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懐古テツクズ号第4話:重力の悪戯、王女の素顔

第14層。目的地を目前にした緊張感とは裏腹に、テツクズ号の車内は、外の磁気嵐に翻弄されていた。

 装甲を打つ放電の衝撃が、物理的な振動だけでなく、車内の魔力密度を異常なまでに高めていく。それは魔法使いにとって、精神を削る過酷な環境だった。

「……くっ、魔法回路が……。重力操作の安定が、……上手くいかないわ……!」

 フィオナが眉間に皺を寄せ、座席の端をぎゅっと掴んでいた。

 彼女の周囲では、時折小さな光の粒が浮かんでは消え、局所的な重力の揺らぎが発生している。王族としての高い魔力素養が、逆にこの不安定な磁気環境に過剰に反応してしまっていた。

「フィオナ、顔色が悪いぞ。……少し休め」

「……余計なお世話よ。私は、……王女なんだから。この程度の乱れ、……っ、きゃっ!?」

 その瞬間、テツクズ号がこれまでにない巨大な衝撃に見舞われた。

 車体が大きく傾くと同時に、フィオナの抑制が限界を超えた。彼女の周囲で重力魔法が暴走し、凄まじい引力が発生する。

「……うわっ!?」

「……きゃあああ!?」

 シュウが咄嗟にフィオナを支えようと手を伸ばしたが、彼女の重力に引き寄せられるように、二人はそのままソファへと倒れ込んだ。

 重なった身体。フィオナがシュウの胸板に顔を埋める形で、二人は強力な重力の檻に閉じ込められてしまう。

「……っ、フィオナ! 魔法を解け、身体が動かない!」

「……む、無理よ! 意識すればするほど、……あんたの方に、魔力が吸い寄せられるの……!」

 フィオナの声が、シュウの胸元でこもって響く。

 重力に押し付けられ、二人の心臓の鼓動がダイレクトに重なり合う。フィオナの髪から漂う高貴な花の香りと、彼女の身体の柔らかさが、シュウの五感を強く刺激した。

「……シュウ。あんたって、……ずるいわ。……いつも、私が一番見られたくない時に、……こうして助けに来るんだから」

 消え入りそうな声で、フィオナが零す。

 重力魔法のせいだけではない。彼女は、このまま彼の胸に閉じ込められていたいという、自分自身の「心の重力」に気づき始めていた。

 潤んだ瞳でシュウを見上げた彼女の顔は、もう王女の仮面ではなく、ただの恋する少女のそれだった。

「……フィオナ。顔が赤いぞ。……苦しいのか?」

「……う、うるさいわね……! これは、気圧の変化による生理現象よ! ……あんたの心臓、……私と同じくらい速いくせに……!」

 フィオナは真っ赤になりながら、シュウの制服をぎゅっと掴んで顔を伏せた。

 彼女の背中では、重力に押し潰されたはずの空気が、甘酸っぱい熱を帯びて滞留している。

「……ん。……フィオナ、独占。……重力の不当行使。……ずるい」

 床に這いつくばったままのミーニャが、恨めしそうに二人を見上げる。

「……ふ、ふん。……あんなに密着して。……魔法の暴走なら、私が耳のピクピクで……じゃなかった、冷却魔法で冷やしてあげようかしら?」

 エレインが慌てて「耳」を抑えながら、刺々しい言葉を投げかける。

「……ふふ。予知通りですわ。……王女様の『本音』が、重力として漏れ出していますもの」

 リィネが優雅に、けれど少しだけ羨ましそうに微笑んだ。

 ようやく重力が正常に戻った時、フィオナは慌てて飛び起きたが、彼女の視線は最後までシュウの手元を追い続けていた。

 鋼鉄の密室で育まれたのは、王位よりも重く、磁気嵐よりも激しい「淡い恋心」だった。

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