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第19話(最終話):【裏庭】リィネの占いと、最後の一滴

 学園の喧騒が遠のいた、月明かりも届かぬほど深い木々に囲まれた裏庭。そこには、古びた石造りのテーブルを挟んで、シュウとリィネが向かい合っていた。

「……ふふ。シュウ様、今夜の星回りは、私に『真実』を語れと囁いていますわ」

 リィネが広げた扇には、複雑な幾何学模様と、揺らめく因果の糸が描かれている。彼女の豊かな狐尻尾は、いつになく静かに、しかし決意を秘めたように、地面を低く這っていた。

「……占いか。……俺の包丁に、運など関係ない」

「ええ、分かっておりますわ。……ですが、この先の暗く冷たい『虚無の胃袋』へ続く道。……そこを無事に通り抜ける確率は、私の計算では、今のままでは五分五分ですわ」

 リィネが黄金の瞳を細め、シュウの手元にある小瓶を見つめる。それは、手に入れた『岩石グモ』のジュレを、シュウが極限まで煮詰めたものだ。

「……だから、リィネ。……お前のその『因果の雫』を、一滴貸せ」

「……あら。……私の涙を隠し味にするなんて、シュウ様も罪な方ですわね」

 リィネは冗談めかして笑うが、その目元には微かに光る雫が浮かんでいた。

 シュウは迷わず、その一滴をジュレの瓶へと落とした。

 一瞬、瓶の中から眩いばかりの銀色の光が溢れ出し、周囲の闇を霧散させる。

「……よし。……これで、味は整った。……リィネ、……お前の計算は、俺が喰い尽くしてやる」

 シュウが瓶の蓋を閉めると、リィネは堪えきれなくなったかのように、シュウの胸へと飛び込んだ。

 柔らかな狐の耳がシュウの顎に触れ、彼女の震える声が夜の静寂に溶けていく。

「……信じておりますわ。……私の計算を、因果を、……そしてこの恋心を、すべて最高の『隠し味』に変えてくださることを」

 背後の茂みから、銀色の猫尻尾が、翡翠色の耳が、そして黄金の髪が、息を潜めてその光景を見守っていた。

 誰もが分かっていた。彼らは学園という守られた檻を飛び出し、世界の運命を喰らう最後の戦いへと足を踏み出すことを。

 シュウは、リィネの震える背中を無骨な手で一度だけ叩き、遠く最下層へと続く闇を、静かに見据えた。

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