羽も悪くないだろう。
たいして、彩花はこの手の知識も豊富だ。そもそも、怪物関係にたいしての興味が抱いたときに、必要だからとこう言う古典文学の知識まで会得したらしい。
これだから天才と言うのは、意味もなく腹が立つのだ。と、俺は思う。
かといって、周囲の本は良く言えば専門書……悪く言えば、かなりマニアックだった。しかも、書いてあるのは古い達筆な文字か外国語。それもメジャーな英語やフランス語といった言語ではない。
「これ、英語じゃないよな」
「それが、英語に見えるのならばちゃんと中学校を卒業したか? のレベルじゃなくて、眼科に行く必要があるな」
英単語ではなくどちらかと言えば、絵文字に近い文字。
ピラミッドにある絵文字に近い印象を思わせる。
「ああ。ほとんどが原書で置いているからね。
ラテン語に古ラテン語に古代文字もあるからね」
「………彩花がこの店のスポンサーになるまでどうして店は経営できていたんだ?」
「知るか」
黒羽の疑問に俺はぶっきらぼうな形でそう答える。そんな事は、俺だって知りたい。
英語やフランス語にドイツ語と言った言語ならば理解は出来る。
だが、この日本でそんな誰が読めるんだよ。そんな文字! と、ツッコミを入れたくなるような言語がほとんどだ。
おそらくまともな人間……と、言うよりも一般的な人間がここに来たところで、書いてある文字が解らない。と、言う感想を抱いて帰ってしまうだろう。
まあ、彩花ほどの天才じゃなくても妙な閑人や趣味人と言うのはいるのだ。その手の人間にしてみれば、ここはものすごく興味がある場所であり、価値がある場所なのかも知れない。俺はそう思っていると、
「あんた達、彩花ちゃんの恋人かい」
ずごろしゃ!
俺は頭から本の山に突っ込んだ。
「……俺はともかく、海津さんにそう言う質問をしたやつは初めて見た」
と、黒羽が心底、驚いたように言う。
黒羽を彩花の恋人と考える……と、言うか彩花と黒羽を恋人同士と考える人間がいなかったわけではない。高校生ぐらいの年齢なら、早熟なやつの中にはすでに恋人を持ったりするやつらもいる。だが、俺を彩花の恋人と勘違いしたやつは初めてだ。
「あのな。俺と彩花がどれくらい年齢が離れていると思っているんだよ」
「なにを言っているんだい。恋に年の差なんて関係無いよ。八十才の婆さんと六十才の爺さんが恋仲でも違和感はないだろ」
「そりゃ、そうかもしれないが……。とにかく、俺は彩花とそしてこいつの保護者であり部下なんだよ。あんたが邪推したのは見当違いも良いところだ」
「同感だ。海津さんはきっと一生独身だ」
俺の言葉に黒羽はかなり失礼な事を言ったのだった。
「誰が一生独身だ。これでも、一応は恋人が居た事だってあるんだぞ」
「へえ。で、振られた理由は?」
「なんで、振られたと決めつけるんだ!」
いや、たしかに振られたが……。
「海津さんが女を振る度胸があるとは思えないもん」
「……あのな」
きっぱりと言われて俺はため息をつく。
「まあ、たしかに振られたが……大人とはいろいろとあるんだよ」
と、俺はため息混じりに言う。
「海津さんのわかりきった恋愛の結末よりも、興味深い文献があったわ」
と、彩花が口を開いた。
「……俺が振られたと言うのはわかりきった結末なのか……」
俺はさすがに頬を引きつらせて言う。
「海津さんはそんな着ような人間じゃないからね。
ついでに、何もしなくても女性に好かれるタイプでもなければ女性に惚れられるタイプじゃない。けれど、器用でもないから男女交際で相手に仕事や私生活でのなりゆきでうまくいかずに、喧嘩になるタイプよ。もう少し、余裕をもって将来的にお見合いとかで初めて結婚が出来るタイプね。恋愛結婚は難しいわよ」
「…………」
なにが悲しくて一回り近く年の離れた子供に自信の恋愛について推測されなくてはいけないのだろうか?
悲しくなっている中で、
「それより、天狗について解ったんだけれど……。
天狗の中には魂だけになって相手に乗っ取るやつらもいるらしいのよ」
と、彩花が言い出す。
「魂だけに?」
「そもそも、天狗道と言って地獄に近い場所の中にあるのよ。
で、いろんな術を学んでいる。その中で、肉体を捨てて魂を移す術があるの」
「ふーん」
「天狗の修行ってかなりの年月を必要とするからね。
真面目に修行しても、一定の実力になった時は体が老いぼれていると言う事もある。
で、天狗の中にさらに極みに達したいんだけれど肉体がどうしてもと言うやつがいた。
で、そいつは他者の体を乗っ取ることでさらに極みへと向かおうとした」
「なるほどな」
どうやったかの理論はわからないが、それを思いついた理屈は解る。解るだけで、納得は出来ないが……。人間、年を取れば取るほどその分だけ技術は極める。
凄腕の職人と呼ばれる人物、大工、細工、いろいろとあるがそれらの技術と言うのはどうやってもやってきた年月も大きく左右される。才能だけではない経験と言うのは、やはりやってきた月日がものを言うのだ。
だが、体はそうはいかない。いくら技を磨こうと、肉体はやがて老いていく。昨日まで出来ていたことが今日は出来なくなる事があるのだ。
「で、その術と言うのは人間の肉体に入り込みそしてその人間が天狗になるの」
「人間が天狗になんてなれるのか?」
彩花の言葉に黒羽が驚いたように尋ねてくる。
「そもそも、天狗と言うのは天狗道に落ちた人間がなるものと言われて居る。身体的には、人間とそれほどの差はないのよ。
だから、人間から天狗になるのは魂の質による。魂が天狗なら簡単に人間は天狗になれるわ。とはいえ、それは禁術とされた……と、この本には書いてあるわ」
そう言って彩花は読んで居た本を見せた。




